第23話 Story about スパルタクス 1-3
「いや、バイルク族への評価には、我らも疑問に思う点がある。
バイルクが使役している培養奴隷の人数は、大王に申告しているより、かなり多いという証拠を我らはつかんでいる。
どの部族も多数の培養奴隷を使役してはいるが、皆その数を、誠実に正確に申告しているのだ。
バイルク族だけが過少に申告しているとなると、基準となる上納高の割り当ても、本来より低く算定されていることになる。
宇宙船を走らせる速さにしても、一族の技量ではなく、使役する奴隷の数の多さによって成し遂げられている可能性もある。
それで、我らより高い収益を挙げられたのでは、不満だ」
「本当ですかな? 」
進行役は、収束から一転してバイルク族の追及へと、議論の方向を変えるつもりのようだ。
「そんなことはない。つまらない濡れ衣を着せるのは、止めて頂きたい」
「ならば、それを確かめさせてもらおう。
我がカルルク族から調査団を派遣し、バイルクのもつ宇宙船や施設などを、片端からひっくり返してくれるわ」
一旦押し込まれたカルルクの族長が、新たな力を得て息を吹き返した。
「無体なことをおっしゃる。
申告が嘘だなどと、充分な証拠もなく申されるのは、あまりに礼節を欠くというものですぞ。
調査の前に、申告が嘘だという、確かな証拠を提示願いたい」
「証拠は、調査してこそ出てくるものだ。まずは調査だ。調査をさせたまえ」
「とんでもない。証拠もなく疑いを掛けられるなど、無法にもほどがある」
バイルク族のこの主張には、白けた顔をしていた部族からも口々に疑問が呈される。
「拒否するとなると、不正を認めたも同然ではないか! 」
「やはりバイルク族のような新参は、裏で不正を働かねば今のような位に、就けるはずなどなかったのだな」
「そうだ! 」
「調査すべきだ」
「我らもそう思う」
古参と見られるものを含む、十数部族の代表から声が上がる。
有力な援護射撃を得たと見て、カルルクの族長がいきり立つ。
「バイルクのごとき新参に、我ら古参の部族が遅れなど、とるものか。
エクパティア帝国の撃退戦において、多大なる戦功をあげた我が一族が、宇宙船を走らせる力量でバイルクに劣るなど、あり得ない。
必ずや裏に不正がある。
使役奴隷の申告数だけでは、ない可能性もあるぞ」
「カルルクの族長が申す通りだ。新参者の悪行を、今こそ暴き当ててやろうぞ。
我らエクパティア撃退戦の武勲に輝く中核部族が、こんな新参に舐められるわけにはいかぬ」
いくつかの部族が食って掛かったが、バイルクの族長は落ち着き払って告げる。
「何かというと、すぐに過去の栄光を持ち出されるのですな。
しかし、大事なのは現状の、王国への貢献ですぞ。
その貢献であなた方を上回る我らに、証拠もなく調査など、認められることではありませぬ。
それに、申告した使役奴隷の数に偽りのないことは、証言して下さる方がおられますからな」
「いかにも」
聞こえた声は、スパルタクスの鼓動を速めさせた。「我がアフシ族が、バイルク族の申告に偽りのないことを、断言いたしましょう」
(うっ・・・・・・マイロード! )
「アフシ族とて、新参ではないか。しかも大切な評議の場に、姿を見せもしない。
そのように、声だけで評議に臨む新参の証言に、信憑性などあるものか」
「しかし、バクトラ王国の中で使われる培養奴隷は、ほとんどが我がアフシ族の提供したものなのですぞ。
その長である私が、提供した奴隷の数とバイルク族の申告した数は、一致していると証言しているのです。
それを否定するのは、無体でありましょう」
リモート参加は珍しい存在ではないようだが、声だけでなされるこの主張には独特の不気味さがあると、族長たちの表情に現れている。
「提供者だからとて、どうだというのだ。
我々は、バイルクが申告より多い奴隷を使役したと考えられる情報を、いくつも掴んでいるのだ」
「それは恐らく、反抗を企てた定住民を制圧するための戦いにおいて、バイルク族が引き連れた培養奴隷に関する情報が、紛らわしい形で伝わったのでしょう。
定住民の反抗が勃発した際には、申告したのとは別に、培養奴隷を多数つぎ込むことが認められているはずです。
そして制圧戦というのは、消耗が激しい。培養奴隷の大量投入と大量消費が避けられぬ故、情報は錯綜しやすいでしょう」
「それは、確かにそうだ。本当なのか、定住民の反抗があったなど」
勢いを得ていた古参の長たちが、一斉にしゅんとなった。痛い所をつかれたという感じか。
「本当です。バイルク族は、最近だけでも5件の反抗を制圧しています。
他の部族はどうですか? 反抗する定住民は放っておいて、無抵抗な連中だけを選んで、襲っているのではありませんか?
そんな牙を無くしたような有様では、航宙民族を名乗るにふさわしくない。バイルク族こそ、真の航宙民族です。
歯向かう者は徹底攻撃して、定住民に我らへの絶対的な恐怖心を植え付ける。
そのような勇猛なる働きこそ、バクトラ王国に大いなる繁栄をもたらすのです」
この言葉に、いきり立っていたカルルクの族長をはじめ、多くの部族の長が顔を伏せた。
航宙民族としてのプライドを、最も傷つけられる発言だったようだ。
「アフシの族長殿、かたじけない」
勝ち誇ったバイルクの族長は、変わらず落ち着いた声だ。「過去の栄光しかなく、今となっては牙も無い、より速く宇宙船を走らせる熱意も失った、そんな部族より、今なお牙をむき出して定住民どもをねじ伏せ、速さにも磨きをかけている部族こそが、バクトラ王国の中核部族を名乗るにふさわしいことが、あなたのおかげで理解されたようです。
あなたが量産する培養奴隷を潤沢に消費させて頂いたことと言い、大変な借りができてしまった」
新参にやり込められ、歯ぎしりするしかなくなった古参達を尻目に、スパルタクスの耳になじんだロードの声が、更なる追い打ちをかける。
「お役に立てて、何よりです。
航宙民族の価値というのはつまるところ、どれだけ定住民どもを恐怖させ、屈服させ、恣に搾取して見せるかというところに尽きる。
それを避けるような、情けない部族になってはいけない。
だからこそ、少しでも反抗的な態度を見せる輩どもは、皆殺しにするのが妥当なのです。
そのためにならば、培養奴隷なんぞ、いくら消費して頂いても構わない。所詮は使い捨ての駒ですからな、培養奴隷とは。
それを上手く運用してのバイルク族のご活躍に、我らは感服しております」
「お褒めに預かり、光栄です。
おっしゃる通り、今のバクトラ王国には、情けない部族がたくさんおります。
犠牲を厭い、反抗する定住民を避けるばかりでなく、奴らの用心棒に成り下がった部族もあると聞きます。
奴らの交易船の護衛などという、見苦しい稼業で糊口を凌ぐような連中は、生き恥を晒しているとしか思えない。
我らバイルク族は、本来あるべき勇猛な航宙民族であり続け、バクトラ王国に栄光と発展をもたらすでしょう」
「その言や、良しっ! 」
それまで黙っていたクルトゴル大王が、やおら大音声に叫んだ。「過去の栄光に縋って、今は牙を抜かれたようになった部族に、本来あるべき勇猛な航宙民族の姿を見せつける。
このバイルク族の姿勢は、まことに頼もしい。
犠牲を厭うて無抵抗の定住民だけを狙ったり、定住民の用心棒に成り下がったり、そんな恥知らずな部族どもが続出しておる現状を、予も憂えておったのだ。
身に覚えのある古参どもは、反省するがいい」
大王の糾弾に、幾人かの部族長はガクリとうなだれた。
恥辱で顔を赤くする者もいる。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2023/1/21 です。
培養奴隷という存在は、SFではよく使われるものなので、詳しい説明は不要かもしれませんが、少し補足しておきます。
どの程度までが人工のシステムで培養されるのかとか、母体が関与する本来のシステムが含まれるのかどうかなどは、作者としては特に想定はしておりません。
女を孕ませて送り届けるようにと、ロードがスパルタックスに命じていたことからすると、少しは母体が関与するプロセスもありそうですが、新奇な遺伝子を獲得する際にのみ母体が関与するという見方もできます。
優良な遺伝子を持つ個体が見出されたならば、それをクローン的に大量生産することも考えられますし、受精による交配というプロセスが、全ての個体に適用されているのかもしれません。
全く母体に関与することなく生まれてくる個体があるのか無いのかも、特に決めてはいません。
試験管ベイビーなどという言葉を聞くこともありますが、本物語の培養奴隷が試験管の中にいた経歴を持つのか、反応槽のようなものから人生を出発させたのか、それらと全く別の方式が採用されているのか、本物語では曖昧なままにしておくつもりです。
ただ、培養奴隷を大量に生産し供給する能力を、この物語に登場する中においてはアフシ族という集団が独占していて、それによって一定の勢力を獲得しているということは、ご認識頂きたいと思います。
地球系人類は、技術的には可能でも、倫理的観点から培養奴隷を生産したりはしませんが、宇宙系人類の中には、少数で宇宙を漂流した苦しい時代に著しく倫理観を後退させ、人を人工的に培養して奴隷として使役するという「悪行」に手を染めた集団もある。
そんな設定も合わせて踏まえておいて頂けると、更にこの先を理解しやすくなるかもしれません。




