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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第五章 生活
67/394

§066 仕込

アムルの商人の家から石鹸を回収し、

消費した回復薬を買いに探索者ギルドにワープで飛んだ。


「すみません、強壮剤10個下さい」

「ええっと1つ600ナールなので、6,12,18・・・」


大丈夫だ。1回1個ずつしか買えないのは知っている。


「ああ、いい。大丈夫だ、1個ずつ10回やってくれれば」


ポーチから銀貨の袋を取り出し、6枚の銀貨の束を10個作った。

そして、銀貨の束と1粒を10回交換した。

いつもより断然早い。


強壮丸だと1つ60ナールなので、銀貨から銅貨に変換する手間が加わる。

眠くなるほど時間が掛かる。

学習した。


強壮剤をポケットにしまい、ワープで宿に戻る。

幸い、誰も来なかったようだ。

堂々と扉を開けて、女将さんに市場の様子を見て来ると告げた。


集荷場からやや離れた所で待っていると、アナが駆け寄って来た。


「ご主人様、お疲れ様です、目的の物は見つかりましたでしょうか」

「ああ、これだ」


アナに石鹸を見せた。


「これは・・・不思議な宝石、いえ細工品でしょうか」

「石鹸だ」


「えっ!・・・これが石鹸?!」

「シーッ!大声で叫ぶな」


石鹸である事も、珍しいものを持っている事も、

今ここで誰かに知られるのはまずい。


「それで、あの商人は?」

「ええと、ご主人様が宿に戻られた後、暫くして戻って来たようです」


「そうか、様子はどうだったか判るか?」

「帰ってくるなり、何やらごそごそと探し回っているような素振りでした」


石鹸を盗られた事に気付いたのかもしれない。


あの宝石箱は比較的判り易い位置に置いてあった。

石鹸はその一番上に鎮座していたのだし、無くなれば香りも消える。

毎日宝石を眺めるのが趣味だったのならば、異変にはすぐ気づくだろう。


相手が誰かは判らないが、盗まれたと認識した。

盗賊の判定が入ったはずだ、どうだ?

すぐにキャラクター再設定画面を開いて、自分のジョブを確認した。


ステータス画面に見慣れない文字がある。


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 盗賊   Lv1


 ・BP99(余り91pt)

  鑑定         1pt   ジョブ設定      1pt

  キャラクター再設定  1pt   詠唱省略       3pt

⇒ 盗賊団機能解放    1pt   ワープ        1pt


何だ・・・これは!


盗賊がメンバーにいるとパーティではなく盗賊団に成るのか。

盗賊はパーティを組めない。

パーティ編成のスキルを持っていないからな。


では冒険者や探索者が盗賊をパーティに加えたら・・・・、

そうか、それで盗賊団なのか。

その場合は、所属するメンバーのジョブが何であれ

殺してしまっても罪に問われる事は無いのだろう、団員なのだから。


盗賊と結託する僧侶なんかが、

延々と回復させて罪に問われないのであれば盗賊を討伐できない。

恐ろしい。


いや、盗賊団と言う文言が恐ろしかったので早急にジョブ設定を整える。


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者  Lv37

  設定:探索者(37)剣士(34)英雄(27)賞金稼ぎ(22)

     奴隷商人(1)


  取得:村人(5)戦士(30)商人(30)色魔(1)騎士(22)

     暗殺者(1)武器商人(1)防具商人(1)農夫(1)

     薬草採取士(15)錬金術師(1)料理人(1)村長(1)

     盗賊(1)


 ・BP135

   鑑定          1pt   結晶化促進×16   15pt

   キャラクター再設定   1pt   5thジョブ     15pt

   パーティー項目解除   1pt   武器6        63pt

   ジョブ設定       1pt   詠唱省略        3pt

   獲得経験値上昇×10 31pt   ワープ         1pt

   必要経験値減少/2   3pt


どうだ、パーティー項目解除に変わった、良かった。

まあ、理屈ではそうだろう。

急いでインテリジェンスカードを操作する。


 ・ユウキ=フジモト <人間:男:21歳>


確かに、自分のカードには、所持奴隷が表示されていなかった。

操作とは言ったが、操作メニューらしきものが無い。

自分は奴隷ではないし、そもそも自分で自分を奴隷に落とせないのだろう。


アナのインテリジェンスカードを開いてみた。

こちらは操作画面が表示される。


 ・主人登録

 ・没後設定

 ・奴隷解放


メニューから主人登録を選ぶと「主人のカード」と指定されたので、

自分の手に表示されてるカードを選んだ。

「どのカードを登録しますか」と言われたので、アナのカードを指定する。


 ・ユウキ=フジモト <人間:男:21歳> 所持奴隷:アナンタ


自分の所持奴隷にアナが表示された。

これで良し。

こんな風になっていたのだな。


後は家に帰ってナズとジャーブを入れればいい。


休みを出していたので外を歩く可能性があるが、

他人の目には主人がいなくなったかどうかの変化は無いのだ。

・・・ないよね?後でナズをよく観察してみよう。


突然、道行く人に「これは俺の奴隷だ」と

宣言されるような事がない事を祈るばかりだ。


心配なので一旦家に帰った。


「おかえりなさいませ、ご主人様。用事はお済ですか?」


「ああ、まあ、済んだと言えば済んだのかな?ちょっと腕を出してくれ」

「それは宜しかったですね。腕?・・・ですか、これで宜しいですか?」


ナズのインテリジェンスカードを出現させ、同じように登録し直した。

ナズを観察したが、特に変化はないようだった。


「ジャーブは?」

「まだ戻っておりません。夕方までには仕事に戻って来るとは思いますが」


「そうか」


うーん。まあ好きにして来いといった手前、どうにもならんな。

仕方無い。

ついでなので大工の仕事ぶりも見せて貰おう。


既に床板は半分程が元に戻され、

湯舟のタライが入る場所は、ぽっかりと円形にくり抜かれていた。

多分あそこにタライがはまるのだろう。


「おう、どうだ、このでき栄え。

 後はあそこにタライを入れれば完成だ。

 水が床にこぼれても安心してくれ、

 下は全部コンクリートで覆っているからな。

 大量に溢れても、ちゃんと下水に流れるようにしてあるぜ」


「それは凄いな。排水はタライの入る部分だけだと思っていた」

「おうおう、舐めて貰っちゃ困るな、そんな適当な仕事はやらねえ主義よ」


「そうか、済まなかった。流石、丁寧な仕事ぶりだ」

「ああ、タライがはまったらもっと驚くぜ」


「それはそうと、排水溝に使ったレンガなのだが、

 少し分けて貰えないだろうか?窯を作りたいのだ」

「窯だァ?パン屋みてえのか?」


「そこまでしっかりした物でなくていいのだが、台所にあれば嬉しいなと」

「ちょっと見せてみろ」


大工のウッツをキッチンに案内した。


「うーん、こりゃ駄目だ、窯みたいな物を置いたら、多分壁が焼けちまう」


「そうなのか」

「窯は想像以上に熱くなるからな。

 置きてえなら壁自体を改修する必要がある。

 うーん、壁改修で5000ナール、窯作成で2000ナールって所だな。

 ただ家主に言わねえとな、勝手にやったら怒られるぜ」


「じゃあ、またその時はお願いしよう」

「おう、すまねえな」


そうか、やはり素人考えでは上手くいかない。餅は餅屋だった。

適当に組んで大火事にならなくて良かったと安堵した。


大工達は風呂の部屋の床を元に戻して帰っていった。


現在、部屋の真ん中に空洞がある状態だ。

底の方はレンガが組まれており、

排水トラップまで含めて、セメントでコーティングされていた。


隙間から見える他の地面は、セメントで覆われているようだった。

昨日は更土だったはずなので、まだ乾いてはいないはずだ。

タライが来る2日後には乾く算段なのだろう。


この世界にはセメントが既にある。

家の壁や土間なんかには多く使われているから、

一般的に普及しているのだろう。


応用品として遮蔽セメントなんかもある。

こちらは従来のセメントに魔法非伝達物質でも混ぜ込んでいるのだろうか?


日本では近代になってようやく登場したセメントではあるが、

実はその歴史はかなり古く、古代ローマには既にあったそうだ。

ローマの技術は本当に凄かったのだ。


この世界の文化を「小」で設定したとは言え、

これならば十分では無いだろうか。


そこまでの技術があっても、ローマ人は時計を作るのに苦労した。

水式時計がやっとである。

タンクに水を入れて、出ている量で時間を測った。


これなら作成可能だし自宅に置けば便利かもしれないが、

外では見れないし水を入れ替えるのも面倒だ。

魔法で入れてもいいだろうが、まだ取得していない。

そもそも水が腐ったりゴミが詰まったりして使い勝手は悪い。


技術的には機械式時計は中世、懐中時計は近代だ。絶対無理だろう。

異世界で3時とか4時とか、待ち合わせは皆どうしているのだろう。

・・・そうか、そんなことしないのだ。

伝言だ伝言。


ミチオ君はルーク氏からの伝言を意図的に放置したりして、

わざと時間を稼いでいた。

この世界に於いて人との約束事は、

時間に関しては相当いい加減なのだろう。


かと今何時、何時間と、

その考え方がこの世界に合っていないと言う事だ。

のんびりいこう、のんびり。


  ──転生した自分はチート能力を生かして

      異世界ライフをのんびり過ごします。


・・・だ。もう、自分が小説じゃないか。


──その異世界の小説に飛び込んだ自分の事をすっかり棚に上げて、

  結城はフフっと笑った。



   ***



先ほどった、いや取り返した石鹸は納戸にしまい、

宝石や酒の瓶は床板を1枚剥がしてその下に隠した。


最初は床板の隙間にデュランダルを差し込んで、

てこの原理で思いっきり引き剥がそうとしたのだが、

うっかり手が滑って指でも切ったら死んでしまうと思いなおし、

武器1のマサムネを取り出した。


細身の日本刀はするっと隙間にはまり込み、

折れる事なく床板を剥がす事ができた。


と言うか、日本刀。


これが武器として存在するのであれば、

他の手段でも入手ができるに違いない。


作成者が知らない武器は材料があればメニューに出るはずだが、

レシピが複雑だと、誰も知らないような武器があるのかもしれない。

一応色々な検証は昔の偉い学者がしていたはずだ。

セリーもそのあたりは詳しい様子だった。


となると、鍛冶師ではなく上位職でなければ作れない可能性。

或いは、固定限定でしか手に入らない特殊な武器と言う事になる。


ボーナスアクセサリ2の決意の指輪は、

ハツル公の先代が固定で出現させた。


つまりボーナス武器や防具、アクセサリは、

いずれかのジョブの固定で出せるのだ。


聖剣デュランダル・・・これはきっと勇者Lv99だろう。

その名前から相応しいジョブで、その攻撃力だ。

フラガラッハは一段階低い性能なので、これは英雄では無いだろうか。

劣化デュランダル・・・と言っては聞こえが悪いが、性能が近い。


日本刀を出せるようなジョブ・・・忍者とか?

そうだ、暗殺者だ。

おそらくその暗殺者、もしくはその上位ジョブの固定品なのだろう。


性能を調べてみる。


 ・マサムネ(両手武器):敏捷増加 クリティカル発生


うーん、忍者っぽい。

中二病をくすぐる性能だ。

あれ?


クリティカルスキルが有るジョブに就かなくても、これを持てば発生する?

興味は湧いたが、所詮武器1だ。

デュランダルの方が絶対強いし、これのお世話になる事は無いだろう。


そうこうしているうちにジャーブが帰って来たので、再登録を終わらせた。

これで安心だ。

全てが完了した。


もう正直後の事はどうでもいいのだが、

後始末は付けておく必要はあるだろう。


夕食後に1人でアムルの宿に泊まる事を3人に伝え、

明日の朝も今日と同じパピルスサンドを作るようにとナズに頼んだ。

今日の分と明日の分の材料費を渡す。


食費ではなく依頼品なのだ。

分けて考えろと命令した。


そして、明日の予定だ。

流石にそう何日も休みを与える訳には行かない。

明日は3人で迷宮を探索するように命じた。


行く先はスローラビットの出る9層、

前回ここでは3人だけで戦えた実績もある。

運が良ければモンスターカードが出るかもしれないし。


今日は自宅で寝ないので、

部屋でアナとキスをして、台所でナズとキスをした。


あ、やっぱりエプロンが欲しい。

そのままの格好で調理をしたら服が汚れるし、

女の子なのだから可愛いエプロンに包まれていて欲しい。


彼女は幼妻おさなづまなのだ。

やっぱり低身長ロリにもエプロンが必要だよ、すまなかったミチオ君。

君は全て正しい。


早めに夕食を済ませ、アムルに戻る。

日が落ちる前に宿屋に帰らないと、流石に女将に不審がられる。

アナも警戒のために付いて来ると進言したが、

家にいて休んでおけと断った。


そもそもあの宿が手の内の者だったのならば、

前回宿泊した時点で闇討ちに遭っていた。

疑って申し訳無い。

疑心暗鬼にさせるあの悪徳商人がそもそも悪いのだ。


ワープでアナの作った木箱の物陰の横に出ると、

集荷場の方はまだ人がまばらにいて最後の荷を運んでいるようだった。

日が落ちる前に全部の荷を運んで、別の街で降ろすのだろう。


中央広場から商店の傍を通りかかったが、

店は閉まっており、誰もいない様子だった。


「女将さん、ただいま戻りました」

「ああ、遅かったねえ、下見かい?」


「そうですね、集荷場の方で商売したいので、

 人の数とか、空いている場所なんかを見て来ました」


「そうかい、もしかしてあのパンを売るのかい?」

「ああ、もう食べて頂けましたか、どうでした?」


「あれはとても美味しいねえ、びっくりしたよ。

 でも・・・あれだけの物なら高いんだろう?

 売れるかねえ・・・」

「それが、15ナールでと思っているのですが、高いでしょうかね」


「ええ!?あれが15ナールかい。

 ちょっとよしとくれよ、うちの弁当頼む者がいなくなっちまうだろ」


ホホホと女将は笑った。


「店は昼からにするから、ここから旅立つ者には買えないよ」

「そうなのかい、それじゃあウチは安心だねえ」


「あんな良い物頂いたんだ、今日はお湯くらいサービスしとくよ」

「そうですか、それは申し訳無い。お言葉に甘えさせて頂きます」


「そういえば旦那さんは?」

「ああ、まだ集荷場の方じゃないかね、

 ここの街の者の多くはあそこで働いてるんだよ」


「なるほど、やはりあれがあってのこの町ですか」

「そうだねえ。うちもその恩恵にあずかってる身としちゃあ、

 アンタのあのパン、期待しちゃうねえ」


「いやまあ、まだ町長のお許しを得てからでないと」

「そりゃあそうだ、はっはっは、でも大丈夫だと思うよ。

 ダメって言われても、あれを食べさせりゃ文句は言わないさ」


「そんなに美味しかったのですか、それは良かった。こちらも嬉しいです。

 それじゃ、休ませて貰います」

「はいよ、後でお湯、もってくからね」


その後は部屋でゆっくり過ごし、翌朝を待った。


  *

  *

  *


朝食は頼んでいないので、朝に声を掛けられる事は無かった。

微睡まどろみの中をゴロゴロし、久しぶりに惰眠をむさぼった。

いい加減に起きねばと体を起こす。

自分はする事が無ければいくらでも寝られる人間なのだ。


これまで、これといった趣味が無かった。

暇な時はゲームや漫画、小説を読む位しかする事は無く、

主に目を使う事ばかりですぐに疲れて眠くなる。

今思えば物凄い怠惰な生活だ。


こちらに来てからは、3食しっかり食べ、

朝は早く、夜も遅くまで起きていない。

迷宮では体を動かし、家計を支えるために働く。


何と言う自立した生活。生活習慣。

あのまま留年したり、就職していたら、

さらに怠惰な生活を送っていた事だろう。


あの時父が亡くなったのは、

そんな生活は辞めろと背中を押してくれたのかもしれない。

今の生活を見たら、父は何と言うだろうか。


  ──頑張ってるな


・・・きっとそう言ってくれるに違いない。


戸を開けると、旦那さんが居間でくつろいでいた。

集荷場で働いているといったっけ、冒険者なのだろうか。

いや、女将さんは商人に頼んだ方が手間賃が安いと言っていた。

では旦那さんは冒険者ではなく、ただの作業員だ。


「よお、起きたか。おはようさん」


旦那さんは流暢な言葉遣いで語りかけて来た。


この夫婦がブラヒム語が話せるのは、

冒険者相手の仕事をしているからだろう。

ブラヒム語さえ覚えれば、全ての種族の冒険者と会話できるのだし。


「おう、昨日のパン、旨かったぞ。あれを集荷場で売るんだって?

 悪い事は言わねえ、もっと取ってもいいと思うぞ」


「それ程ですか」

「いやー、あんな旨い肉は食べた事無いねえ」


「ここでは中々いい肉類が手に入り難そうですね」

「そうなんだよ、あの商人に頼んでも2日後だからなァ。

 それもいい肉は中々。元が高いと手数料も持ってきやがるからな」


「ははは、僻地ならではの苦悩ですか」

「まあ、その代わりここでは野菜はタダみたいなもんだ。なぁ?」

「そうなのよ、ここの集荷場で売りに出せないような

 崩れたり傷んだ野菜や果物をねるんだけど、

 それをタダ同然で貰えるからねえ」


なるほど、野菜を買う必要が無いから、

ここの住民たちはそこまで不自由をしていない訳だ。

だが、旨い肉、とりわけいい肉料理が手軽に手に入るなら嬉しいと。


良く解かった。

あの商人は商売をする気が無い。

もっと言うと嫌々やっている感じだ。


そうだろう。

裏稼業があるのだし、あれだけの宝石を貯め込んでいた。

ちまちま稼ぐのは飽きたのだ。


「これから町長に会う予定なのですが、

 あのパンは気に入って貰えそうでしょうか」

「うーん、町長ならもっといいの食ってんじゃねえかな、知らねえけど。

 まあ集荷場が賑わうならみんな歓迎すると思うぞ」


「そうですか。それでは、準備して出かけようと思います。

 ありがとうございました」

「おう、楽しみにしてるわ」

「頑張っておいで」


2人に見送られて宿を後にした。

これで商人から反対があれば相当に怪しい、

いやもう確実にクロだろうと言う方向になった。


集荷場に行く振りをしながら、例のアナの隠れスポットから自宅に帰る。

台所に出るとナズが皿を洗っていた。


「あっ、ご主人様、おはようございます」

「おはよう、ナズ。朝の挨拶だ」


「ん・・・はん・・・ん・・・、お帰りなさい、ご主人様」

「ああ、支度が終わったら迷宮に送るから準備してくれ」


「はい、かしこまりました。

 あっ、お食事は別に取ってあります、お召し上がりになりますか?」

「えっ、ああ、それじゃあ頂こう」


そういえば宿では朝食を頼んでいなかったし、

ナズにも用意して欲しいとは言っていなかった。


いや逆に要らないと言っていなかったから用意してくれたのだ。

今日は目覚めが遅かったし、まだお腹が減った感じは無いが、

せっかく用意してくれた自分の食事だ。感謝して頂こう。


台所を出て、今度は納戸に向かう。

装備を手入れしているアナがいるはずだ。


「あっ、おはようございます、ご主人様。これから迷宮でしょうか」


「そうだな、その前に朝の挨拶だな」

「かしこまりました、失礼致します」


「ん・・・・・」


アナは口調は事務的なのだが、口の中では激しく情熱的だった。


「一度迷宮に送った後また迎えに行く。

 迎えに来なかったら昼前には一旦町に戻ってくれ。

 いつもの旅亭の裏だ、パーティは組んだままにする」

「かしこまりました」


一度は棚にしまった石鹸を手に取り、パピルスでくるむ。

町長との面会時に店主が同席した場合は見せる予定だ。

これでトラブルに成ればこちらの勝利確定だ。


廊下に出るとジャーブが雑巾で拭き掃除をしていた。


「おはようございます、ユウキ様。如何でしたでしょうか?」


「うーん、やらなくてもいい後始末だから、あまり気乗りがしないかな」

「そうですか、俺も何か手伝える事があれば良かったのですが」


「そうだな、その時があれば是非頼む」

「頑張ります」


みんなそれぞれ得意分野が違うので、適材適所だ。

残念ながら今回はジャーブの出番は無かった、それだけの話だ。


ナズの支度を待って3人とパーティを組んだ。


「あ、ご主人様、こちらは言い付かったあのパンです」


「おお、既に準備してあったのか、流石だ」

「いえ、迷宮に行けと仰っておられましたので、

 作る時間が無いかと思い朝食と一緒にご用意致しました」


「そうだな、偉いぞナズ」

「あっ・・・・・・(えへ)」


抱き寄せて頭を撫でた。


「それでは、皆はスローラビットで適当に狩りをしてくれ。

 アイテムはナズが集めてくれ。

 無理はしないで、ボスも倒さなくていい。

 魔物の部屋ができていても入らないように」

「「かしこまりました」」「分かりました」


3人をトラッサの迷宮9層に送り、

自分はそこからアムルの集荷場へ戻った。


そこから徒歩で例の店に向かう。

カウンターの戸は開いており、

今日も町民相手につまらない商売をしているようだ。


「あー、昨日の者ですが店主はいますか」


今回はすぐに店主が現れた。


「ああ、これはこれは」

「どうも、おはようございます。それで、町長はどうでしたでしょうか」


「いやあ、ちょっと難色を示されましてね、商売は難しいんじゃないかと」


なるほど、会っていない事が判った。

宿屋の話とはまるで正反対、つまりクロって事だ。

昨日相談に行った先は例の冒険者の家、もしくは盗賊のアジトだ。


「ええ!?そうなのですか。

 うむむ・・・、こうなったらもう直接乗り込むしかありませんね」

「えっ!?いや、おめ下さい。

 騒ぎを起こしたら余計に難しくなりますよ」


「なあに、こちらには贈り物にできそうな物が他にもいくつかあります。

 受け取らずに門前払いと言う事は無いでしょう。

 ここで諦めては商人の名折れです」

「えっ・・・いや、分かりました、ちょっとお待ち下さい。

 私からもう一度聞いてみますので」


「ついでですので、ご一緒させて下さい」

「えっ!?」


「結局行くのです、同じ事でしょう」

「ええ、まあ、そうなのですが、分かりました・・・少々お待ち下さい」


焦ってる焦ってる。


この男にとって自分は、ここで商売をするかもしれない商人なのだ。

拒否はできても排除はできない。

直接町長と交渉を始められたら分が悪いと思って諦めたようだ。

話が通ってない事を明るみに出されてもまずいと踏んだのだろう。


店主はカウンターの戸を閉め裏口に錠前を掛けると、

町長の家に向かって歩き出した。


町長の家は集荷場のすぐ横にあった。

普通の民家とそう変わらず、

ちょっと大きいな、と感じる程度の普通の家だった。


「ここでお待ち下さい、もう一度話をしてきますので」

「解りました、宜しくお願いします」


今、話を付けに行ったのだろう。

突っ込めば話が合わない所が出てくる可能性が高い。

どう狼狽うろたえるか見ものだ。


暫くして、この家の下男らしき人物が戸を開けた。


「お待たせして申し訳ありません、どうぞお入り下さい」

∽今日のステータス(2021/08/19)


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 盗賊   Lv1

  設定:盗賊(1)

  取得:村人(5)英雄(27)戦士(30)剣士(34)商人(30)

     探索者(37)色魔(1)奴隷商人(1)騎士(22)

     賞金稼ぎ(22)暗殺者(1)武器商人(1)防具商人(1)

     農夫(1)薬草採集士(15)錬金術師(1)料理人(1)

     村長(1)


 ・BP99(余り91pt)

  鑑定         1pt   ジョブ設定      1pt

  キャラクター再設定  1pt   詠唱省略       3pt

  盗賊団機能解放    1pt   ワープ        1pt


  ↓


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳 探索者  Lv37

  設定:探索者(37)剣士(34)英雄(27)賞金稼ぎ(22)

     奴隷商人(1)


  取得:村人(5)戦士(30)商人(30)色魔(1)騎士(22)

     暗殺者(1)武器商人(1)防具商人(1)農夫(1)

     薬草採集士(15)錬金術師(1)料理人(1)村長(1)

     盗賊(1)


 ・BP135(余り63pt)

   鑑定          1pt   必要経験値減少/2   3pt

   キャラクター再設定   1pt   結晶化促進×16   15pt

   パーティ項目解放    1pt   5thジョブ     15pt

   ジョブ設定       1pt   詠唱省略        3pt

   獲得経験値上昇×10 31pt   ワープ         1pt



 ・繰越金額

     金貨  3枚 銀貨 54枚 銅貨110枚


  アムル宿              (100й)


  薬品購入

   強壮剤 ×10         (6000й)


  食材購入 1回目           (30й)

   高級パン ×2            20й

   葉野菜  ×2            10й


  食材購入 2回目           (30й)

   高級パン ×2            20й

   葉野菜  ×2            10й


     金貨- 1枚 銀貨+39枚 銅貨-60枚

  ------------------------

  計  金貨  2枚 銀貨 93枚 銅貨 50枚



 ・異世界15日目(昼過ぎ)

   ナズ・アナ10日目、ジャーブ4日目、家の工事の日2/2

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― 新着の感想 ―
排水トラップとあるけど、トラップ部分まで見えたのだろうか?どんな形のトラップだろう。 何章か前でも書かれていたが、単に排水口の方が適切ではないだろうか。
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