§047 4個
旅亭の裏側に出ると辺りは既に暗く、併設の酒場からは声が溢れていた。
「それじゃあ、ナズとアナはいつも通り頼む」
「「かしこまりました」」
「ナズ、今日はかなりお腹が減っているので、
肉料理と飲み物を追加してくれ、注文内容は任せる」
「かしこまりました」
ナズに銀貨1枚を渡した。
ロビーで鍵を受け取り部屋に戻る。
宿は今日で8日目。
先払いしている分がもう一泊分あるが、
明日引っ越し準備をするとして、家具をどうしよう。
家具を運んだとしても、下水の工事が終わるまでは風呂はお預けだ。
キッチンも、火を掛けて大丈夫そうな石が置かれているだけで
竈門や五徳なんかも無かった。
これらは買わないといけない。
そういえば、サバイバル教本を持って来ていた。
石を組んで窯を作る方法が書かれていたはずだ。
この辺りの家にはレンガが使われているので、
調達できれば料理用の石窯を作れる。
石窯があればパンやピザ、煮込み料理も行けるだろう。
普通に木を燃やすより熱効率がいい。
燃えた木は炭にもできる。
五徳はどうだろうか。
流石に組んだ木の上にそのまま鍋を載せないだろうから、
金物屋に行けばそれらしい物があるはずだ。
鍋もいる。
スープ用の煮込み鍋、湯を沸かす鍋、石鹸を作る小鍋、
肉や野菜を炒めるフライパンに、穀物を煮炊きする大鍋。
鍋の蓋もいくつか必要だろう。セットかも知れないが。
ベッドも買う必要がある。
家具屋の場所位は聞いておけば良かった。
他の物は取り敢えずで何とかなるが、寝具が無いとまた宿屋だ。
そういえば下水を作るためには、工事業者を呼ばなければならない。
どこの誰に頼めばいいかも知らないし、これも明日あの女将さんに聞こう。
やる事が多いな、メモをしておこう。
・鍋×5 ・五徳?
・食器大中それぞれ×6 ・かまどが作れそうなレンガ
・大皿 ・庭道具
・ナイフとスプーン ・ハーブの種
・しゃもじ?(あるのか?) ・洗濯用のひも
・菜箸?(あるのか?) ・タオルケット×3
・掃除道具 ・洗濯用タライ
・シングルベッド×2 ・マットレス×2
・棚(水屋) ・タンス
・風呂用にタライを発注 ・下水工事を発注
・ジャーブの装備、桶、リュック、下着、房楊枝、水筒、手拭い
結構な出費になると思う。
ギリギリではなく、まとまった金を稼げて良かった。
誰だ?取り敢えず家の分の4万だけでいいとか言った奴は。
ぶん殴ってやりたい。
ああ、そうだ。石鹸や蝋燭も作りたい。
ギルドカウンターに売却する際にはこれらの材料も調達しておこう。
「お待たせしました。お手紙でしょうか?」
アナが湯桶を持って帰って来た。
「いや、明日買う物のメモをな」
「そうですか、とても綺麗なパピルスと・・・不思議なペンでございすね」
「まあ、な」
鉛筆はどうだろう、古代では炭を木の板で挟んでいたと聞いている。
低品質な物なら、理論的には作製できるだろう。
書ける紙が無いだけで。
対して、紙の方は頑張ればできるかもしれない。
繊維の多い木の幹を砕いて解し、網目の狭い布で濾すだけだ。
これなら和紙の低品質な物なら作れるだろう。
流石に鉛筆は引っ掛かりそうだ。
だから古代中国や日本は墨と筆だったのか。
うーん、どちらも作ってみた所で利便性が変わるとは思えないな。
鉛筆モドキや和紙はこの世界でも作れるとして、
持ち込んで来たこの上質紙は絶対に無理だろう、科学技術の結晶だし。
作れない物を知られる訳には行かない。
アナなら見られてもマズくは無いが、
余所では絶対に見られたくないアイテムだ。
気兼ねなく書けるように、パピルスでも用意して置くべきだろうか。
鉛筆でビリビリ破れなければ。
「では拭いてくれ、今日は髪も洗いたい」
「かしこまりました、ではまず髪を洗いますね」
ある程度の湯を別の桶に移し、冷めるのを待って手招きされた。
「どうぞ、こちらへ」
顔をタライに埋めて髪を洗って貰う。
アナの手つきが気持ちいい。
シャンプーはもとより石鹸すら無いので、
洗い流すと言うよりは、何度も擦って落とす感じだ。
油分は温めれば柔らかくなり、湯でも流し落とせる。
「アナは文字が書けるか?」
「ええと、商館ではブラヒム語の勉強をさせて頂けます」
「そうか、一般的にはブラヒム語を話せない者の方が多いと思うのだが」
「公用語ですし、これだけ覚えればどの種族の主人であっても困りません」
「ブラヒム語が解らない主人の場合はどうすればいいのだ?」
疑問が湧いたので聞いてみた。
その主人に合わせるのだろうか?
アメリカ人が日本にやってきて、
うちの会社で働く人を雇いたいと募集を掛けたら
日本語しか判らない奴が来た。
チョー使えそうな奴だったのに言語の壁が生まれる。
どうする?
「そもそもブラヒム語が解らないような方は、
奴隷を買うほどの財をお持ちになりません」
ああ、そういう。
日本で起業できるような外人ならば当然、日本語解りますよね?って事だ。
たとえできなくても、任せられるような優秀な部下がいるよね?と。
「それに、スキルを使うには、どうしても覚えなくてはなりません。
主人に代わって署名をしたり、代筆を頼まれたりも致しますので」
なるほど、主人は読めて話せるだけで良いと。
書けるようになる必要は無い訳だ。
それなら大分ハードルは下がる。
社長が専門職である必要は無いといった所かな。
もちろん専門職出身の社長はいるし、そういう所は強いが。
どうも商館は職業訓練校みたいな感じだな。
奴隷と言う待遇でなければ、もう殆ど人材派遣会社だ。
「終わりました、今お拭きしますね」
「ああ、ちょっと待て、ついでに顔も洗いたい」
そのままタライの湯を掬って顔をバシャバシャ洗った。
そういえば、ここへ来て11日、顔を洗ったのは初めてではないか。
これまで顔を洗う際は、タオルで拭く位で洗顔はなかった。
久しぶりにお湯を被るのはとても気持ちが良くて懐かしい感じがした。
今日まで日々迫ってくる問題を解決するために必死だったのだし、
日本にいた頃を思い返すなんて暇は殆ど無かった。
それ程名残惜しい生活をしていた訳では無いが。
ある程度纏まった資金を確保できた。
借家とは言え帰る家ができ、パートナー(?)もいる。
新たな労働者も雇った訳で、迷宮もここまでは順調だ。
生活基盤が整ったと言える。
心の安らぎと体の安らぎが一緒に来た感じだ。
ミチオ君がロクサーヌを購入するまで10日かそこら。
そしてクーラタルの家を借りるまでは、確かそこから2日か3日。
自分は6日目で2人を迎え、11日目で家を契約しようとしている。
迷宮のパートナーとしては3人目も含めてだ。
ミチオ君の場合、ミリア加入までは相当間があったのではなかったっけか。
事前知識と持ち込みによって、色々有利に運べてはいる。
序盤からずっとLvに拘って行動して来たし、
早々に前衛2人が加わった事で迷宮での経験や稼ぎは最適化されている。
所有奴隷は多いし装備やスキルも揃っているが、
裸一貫で来たミチオ君の凄さが改めて浮き彫りになる。
攻略本とチートアイテムを使用した自分と比べるのは失礼だろう。
先駆者はいつでも尊いのだ。
「ご主人様?」
「あ、ああ。すまない、拭いてくれ」
手拭いを受け取り、顔をごしごしと拭いた後、上着とシャツを脱ぐ。
丁度、ナズが帰ってきた。
いつもの夕食と別に、ジョッキと骨付き肉が第4のトレイに鎮座している。
「ただいま戻りました」
「お盆を4つ、よく持てるな・・・」
「ええと、6つまで持てるようにと教えられました」
「なぜ6つ・・・」
「食堂や酒場に来られるお客様は6人で行動される事が多かったので」
ああそうか、パーティの上限人数か。
1人だけ遅いと怒る輩もいるのだろうな。
ナズの器用さはこういう所から来ているのだろうか。
「早く食べたいので、ナズも拭くのを手伝ってくれ」
「かしこまりました」
下着まで脱ぐと、前からアナ、後ろからナズにゴシゴシと拭かれた。
同じ場所を前後で圧迫されるので、
強めに拭かれても押し出されるような感じが無い。
この連携力は迷宮で培われた物なのか、個人の資質なのかはよく解らない。
兎に角、2人の息はぴったりで阿吽の呼吸ができていると感じられた。
ここに追加される新たな風が、
2人の聖域を壊す事なく調和してくれればいいのだが。
「では、食事が冷める前に頂こう」
「かしこまりました」
「これを洗ってから参ります、先に召し上がって下さい」
「そういう訳にも行かんな、待ってるぞ」
「それなら、私も手伝います」
ナズがアナの下に駆けて行った。
ええ子や・・・。
アナの方は・・・。
洗っているのは、自分がさっき脱いだ服だ。
多分優先順位的に仕事が先で、食事は後なのだろう。
主人の洗濯物があるのに食事なんてできないと言う事だ。
主人と一緒に食事をと、明確に命令したはずなのにどうしてこうなった。
あれか、優先順位も指定しないと駄目なやつか、コレ。
でもナズも手伝いに行ってしまったし、
いまさら中断して戻って来いと言うのも何だか・・・。
1人でポツンと座って待ってる身になって欲しいのだよ。
奴隷は主人と別で食事をするとか言うルール、どうなってるのこれ。
主人は寂しいだけだよ?おーい。
ぼぅっと待ってるだけの無能主人であるのは嫌だったので、
金貨の枚数を調べたり、アイテムボックスの整理などをした。
うーん・・・ほぼニカワだ。
∽今日のステータス(2021/08/07)
・繰越金額
金貨 1枚 銀貨 45枚 銅貨117枚
夕食追加 (100й)
銀貨- 1枚
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計 金貨 1枚 銀貨 44枚 銅貨117枚
・異世界11日目(夜)
ナズ・アナ6日目、トラッサの市の日、宿泊8日目




