第14話 Story about ロザリオ 2-2
「よう、ロザリー。いよいよ出発だな。俺たちのキャリアが、ここからスタートだぜ」
威勢よく叫んだ親友の頭に、セシリアの件が引っかかっているのが痛いほど分かる。
「ああ、そうだなサイモン。どんな任務を命じられるのかは、まだ分からないけど、とにかくがむしゃらにぶつかってみようぜ」
2人とも、セシリア捜索の任務に就かないことだけは、はっきりしている。
「そうだな。右も左も分からない新入りだ。当たって砕けろの精神で、いくしかないな」
普通でも、不安で胸がいっぱいで張り裂けそうになっているのが、新入りの初日というものだろう。
だがこの2人は、旧友の失踪という暗雲まで、胸に詰め込んでいる。
威勢よく振舞って見せても、どこかに影が差す。
互いが互いの影に気付く。2秒の沈黙。
「心配しても始まらないよ、セシーのことは」
「ああ、経験豊富な捜索チームが対応しているのだ。安心して任せておこう」
サイモンのつぶやきにロザリオが応えた後には、2人は腕を振って星間輸送船へと歩を進めた。
宇宙要塞チェルチェンまでは、民間の商用船で向かうことになっていた。
だが、乗り込もうとするのは、新入り機構職員がほとんどだ。
多くが、一旦は同じ要塞に向かうことになっている。
チェルチェンは、セシリアが失踪したというアガデ星系とは、20光年余りの距離だ。
直径十万光年の銀河系円盤という、宇宙保安機構の活動範囲からすれば、すぐ近くと言える。
そこに、新入りの半分くらいが送られる。宙賊の頻出しているエリアの近くであり、人手も沢山必要とされているから。
ステーションのコンコースを進めば進むほどに、紺を基調とした同じ制服が増えて行く。
白いラインの文官と、赤い稲妻模様の武官が、同じくらいの数で目に付く。
そんな新入り職員たちが、一団となってぞろぞろと歩く。
一団が向かう先に、一団と少し距離をとった位置で、でかでかとした横断立体文字を頭上に頂く群衆が、口々にシュプレヒコールをあげているのが見えて来た。
≪機構軍の戦場派遣を認めない! ≫
「暴力はんたーい! 」
≪無益な派兵で若い命を散らすな! ≫
「航宙民族への弾圧をやめろー! 」
≪ガウベラ帝国を挑発するな! ≫
「平和的解決を優先しろー」
でかい文字とでかい声の波状攻撃だ。
新入りたちの士気を削ぐことはなはだしい。
ロザリオも正義のヒーローだと少年時代からあこがれて、機構職員となった。
こんな非難を浴びせられるなんて、その頃には考えもしなかった。
市民の声援に背中を押され、力を与えられて激務に向かいたい場面なのに、全くの逆だった。
「はぁ・・・・・・やっぱり、ああいうのもいるか」
とサイモンが、ため息交じりにつぶやく。
「俺たち文官だし、半分くらい文官なのだけど、保安機構は武闘集団だと思っている人は多いんだな。
みんな、やる気を無くさなきゃいいけど」
「残り半分の武官にしたって、戦争をしに行くわけじゃないのにな。
できるだけ武力は行使せず、ガウベラ帝国や航宙民族とだって、対話することを第一目標としているのに。
これじゃあ市民の反対が足枷になって、市民を守れなくなってしまいかねないな」
「でも武装した集団が、宇宙系の多く住む場所や、宙賊の頻出している場所に行こうとしているのは事実だからな。
戦争をしに行くと受け止める人は、出て来てしまうよな」
「まあな。戦争になる可能性も、当然あるのだからな。
安全を確保するために必須の活動とはいえ、武装した集団がどこかに出向こうって時に、反対運動の一つも起きないとしたら、正常な社会じゃないのかもな」
「ああ。反対されて止めますとは言えないけど、安全のために出向くのだって気持ちは、胸に刻み直すとするか」
シュプレヒコールの群集は、新入り機構職員に詰め寄る気配は見せない。
それほど熱の籠った活動でもない。
何人かは大声を張り上げ息巻いているが、大半は控えめな声量での棒読み調の発声だ。
熱烈な活動家は数人だけで、渋々付き合わされた口が大半といったところか。
新入り職員たちも軽く会釈し、いなす感じで通り過ぎて行く。
「やや士気を削がれはするが、まずは穏便に事が運びそうだな」
「うむ、秩序を保って抗議してくれているから、支障には至らないさ。
いずれはじわじわと、士気の低下が影響するかもしれないけど」
ロザリオとサイモンが、すこしは安心した矢先に、
「うるせえんだ、馬鹿野郎! てめえらが宙賊に拉致されても、助けてやらねえぞ! 」
と叫ぶ声が聞こえて来た。
(うわっ、なんだよ。下品な新入りも居たもんだ)
眉根を寄せたロザリオだったが、1秒後に、聞き覚えのある声だと気が付いた。
2秒後には、声の主の名も浮かんでくる。
「やめないか、ショーン!」
叫んでいるのは、ショーン・ブランケットだった。
いち早く制止の声を発して駆けだしたサイモンに続いて、ロザリオも走りだした。
群集は後ずさり、やり合う構えはない。
ショーンも叫んだ後には、バツの悪そうな顔だ。
「落ち着けよ、ショーン。保安機構の名に、泥を塗るつもりか」
「もう落ち着いたよ、サイモン。カッときて、やり過ぎちまった。いけねえ」
頭を掻くショーン。その頭を軽く小突いて、サイモンは2度3度とうなずいた。
「失礼しました。市民の皆様の安全を確保することに、徹した活動をしてまいります。
武力行使は極力回避しろとの貴重なご意見を胸に刻んで、行ってまいります。では」
一番手前の数人だけに聞こえる声量だったが、ロザリオは学友の尻を拭っておいた。
「何もしなけりゃ平和だと思っているのか、あいつらは。何が戦争反対だよ、クソったれ! 」
「まあまあ、熱くなるな」
ブツブツ言い続けるショーンの肩を叩きながら、サイモンがなだめている。
「できるだけ武力を使わずに活動しろってことだろ。別に、間違ってはいないさ」
小走りに追いついたロザリオが割り込んだ。
「そんなこと言ったって、すでに宙賊の方から武力を振るわれて、痛打された連合勢力の船がいくつもあるんだぞ。
武力を使って追い払わずに、どうやって安全を確保するんだ! 」
「そりゃ、最小限には使わざるを得ないけど、それを逸脱しないようにはしないとな」
「最小限なんて、言ってられるかよ。
宙賊どもを片端から見つけ出して、潰して回らなきゃ、被害は続くんだぜ。
あんな奴らを駆除するのに、何をためらう必要があるんだ」
「駆除なんて言うなよ、宙賊だって人間なんだ。
たまたま生まれついた環境が、略奪以外に暮らす術のない状態だった、不運な連中も多いのだろうし」
「ロザリオの言う通りだ。武力を丸ごと否定するのも極端だが、宙賊だからって闇雲に攻撃するってのも極端だ。
そんなこと言っているから、戦争をしに行くのだなんて誤解されちまうんだ。
こんな好戦と反戦の両極化が、保安機構の活動を難しくしているんだぜ」
「極端なもんか。やつらなんぞ、攻撃する以外にどんな対処があるんだ」
「まずは対話を呼びかけるってのが、保安機構の方針だぜ。
武力を避けられる可能性が少しでもあるなら、対話を追求すべしって、養成所でも習っただろう」
「何だよそりゃ。言ってるうちに殺されるぜ。俺は、見つけ次第潰すぜ、常に」
吐き捨てるような最後の言葉と共に、歩調を速めて歩き去って行くショーンだった。
今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/11/19 です。
後書きで補足説明をするという反則を、またしても犯してしまうことになりますが、「星間輸送船」とか「連絡艇」」とか「宇宙船」等の語をしれっと混在させていて、首を傾げさせてしまっている読者様のおられるかもしれないので、説明しておきます。
現代の日本でも、海外旅行に飛行機を使う場合に、飛行場まではバスや電車やタクシーを使います。
「宇宙船」という、ワープなどをして何百光年も彼方へと向かう乗り物に乗る前に、数万kmから十数光年くらいの移動が場合によっては必要になり、その際には「連絡艇」とか「星間輸送船」などが使われる、という感じでご認識頂ければと思います。
「連絡艇」は、現実世界でいう「艀」みたいなイメージで、同一星系内くらいを結ぶ超光速移動はしない乗り物を考えています。
「星間輸送船」は、決まった星と星を往復し続ける乗り物で、タキオントンネル航法が主になる交通手段を想定しています。
あくまでこの物語に関しての想定で、「銀河戦國史」全体では、時代や場所によって乗り物の呼ばれ方も変わっていくことになっていて(現実世界でもそうでしょう)、別作品には別作品の区分けが出てきます。
「分かりにくいな」と思われた読者様もおられるかもしれませんが、作品内で詳しい説明を特にしていなければ、ストーリーを理解するうえで、その区分けを把握する必要はありませんので、適当に読み飛ばして頂ければと思います。
色んな乗り物が使い分けられて、銀河規模に広がった人間の世界が成り立っている。
そんな世界観を表現できていれば、作者としては狙い通りとなるのですが、いかがなものでしょうか?
こんな世界観の表現こそが、「銀河戦國史」を描いている最大の動機なので、面倒に思われている読者様もおられるかも知れませんが、なにとぞご海容ください。
そしてできるならば、この世界観に興味を持って頂きたい、などと身勝手な願望を抱いています。




