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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第26話 Story about ロザリオ 4-2

 大地を歩く。直径30キロメートルもある円筒の、円弧を描く壁の内側の面が大地だ。

 山があり、森があり、川が流れ、田畑が営まれている。

 海と呼ばれるしょっぱくて茫洋とした水塊もあり、生け簀がそちこちに浮いている。

 高層建築の林立した街もいくつかあり、その1つに、彼らの出頭先も建っていた。


 こんな巨大宇宙建造物が、要塞チェルチェンだった。

 ここより規模の小さい国家が、地球連合加盟の中にいくつかある。

 宙賊の頻出する宙域で宇宙保安機構が任務を果たすには、これだけの規模の要塞が必要なのだった。


「225号室・・・・・・ここだ」

 サイモンと別れ、案内ロボットが示した部屋の前に、ロザリオは立っていた。「調査部ガウベラ帝国影響調査4課第2班、か。

 ガウベラ帝国について、調査する任務に就くのか」


 はっきりと誰かに伝えられる前に、部屋の前に出ているプレートに知らされた。

 感慨深さと共に拍子抜けの感も沸き起こるが、それより室内の上官に到着を伝えなければならない。

 伝えるのも、手に巻いた端末を使う。


「新人職員のロザリオ・マター、ただいま到着いたしました」

「おっ、来たか。さあさあ、入ってくれ」

 返事も、腕の端末から聞こえる。


 相手も、腕の端末から声を聞き、端末に向って声を返しただろう。

 が、入れと言われても、扉が閉まったままでは入れない。

「・・・・・・開けて頂けますか? 」


「ああ、そうだ。そうだった」

 言葉と同時に扉が開いた。


 5メートルほど先で、あちら向きのデスクで身体を捻り、腕の端末を慌てて操作した直後なのが分かる姿勢でこちらを見ている男がいた。

 シンプル過ぎるくらいに小ざっぱりした部屋は、彼の生真面目な性格を代弁しているのだろうか。


「やあ・・・はは、ええっと、ようこそガウ調4課2班へ。さあ、入って、ここに座って」

 ㇵの字の眉が印象的なぎこちない笑顔で、デスクの前の応接セットを手の平で指し示しながら、男も立ち上がってそちらに歩を進めた。


 痩せて頼りないシルエットが、ゆらりと揺れるようにソファーの前に移動し、ロザリオが座るのを待つこともなくストンと腰を下ろす。

 直後に目の前にまでやって来た、着任したばかりの部下を見上げた。


「長旅の直後でお疲れだろうに、ご苦労さん。まあ、まずは座って、くつろいでくれ。

 今日は、ざっくりと任務の内容を説明するだけだから。ははは・・・・・・」

「失礼します」


 やけに腰の低い上官に、居心地悪く感じながら席に座り、ㇵの字の眉と向かい合う。

「ロザリオ・マター君だね。私はガウ調4課2班のチーフ、キョセ・ミハルだ。よろしく。

 いや、しかし、ミナブ星系からとは、大変な長旅だったね、あはははは・・・・・・」


 こんな感じで始まった上官との初めての会話は、ここまでの旅や養成所での苦労譚などを聞き出され、ねぎいの言葉をかけられ、機構幹部への愚痴をいくつか並べてみるといった、世間話に属する話題ばかりを巡った。

「あの、私の任務と言うのは? 」


 肝心なところに話が向かないのに痺れを切らし、思わず問いを発した。

「あ、そ・・・・・・そうだよね。それを、話さなくちゃね」


 チーフは口元をゆがめた。ぎこちない笑顔が、更にぎこちなくなる。「部屋の前に出ていたプレートで分かったと思うけど、ここでは帝国の影響が、どれくらいの範囲に、どれくらい深く浸透しているか、といたったことを調査している」


「はい」

 形式的にうなずくロザリオの機嫌を窺う様子で、チーフは上目遣いに続ける。


「これだけ聞いても分かる通り、地味で地道な作業を、やってもらわなくてはならないわけだが、特に私の4課2班では、地球連合とは接点が薄いか皆無な、かつ非常に遠方にいる定住型の人々との接触を図り、そこへの帝国の影響を調べているのだ」


「なるほど。大変そうですが、非常に重要な任務だと思います」

「おお、そう言ってくれるか」


 チーフの顔のゆがみが、少しだけ解消した。「そうなのだ。地球連合が関係を築けていない宇宙系は、まだまだたくさんいるのだが、それらへの帝国の影響の度合いを見極めなければ、保安機構としても適切な対応をとれない」


「分かります。帝国の脅威とはすなわち、帝国が他の宇宙系に、どれだけ広く深く影響力を及ぼしているか、と言うことだと思っています」

 特に上官に取り入ろうというのでもなく、ロザリオは素直に私見を述べた。


「素晴らしい。正しい認識を持っていてくれて、助かるよ。

 君の言う通り、重要な任務なのだが、その・・・・・・我々4課2班が扱うのが、最もへんぴと言うか、遠方と言うか、不明確と言うか、そんな感じの宇宙系人類なのでな、あまり新入りの評判が芳しくなくてな」


 見る見る表情を曇らせながらの説明に、ロザリオも少し不安になる。

「へんぴで遠方で不明確な宇宙系を、相手にする訳ですね」


「う・・・・・・うむ。地球系にとっては前人未到の場所だったり、辿り着くのに困難が伴ったり、不確定な要素の多い環境だったりする。


 正直に言うと、2人連続で新入りに逃げられてしまっていてな、1人は説明段階で、地味すぎる割に成果が伴いそうもないと言って断られ、もう1人は、最初の訪問先に向かうところまでは受け入れてくれたのだが、事前に把握していた座標に集落はおろか足場になりそうな天体すら1つもなく、完全な空振りになってしまってな・・・・・・」


「それで、嫌になってこの任務を断ったのですか、その新入りも? 」


「まあ、そういう形だな。

 行って帰るのに1年近くを費やしたのに、何の成果も上がらなかったのだからな。


 華々しい活躍を夢見て保安機構に入った新人にとっては、やっていられない任務だったのだろう。

 調査なんていう軟弱な活動でなく、直接に帝国や宙賊を排撃したい、なんて直談判してくる職員すらもいてな、困っているのだ」


「私は」

 身を乗り出して、ロザリオは言った。「そんなことで折れたりしません。


 確実性の低い情報に基づいて未知の宇宙系人類を訪ねるのですから、空振りも仕方ありません。

 ですが、そんな宇宙系こそ、帝国の影響の仕方を知っておく必要がある筈です。

 それを知らずに、帝国への対応はできません。軟弱な活動だなんて言い草も、的外れです」


 思いついた正論を咄嗟に口にしたが、一方で心の片隅では、1年もかけて宇宙を彷徨った末に空振りに終わった時に感じるであろう無力感を想像し、悪寒を覚えもした。


 あこがれの宇宙保安機構のイメージとは、そんな空疎なものではなかった。

 できることならもっと格好良く、目に見える成果の期待できる任務に就きたい気持ちもある。だが、


「どんな地味で地道な任務でも、誰かがそれを担わなくてはなりませんから。

 空振りなど恐れずに、私はその任務に前向きに取り組みますよ」

 悪寒は消えないが、口ぶりだけはきっぱりと、ロザリオは断言して見せた。


「危険の多い任務であることも、合わせて理解してもらわなければならないのだがな」

 すがるような目でこんなことを言われると、首肯するしかない。

「はい。分かっています」


「有難い。君のような新人が来てくれて、本当に助かるよ」

 チーフの方も言葉にしたより、内心では信頼を置き切れていないように見えた。


 話しに聞くより、実際に体感する地味で地道な任務の空疎さは、それをこなす者の心に強く突き刺さるものなのかもしれない。

 ある程度任務を経験した後でないと、ロザリオ自身にもチーフにも、先のことは判断がつかない。


 それでも、今ここで拒否されるより、ずいぶんマシだ。今は、それで満足するしかない。

 内心で自分にそう言い聞かせているのが、チーフの顔色には表れていた。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、  2023/2/11  です。


 このシリーズには、人間型ロボットというのはあまり登場しません。

 未来の物語にはあって当然と認識されている読者様も、おられるかも知れませんが、作者の好みという理由だけで登場させていません。


 何千年もの未来だから、かなり人に近いロボットを作る技術はあるのでしょうし、物語世界のどこかにはいるはずでしょう。

 ただ、登場させていないだけです。


 ロボットに人間の形をさせることに、果たして意味があるだろうか、という思いが作者にあるからです。

 人にできないことをやってもらうのがロボットの一番の存在意義だと思っていて、それならロボットの形状や大きさも、その目的に合わせて人間とはかけ離れたものになるのがセオリーではないか、と。


 例えば今、配膳ロボットというのがファミレスなどで見られるようになってきましたが、合理的なシステムだと言えるでしょうか?

 人間に近づけようとして合理性を欠いてしまった、典型的な失敗例ではないかと、作者は思っています。


 まず、配膳ロボットが邪魔で、客である人間の動きが大幅に制限されてしまっています。

 トイレに行くにもドリンクバーに行くにも、配膳ロボットに行く手を阻まれたことが、何度もありました。

 

 それに、最後は客が席から立ちあがって料理を受け取り、テーブルに移し変えなければならず、手間を増やされた格好になっています。

 料金が安くなるわけでも無いのに、手間だけ増やされた客としては、不満が残ってしまいます。


 作者は配膳ロボットより、天井にレールを格子状に設置して、そこをUFOキャッチャーのようなものに走り回らせる方式の方が、合理的だと考えます。

 料理は人の頭の上を通って運ばれ、テーブルに向って垂直に降りて来る感じになります。


 この方法なら、人の行く手を阻むこともないし、テーブルの上の適切な場所に置くところまでを、ロボットだけでやり遂げることができて、人間は何もしなくてもいいでしょう。


 人間の形に近づけようという発想があるから、配膳ロボットというアイデアになったのだと思います。

 人間の形にこだわらず、目的に対して最も合理的なやり方を考えた方が、より便利なロボットを作れるのだと思います。


 こんな作者の考えから、本シリーズに人型ロボットは余り登場しません。

 ですが、冒頭に書いた通り、全くいない訳ではなく、人型が好みの人は人型ロボットを使っています。

 物語に登場してくるのが、人型が好みでない人に偏っているだけだと、ご理解頂けると助かります。


 今回登場した案内ロボットとかいうものについては、人型なのかそうでないのか、判断は読者様に預けようと思います。


 人間っぽいのに案内された方が嬉しい人は、人型で想像してください。

 作者は、やっぱり天井に張り付くタイプで、できるだけコンパクトな方が、人の行く手を邪魔しなくていいのでは、とか思ったりしています。

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