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銀河戦國史 (迷走の北辺暗黒天体群域)  作者: 歳超 宇宙(ときごえ そら)
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第11話 Story about C-683 2-2

(想いを寄せる誰かの、眩しすぎる夢、目標、未来。痛い。苦しい。

 ・・・・・・うむ、これは紛れもなく、記憶の主の感じている気持ちだ。

 憧れずにいられない。追いかけたい。でも、自信がない。何を目指せばいいかすら、分からない)


 それがどう、次の任務と結びつくのかは分からないが、記憶の主のものだとはっきり分かる感情については、C-683は素直に呑み込めた。


 真っすぐに目標を追いかける誰かに、いくら恋心を寄せても、自分の将来が見つかったことにはならない。

 自由な空気の中で、自分の将来を自分で見つけなければならない苦しさ。

 それに傷つき悩む、記憶の主の青春時代を、C-683は脳裏に刻んだ。ロードの為に。


(自由とは、恐ろしいものなのだな。

 友との話題も、恋する相手も、将来への目標も、自分で選ばなければならない。自分で決めるしかない。

 そのことに苦しんでいるのか、記憶の主は・・・・・・いや、これは私の苦痛・・・・・・・なぜ⁉

 またバグか? )


 意味不明な痛みになど、構っていてはいけない。

 ロードの為に、任務の為に、有益な情報をしっかりと、頭に刻まなくてはいけないのだ。


 スクールに着く。しばらくの拘束時間。自由を奪われる一方で、自由に将来を選ぶための力を養う時間。

 将来の見えない記憶の主には苦しい時間だが、真っすぐに夢を追う誰かの眩しさに救われて過ごした。

 その誰かの視線を、背中に感じる。少しくらいあざといことをしてでも、釘付けにしておきたい視線。


 数時間の拘束が終わると、また自由な時間。

 さっきは一目散に駆け抜けた廊下を、円柱と扉が並ぶ廊下を、友人たちと連れ立って歩き、帰途に就く。


 さっきは真っすぐに我が家に向かった帰り道で、こんどは寄り道する。

 好きな友人たちと、好きな店に入り、好きなものを食べ、好きな話を繰り広げ、好き放題に誰かを批評し、好き勝手な悪口も言った。


 目に映る人並みの中の、行き交う誰もが自由だった。

 法律も常識も、もちろんあるが、誰も強い束縛を意識していない。そんな街の雰囲気。


(痛いぞ! 猛烈に痛い。そして苦しい!

 何だこれは? これは、記憶の主のものではない。

 何なのだ。ただのバグなのか? こんなことは、初めてだ)


 父母の温もりと自由な空気、それらが与える痛みと苦しみは、C-683には意味不明だった。

 記憶するべきなのか、次の任務に必要となるものなのか、分からない。

 分からないまま、戸惑ったまま、C-683は暗いどこかに引き込まれて行く。

 

 落ちて行く。

 どこまでも、落ちて行く。

 暗い暗いどこかへ、どこまでも、どこまでも、落ちて行く。

 全てを忘れた。

 無が訪れた。

 安らかな、無が。




 目覚めたC-683の目に、星海が飛び込んできた。

 流れはしない。


 マッハを数十倍した速度で飛んでいるが、星海が流れて見えたりなんて、あり得ない。

 一粒の輝きが、少なくとも数百万から数千万㎞に及んでいるものなのだから。


 はるか遠くの巨大なものは、早く飛んでも止まって見える。

 星の海は全部、はるか遠くの巨大なものだ。


 静止していても何も変わらないであろう景色が、飛行中の住居艇の窓外にある。

 C-683の覚醒を検知したコンピューターが、目覚ましの〝 コーヒー 〟を出す。

 コンソールの一角に穿たれた穴から、黒い液体で満たされた樹脂製カップが、せり上がってくる。


 宇宙で採取した元素を材料に、豆なんていう生物由来のものを経由することもなく、化学的に合成された〝 コーヒー 〟だ。

 コーヒーと呼ぶのが適切なのかも不明だし、味だって、豆から淹れたコーヒーを知る者には別物かも知れない。


 だが、これしか知らないC-683に、不満のあろうはずはない。

 ゆっくりとすすり、苦み走った顔で飲み下した。


 偽物でも、それによってやや軽やかに回るようになった頭で、目の前のコンソールに据え付けられたディスプレイを、順に紐解いて行く。

 現在の座標、主観的な時刻、運動状態などを、まず先に確認した。予定通りだ。


 シャトルのステータスも、1つずつチェックして行く。

 ラムジェット推進装置の稼働状態、コックピットの気密状態、放射線の遮蔽状態と順に、ディスプレイ上に読み取って行く。どれも問題ない。


 自分の身体の状態とトレーニング計画にも目を通す。

 夢を見ながらできるトレーニングと、できないトレーニングがある。

 覚醒時にしかできないトレーニングをしないと、健康で丈夫な身体は維持できず、ロードの為に働き続けられない。


 いくつかのトレーニングを遅滞なく実施すれば、健康状態にも異常は生じないと確認できた。

 人工知能のはき出したトレーニングメニューに目を通し、計画を決めてキーボードから入力した。


 資材や食材の生産状況も要チェックだ。

 いくつかの元素が在庫不足で、生産の滞っている食材がある。

 完成品のストックにまだ余裕があるので問題ないが、2・3ヵ月以内には不足している元素を採取しなくてはいけないだろう。


 採取計画も出来上がっていて、今の座標と運動状態からすると、それの通りに採取できそうだ。

 だからこちらも、問題ない。


 起床時のルーティーンを着々と、いつも通りにこなしたC-683だった。

 どんな順番でやっても構わないのだが、順番を決めるのが彼の流儀だ。

 決めたことを決めた通りにやると、気分がいいし落ち着いてくる。


 ルーティーンを終えると、ルーティーンにないタスクが想起された。

 確認のためにコンソールを叩く。


「チッ! 」

 ディスプレイ上に結果を見取り、舌打ちした。「子胤を仕込むのには、失敗していたか」


 拉致した女を孕ませてロードに届けねばならないのに、仕込んだ胤は外れたらしい。

 あの女は、身籠っていない。


「リトライか、面倒だな」

 つぶやいて席から離れたC-683だったが、どこか演技している自覚がある。

 面倒なふりをして、実は喜んでいるのか? ロードの期待に応える喜び? どうも違う。


 それに、面倒な気持ちも、決して嘘ではない。

(いや、面倒ではなく、尻込み・・・・・・まさか。たかだか女を孕ませるくらいで)


 解析不可能な感情を振り払うように、勢いをつけてコックピット後方へと飛翔した。

 住居艇中央部にある、いくつかのモジュールの一つを目指す。


 まず初めに、ミストバスのモジュールに入る。

 身を清め、衣服を浄化し、次のモジュールを目指す。

 拉致した女、セシリア・ヴェールを監禁してあるモジュールだ。


 到着した。

 扉一枚向こうに、女がいる。

 今回の投稿は、ここまでです。 次回の投稿は、 2022/10/29  です。


 宇宙を舞台にしたSF作品の多くでは、相対論的時間の遅れというものが物語の要素として織り込まれています。

 高速移動する乗り物の中では、止まっている物体より時間の経過が遅くなる、いわゆる「ウラシマ効果」というやつです。


 ある星に住む女性と、宇宙を旅する男性が恋仲になるけど、高速移動し続ける男性にとっては、女性は物凄い速さで年をとってしまい、出会った頃は年下だった女性が、男性が青年の内に老齢に達し、壮年の頃には天寿を終えてしまった、みたいな展開などがあるわけです。


 この物語でも、定住している人と宇宙を飛び回る人が出て来るから、時間の遅れは生じています。

 そのことをチラリと主張するために、C-683が目覚めてすぐの場面で「主観時間」という言葉を出しておきました。


 そして本物語においては、時間の遅れはこの程度にしか取り扱われません。

 要するに、話の本筋に時間の遅れが影響を及ぼすことはありません。


 実際、どのくらいのスピードでどの程度の影響が出るものでしょうか?


 光の10%くらいの速度なら、0.5%くらい時間が伸びます。

 止まっている人が1時間を過ごす間に、動いている人は1時間と18秒くらいを経験している。

 この程度なら、何か精密な作業とかでもやらない限り、日常生活レベルでは問題にらないでしょう。

 

 で、光速の10%という速度は、どんなものか?

 ざっくりとですが、太陽系を本州と考えて、そこを自転車で走り回るのをイメージしてもらえばいいかなと思います。

 となり合った惑星間なら、日帰りで往復もできそうだし、数日かければ端から端まででも行けそうでしょうか。


 アメリカに行くとなると、海の上を走れる自転車があったとしても、ちょっと厳しい感じでしょう。

 別の星系への移動となると、光速の10%程度だとかなり遠く、数か月とかの冷凍睡眠みたいなことでもしないと、間がもたない感じがします。


 日本にとっての世界の広さと、太陽系にとっての銀河系の広さでは、ケタが違います。多分、一万倍くらい(鵜呑みにせず、気になる方は自分で計算してください)。

 つまり、光速の10%というのは、数年間の長期冷凍睡眠みたいなものを導入したとしても、銀河系全体における移動手段にはなり得ず、ワープ等の超光速移動を登場させないと、物語が成立しません。


 作中でC-683の移動速度は、具体的には書いていませんが、活動範囲や数年の長期睡眠の利用などを考えると、光速の10%くらいに考えるのが妥当に思えます。

 日常生活レベルでは、「ウラシマ効果」があまり問題にはならない速度と言って良いと思うので、ストーリーにも影響させないで済むというわけです。


 光速の90%くらいになると、時間の遅れは2倍くらいになり、影響が大きいでしょう。

 上記の恋人同士みたいなことも、起こりうる速さです。


 本物語では、そんな速度で通常航行は行われないものとお考え下さい。

 そんな速度が必要な距離は、超光速航法が使われ、その場合時間の遅れは生じないことに、作者権限で勝手に決めています。

 超光速移動自体が荒唐無稽なので、それの性質も、作者次第で何でもありなのです!


 今後、「銀河戦國史」シリーズの他作品で、時間の遅れが問題になるような場面が出て来る可能性は、無いとは言えませんが、本作品に関しては、全く影響はございません。

 ロザリオとセシリアは、同じ長さの時間を過ごします。

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