§093 城主
家に帰ると、ナズは昼食の用意をしていた。
「あーナズ、今日の昼はちょっと遅くなるかもしれない。
リアナさんに呼ばれているんだ、お前たちも来い」
「かしこまりました」
「おっ、俺もですか?」
「ああ、昨日食べたタコスが好評でな、酒場で出したいらしい。
作り方の講義を頼まれた、だからお前たちも手伝え」
「わっ、分かりました」
そういえば、酒場の女将さんの前では騎士だと言っている手前、
日中の目立つ時間にワープは使わない方が良い。
4人で歩いて酒場まで向かう。
そういえば、全員引き連れて町を歩くのは初めてじゃないのか?
思えば偉くなったものだ。
前を行くのはアナとナズ、
2人で何かを話しながら歩く姿は、本当の姉妹のようにみえる。
後ろを歩くのはジャーブ。
寡黙で屈強な戦士だ、・・・黙っていればな。
酒場の前で女将さんは掃除をしながら待っていたようだ。
目が合うと手招きされて呼ばれた。
「まあ、待っていたんだよ。それで材料は持ってきたかい?」
「いや、どの位最初に作るか解らなかったので、聞いてからにしようかと」
「そうかい、じゃあ最初にあの甘くて香ばしい生地から教えとくれ」
「いや、それより手間がかかるのが辛いソースの方だ」
「ふーん、そうかい、じゃあそっちは材料は何だい?」
「唐辛子なのだ。ウチでは200回分を作ったんだが、
ギルドで買うと3万ナール以上になってしまうが」
「唐辛子ねえ・・・じゃあひとまず50回分でいいや。
金を渡すから買ってきておくれよ。ほかに必要な物は何だい?」
「全部纏めて言った方が良いかな、
生姜、大蒜、塩、小麦粉、唐黍粉、トマトに酢だ」
「ふんふん、ちょっと待ってね」
女将はパピルスにメモを書いていく。
読めないが、今挙げた物を書いているのだろう。
「具材の方は、キャベツとチーズとアリ・・・何とかと、」
「アリーチェね」
「そうそう、それとトマト・・・いや違うな、何だっけ。
ナズ、緑色で丸くて柔らかくって、
切る時に力を入れてしまうとブチュっと潰れそうな若干酸っぱい野菜だ。
「アクバニアですか?」
「あーそうそう、ソレ。アクバニアと、肉だな。オリーブオイルで和えた」
「ふんふん、じゃあ唐辛子、お願いね、立て替えられるかい?」
「ああ、大丈夫だ。
ナズ、昨日作ったのを覚えているなら、ちょっと作り方を説明してやれ」
全員をその場で待機させ、自分はギルドの買い取りカウンターへ向かった。
唐辛子13個で9360ナール。
割引で6552ナール。
2808ナールは・・・黙っておいて良い?
ついでに家から秤も持って来た。
最初で目分量は良くない。
ちゃんと分量を調べるべきだろう。
「あらあら、秤を持ってるのね。
ウチにも在ったけどだいぶ長い事使ってないねえ」
「最初なので、一応ちゃんと量ろうかと」
秤に乗せて、昨日の1/4のサイズで取り分ける。
唐辛子13g、生姜7g、大蒜7g、塩3g、酢少々1、トマト1/4個。
「あら、こんなもんで良いのね」
作る量が少なくなると、量があいまいになる。
たくさん作る場合の正確な個数を後でナズに言って書かせよう。
ひとつずつ手順を教えて鍋に掛ける。
女将さんは慣れているのか、辛みで目をやられたりはしないようだ。
量も少ないからかな。
「ではそれはそのままにして、唐黍粉の方なのだが」
「ああ、ウチにもあるよ、料理や酒に使ってるからね」
やはり、パパッと振り掛けて使うのは基本なのか。
一気に取り出そうとしたらびっくりされた。
「ソ、そんなに使うんだねェ」
「生地がな・・・ほぼ、これから作るんだ」
ソースは50回分で良いかもしれないが、
食べる分となると、生地は沢山必要だろう。
昨日と同じ分量にした。
材料を全て並べて量を覚えて貰う。
「これで、昨日の大きさ6個分なのだ」
「じゃあ今日は小さめの大きさでを倍くらい作っておくれよ」
混ぜる所までは女将さんにやって貰い、
後はナズに捏ねさせた。
やはりナズは力持ちだ。
非力なドワーフだとか本人からは申告されたが、
種族差と言うものは軽々と我々人間を超えて行く。
しかし面と向かって言うのもプレッシャーになるだろうし、
過度な期待はしないで差し上げよう。
「その間に、キャベツやアリーチェを炒めるんだ」
「あいよ、みんな食べて行くんだろ?ちゃんと全員分用意してやるさ」
「えっ、そうなのですか。申し訳ありません、リアナさん」
「また食べられるんですか!?お、俺も何か手伝いますよ!」
ジャーブが手伝ったら女将さんが覚えられないし、
かと言って何もしないのも申し訳無い。
掃除でもさせるか?
「良いんだよ、ゆっくり見といてくれ。
・・・それで、こんなもんかい?」
おかみさんは手際良くキャベツと肉を炒め、アリーチェを絡めた。
「キャベツはもう少し萎らせると食べ易いと思うが、
シャキシャキを好む人もいるかもしれない、そこは好みだと思う」
「じゃあこんなもんだね。それでチーズを掛けて・・・後は?」
熱せられた野菜に、削られたチーズが溶けて上手く絡み合う。
「輪切りのトマ・・・アクバニアも炙るんだ。
肉を焼いた後の油で絡めながら」
「あいよ、最後にアクバニアね」
自分が作ったのよりも、遥かに上品な料理ができ上がっていた。
「そしたら、生地を平たく延ばして焼いて・・・、
そうそう。そんな感じに延ばすと包み易いと思う」
フライパンで小さく千切った生地を焼き上げて行く。
今回は前に作ったような1食分では無く、2口サイズのミニタコスだ。
7つに分けたタコス生地の固まりを、さらに半分に千切った。
合計14枚の生地を焼き、そこに具を並べてソースを掛け、小さく丸めた。
最後に楊枝で2か所を刺し、
中央部分を切って中身が見えるように皿に盛り付ける。
この辺りは流石、プロの仕事なのだろう。
どうみてもタコス料理だ。
「これで良いかね?」
「自分たちが作った物より遥かに美味しそうだ、完璧だな」
「そいじゃ食べてみようかね、おーいアンタァ?」
「はいはい、はいよ。おお、何だぞろぞろと?ナジャリじゃないか」
「昨日アンタも絶賛してたアレね、今日早速教えてくれたんだよ。
それでね、うちのメニューの看板にしようかと思ってサ」
「おお、あれかぁ、それで早速か。悪いね?ご主人」
「い、いえ・・・大丈夫です」
「どれじゃ、頂いてみるか。どれ・・・ほう、昨日食べたのと同じ感じだ」
「そうだね、あたしゃあもう少し・・・酸っぱ味が欲しいね。
ピクルスでも入れようかねえ」
「お?じゃあ俺のにも乗せてくれ、ありがとう。うん、もっと良くなった」
「はいよ、あんたらにも。
巻いちゃったから入れられないしサ、一緒に食べりゃあ良いんだよ」
女将さんは、トングで自分たち用の皿にも
ピクルスを2つずつ乗せてくれた。
たしかに、辛いだけでは無く、
酢の味もアクセントになって、更に美味しくなった。
辛みが少し引き、マイルドになった感じだ。
・・・ヴィー、済まんな。
自分達だけで2回頂いてしまって。
「どうですかね、売れそうですか?」
「売るんだよ、最初はタダで試食させてやってね。
病みつきになった所で次は・・・ね?」
「おっかない、おっかない・・・。リアナはいつもこうだ」
いつもそうなのか・・・、商売上手なのだろう。
良い人そうなのに、女将さんの闇に触れてしまった。
「あの、それで家の方は・・・」
「ああ、任せて置きな、あんた、アレアレ」
「あ?・・・あ、ああ家ね。
まさか本当に家とレシピと交換なんて思わなかったなあ」
「・・・自分も、同意見です」
「ご、ご主人様、こ、交換てもしかして・・・」
「ああ、昨日女将さんと話していた時に、
それを条件にされたのでな、断る訳にも行かなくって」
「申し訳ありません、エスターさん。私達に家を譲って下さるなんて」
「いや、良いの良いの。何だか家賃より儲かるってリアナが言うし、
空き家で放って置くのも勿体無いしね」
「何言ってんだい!ナジャリの住む家なんだから、この位はねぇ?」
「リアナさんも、何から何まですみません。本当に」
「良いのよぉ、ナジャリはいつでも歌いに来て頂戴ねぇ」
女将さんの黒さを見た。
この人、金儲けが大好きなのだろう。
悪い人じゃないからそこは安心だが、
金になりそうな物への嗅覚が凄い。
「はいじゃあ、これが家の権利証ね。
頂いちゃってる分の家賃はもう返せないけどさ、
来年からはあんた達の物だよ」
「ありがとうございます、女将さん」
家の権利書をポーチにしまい、礼を言って酒場を後にした。
家を手に入れた。
一国一城の主だ。
もう家賃の心配は無い。
固定資産税?・・・は掛かるのだろうか。
特に何も言われなかったので、
土地が空いていれば家を建てても自由なのだろう。
大体、人頭税が年10万ナールは高過ぎる。
家人は3万ナールなのだっけ?
夫婦で13万ナールだ。
家人が安いと言うのは、つまり結婚しろと言う事なのか。
夫が公務に就けば2人で6万ナール。
公人ならある程度の制約が掛かるかもしれないが、
暮らしぶりはかなり楽になる。
結婚して子供ができれば、成人までは3人で6万ナール。
共働き夫婦、共働き探索者が増える訳だ。
そして税金控除の為に公人扱いになるギルドに所属したくなる者も増える。
ある意味、究極の出生政策・労働政策ともいえる。
やはり、この世界は完成されている・・・。
次は大工だ。
カンテラを付けるフックや、
風呂場の椅子やタオルフックを注文したい。
「ナズ、大工の所にもう一度お願いしたい」
「かしこまりました」
「他は帰っていいぞ、この後もナズはいろいろ行く場所があるから」
「かしこまりました」「分かりました」
ナズと一緒に大工の家に行き、
椅子とフックの取り付けをお願いした。
凹型と臼型の椅子については特に突っ込まれなかった。
使用法が解らないからだろう。
何も言うまい。
勿論、普通の風呂椅子も頼んだ。ロ型だ。
明日作って持って来てくれるそうだ。
家の施工もその時に。
その後、アレクスムの鍛冶師ギルドにナズを連れて行った。
「ごめんくださーい」
「おお、以前来た鍛冶師の奴隷の主人だな、娘もいるか」
受付のドワーフが出迎えた。
名前は・・・ミシアルだ。
かっ鑑定してないぞ、ちゃんと思い出した。
人の名前は大丈夫だ、顔と一致すれば思い出せる。
「待ってな、会長を呼んでくる」
ミシアルは部屋の奥へ行くと、これまた強面のドワーフの男と、
女のドワーフを連れて来た。
「会長、この娘が例の野良鍛冶師だそうで」
「ほう、若いな」
「これだけ若いなら、どのギルドの所属か調べればすぐ解ると思うんだが」
「いや、それがさっぱり」
「何か事情があるのか?」
「そのようで」
「おい、若いの。名前は」
ナズが聞かれたので、ナズの方を見る。
と言うか、会長は女の方だった。
見掛けに依らない。
いや、見掛けで判断しては駄目だ。
「ナジャリと申します」
「鍛冶師に成ったのはいつだ?」
ナズがこちらをちらりと見たので、頷いて合図を送った。
隠しても嘘を吐いても良い事は無い。
正直に言うべきだ。
「今年の春です」
「春ならまだ成ったばかりじゃないか。
なぜそれで、どこにも属していないんだ?」
「ええっと・・・」
再びナズが助けを求める。
「エレーヌの神殿を知っているか?」
「エレーヌ?・・・聞いた事はあるな。
どこかにあると言う、望みのジョブに就かせて貰えるらしい神殿の事か」
おお、この会長は知っているらしい。
・・・耳が細いから結構なお年なのだろうか。
流石は年の功。
「どうやら、そこで鍛冶師に成ったらしい」
「なんと、それではエレーヌの神殿は実在するのか」
「どうやらそうらしい、買った時には鍛冶師だった」
「では、お主に聞いても場所は解らんのだな」
「生憎。商館主に聞いても多分教えて貰えそうもない」
「それではこの奴隷は高かっただろう」
「出生があやふやだったから多少引いて貰えたが、それでも値は張った」
「ふむ・・・鍛冶師の奴隷はなかなか出ないからな。
強引に転職させる方法があれば、
そういう手段に出る奴隷商もいると言う訳か・・・」
「どうだろう。一度離職させても良いのだが、
こちらで正式な登録はできないだろうか」
「うーん、ギルド規約で奴隷の転職は認めていないのだ。
ああ、差別ではないぞ、ドワーフを保護するためだ。
金持ちが強引に鍛冶師を量産して使い捨てられ、
酷い目に合う事を防止しているだけだ」
それならば、ナズをいったん解放するか?
解放後に何も落ち度もないのに、
再び奴隷になってくれるかといったら未知数だ。
正式な鍛冶師だと言うステータスを得たのならば、
自分の保護を外れても自立できてしまう。
それこそ、お抱えの用心棒でも雇えば、
ナズの恐れている問題は解決できるからだ。
もっと言うと再び奴隷に落とすと知った上で、
このギルドがナズの転職を受け入れるかと言う問題もある。
鍛冶師は奴隷に落ちないように、手厚く保護されているのだろう。
「そうするとこの娘は合成はできるが、武具が作成できない。
レシピ集を売って貰えないだろうか」
「うーん、そういった規約は無いので問題は・・・無いのか?どうだ?」
「前例が無いが、規約上では多分禁止はしていないと思う。
──ギルド員は所属するギルドから武具の製作手帳を買う事ができる
日々その鍛錬に励むべし
と記されているだけだ。
ギルド員以外の者へ売らないとは書いてない、多分想定外だ」
「ギルド員はとあるので、
ギルド員以外は買う事ができないとも言えませんかな?」
「うーん」
3人は腕を組み考え込んだ。
売ってやっても良いが規約の解釈が問題、と言う事らしい。
それならば閲覧は?
自分たちで勝手に書き写す。
「その手帳を、こちらで勝手に書写するのはどうか?
見せて貰える分なら、規約にも抵触しないと思うのだが」
「うーん、それなら問題が・・・無いよな?」
「無いと思う」
「大丈夫ではないでしょうかな」
「よし、分かった。
ギルド員には作成費を取らずに、羊皮紙の分だけ徴収している。
それならば、白紙の手帳を娘に売るので自分で書き写せ。
問題あるまい?」
「良いと思いますな」
「同じく」
何とかなりそうかな?
「ではこれだ、後で返してくれ。
ミシアル、未作成の製作手帳を1冊持ってこい」
「アイアイ」
羊皮紙の製本は金貨1枚だった。
結構するんだな。
パピルスとの差が激しい。
「ナズはドワーフの言葉は・・・」
「大丈夫です、読めますし書けます」
「ここで書き写すとなると机と椅子が必要なのだが」
「ああ、別に本は貸してやるので、終わったら返してくれればそれでいい」
ゆ、ゆるー。
貸してくれる事には何ら問題がなさそうなこの感じ。
最初からそうお願いしたら問題無かったんじゃないのか?
「では暫く借り受ける、面倒な話を受けて頂き感謝する」
「なに、鍛冶師たちの鍛錬に助力するのが我らギルドの目的なのだ。
また何か困ったら頼ってくれ」
「ありがとう」
「お前じゃない、そっちの娘に言ったのだ」
「はっはい。ありがとうございます」
「厳しい折檻を受けた時などは、
旅費をギルド持ちで良いので直ぐここへ逃げて来い」
「い、いえっ、ご主人様はそのような事をなさいませんので、大丈夫です」
酷い言われよう。
でもそういう主人が多いからこその規約なのだろう。
そして鍛冶師の製作手帳を得た。
これで鍛冶には困らない。
どんどん次に進んでいこう。
「良かったな、ナズ」
「はいっ、これでもっとお役に立てますか?」
「なるなる、とても助かるぞ。これだけはナズにしかできないからな」
「あっ・・・・・・・(えへ)」
笑顔が飛び切り可愛かったので、抱き寄せて頭を撫でた。
∽今日の戯言(2021/09/11)
凹型はにょるにょる椅子です。
臼型はぺりょぺりょ椅子です。
ロ型はんしょんしょ椅子です。
勝手に命名しただけで、別に他意はありません、本当です。
あっ、石を投げないでっ。
・繰越金額 (白金貨2枚)
金貨 38枚 銀貨 29枚 銅貨 47枚
材料費の建替払 (9360→6552й)
唐辛子 ×13 9360
材料費お使い代 (▲9360й)
製作手帳(羊皮紙) (1万й)
家の改修2 (1600й)
フック ×3 1000
凹イス 200
臼イス 300
同イス 100
金貨- 2枚 銀貨+111枚 銅貨+108枚
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計 金貨 36枚 銀貨140枚 銅貨155枚
・異世界22日目(昼過ぎ)
ナズ・アナ17日目、ジャーブ11日目、ヴィー5日目
エプロン完成まであと4日、家のフック取付まで1日




