第33話 Story about ロザリオ 5-4
「敵も味方も、我ら地球連合は、帝国とは直接の交渉を持ってはいない。
ただ脅威は感じていて、帝国の影響範囲やその有り様を、調べているだけだ。
君は帝国と手を組んで、プルシャプラをマラカンダの束縛から、解放しようと考えているのか? 」
チーフ・ミハルが、若者と向かい合って問いかけた。
「そうだ。それしかないと思っている。他に方法があるなら、教えてもらいたい」
「ここに来たばかりの我々には、何とも言えないことだが、今の軛を脱した後に、別の軛に繋がれるとしたら、それでも君は、帝国と組みたいか? 」
「何? なぜそうなると分かる」
警戒心が露な皺を、若きシェリングが眉間に寄せた。
「分かるわけはないさ。しかし、帝国の支配のもとで、今の君たち以上に虐げられた暮らしをしている者たちが少なからずいるらしいという情報は、未確認ながらいくつも得ている。
今も言ったように、直接の交渉が無いから断定はできないのだが、複数の交易商人などから同様の情報を得ているから、かなり確度は高いと思っている」
「ほら見なさい、シェリング」
横から口をはさんだのは、ゲオルグの補佐官の1人だ。「帝国など、ロクなものではないのだ。
血気盛んな若者を焚きつけ、執政官殿も知らないところで、話を進めようとしていたヤツらなのだ。口車に乗ってはいけないのだ」
「じゃあ、どうやってマラカンダの束縛を跳ね除け、連れ去られた仲間を取り返すんだ」
「連れ去られる、などという非道が、起こっているのか。君も大切な人を、マラカンダに? 」
ここまで黙っていたロザリオが、身を乗り出した。
「連れ去られているのは、3級市民だけだろう。所詮は他所者だぞ、あれは。
1級と2級の市民に、被害は出ていない」
低い声での執政官の言い草に、若いシェリングの顔が、見る見る赤く上気する。
「3級だったら、見捨てても構わないっていうのか!
何世代にもわたって、ここの周辺で暮らし続け、資源採取や食料などの生産活動でも交易活動でも、この都市に沢山貢献しているんだぞ。
いつまでそんな、旧態依然の差別を続けるんだ」
「差別しているつもりはない。だが、今の我らは、プルシャプラの核心都市の中に住む者を守ることだけで、手一杯なのだ。
移住者の血筋の者にまで、構ってはいられない」
「だったら、帝国と手を結べばいいじゃないか」
食いつかんばかりに、シェリングが白熱する。「そうすれば、アナスタシアを救えるんだ。マラカンダの本拠から、連れて帰ってやれるんだ」
「やはり、その娘が目当てか。3級市民の娘が、手っ取り早い荒稼ぎを期待して、マラカンダの支配下にある天体での資源採掘に、職を求めたのだろ。愚かな者ではないか。
あちこちの天体から人を集めて、採掘作業をやらせているマラカンダだが、時に人手に困って、プルシャプラを周回する3級市民からも人を募るのだ。
そんな後ろ暗い儲け話に首を突っ込んだ挙句に、マラカンダの富裕者に目を付けられ、妾として使い込まれるために連れて行かれたのだろう。
そんなもの、自業自得ではないか」
「何だと! 自業自得とは何だ。病気の家族に必要な医療を手に入れるために、アナスタシアは危険を承知で・・・・・・。
お前たちのそんな差別意識が、市民たちを分断しているから、マラカンダへの反抗も広がらないのだ。
皆で力を合わせれば、何とかなるかもしれないのに、こんな差別をしているから、アナスタシアは・・・・・・。
あいつを連れ戻す為なら、俺はどんなことでもやる。悪魔とだって手を結ぶ。
帝国がどんな連中だろうと関係ない。アナスタシアさえ取り返せれば、俺は・・・・・・」
「君は、連れ去られた恋人を、取り戻したいだけなんだな」
手を震わせ激高する若者に、そう言ったロザリオの脳裏には、セシリアがあった。
「マラカンダの座標は、分かっているのですか、ゲオルグ殿? 」
チーフ・ミハルは、若者の激昂を脇に置いたように静かな声で、執政官に尋ねた。
「ええ、分かります。しかし、3級市民のことですから、お構い頂くには・・・・・・」
「1級とか3級とか、あなた方にとっては違いがあるようですが、我々地球連合の者には何の違いもありません。
そして我々は、最も苦しい立場にある人達から順に、手を差し伸べて行く所存です。
今の話ですと、3級市民と呼ばれる方々を、優先すべきと考えます」
「マラカンダに連れ去られた3級市民を救うために、我々に何ができるか、マラカンダとも接触を図った上で、考えてみるのが良いようですね、チーフ」
「そうだな、ロザリー。旅程が大幅に長くなってしまうが」
ロザリオからシェリングに視線を転じて、チーフは続ける。「彼も、恋人が失踪するという経験をしているからね、君の気持は、痛いほど分かっていると思うよ」
「いや、恋人じゃないです、チーフ。俺が一方的に・・・・・・」
慌てて否定するロザリオに、慌てて目を向け、シェリングが問いかける。
「そうなのか?ロザリオ・・・・・・殿。で、あんたの片思いの相手ってのは、なんて名前なんだ。聞いても仕方ないが、何となく・・・・・・」
「セシー・・・・・・セシリア・ヴェール、っていうんだ」
「セシリア、か。愛らしいな名だな。ロザリオ殿、あんたたちがアナスタシアの奪還に手を貸してくれると言うのなら、ひとまず帝国のことは・・・・・・」
「うん。しかし、その前に」
ロザリオとシェリングの間に、チーフ・ミハルが体ごと割って入る。「3級市民と呼ばれる人たちの、できるだけ多くと話がしたい。我々とその方たち以外に、誰もいない環境で。
君が、手配してくれるかな、シェリング君」
「あ、いえ、その手配は、私の方で」
ゲオルグが、慌てたように話に追いすがって来る。「私とて、彼らへの差別を放置するつもりは、無いのですよ。
今までは、その余力がありませんでしたが、あなた方が手を貸して下さるなら、差別を無くす努力をしますとも。
ですから、我々を頭越しに3級市民だけと友好を図ることは、ご容赦頂きたい」
「そうですか。では、手配の方はお願いします。
ただし、我々と3級と呼ばれる市民との会談の場には、あなた方の立ち合いはご遠慮願いますよ」
「ええ、ええ、それはもう」
こんな流れで話が付いた直後、執政官が懐に入れていた端末が、着信を告げた。
そこから、事態は思わぬ方向に転がる。
「うっ、そうか。また交易船が、宙賊の襲撃を受けたか! 」
掌より少し大きいサイズの端末を覗き込んだゲオルグが、深刻な声と共に眉を寄せた。
周囲の補佐官たちからも、憂慮のどよめきがあがる。
「またですか。最近増えておりますな。今回の被害は、大きいのですか? 」
「うむ」
1人の補佐官の問いに、ゲオルグが答える。「50艘に満たない1人乗りの戦闘艇の集団が、必死のミサイル迎撃を掻い潜って強制的に接舷し、船内に侵入したらしい。
侵入を許すや否や船員たちが降参してしまったために、徹底的な略奪を受けたようだ。
資源やデバイスなど様々なものが持ち去られたし、人間も十数名が拉致されてしまったようだ」
「ああ、人的被害まで。やはり、スペースコームジャンプの直後を、狙われたのですか」
「いや、そうではないらしい。ここを出航してから3日後に襲撃を受けたというが、5日分の距離を開けるまでは、スペースコームジャンプはやらない規則になっている。
だから、スペースコームジャンプに伴う時空の歪みを探知されたわけでは無いはずだ」
「そんな。それで見つかってしまうとなると、ここの座標が連中に知られて・・・・・・」
「いや、それなら、とっくにここが標的になっているだろう。
しかし、不気味だな、スペースコームジャンプをしていない船が、こんな位置で見つかってしまうというのは」
「ちょっと待ってくれよ」
ゲオルグと補佐官の会話に、シェリングが割って入った。「3日前に出航した交易船って、アナスタシアが乗せられたやつじゃないか?
身柄を拘束されたのは何か月も前だけど、本拠に連行しようとしたのは確か、3日前だ」
沸き上がる焦燥で、顔を青ざめさせた若者がつぶやく。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/4/1 です。
プルシャプラの交易船が襲撃された、という報が飛び込んできました。
その後に語られた襲撃の様子から、どっかで見たことある場面だと気づいて頂けていないようなら、作者としては大変困ったことになります。
物語の主役級登場人物が拉致された場面と、そっくりだということは、是非念頭に置いてください。
そしてロザリオにとっては、探し出し連れ戻さなくてはならない女性が2人になったことも、胸に刻んで下さい。
彼がやらなくてはならないことが、雪だるま式に増えて行ってる状況も、見落として頂いては困ります。
彼の主任務である、ガウベラ帝国の影響実態の調査に加え、プルシャプラに到着して以降どんどん増えています。
プルシャプラとの友好関係を締結すること、プルシャプラにおける差別を解消すること、マラカンダに対する従属的関係を解消すること、マラカンダに連れ去られた人々を取り戻すこと。
とまあ、目が回りそうなくらいの課題が、新人職員である彼の肩にのしかかっているわけです。
しかし、交易船が襲撃されたとの報がもたらされたからには、最優先課題はそちらになってしまうでしょう。
幼なじみであるセシリア・ヴェールのことなど、完全に後回しになってしまいました。
こんな精神的に負担のかかる状況とは裏腹に、一方でロザリオは、物理的距離としてはセシリアに近づいているかもしれないと、読者様には気付いて頂けていますでしょうか?
襲撃の模様を記述した場面で、そのことを実感して頂きたいというのが、作者の願望でした。
しかも、ロザリオはまだ、セシリアに近づいている可能性に気付いていません。
セシリアの救出を切望している彼が、セシリアのことは専門チームに任せ、山積する課題を目の前にし、セシリアに近づいていることは知らない…。
ここまでをしっかりと認識して頂ければ、続きが気にならない方がおかしくないですか?
ということで、読者様をして続きを読まずにはいられない気分に、させられているつもりに作者がなっているということを、是非ともご承知おきください。




