第20話 Story about ロザリオ 3-2
「そうかな」
サイモンが首を傾げた。「あの国って、そこまでの積極姿勢だったか、ロザリー? 」
「いいや。襲って来た宙賊に対する措置について、保安機構より攻撃的なやり方を唱えてはいたけど、殲滅戦なんて主張は聞いた覚えが無いな。
この規模の国にそれは無理だって、そこの国民も知っている。
ターロック1人が息巻いたところで、実現するわけないぜ」
「大丈夫だ! 閣下なら、必ずやり遂げてくれるはずだ。
巧みな情報操作での世論誘導や、汚名を着せての政敵打倒くらい、やってのける技量は持っている方だ」
「それって、デマゴギーやネガティブキャンペーンってことじゃないか。
そんな不誠実な方法で強引に武装強化を実現して、無謀な殲滅戦に挑むのか?
滅茶苦茶じゃないか」
「何でロザリオは、そんな穿った見方ばかりするかな。
無知な民衆を目覚めさせるには、情報操作は必須なのだよ。馬鹿な政敵を潰すのに、手段を選ぶ必要なんてないし。
それに宙賊の殲滅は、強引でも無謀でもない。当然やるべき事業なのだから」
「何だかお前」
ショーンの言い草に、遂に心配気な顔になったサイモン。「どんどんおかしな方向に引き込まれていないか?
そのターロックなんとかに、感化されすぎているのじゃないのか? 」
「感化されて、何が問題なのだ?
偉大な指導者であり、地球系人類の救世主となるかもしれないのが、ターロック閣下なのだ。
心酔するのは当然さ。なあ、ロザリー? 」
「過激な主張で心酔者を集め、フェイクニュースやネガティブキャンペーンで国家権力を私物化しようとする奴が、偉大な指導者か。
こういうのが、民主主義の弱点だよな。言論の自由を悪用する輩に、簡単に壟断されてしまうんだ」
「何だよ、分からない奴らだな、ロザリーもサイモンも。
ターロック閣下の目指すパータリプトラの武装強化こそが、民主主義を守る最大の切り札だろ?
それ以外にどうやって、宙賊から民主主義を守るっていうんだ? 」
「武装じゃなくて」
ロザリオが、考える眼で答える。「宇宙系との連携を強化する方が、有効だと思うぜ」
「その通りだ。
宙賊による被害の中心は、武装も科学水準も未発達な定住型宇宙系人類だ。
地球系と交流のあるそれらの被害報告も後を絶たないが、交流のない集団は、もっと深刻な被害に遭っていると考えられる。
そこからの略奪こそが、宙賊の活力源だろう」
「同感だぜ、サイモン。
定住型を中心とした宇宙系との連携を深めて、そこの被害を防いでいくことが、宙賊の略奪を阻止し、平和的な暮らし方を学ばせる契機になる。
小規模な国の武装強化より、規模の大きな宇宙保安機構が、交流のある定住民に連携強化を呼びかけるとか、未だ知られていない定住型を1つ1つ見つけ出して友好関係を築いていくとか、そういった地道な活動が大事だ」
「軟弱だ! 回りくどい! 俺は嫌だね、そんなやり方!
いいよもう。閣下の方針を理解できる同志は、必ずいるはずさ。
お前たちなんか、二度とあてにするか」
ふてくされて唇を尖らせたショーンは、その形のままの口でストローに吸い付いき、ちゅうちゅうやり始める。
容器の中が何かは分からないが、それが彼の朝食らしい。
耳障りなちゅうちゅうを聞かされ続けながらではあるが、静かな朝食が戻って来た。
その沈黙の中でロザリオは、自分の発言について考えた。
(宇宙系との連携が重要・・・・・か。そうなると俺たちは、手分けして宇宙系との交渉に当る任務に就くのかな。
セシーが失踪直前にいたアガデ星系からは、遠くになりそうだ)
巨大組織である宇宙保安機構だから、何よりも大規模に活動を展開できるが、その職員の1人は歯車の1つでしかない。
与えられた任務をやるだけだ。ロザリオは歯痒かった。
アガデ星系にいくつかある宇宙港の1つを、つい最近セシリアが利用した記録が見つかったことが、数日前に機構本部を経由して伝わってきた。
記録の分析を進めれば、どの宇宙船に乗ったかも分かるかもしれない。
捜索チームは、着々と作業を進めてくれている。
ロザリオになど、出番が回らないくらいに。
情報に基づけばセシリアは、既にアガデ星系にはいない可能性が高い。
アガデ星系から離れることを、悲嘆する理由はない。
それなのにロザリオは、離れるのが不安で仕方なかった。
定住型の宇宙系人類は、北辺暗黒天体群域にも多くが住んでいる。数十から百光年以上の範囲にわたって、恒星が見られない宙域だ。
宙賊が頻出する宙域では、見つかりにくいことを重視して近くに強い光源の無い天体を永住場所に選ぶ傾向があるから、暗黒天体群域で暮らす定住型は少なくない。
恒星が見られない宙域にも、様々な天体がある。
褐色矮星や核融合に至らないサイズのガスの塊りもあるし、それを周回する岩石天体もある。
サイズも色々だ。小惑星程度から恒星になる直前のものまで。
恒星を周回していないのだから、「惑星」と呼ぶと正確を欠くかもしれないが、地球と同程度のサイズの天体が恒星直前のガスの塊を公転している例もある。
そういった天体群の散らばる宙域に、ロザリオが派遣される可能性は高い。アガデ星系を離れて。
(早く見つかってくれ、セシー。こんな気持ちのまま、そんなところに向かいたくないよ)
組織の一員でしかない自分を、呪うロザリオだった。
暗闇の中で虚しく転がる、巨大な歯車の部品でしかないことを。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/12/31 です(大晦日に誰がこんなん読むんだと思いながらも投稿します)。
宇宙保安機構を大規模と書きましたが、どれくらいの規模なのでしょうか?
はっきりと決めているわけではありませんが、特に脈絡もなく適当な数字を拾ってみると…。
古代末期のイタリアの人口が350万人くらいだそうです(どこで調べたかも分かりませんがそんなメモが作者の手元にあります)。
ヨーロッパ全体でも1千万人いなかったのではないか? 当時のイタリアはヨーロッパの中心だし。
一方で、日本人に占める自衛隊員の割合は0.15%くらい(多分ウィキペディア情報でしょう)とメモが手元にある。
アメリカも中国も全人口に占める軍人の割合は、だいたいそれくらいみたいです(鵜呑みにはしないで下さい)。
特に理由はないですが、本物語に登場するヘラクレス回廊群の、ロザリオの時代の人口はざっくりと古代ヨーロッパの10倍くらいで見積もれば良いかな、なんて思っています。
もちろんヨーロッパとヘラクレス回廊の広さの比率は、こんなものではなく、天文学的に大きな差になるわけですが、人口比となると、まあ10倍くらいでいっか、と安易な判断。
時代の状況からして、軍人の比率は、自衛隊員や米中軍人の比率より多めの0.5%強として、ヘラクレス回廊群配属の宇宙保安機構職員は、ざっくり50万人。
機構職員全体となると、銀河系全域に散らばっていることから、作者にも想像の外です(全銀河系人口に占めるヘラクレス回廊群の人口も、世界人口に占めるヨーロッパ人口と同じとは限らないですし…)。
特に明確な意味の無い数字を並べましたが、作者の持っている作品世界のイメージが大雑把にでも伝わればいいなと思います。
あくまで、今のところのイメージで、今後変わっていくかもしれません。
ちなみに、パータリプトラの人口が保安機構職員の半分以下、という記述もありましたが、それが何人なのかも不明ということで…。




