第27話 Story about ロザリオ 4-3
新入りに拒否する権利があると言っても、上官がその言葉の正当性を認めなければ、そう簡単に別の任務に就けるわけでもない。
これまで拒否した2人と言うのも、上官の態度によっては、引き止められたかもしれない。
良く言えば部下の思いを汲み取ってくれる、悪く言えば押しの足りない上官なのだろう。
「任務を承諾してもらえたからには、会わせておきたい者がいるのだ」
そう切り出したチーフの口ぶりは、一転して毅然とした響きを纏った。
ここからは、指示にはきっちり従ってもらう。そんな気持ちの現われかもしれない。
保安機構の方針としても、任務開始前に受諾を断る権利も、任務終了後に上官を非難したり疑問を呈したりする権利も、全ての職員に認めている。
しかし、任務を実施している最中には、部下は上官に完全服従するべし、となっている。
チーフが腕の端末を操作すると、間髪おかずに扉が開いた。
ロザリオが入って来たのとは、ほぼ正反対の方向にも扉があった。
そこから男が1人、大股に入って来た。
「長いよ、チーフ・ミハル! 待ちくたびれちまった。やあ、ロザリオ君」
手ぐすねを引いていたという感じで、声を掛けて来る。「これから共に、宇宙を駆け回ることになる、イゴル・ヴィーキンだ。
4課2班に随伴する、戦闘艇団の隊長を務めている。
武官としての階級は大尉だが、文官の君は、そんなことは気にしなくてもいい。
とにかく、よろしく頼むぜ」
ひと目で宇宙系だと分かる風貌だ。それも恐らく、航宙型の血筋だろう。
鉤鼻に大きな口、いかり肩に太い腕と、ワイルドな風貌がロザリオを圧迫した。
だが、その彼が放つ声色や言葉遣いが、落ち着きがあって柔和だったから、拍子抜けな印象もある。
航宙型ならではの風貌に掻き立てられてしまう偏見を、しっかりと抑えなければと、ロザリオは自分に言い聞かせた。
「戦闘艇団が、常に同行する班なのですね」
チーフの隣に席を占めたイゴルから、視線を転じながら訪ねる。
「うむ。かなり遠方であり、未知でもある場所に出向くからには、丸腰という訳には行かないからな。
大尉は、見ての通りに航宙型の出身で、持ち前の身体能力が高い上に、パイロットとしての強化手術も受けているから、頼もしいことこの上ない」
「やはり、航宙型の・・・・・・」
言いよどんだ自分を後ろ暗く感じるロザリオを他所に、イゴルはあっけんらかんとした明るい声で応じた。
「そうさ。数千年にわたって、いくつもの過酷な環境の宙域を巡って生き抜いてきた部族の、末裔なのさ、私は。
強重力にも放射線にも、温度や気圧の変化にも、地球系よりはるかにタフな上に強化手術も受けているから、頼りにしてくれ」
真っすぐ視線を受け止めてみると、一気に好感が湧いてくる。
「保安機構に制圧されて、地球連合と同盟を結んだ部族なのですか? 」
どこまでをどんな風に聞いたら良いものか迷ったが、あっけらかんとしたイゴルの態度に、思ったことは何でも問いただしてみる気になった。
「いや、保安機構を敵に回した過去は無いさ、私の出身であるトンラ族はね。
航宙民族から成る部族連合王国の1つに、かつては属していたのだがね、略奪を中心とした暮らし方に固執する中核部族の姿勢に疑問を感じ、王国から離脱したのだ。
そして地球連合と同盟を結び、連合の支援のもとで、略奪など必要のない暮らしを確立した。
私のような、保安機構で戦闘艇パイロットを務められる人材を輩出するというのも、トンラ族の大きな収入源となっている」
「部族連合王国、ですか。そんなものを作っている航宙民族も、あるのですか? 」
「あるどころではないさ。部族連合王国など、いくつもある。
何十もの連合王国が、それぞれに何十もの部族を率いている。
王国も部族も、正確な数は誰にも分からない」
驚くロザリオ。その表情を楽しそうに見つめるイゴル。
細められた彼の眼が、ロザリオに更なる遠慮のない質問を促した。
「そんなにたくさんの航宙民族がひしめき合っているのじゃ、部族連合王国どうしでの縄張り争いも、熾烈なものなのじゃないですか? 」
「いやいや、ひしめき合ってなどいないよ。
部族連合王国が何十個かあったくらいじゃ、ひしめき合わないくらいに、宇宙は広いのだ。
王国どころか部族単位でも、縄張り争いは、無いとは言わないがそれほど顕著ではない。
遠くの帝国からここらあたりまでの、2万光年近くにも及ぶ範囲を、しっかり距離を置いて分け合っている状態さ」
「遠くの帝国・・・・・・って、存在するのですか? それとの2万光年もの広大な空間に、航宙民族の活動範囲って、広がっているのですか?
ヘラクレス回廊の北端から、更に北に2万光年となると、銀河中心を越えた銀河系円盤の反対側にまで、達してしまいますよ。
銀河中心にはバルジなんていう、ランダムな運動量を持つ特異な天体群や、超新星の残骸が多い宙域が、1万5千光年もの幅で横たわっているのですよ。
そんな不安定な宙域も含めた広大な範囲に、航宙民族の生息域が広がっているというのですか? 」
質問を重ねる度に、イゴルの目は楽し気な雰囲気を増して行った。
「あははは、一辺に色々聞いてくれたな。順に答えるか。
まず、1つの部族の活動範囲が、2万光年に及ぶはずは無い。せいぜい数十光年だ。
けど、百以上ある航宙民族が2万光年の範囲に、ほとんどまんべんなく広がっているのは間違いない。
それに、時間軸を長くして見れば、1つの航宙民族が1万光年以上を移動した事例もある。
私の部族も百年以上前には、遠くの帝国の臣下に名を連ねていたのだからな」
「ええっ⁉ そうなのですかっ! 」
「うむ。だから、2つ目の質問の答えはイエスだな。
バルジを本拠にする部族もいるから、3つ目もイエスだ。
最初のやつもそうだ。遠くの帝国はある。
と言っても、同じ王朝が今でも続いているかどうかは知らない。
我々の祖先が臣従していた王朝は潰えて、今では別の王朝が覇を唱えているかもしれない。
だが、頭が挿げ変わっただけで、下部機構はそっくりそのまま受け継いでいる可能性が、高いだろうな」
未確認と聞かされていた遠くの帝国を、当然の存在として話すイゴルに、ロザリオは圧倒される思いだった。
「イゴル大尉のトンラ族はね」
2人に置いて行かれてはならじと、チーフも割り込んできた。「遠くの帝国の領域から2万光年近くを旅して来る間に、多くの定住民と出会い、多くの人々を仲間として引き入れながら、ヘラクレス北辺暗黒天体群域に2百年ほど前にやって来たのだそうだ。
トンラ族の人脈のおかげでコンタクトをとれた定住民も、現時点で18にも上っている。
彼は保安機構に、素晴らしい貢献をしてくれているのさ」
「おいおい、チーフ・ミハル。その言い方だと、戦闘艇パイロットとしての俺が、あまり活躍してないみたいじゃないか。
俺は何より、パイロットとして認めてもらいてえんだぜ。トンラ族や航宙民族の血筋だってこと以上にさ。
そこのところ、頼むよ、あはははは」
「そんなの今更、言うまでも無いじゃないか、大尉、はははは。
パイロットとしての君を、どれほど頼もしく思っているか。
例の1-1-1構想にも、大尉のことを推すつもりなんだよ。
知っているかロザリオ君、1-1-1構想のことは? 」
「ええ、まあ、話には聞いて・・・・・・」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/2/18 です。
イゴル・ヴィーキンに対するロザリオの描写が、何だかよく分からない感じになってしまっていたかもしれません。
航宙民族に対する差別感情が地球系人類に一般化していて、そんなことは良くないと考えているロザリオが、イゴルに対してどんな態度をとったら良いか迷っている、という様子を描こうとして、作者自身も迷った結果です。
差別は良くないとは、多くの人が共通して思っていることかもしれませんが、それを踏まえた適切な態度というのは、難しいものがあります。
背の低い人に向って「背が低いですね」というのは、不適切な行動なのか。
それを不適切と思う気持ちこそ、背が低いことへの差別的感情なのではないのか。
背の高い人に「背が高いですね」は言いやすいのに、「低いですね」は言いにくいとすれば、背が低いという状態を「一段低い人間」みたいに思ってしまっているということなのかもしれません。
そんな差別は良くないと思っても、じゃあ「背が低いですね」を遠慮なく言ってしまうことが適切だとも、思えません。
言っても言わなくても差別になるとしたら、どうしたらいいものでしょうか。
外国人が自分に向って「あなた日本人ですね」というのを、差別になりはしないかとためらっているとしたら、その考えこそ差別だと、思ってしまうでしょう。
では、「あなたの肌黄色いですね」はどうなのか、「あなた平たい顔してますね」はどうなのか。
言われるのと、言うのをためらわれるのは、どちらが嫌でしょうか。
差別をなくそうと思えば思うほど、どうすれば良いか分からなくなってしまいます。
こんな気持ちを、ロザリオのイゴルへの態度に託そうと試みた訳ですが、迷う気持ちを迷いながら表現したから、読者様をも迷わせることになったかもしれません。
何度も同じことを言っているかもしれませんが、よくわからない部分は適当に読み飛ばして頂いて、分かる部分だけ汲み取って頂ければ、良いのではないかと。
それで、ストーリーはどうにか見失わないように書いているつもりですので、何卒宜しくお願い致します。




