第15話 Story about ロザリオ 2-3
「困った奴だぜ。
でも、あんな考えは広まっている。
どうしたものだろうな、ロザリー? 」
腕を広げて呆れ顔のサイモンに、苦笑のロザリオが応える。
「保安機構も地球連合も、バラバラになりつつある気がするよな。
地球系が、友好関係のある宇宙系と手を結んで結成されたのが、地球連合なのに、結び目を宙賊に狙われることが原因で、地球系人類の内部に亀裂が生じてしまっている。
連合を守ろうとする保安機構の活動が、連合を揺るがせる結果になっちまっているみたいだ」
「まとめる努力をすればするほど、バラバラになるってことか。厄介だな。
外患より先に、内憂に悩まされなくちゃいけないのだな、俺たちは」
彼らに先んじてゲートをくぐった学友を目で追いながら、若い2人がため息をついた。
「でも」
とサイモンが続けた。「極端でも明確な意見のある奴は、まだマシな方かもしれないな。
無関心な奴が増えているのが、一番の問題だ」
「宙賊の撃破を主張するのも、反戦を主張するのも、保安機構の活動に関心を持っているって点では救いがあるってことだな。
自分たちの安全を左右することにすら、関心が無い者が増えてしまえば、いよいよ救いようも無くなるか」
「一方では、保安機構の弱腰を嫌って、離脱と独立を宣言する集団も出て来てしまっている。
他方では、反戦運動が足枷となって、宙賊の襲撃に有効な反撃ができなくなる恐れもある。
こんな状況で更に、無関心な奴らさえもが増えてきたら、保安機構も仕事ができなくなってしまうだろうぜ」
「帝国や宙賊と対峙する前に、内部の問題に足をすくわれてしまうな。やれやれだぜ」
憧れだった保安機構職員の、予想もしていなかった難儀な課題にロザリオが顔をしかめた時、彼らも星間輸送船へと導く搭乗ゲートをくぐった。
乗り込むと、一旦各自に与えられた個室へと入り、荷物を置く。
そのあとすぐに、集合着座室に向かう。
輸送船は、出発してしばらくは、やや強めの加速をする。
数時間後からは3Gという比較的楽な加速が続くので、自由行動となるが、強い加速の間はそれに耐えうる姿勢でいられる座席に、全員が着いている必要がある。
体調に異変を来した者に即応する為にも、集合しておく必要もある。
そんな目的をもつ集合着座室だ。
自分の個室へと歩を進めながら、ロザリオは考えた。
無関心が問題だと言っても、皆それぞれに自分の生活を抱えているのだ。
人が暮らし始めて5百年が経過したミナブ星系第3惑星であっても、地球外に人の暮らせる場所を維持するのは大変な事業だ。
環境観測やドーム都市のメンテナンス、資源採取やそれを使っての資材や食材の生産など、人々を忙殺しなければ果たせない課題が沢山ある。
生活の維持に加え、テラフォーミングへの取り組みや、有人天体間の交流・交易にも人手はかかる。
安全保障の問題ばかりに、皆が手間ひまを割いて関心を持ち続けるのは無理だと、ロザリオにも分かる。
どうすればいいものかと考えに沈んだまま、荷物を自室に置いて集合着座室へと向かう。
その途中にあるラウンジに差し掛かると、幾つかの人の塊りが周囲に何かを呼びかけているのが見えた。
十人前後がグループを作り、勧誘の声掛けをしているのだ。
「宙賊への殲滅戦を上層部に建議する。賛同者を募っている。同意する者は署名を! 」
「今の弱腰では地球連合を守れない。攻勢に出なければ我らに未来はない。
各自の上官を通じ、機構中枢に予防的先制攻撃を具申しよう! 」
「宙賊壊滅への具体的作戦を検討する為の、若手による勉強会を開催する。
参加者を求む。皆の知恵と勇気を結集するのだ! 」
さっきのシュプレヒコールの一団を、ロザリオは思い出す。
正反対の方向だが、極端な主張の団体活動が、機構内部にいくつもあるらしい。
ロザリオは呆れた。
「おい、君っ! 君も我々の活動に参加しないか? 宙賊を銀河から消し去るんだ! 」
目の前にいた青年に、団体の一つから飛び出した別の青年が声をかけた。
「そんなのは無理だよ。目の前の一匹の虫は殺せても、街から全ての虫を消し去ることなんてできないだろ。
宙賊だってそうだ。殲滅ではなく、共存を模索するしかないんだ」
正論を受けて、団体の青年はすぐさま標的を変更した。
反論できなくても、持論を曲げる気にはならないらしい。
同じ勧誘を、今度は女性の職員にぶつけていた。
(宙賊も人間なのに、虫に例えるのはどうかと思うけど、殲滅が無理と言うのは同感だな)
彼なりの評価を下したロザリオにも、勧誘の声がかかる。
「おい、ロザリー! お前も参加しないか? 宙賊退治を専門とする部隊の創設を提案している、若手中心のサークルに」
「ショーンじゃないか。お前まで、こんな団体に入っちまったのか? 」
うんざり顔のロザリオだが、養成所生活を共にした学友は畳みかける。
「よく考えてくれよ、ロザリー。
宙賊をガンガン蹴散らすことこそが、今の保安機構の最大の任務なのだぜ。
それ専門の部隊は、絶対に必要だろう」
「そんなことあるか、宙賊対策が最優先だなんて。
ガウベラ帝国の件もあるだろ。遠くの帝国に関する情報も集めなきゃいけないし。
それに、同盟勢力との往来さえ守れれば、いたずらに宙賊を蹴散らす必要もないと思うぜ」
「・・・・ったく、何だよお前は、いつまでもそんな・・・・・・・」
ショーン・ブランケットも、一人に手間をかける気はないらしい。
ダメだと見て取るや標的を変えた。
「おい、サイモン! ちょっと聞いてくれ・・・・・・・」
「・・・・・・・・ってことだから、俺はパスだ」
周囲の喧騒で一部しか聞き取れなかったが、サイモンもショーンの勧誘を振り切ったらしい。
苦笑を浮かべて、ロザリオのもとにやって来た。
「まいったよな、サイモン。対宙賊強硬派が、こんなにも活発だとは思わなかったよな」
「まあ、全体から見れば一割にも満たないのだろうがな。ほとんどの連中は、機構の方針を理解していると思うぜ」
勧誘から逃げるように、彼らは集合着座室に入る。
周囲でも多くの新入り職員が、同じような逃げ足を見せていた。
座席に腰を落とすに至っても、ロザリオはショーンたちが気になっていた。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/11/26 です。
「集合着座室」という、愛想もクソもないネーミングの部屋が出てきました。
ネーミングのセンスの無さも致命的な欠点だなと、我ながら恥じ入るばかりです。
でも、宇宙時代の乗り物にこんな意味合いの部屋ができるだろうという予測には、一定の自信を持っています。名称はともかく。
現代の有人宇宙船は、乗員がずっと同じ場所(コックピット?)に居続けるから関係ないですが、ある程度広さがあって自由に動ける乗り物が主流になれば、こんな部屋ができるのではないかと思います。
宇宙での移動では、人間の耐久力の限界くらいのGがかかる加速は、避けられないでしょう。
それくらいしないと越えられない距離を、渡っていくのが宇宙の旅でしょう。
こんなGがかかる状況では、安全な姿勢を保てる席に全員が座ることも、体調不良者にすぐに対処できるように、全員が一か所に集まることも必要になるでしょう。
限界のGだから、そんな長時間ではなく、もっと穏やかなGしか(それでも1Gより強いでしょうけど)かからない時間帯もあり、そこは自由行動が認められるでしょうが、限界Gの時間帯は集合して座っている必要が出るのです。
このように、自分なりに想像した未来の宇宙旅行の詳細を物語に詰め込んで行くのは、書いている方としてはとても楽しく、ノリノリでやっているのですが、読者様に果たしてどう受け止められていることやら…。
これからも「銀河戦國史」には、こんな描写は登場し続けます。
なにとぞご容赦ください。




