第19話 Story about ロザリオ 3-1
セシリアへの激情が、そそり立っていた。その熱で目覚めた朝を思い出した。
青き日々の朝は、ほとんどがそんな風だった。
布団を跳ね上げ、スクールに向かい、その日の講義にかじりつく頑張りも、朝のあの熱を活力に変えていたからこそだと思った。
今になって気付いた。
(セシーに背中を押されて、俺はここまで来られたんだ)
ミナブ星系第3惑星を立って、早くも十日が過ぎていた。セシリア発見の報は無い。
セシリア・ヴェールが自分にとって、どれだけ大切な存在だったかを思い知るばかりで、捜索の方は何も進展しない。
(どこに行っちゃったんだよ、セシー・・・・・)
そそり立つ熱も無くなった今のロザリオには、布団を跳ね上げるのも一苦労だ。
輸送船に缶詰めとなって移動するだけとはいえ、機構職員として研鑽を積み心身を鍛える活動は、休むわけにはいかない。
毎日朝から晩まで、学習やトレーニングや討論やレポートやで、消耗し尽くしていた。
今日もそんな一日に向って、ベッドから出なくてはいけない朝だった。
セシリアの思い出も消息も、それらを逃れる口実にはできない。
朝とはいっても、登る陽なんてありはしない。もちろん沈む陽も。
船内で統一された朝や夜が、人為的に決められているだけだ。
乗員の皆が、朝に起きて夜に寝るわけでもない。操船も周辺警戒もメンテナンスも、24時間体制だ。
乗客である新入りたちは、朝と決められた時間に起きて、夜とされる時間が来れば寝る。青き日々を思い出しているこの朝も、そろそろ起床の時間だった。
立ち上がって端末を確認し、セシリアは見つかっていないとの報に触れて肩を落とすという、十日間変わらない朝のルーティーンを終えると、ロザリオは身支度を済ませ、ダイニングエリアに足を向けた。
居室から歩いて3分の、まだがらんとしているそこに入る。
千人は座れるエリアに、20人足らずしかいない。知った顔は、まだ1つもないようだ。
構わずロザリオは、朝食の物色にとりかかった。
豊富なメニューから、白米と生卵とみそ汁をつまみ上げ、壁際に席をとった。
卵かけ御飯にして、みそ汁と交互に掻き込む。
「ふあぁ、おはよう、ロザリー」
サイモンの声が降って来た時には、返事もできないほど頬を膨らませていた。
挨拶が返らないのを気にした風もなく、隣に腰を下ろし、彼も彼の朝食にかぶりついた。
朝からカツサンドだ。
疲れて眠い朝に、言葉もなくただ食べ続ける彼らの周りに、学友たちがパラパラと集まって来る。
養成所で親しかった十人弱は、全員ひとまずチェルチェン行きだ。
皆が無口で、半分閉じた眼のまま、黙々と朝食を片付けていく。
「おいサイモン、ロザリー! 聞いたか? あのニュース」
1人だけ朝からうるさいのが、現れた。「パータリプトラのターロック・マクロクリン閣下が、ついに、政権を奪取しての武装強化を宣言してくれたぜ! 」
「朝から喚くなよ、ショーン」
うんざり顔のサイモン。「何だっけ、パータリプトラって? 誰だよ、ターロック・マクロクリンって? 」
1回聞かされただけの名を繰り返せたからには、彼にも聞き覚えくらいはあるらしい。
ロザリオは、もう少しはっきりと覚えていた。
「地球連合からの離脱を表明した、新興の惑星国家だったよな、パータリプトラってのは。
それで、ターロック・マクロクリンは、その国の最高評議会の議員だったっけ? 」
「そうだよ! さすがはロザリーだ。
連合の弱腰に愛想をつかし、宙賊への強硬姿勢を国是として立った独立国家だ、パータリプトラは。
だが閣下は、それを不十分として、更に強硬な路線を行くため、国家元首を目指すと宣言されたのだ。いやあ、頼もしいぜ! 」
「頼もしいって、そいつらに何を期待するって言うんだ? 」
「決まってるじゃないか、サイモン、そんなこと。宙賊どもの撃滅だよ、殲滅だよ」
「あんな小さな国家にか? 期待できると思うか、ロザリー? 」
「無理だろうな。パータリプトラなんて、総人口でも宇宙保安機構の職員数の半分に及ばないんだぜ、ショーン。
それの保有する軍なんて、機構と比べてもゴマ粒だ。
それが武装強化しようが強硬路線に打って出ようが、大した効果はないぜ」
「そんなことあるものか! 地球系の科学力を結集した強武装をもってすれば、少数でも超精鋭の軍団を組織できる。宙賊なぞ、軽々と蹴散らしてくれるはずだ」
「正面から、ぶつかり合えばな」
面倒臭気に、サイモンは反論する。「だが宙賊は、普段は宇宙の暗闇の中で電磁波などの放射を徹底的に抑えて、息を潜めてるんだ。
それを探し出そうとする側は、電磁波も放射線もまき散らしながら動き回らないといけない。
科学技術にどれだけ差があろうとも、間違いなくあっちが先に見つけるさ。そして、決して寄って来ない。
勝てると分かっている相手にしか、向かわない。それが宙賊さ」
ロザリオも、思案顔で朝食を頬張った後、ゴクリと飲み下して自説を述べた。
「自分の国や交易相手国や交易路を守るだけなら、今の武力で十分だろうな、パータリプトラには。
だが宙賊を退治するのは、いくら武装を強化しても、あの規模の軍では話にならない。
武装強化は、予算の無駄遣いにしかならないのじゃないかな」
「またお前たちは、そういう屁理屈を。
宙賊が跋扈している今の状況で、武装強化に反対するって、意味が分からねえよ」
「だから宙賊は、銀河系で最大規模の武装組織である宇宙保安機構が、何とかするしかないんだ。
そのために俺たちは、これから宇宙要塞チェルチェンに向かうんだろ」
「その保安機構が弱腰すぎて使いモノにならないから、パータリプトラが独立したのじゃないか。
あの惑星国家の武力強化だけが、今や唯一の望みだ。
対話を呼びかけるなんて、臆病な基本方針を掲げる腰抜けの保安機構には、決して期待できない殲滅戦をやれるのが、あの国だ。
閣下が、必ずや実現して下さるはずだ」
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/12/24 です(聖なる夜に誰がこんなん読むんだと思いつつ投稿します)。
ロザリオの食べていたシンプルな朝食(卵かけ御飯とみそ汁)は、もちろん生物由来のもの(現代のわれわれには普通のとかホンモノのとか呼ぶのがふさわしい)食材でできています。
サイモンのカツサンドも同じく。
生物学的に合成された食材ですら珍しがっていた、化学合成モノが当たり前のスパルタクスたち宇宙系人類との、食生活の質を対比させて、その差を強調する意図がありました。
時代が進めば生活は改善されていく、という思い込みがあるのではないかと思われるところに、はるか未来に現代より劣化した食生活を送る人々を描いて見せる、ということをこの物語では再三試みています。
そのことに何の意味があるのか、何の意味も無いのか分かりませんが、古代ローマ時代より退化した生活を送ったと見える中世ヨーロッパという、実際の歴史から受けた感銘を、物語の中に再現したかったのです。
歴史のダイナミズムみたいなものを実感できる、物語になっていたらいいなと思っています。
それに何の意味があるのかは、やはり分からないのですが。




