§061 石化
その後は4回のラピッドラビット戦を終わらせ、
合計8枚分のウサギの肉を集めた。
中間部屋に飛ぶとアナが申告してきた。
「ご主人様、別のパーティがボス部屋に向かっているようです」
「そうか、また20分待つのは大変だな」
「そうですね、その間スローラビットを探しますか?」
「いや、その間に他のパーティが列に並んだら無駄な事になるな・・・。
ナズ、今は何時頃だと思う?」
「ええと、多分2時位だと思います、今日は昼食も早かったので」
結構な時間が経っているかと思ったが、まだそんなものだったか。
ああ、やっぱり時計が欲しい。
どうにかして手に入らない物か。
・・・無理だろうな、まず精密なギアがないし。
それにしたって探索者が多いこの階層で、
スローラビットを探して倒すのはやや手間だ。
先日のような魔物の部屋であれば効率は良いが、
2つとも制圧してしまった。
人が訪れにくい通路にいた魔物も蹴散らした後なので、
再び魔物だらけになるのは日数が掛かるだろう。
ウサギのカード2枚を手に入れるまでとは言ったが、
今日の時点でここで粘るのは効率が悪い。
ボス待機部屋で待つのも癪だ。
そういえばオリーブオイルが欲しかった。
料理用に、装備のメンテナンス用に。
今後、沢山必要だろう。
行ってみるか?
ジャーブという先駆者が居るのだし、そこまでは運んで貰えるはずだ。
10層を飛ばす事になるが、我々の実力はもっと上だろう。
なにせ7層の魔物の部屋を制圧したのだし。
「そういえば11層はオリーブ何だっけ?」
「ナイーブオリーブです」
「そう、それをやろうと思う。ジャーブ、案内してくれ」
「はい、ええと、一旦外に出ますね」
「いや、11層に行った事があるんだろう?、
ジャーブがダンジョンウォークで連れて行ってくれ」
「ええと・・・ユウキ様、俺は戦士ですので」
「今は探索者だ」
「ダンジョンウォークは使えません」
「はい、ですから、探索者でないと、ええ?」
「いいから唱えて見ろ、さん、はい」
「い、いえ、ダンジョンウォークは探索者・・・あれ?」
──視界にスキルの詠唱文字が映し出される。
ラッシュと念じてみたが、スキルの詠唱文字は出て来なかった。
そういえば、ユウキ様は
御自身のジョブを立場によって使い分けると仰っていた。
まさか他人のジョブも?
アイテムボックスと念じてみると、やはり詠唱文字が出てきた。
「ユ、ユウキ様・・・、俺・・・」
「あまり騒ぐなよ?他の奴らが来たら大変だ」
「いや、あの・・・」
「理解できたら11層へ飛んでくれ」
「は、はぁ・・・」
やれと言われたらやるしかない。
物理的にできないならばともかく、
スキルを詠唱する事でそれは可能だと目の前の字幕が告げている。
先輩奴隷の方々は何も言って来ない。
この主人の前では普通の事なのだろう。
「い、入り組み惑う迷宮の、勇士導く糸玉の、
ダンジョンウォーク!」
──ブォン・・・
詠唱を終えるとゲートが開いた。
初めての移動魔法だったが、普通に発動した。
ブラヒム語は習得しているし、迷宮では当たり前な呪文だ。
これまで何度も聞いた覚えのある文言なので、
詠唱するだけなら何でも無い。
発動したという事は、やはり自分の現在のジョブは探索者なのだ。
試験に不合格となって一度は諦めた探索者に、
ユウキ様のお陰でいとも簡単に就く事になった。
どうやったのかは全く分からないし、聞いてはいけないのだろう。
「おー、ゲートが開いている時はジョブを戻せないのだな。
また1つ発見した」
「そ、そうなのですか」
「普通ゲートを開きっぱなしで転職する者はいません」
「どうしてだ?」
「ギルド神殿に行くには迷宮から出ないと・・・」
「それもそうだな」
今この瞬間にも、何やら凄い事をなさっているようだ。
先輩奴隷達もその会話に疑問を持たれていない。
ここでは色々不思議な事が起こる。
・・・恐ろしい主人に仕える事になってしまった。
主人の匙加減1つで世の中の条理まで捻じ曲げられそうだ。
「ほら行くぞ、ちゃんと11階層だろうな?」
「え、あっ、はい、大丈夫です」
ゲートを潜ってみたが、本当に11階なのかは判断できない。
取り敢えずアナに先行して貰う。
「アナ、植物っぽい動きの気配は読めるか?」
「ええと、はい、たぶん大丈夫です。
今までに感じた事のない動きをする魔物がいます」
「じゃあそこで」
「かしこまりました」
残念ながら、出てきたのはニートアント2匹とスローラビット2匹だった。
アナはニートアントとは戦った事がないはずなので、
新しい気配の正体はこいつなのだろう。
1つ前、10層の魔物はニートアントだという事が判った。
それもそうだろう。
1層から11層までに出てくる敵は固定である。
これまでニートアントとは戦った事が無いし、
最終層はナイーブオリーブだと言うのであれば、
消去法で10層はニートアントだ。
積極的に倒しに行きたい敵でもないし、
スキップして丁度良かったかもしれない。
ここが本当に11層ならば、
そのうちちゃんとナイーブオリーブが出るはずだ。
オリーブオイルは自宅で使用するので、
入手した所で収入にはならない。
スローラビットを狩るのは簡単だし、
ドロップ品は現在主力の売却物であるウサギの皮を落とす。
暫く狩りをすれば、オリーブオイルの他に安定した収入も得られる。
だがニートアントは頂けない。
毒も持っているし、こいつが落とすアイテムは毒針だ。
使い道はもう無いし売却価格も安い。
他に何に使うんだ?
「アナ、ジャーブ、ニートアントは任せた。
ナズ、2人が毒を受けたようなら薬を渡してやってくれ」
「「「はい」」」
オーバーホエルミングで駆けだし、奥に回る。
まずは左手前のスローラビットに、スラッシュで1回突いて距離を合わせる。
11層ともなると、雑魚でもしっかりと体力を身に着けている。
10層を飛ばしてしまったので硬さが判断しにくいが、
9層では通常攻撃7発であった。
さて、どう出る?
奥のスローラビットが手前のスローラビットに追いつくまで、
口をもごもごと動かしてじっとしていた。
その状態でお互い睨み合う。
左のスローラビットは左に、右のスローラビットは右に跳ね、
陽動を掛けて来た。
割と賢いな。
今まで矢継ぎ早に倒してきてしまったので、
こいつらの動きは1匹を相手にするのが想定であった。
こういう動きがフェイントに繋がっているのか。
ちゃんと隙を作ってそこに誘い込め、
そうでなければ翻弄されるぞ、
この2匹のスローラビットはそう言っている。
それこそが本当のボスへの布石であった。
左のスローラビットの方に合わせて自分もそちらに移動する。
右のスローラビットとは5歩分くらいの距離ができた。
スラッシュを掛けながら1,2,3回の斬撃を加える。
合計8発分だ。
まだ倒せるはずがない。
距離が縮まり、これ以上粘るとタックルを受けるので一旦離れる。
右のスローラビットに気を付けつつ、
奴の奥へ回り込んで2匹から距離を取った。
先程の位置関係的には反転した状態になる。
左のスローラビットは空いた空間をいっぱい使って左に回り込み、
ダメージを与えた現在右に位置するスローラビットは、
タイミングを合わせるかのように位置を調節し始めた。
再び左右に分かれて陽動を掛けてくるつもりだろう。
武器の構えを外しデュランダルを背中に向ける。
無防備な胴を曝け出して左足を囮に食いつくのを待った。
左右のスローラビットが同時に迫り、
左足にタックルをかましてくる。
あと2回の跳躍で当たる距離の所で足を引き、
2匹の兎は顔と顔をぶつけた。
そしてモゴモゴ、安全タイムだ。
右のスローラビットにスラッシュ2回を入れる。
スローラビット1匹が煙へと変わった。
スラッシュ6回目なので、
この階層では通常攻撃換算で11か12刀分なのだろう。
結構体力があるな。
オーバーホエルミングで通常攻撃を4回入れて3ターン。
スラッシュで3回斬りが2回とも成功して2ターン。
そろそろ真面目に対処しなければ危ない段階に入って来た。
その最初の相手がスローラビットだった事は幸いだ。
ちゃんと検証し、ゆっくり考えられる時間が稼げた。
残る1匹をオーバーホエルミング中の3回斬りの練習台にさせて貰って、
目標とする2ターンで始末する。
裏ではジャーブとアナが蟻退治をしていた。
ジャーブの動きは無駄がないし、
特殊な動きをするでもない蟻に対しては、完全に寄せ付けないでいる。
アナは・・・。
アナの前の蟻は全く動かない。
アナは警戒して盾を構えたままだが、ナズは淡々と3段突きを繰り出している。
「アナ、それ石化」
「えっ?これが石化なのですか?」
「これが石化だったのですね?
ずっと動かなかったので一応攻撃してみましたが・・・」
黒いニートアントが、灰色になっている。
これ位の色の差なら、さすがに自分にも判断できる。
そうか、初めてだと違いが判っても意味が解らないって事か。
「今後もアナの攻撃で動かなくなる敵が出てくる。
石化したらもう安全だから、他の敵が居ればそちらに回るといいぞ」
「かしこまりました」
「では、これはもう放って置いても大丈夫なのですか?」
「そうだな、ナズの合成したモンスターカードの効果だ」
「あっ、昨日のですね」
アナは既にジャーブに加勢している。
盾で受け止めた蟻を払って、そこをジャーブのラッシュがヒットする。
アナさん攻撃なさい、あなたが要なのだよ。
「2人とも離れてくれ、後は自分がやる」
「「はい」」
オーバー(略)でスラッシュを放つと、2回で倒れた。
ジャーブを放置したら旨みが少なくなりそうだ。
今後は優先的に手伝おう。
「アナ、盾で往なしたら他人に譲らず積極的に攻撃を入れてくれ」
「はい」
「お前は敵を石化させる剣と、その効力を高めるスキルを持っている」
「前に仰っておられました、暗殺者ですね?」
「だからこそ、アナが攻撃をして石化させたら、どんどん敵の数が減る」
「はい」
「今後はその石化に頼る事になるから、積極的に攻撃を当ててくれ」
「解りました」
「ナズはジャーブの後に付いて狙ってみろ。もうアナの後ろは必要ない」
「はい」
「あの、ユウキ様・・・」
「何だ?」
「暗殺者って何でしょうか」
こいつも暗殺者にした方が楽か?
・・・いや、ジャーブには騎士になって前を張って貰う予定だ。
同じジョブで揃えるよりは手札が多くあった方がいい。
体力のありそうな前衛は大事だ。
***
「──という訳だ」
「お、恐ろしいジョブですね」
「その恐ろしいのがお前の先輩だ」
アナをチラ見したが、基本的にほんわかお姉さんだ。
ほえ?とか言いそうな気配だ。
「それでご主人様、このニートアントは如何致しましょう」
ほえは無かった。いつも通りのクールビューティ、事務的だ。
だからこそ、取り乱したり極稀に見せる微笑みが特別な物に感じ、
そこがアナの魅力の1つでもある。
「ああ、これはこっちで倒すから任せてくれ」
ミチオ君は、デュランダルの柄でゴリゴリやっていたような気がする。
あれはコウモリだっけ?
どっちで攻撃しても同じダメージが入るなら、危なくない方でいい。
柄を当てるとなると、剣先がぶれて危ない。
どうせ刃毀れしても消して取り出せばまた新品なのだ。
硬化しているニートアント相手に容赦なく切っ先を当てた。
バンバン当てると5回目で煙になった。
先程のスローラビットはスラッシュ6回だった。
つまり通常攻撃11回か12回分の体力なので、
ナズとアナ2人の攻撃はデュランダル6回分を稼いだ事になる。
石化をしたのがいつかは判らないが、
ダメージの殆どはナズの槍による攻撃だったと思うので、
やはりドワーフの基礎能力は高いという事なのだろう。
「アナ、植物の敵を探して欲しいのだが、判るか?」
「ええっと・・・申し訳ありません、違いが判りません」
「そうか、じゃあ仕方ないな、こいつらっぽい奴を探してくれ」
「かしこまりました」
続いてナイーブオリーブの3匹の群れに遭遇した。
「アナ、こいつらだ。
違いが判らなくても構わないが今日の夕食には欠かせない」
「はい」
「そうなのですか?」
ナズが警戒して聞いてきた。
今晩のメニューを決めていたからかな?
知らないアイテムが出てきたら、調理法に困惑するだろう。
「いや、オリーブオイルだから予備はある。
だが沢山あった方がいいだろう?」
「そっ、そうですね、頑張りますっ!」
今回のナズはジャーブの裏に付いた。
アナは盾で受けながら隙間から剣で突く。
正直、積極的に斬りに行く目的のカトラスより、
基本は身を守って、その盾の隙間から突いて攻撃するエストックの方が、
アナの戦闘スタイルに合致して、最適な組み合わせなのでは無いだろうか。
エストックの次の武器を探す際は、また刺突剣を探してやるべきだろう。
自分は奥でカサカサしているオリーブの木を相手にした。
正直、ニードルウッドの方がまだ攻撃力がありそうな、細々しい枝と葉。
どれ、1回受けてみようかと体で受けてみたが、
榊の葉で叩かれているような心地良さがあった。
「何だこれ、全然痛くないな」
「ユウキ様、そいつの攻撃は一見痛くないですが、
受けすぎると体中傷だらけになります」
「えっ?」
笹?
切った時には痛くないが、後で見ると傷だらけ、そういう事?
あれだ、負傷だ。ダメージは低いが継続ダメージが入る奴だ。
やばっ、調子に乗って3回も正面で受けたぞ。
怖くなってさっさと倒した。
体力の方は問題なく、デュランダル11刀分だ。
動きも直線的で判りやすく、見て避けられるので何でも無かった。
枝がしっかりしているので、撓っても来ない。
負傷という概念を覚えるためのチュートリアル的な魔物なのだろう。
凶悪な魔物が恐ろしいバッドステータスを引き起こして来たら堪らない。
勿論今後そういう魔物も出て来るだろうが、ここはあくまでも低層なのだ。
倒した足元にオリーブオイルのグミが落ちる。
強く握ったり衝撃を加えると破れるらしい。
慎重に拾ってアイテムボックスに詰めた。
手袋ごしだと摘まみにくい。
その後はジャーブに加勢し、さらにアナに加勢した。
流石に博徒のスキル無しでは、そうポンポンと石化になる事は無いか。
ミチオ君とミリアの攻防を思い出してニヤけた。
「ご主人様、どうぞ、あっ」
アナがオリーブオイルを拾おうとして潰した。
「もも、申し訳ございません、大事なアイテムを駄目にしてしまいました」
「い、いや、そんな謝らなくても、次は注意な?」
「は、はい、申し訳ございません」
アナが慌ててペコペコしている。
普段は冷静なので、こういうアナは見ていると可愛いのだが、
それはさすがに悪趣味すぎるのですぐに慰めた。
アナはトラッサにしか潜った事が無かったはずだ。
それも7層まで。
グミ状のオリーブオイルに触れた経験が無く、
失敗して潰してしまったのは致し方が無い。
食材や装備の手入れの為に購入する場合、
携帯しやすいように通常は瓶に入っている。
というか販売される商品全部がグミ状だと、
輸送中に潰れて悲惨な事になる。
一般市民はどうしたって瓶に入れる必要がある。
「折角だから、そのオイルを伸ばして装備の手入れをしよう」
「はい、ええっと、槍先をここに付ければ宜しいですかね」
「無駄にならずに良かったですね、アナンタ殿」
「申し訳ありません・・・」
零れて広がったオリーブオイルに、
3人の武器を浸して拭った。
デュランダルは必要ない。
***
それからしばらく、この階層で魔物を倒した。
オリーブオイルは3枠目、多分70以上は溜まったはずだ。
もうしばらくは補充の必要はない。
これで料理に必要な塩、砂糖、油、スパイスの確保ができるようになった。
買わずに済むのは大きい。調味料が揃えば料理が捗るのではないだろうか。
「どうだ、もういい時間か?」
「そうですね、もうそろそろ夕方前かと思います。
戻ってお夕食の準備をするのが宜しいかと思います」
「では戻ろう。家がどうなったかも気になるしな」
∽今日のステータス(2021/08/16)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv36
設定:探索者(36)剣士(33)英雄(25)騎士(20)
賞金稼ぎ(20)
取得:村人(5)戦士(30)商人(30)色魔(1)奴隷商人(1)
暗殺者(1)武器商人(1)防具商人(1)農夫(1)
薬草採集士(15)錬金術師(1)料理人(1)
・BP134
鑑定 1pt 結晶化促進×16 15pt
キャラクター再設定 1pt 5thジョブ 15pt
ジョブ設定 1pt 武器6 63pt
獲得経験値上昇×10 31pt 詠唱省略 3pt
必要経験値減少/2 3pt ワープ 1pt
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv31
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv16
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 戦士 Lv23
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv37
設定:探索者(37)剣士(34)英雄(27)騎士(22)
賞金稼ぎ(22)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv32
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv19
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 戦士 Lv25
・異世界14日目(昼過ぎ)
ナズ・アナ9日目、ジャーブ3日目、家の工事の日1/2
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
9 スローラビット / ラピッドラビット
10 ニートアント / ハントアント
11 ナイーブオリーブ / パームバウム




