§094 派生
アレクスムの鍛冶ギルドでナズ用の本を借り受け、
家に帰るとアナとジャーブが出迎えてくれた。
やや早めの昼食だったが、
その後には予定がいくつもあったので、
午後の迷宮に行く時間はいつも通りとなった。
「ナズには悪いが、このまますぐに迷宮へ行く。次は13層だ」
「「かしこまりました」」「分かりました」
13層と言えば、
ミチオ君は既に魔法使いのLv30以上になっていた。
そして、神籬のロッドを使用していたはずだ。
自分は只のワンド。
鍛冶師ギルドでデモストレーションに作らせた奴だ。
空きスロットは無い。
Lvも低いし、魔法で戦うのはまだまだ難しい。
そういえば、まだ知力の上がる僧侶も取得していない。
やろうやろうと思って、やっていない事が多すぎる。
何かしら知力を上げる装備やジョブを付けたい所だが、
どうしても先に遊び人と博徒が目に映ってしまう。
それに、昨日の今日で再び盗賊が襲ってくる事は無かろう。
今日の所は、最後のデュランダルでの狩りとする。
明日は良い魔法使い用の武器を買って、MP吸収を付けたい。
「ご主人様、魔物です。奥に2匹、手前に2匹です」
奥に貝が2匹、手前にも1匹。
それからニートアントだ。
貝がどうやって動くのか、前々からかなり気になっていた。
普通は波に漂い、行ったり来たり。
その重みで砂中に沈み、後はずっとそこで過ごす。
そういえばこの貝、挟み込んだりするのだっけ。
水鉄砲のような水魔法も使ってくるはずだ。
「アナは蟻、ジャーブは貝、ナズは様子を見て魔法を止めろ。
ジャーブは貝に挟まれないように!」
「「「はい」」」
オーバーホエルミングで後列に回り込み、後ろから貝を始末する。
サラセニアの時は後方を取ったら楽勝だったが、
動物である貝の方向転換は早い。
接点が少ない楕円形なので、くるっと回転して来た。
カパッと口が開いたと思ったら、
そのまま縦置きになって器用に前進してきた。
オイオイ・・・。
ブリキのおもちゃかよ。
だが、この前進方法はこちらに取っては好都合だ。
中の貝柱目がけてデュランダルを突き入れる。
挟み込まれても面倒なので、オーバーホエルミングで2回突いた。
3回目は多分無理そうだ。
それに2匹相手になるとだいぶ辛い。
オーバーホエルミングは出し惜しみせず使う。
2回突いたら、3刀目は貝の殻を叩いて間合いを取る。
スキルとスキルの隙を埋めるためだ。
妙な歩行方法から噛み付きと言うか挟み込み攻撃をされたが、
ジャンプ等はしないし横向きの時に回転して薙って来る位で、
他におかしな行動は無さそうだ。
では魔法だけ気を付けよう。
既にこちらには、
前列のナズと後列を制する自分が詠唱中断を持っている。
従って完封だ、上手く避ければ。
クラムシェル相手には21刀も掛かってしまった。
やはりラッシュ2回か3回で沈められるミチオ君との腕力の差が響く。
剣士も戦士も、ポイントの関係で取る事はできない。
例え取っていたとしてもラッシュで11回だ。
その差は4倍近い。
恐らくLvが上がれば上がるに従って、その差が開くのだろう。
ベースステータスから上昇値が査定されているかもしれない。
それならば、尚更ベースINTが高いと思われる自分は魔法に有利だ。
2匹のクラムシェルを煙に変え、ジャーブの方を手伝った。
囲みに入ったら、もうオーバーホエルミングは不要だ。
後ろへ攻撃しない、単調な魔物相手なら安全に戦える。
3匹の敵を倒したところでアナが申告をした。
「ご主人様、石化しました」
「お、それは良かった。後は任せろ」
「はい」
どうせ先に石化させても、
ナズとジャーブの囲みに加わられたら経験値を損するだけだ。
タイミングはいつでもいい。
危険が1つ減ったと言う事実で十分である。
クラムシェルはシェルパウダーを落とす。
この世界では消火剤なのだっけ?
ウチでは重曹として使っているので、あればあるだけ嬉しい。
と言っても重曹ばかりそんなに必要としないし、
大量に削るとなればやはりミルが必要になる。
別に余ったら売却するだけなのでいっぱい倒そう。
特に慎重を要するような攻撃は無かった。
***
しかし、このフロアで狩りをすると
サラセニアから附子が大量に集まって、
再びアイテムボックス1枠を埋めてしまった。
昨日無理してサラセニアを狩る必要は全くなかった。
いつもそう。
無計画な自分を叱ってやりたい。
クラムシェルに至ってはもう2枠を超えている。
またどうせ次の階層でも沢山出るので、こんなに集める必要は無かった。
「もう十分だろう、ボスに行こう」
「俺はここは初めてで、ボス部屋の行き方は分からないです」
「それらしい人や魔物の動きが無いので、私も案内できかねます」
がーん・・・。
そういえばこの階層からは全員未踏だった。
最初からボス部屋を目指して狩りを行うべきだった。
ルートを確認してから雑魚を狩れば良かったのだ。
自分のバカバカバカッ!
「そうか、仕方無いな。
中間部屋を探しながら、近くに魔物がいたら倒すようにしよう」
「かしこまりました」
アナがこれまで来た道を考慮しつつ道を探す。
道中で何回か魔物と出遭った。
基本的にクラムシェルとサラセニアだ。
なるべく倒しやすいサラセニアを取りたいのだが、
位置の関係で取り難い事もある。
今回はサラセニアが前に、クラムシェル3匹が後ろだった。
そしてクラムシェルの1匹がエンカウント直後に口を開ける。
足元には魔法陣だ。
拙い、オーバーホエルミングで駆けて行って止めるしかない。
と思ったら、ナズも一緒に駆けだしていて、
自分の剣より先に槍が貝柱へヒットした。
貝柱を突かれたクラムシェルが、
そのまま口を閉じてナズの槍を挟み込む。
「あっ!」
ナズは自分がやらかした過ちに気付いて声を上げた。
早くこの状態をどうにかしないと、
別の魔物が詠唱を始めても拙い。
先端に異物がくっついた状態の武器は、
異物部分で叩いてもスキル効果が乗るのだろうか?
普通に考えれば無理そうである。
クラムシェルは水棲系の魔物の癖に火属性には強く、
弱点は土属性だったはずだ。
それもそうか、所持品が消火剤なのだから。
オーバーホエルミング中にサンドボールと念じながら、
ガンガンクラムシェルの殻を叩く。
オーバーホエルミングが切れると、
ナズは槍先に貝がくっついたままの状態で、
別のクラムシェルを叩き出した。
ちょっと!倒し辛いよ!
「ナ、ナズ、一旦止めろ、先にそれを倒すから!」
「はいっ」
もう一度サンドボールを当てて、ついでにデュランダルでガンガン叩く。
必死だったので何回やったかカウントできなかったが、
何とかナズの槍を解放する事ができた。
「ありがとうございますっ」
「真ん中に突き入れる時は気を付けろ!」
「はいっ」
しまった、同じ魔法を使うならサンドストームの方が良かった。
まだ2匹もクラムシェルが残っているじゃないか。
まったく、いつもこれだよ。
もうちょっと考えて行動しろ?
残ったクラムシェル相手に、
サンドストームを唱える事がとても勿体無い気分に思えたので、
残りはデュランダルで叩き殺した。
「ユ、ユウキ様は魔法もお使いになられたのですね?」
先程サンドボールを当てながら戦っていたのをジャーブは見ていたようだ。
「使えるようになったのは、つい最近だ。従ってまだまだ弱い」
お前のおかげだがな。
アナには魔法の事は明かしていたし、
ナズが貝ごときにやられたりしない事も知っているので、
彼女は表情1つ変えやしない。
ベースの顔がほんわかしているから救われているが、
ムスっとしたキャラだと相当緊いな。
尻尾でも握って悪戯してやるか。
と思って手を伸ばすと、しゅるりと躱された。
くっ、気配を読める奴は・・・。
中間部屋に着くと、アナが申告してきた。
「ここからですと、この先の通路左側が殆ど探索が行えておりません。
恐らくボス部屋もそちらでしょう」
「そうか、大体の位置関係が分かるのか」
「そうですね、魔物の位置が目印になりますので」
そうか。
気配が判ると言う事は、
すなわち倒されていない魔物は道標なのだ。
残った魔物の位置関係から、
何となく迷宮の繋がりが解るのだろう。
素晴らしい能力じゃないか。
アナを選んで本当に良かった。
アナの頭を撫でてやりたかったが、
また躱されたら悲しいのでエア撫で撫でをした。
「・・・ご主人様、どうぞ」
アナが頭を下げてきた。
エア撫でに気付いたらしい。
そして、それはやって欲しいらしい。
頭を撫でて、ついでに尻尾も掴んで撫でた。
「アナは凄いな。素晴らしい能力で大変満足だ」
「ありがとうございます」
アナは感情を剥き出しにして拗ねたり喜んだりしないので、
正直何を求めているのか良く解らない。
これは自ら求めて来たので、多分撫でられるのは嬉しい事なのだろう。
ナズの方は解りやすいので、
こっちはよく撫でるようにしていたが、
アナはこれまで反応が薄かったので、
そういうのは好みでは無いのかと思っていた。
これからも撫で撫でしてあげた方が良い?
アナの予想に従って後を付いて行く。
道中で何回かの魔物の群れを倒し、
行き止まりも何度かあり、
そしてボス部屋に到着した。
誰も居ないかと思ったら、先客がいたようだ。
「それじゃあ、今日はこれを倒したら帰るか」
「「かしこまりました」」
「まさか、13層を1日で突破するとは思いませんでした」
「うん?ジャーブは12層は長かったのか?」
「そうですね、1年くらいは通ったかと思います。
以前にもお伝えしたと思うのですが、
俺達のパーティはここで稼いでいたんです」
「ええと、集めて売らずにとっておいて、
ギルドの買取が出た時に売るんだっけ」
「ええ、そうです。
なので、それまでは収入が限られるので贅沢が出来ません。
その代わり一気に纏まった金が手に入るので、
そうやって生活していました」
なるほど、急な大金が転がり込んだならば、
賭け事をして増やしてみたくなる気もする。
一気に大金を手にすると心が浮ついてしまうのだ。
自分もそうなりかねないので気を付けねば。
勿論ギャンブルなどするつもりは無いが、
パァッと使ってしまわないようにとの自制だ。
「ジャーブなら13層でも余裕で戦えそうだな」
「ありがとうございます。
でもこの辺りから魔物の強さが一気に変わって来るので、
急ぎ足で駆け抜けたパーティでも、
この辺りで経験を積む期間を取るのが普通です。
もうしばらく13層で経験を積みませんと」
経験・・・。
戦闘技術であるならばジャーブは十分だ。
ナズならば1度経験すれば次回以降は上手くやってくれる。
アナは基本的に盾でガードする事が主体で、
武器の力を信じて突貫したりする性格ではない。
むしろ慎重に相手をしていて、手数が少ない方だ。
自分は魔法を主体に切り替える。
魔物には接近しない訳だし、
Lvだけ足りていれば基本的に問題無いはずだ。
Lv差だけでまだまだ進めていける段階であると言える。
どれ、どうなったのかと全員のLvを確認すると、
ジャーブもアナもLv30へと上がっていた。
ならばこれからジャーブは騎士だ。
その前に槍で倒さなければならないかな?
パーティジョブ設定で開いてみるが、やはり騎士は無かった。
「いや、その必要は無い。それからお前は今から騎士にする」
「えっ、いや、あの騎士になるには俺はまだまだで──」
「騎士の条件を解放してくるから、2人はここで待っていてくれ」
「えっ?・・・あっ、はい。槍ですね、どうぞ」
「いってらっしゃいませ」
「あの、条件って・・・うわっ」
ナズから槍を手渡され、ジャーブの大剣を取り上げてナズに渡した。
ゲートを開いてジャーブを押し込み、2層へ移動する。
「じゃあ、ラッシュでコーラルを倒せ。倒したら終わりだ」
「え?・・・は、はい、分かりました」
適当にぶらついてコラーゲンコーラルを探し、
ジャーブはラッシュ一撃でコーラルを仕留めた。
「もう、2層の敵は一撃なんですね・・・」
「駆け出しの頃は固かったのだろう?」
「いえ、俺はここから始めた訳では無かったので・・・」
「そういえばそうか」
ジャーブのジョブを開いてみると、
騎士が取得できていたのでそのまま変えた。
「ジャーブ、防御と言ってみろ」
「防御ですか・・・って、何ですかこれ!?」
「それが騎士のスキルだ。
防御を唱えると1回だけダメージを大きく減らせる」
「は、はあ。・・・あの、俺は本当に騎士になってしまったのでしょうか」
「騎士は嫌か?」
「いえ、そういう訳では無いですが、
騎士の就任の際にはもっとこう・・・厳粛な式典とかが」
「ほー、騎士ギルドに就労するとそうなのか?」
「はい、戦士は騎士ギルドでも登録できるのですが、
たまたま俺が戦士へジョブ変えした時は騎士へ就く人と一緒になって、
俺たち戦士組は・・・なんていうか、すぐにその場で解散したのですが
騎士の方々は着任式や衣服の贈呈式なんかがありました」
「えっ、戦士って騎士ギルドで成れるの?」
「え?そうですよ。
戦士ギルドと入り口を違えている場所もありますけど、
ギルド神殿は同じ物です」
そうか。派生元であるから、
騎士も戦士も同じギルド神殿だと言うのは納得だ。
盗賊ギルドと言うのは無いだろうが、
博徒の派生元である賞金稼ぎギルドが管轄しているのだろうか?
盗賊には就けないかもしれないが、博徒は賞金稼ぎギルドで就けそうだ。
同様に僧侶ギルドからは沙門が、魔法使いギルドからは魔道士へと、
派生元ギルドで受け付けている感じなのだろう。
そもそも上級レアジョブの神殿なんて聞いた事無いし、
ジョブの仕組みを理解していない一般市民らからすれば、
誰だってそこに行きたいと殺到する・・・前提ジョブをすっ飛ばして。
そうなれば、大混乱が予想される。
そもそも上位ジョブはあまり知られていない、と言うか隠されている。
その道を究めた者が信仰するギルド神殿に足しげく通い、
その結果上級職に転職する、と言う方がしっくりくる。
ならば戦士ギルドから騎士へそして聖騎士へとする転職は、
1つの流れとして扱っているのだから騎士ギルドなのだろう。
ではなぜ賞金稼ぎギルドは戦士の派生なのに別なのか。
・・・盗賊ギルドと言う裏の側面を持っているからだろう。
さすがに直接の斡旋は無いにしろ、狩る側と狩られる側、表裏一体だ。
裏情報が飛び交っている事が予想される。
どこかで両方に手を染めたものが・・・そう、博徒だ。
ギルドに情報を流すために、ギルドに属しながら盗賊の仲間になる者。
逆に、自分達が標的になっていないか探るために、
盗賊から賞金稼ぎギルドに内偵させる者。
それは、いつ見つかるかどうかの瀬戸際で、
ハラハラドキドキのギャンブル行為だ。
それが・・・博徒なのだろう。
村長は・・・村長ギルドがあるのか?どうなんだ?
無いよなあ・・・。
ジャーブを連れて中間部屋から待機部屋に戻ると、
それから暫くして自分たちの番が来た。
∽今日のステータス(2021/09/13)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv38
設定:探索者(38)英雄(29)盗賊(10)魔法使い(9)
・BP136
キャラクター再設定 1pt 武器6 63pt
獲得経験値上昇×10 31pt 4thジョブ 7pt
必要経験値減少/10 31pt 詠唱省略 3pt
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv33
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv29
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 戦士 Lv29
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv14
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv38
設定:探索者(38)英雄(29)盗賊(15)魔法使い(13)
竜革の帽子(++)チェインメイル(-)竜革の手袋(++)
竜革のブーツ(+)
・BP136(余り60pt)
キャラクター再設定 1pt 必要経験値減少/10 31pt
パーティ項目解放 1pt 4thジョブ 7pt
パーティジョブ設定 1pt 詠唱省略 3pt
獲得経験値上昇×10 31pt ワープ 1pt
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv33
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv30
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 騎士 Lv1
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv17
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
2 コラーゲンコーラル / コラージュコーラル
・ ・・・・・・・・・ / ・・・・・・・・・
10 ニートアント / ハントアント
11 ナイーブオリーブ / パームバウム
12 サラセニア / ネペンテス
13 クラムシェル / オイスターシェル
・異世界22日目(昼過ぎ)
ナズ・アナ17日目、ジャーブ11日目、ヴィー5日目
エプロン完成まであと4日、家のフック取付まで1日




