§041 ジト目
「お疲れ様です、ご主人様」
「ああ、アナもご苦労さん」
「いえ、これは私の仕事ですので」
ベッドに座って休んでいると、アナが湯のタライを運んで来た。
アナがタライとリュックを置き、装備を外す。
「アナ、ちょっと顔を下に向けて」
「・・・こうでしょうか?」
アナが下を向く。
いや、下を向いて欲しい訳じゃないんだ。
「もうちょっと上を向いて」
「この位でしょうか?」
「いや、もうちょっと」
適切な角度に調整する。
「そうそう、そのまま、目だけこっちを向いて」
「こう、ですかね」
「ちょっと睨んでみて」
「い、いえ、そのような事はできません」
「えーと、目付きを鋭くしてみて」
「はい・・・ええと、こうでしょうか」
うーん、なんか違うな。
元々大きめで、垂れ目で優しそうな目なのだ。
違和感しかない。
「ちょっとだけ目を細めて」
「難しいですね・・・こうでしょうか」
うーん・・・。何だか怯えたような感じになってしまった。
普段は従順な性格だから、いざやれと言うのは難しいのか。
「うーん、違うなぁ」
「む、難しいです。申し訳ありません、ご主人様」
今までに何度か見た「あの目」をして貰いたいのだが、
そういえば、どんなシチュエーションだったか忘れてしまった。
あの時と言いながらも、どの時だったかはっきり思い出せない。
「ええと、そうだな。
以前に自分の移動魔法や戦い方に付いて疑問を持った事があるだろう?」
「ええと、あの時は初めてで、理解が追い付きませんでしたので・・・」
「その時の顔をできるか?」
「ええと、どんな顔だったか自分では解らないのですが、
私はどのような顔をしていたのでしょうか」
うーん・・・あれはアナに疑念があった訳では無く、
無理やり理解をしようと悩んだり考えたりしていた顔なのか?
「じゃあ、難しい事を考える時はどういう顔になる?」
「ええっと・・・ちょっと仰っている意味が」
うーん、そうだな・・・じゃあ。
「自分は、これから魔法使いを目指そうと思っているのだ」
「ええっと・・・」
複雑な顔をされた。これはちょっと違う。
「迷宮での戦いが楽になると思うのだが、どうかな」
「ご主人様、魔──」
「まてまて、自分はギルド神殿なのだから何にでも成れる」
うーんと首をかしげてからアナが答えた。
「それは理解できたのですが、
今日私は暗殺者に成るための準備をさせて頂きました。
魔法使いと成るにもやはり準備が必要なのでは」
「そうだな、これから準備を始める」
「ご主人様、残念ながらいくらご主人様でもそれは難しいかと存じます」
「どうしてだ?」
「ええと、魔法使いと言うジョブは貴族や大商人のような、
実力者の子女しか成れないと聞いております。
何でも、生まれた時に特別な洗礼を受けないと就く事ができないと」
自爆玉の事だな。
良く知られていないとそういう表現で伝わるのか。
「今から洗礼を受ければ良いじゃないか」
「ええっと、大人が洗礼を受けたら絶対に死ぬのだと」
「死ななきゃ良いのだろう?」
「ええと・・・」
そうだ、その顔だ。
「今の顔だ、そのまま表情を維持しろ」
「ええっ」
驚いた顔になって戻ってしまった。
「ほら、さっきの感じの顔に戻れ」
「い、いえ、ちょっとご主人様、ご無理が過ぎます・・・」
「変な事を言い出した主人にどう思った?」
「ご、ご主人様は度々、私の理解が追い付かないような事を仰います」
「おかしな事を言うと思った訳だな?」
「ええと、はい・・・その、申し訳ありません」
いやいや、シュンとさせてしまった。
そうじゃないのだよ。
「咎めているのでは無くてな、その・・・、
さっきそう考えた時の顔をして貰いたいのだが」
「ええっと、こ、こうですかね」
やや引き攣っているが、理想に少し近付いた。
口角が上がっているのでこれを直そう。
「もう少し、口元の力を抜いて」
「は、はい」
「そのままやや下を向いて」
「・・・」
「そうそう、じっとこちらを向いて、
言いたい事がありますと考えろ」
「・・・」
おぉっ、素晴らしい。
パァァァァーフェクト!
「うん、その顔だ、その表情が良い。
何かこう、踏み付けられたくなる」
「えぇぇ!そっ、そのような事はできません」
一瞬でふにゃっとした申し訳無さげな顔に戻ってしまった。
元々アナはゆるふわお姉さんだし、性格的に無理なのか。
うーん、残念だ。
変態!変態!変態!とか罵倒されながらイロイロして欲しかったのに。†
「いや、もう良い、無理言って済まなかったな」
「い、いえ、お役に立てなかったようで、申し訳ありません」
またシュンとさせてしまったな、こっちが申し訳無い事をした。
しかし性的嗜好を自分の口から女の子に伝えると言うのも、
何だか恥ずかしくってまだそこに一歩踏み出せない。
世の変態カップル共はどうやってその最初の一歩を踏み出したのか。
余程の信頼関係、言っても引かれない程の愛の深さが必要だ。
「軽蔑した目で罵って」とか、そういう命令は今後の立場にも関わるし・・・。
そういうのは対等かそれ以下の関係でないと難しい。
アナは奴隷で自分は主人なのだから、
無理を言えば従ってくれるが信頼は損なわれ兼ねない。
極端な話、この変態を相手にするなら死んだ方がマシだと、
反目される可能性が無い訳でもない。
と言うかやらせてみた所でやっぱり何か違うと思ったら、
ただ恥ずかしいだけで終わってしまうのだし、
その後上手くやって行ける気がしない。
同人誌的なネタとしては受け入れられるが、
自分の性癖がそこにあるかと言われたら未知数だ。
ネタと判って乗ってくれるような軽い関係を、
被雇用者に求めるのは無理がある。
それではただのパワハラだ、仕方無い。
件のガイウス皇帝陛下もさぞ苦しんだのだろう。
良かったな、ミチオ君と言う理解者ができて。
さぞ心強かったんじゃ無いだろうか。
「じゃあ拭いてくれ」
「かしこまりました」
上着を脱いでアナに渡し、洗濯用のタライに持って行かれる。
「あ、そうだ、今日はアナを拭いてやりたい」
「えっ、いえ、そのような事は」
解かって無いな、拭くんだから裸になれよと言っているのに。
そして裸になって拭いてあげたい。
こっちの性癖はちゃんと理解している。
いや、至ってノーマルだろう?
「命令だ、拭かせなさい」
「ええと、恐れ多くてそのような事は」
アナに近付いて服を脱がす。
ついでに下着も脱がそうとしたが、観念したのかそれはアナが自ら脱いだ。
自分のために絞られた手拭いを受け取り、アナの背中を拭く。
肩、腕、脇・・・はくすぐったがられた。
人間の腋毛と違ってゴワゴワではなく、
ふさっと柔らかい毛が脇に小さく集まっていたので、
ちょっとだけ念入りに拭いてしまっただけだ。
ちょっとだけだから、ホントに。
後ろから手を回し、首、胸、乳房とアンダーバスト、腹まで拭く。
バストを拭く際に胸を持ち上げたが、
たわわでしっかりとした重さがあった。
女性の戦士は、こんな重たい物を振り回しながら戦うのか。
ちょっとハンデが無いか?
ロクサーヌなんてばるんばるんだったようだし。
少し不憫に思った。
そういえば、ロクサーヌはぴっちりした服を着ていた。
アナも胸元でしっかり止めるタイプの服を着ている。
革のジャケットは女性が身に着けるとちゃんとアンダーカップが現れる。
そういう事か。
緊めのシャツを用意してやれば、
もう少しダボッとした服を着ても大丈夫なのだろう。
次の市では下着のシャツを買ってやると決めている。
その後は腰と鼠径部を拭いた。
更に立ち上がらせて、股を開かせ股間を拭く。
年端も行かない少女に悪戯するおじさんの構図だが、大丈夫。
これは清潔な行為だ。
決して猥褻な行為では。
アナだって事務的に拭いたのだ、こちらも事務的に拭かないと。
それが信頼への誠意って奴だろう?
言い訳が多いが気にするな。
と言うか他人の体を拭くのは結構な作業だった。
割と腕が疲れたのはナイショだ。
鍛えてないってホント、こういう所にじわじわ効いて来るのだ。
ひとしきり拭いてやって解放する。
次は自分の番だ。
アナは自分の服を脱がしてくれた。
正面から服を脱がされるなんて、小学校の低学年以来だ。
以前までは後ろから脱がされていたので、
照れもあったが期待の方が大きかった。
今回はお互いの顔が見えたりして更に恥ずかしい。
それにこれまでは全身を拭き終わってから下着が脱がされたが、
今回は下着含めて一度に全て脱がされた。
途中で脱いで下さいと、いちいち言うのも煩わしいって事だ。
ああ!
これもうさっきの目付きで「はしたないご主人様ですね」とか言う所だろ!
アナが自発的に気付いて動いてくれる日は多分来ない。
流石の忖度の女王アナであっても、
ジト目が理解できなかったのだから、もう期待するだけ無駄ってやつだ。
そんな自分の葛藤は露知らず、アナはこちらの体を拭いて行く。
そしてアナの手が背中に回った時に大きな果実が胸に圧着された。
密着した状態で背中を拭かれる。
拭かれながら、2つの肉の塊が胸に押し付けられる。
思わず尻尾に手を回して悪戯しそうになったが、
流石に真剣な表情をして拭いているので、
ちょっかいを出すのは躊躇った。
さっき自分がやってみて判った。
大人の体を拭くのは結構大変なのだ。
邪心で邪魔をされたらイラっとするだろうよ。
父親の介護の時にも体を拭いてあげた事などは無かったが、
あれでボケてしまって拭き始めたら暴れようものなら、
流石に親とは言え殴っていたかもしれない。
幸いにもそんな事は無かったので、気持ちよく見送れたのだが。
「戻りました、わっ」
「ああ、済まん、今アナに拭いて貰っている」
流石に裸で拭いて貰っていたのでびっくりさせたかもしれない。
ここで変に躊躇しても頑張って拭いてくれているアナに悪い。
「そ、そうですね、お食事を置いておきますね」
ナズがテーブルにトレイを置いた。
まだ鎧を着けたままだ。
「ナズ、装備を脱いだらこちらへ」
「はい、かしこまりました」
体を拭かれ終わったので、
下着を身に着けナズの準備を待った。
アナは洗濯に向かった。
女性用の鎧である所のジャケットは紐で縛るタイプなので、
きつく締めたら脱ぐのが大変そうだ。
「ええと、何か御用でしょうか」
ナズが装備を片付け、服を着たままやって来た。
「今日はナズも拭くぞ」
「えっ?いえ、そのような事はご主人様にして頂く訳にはまいり──」
アナと同じ反応だ。
2人同時にしないと、同じ事を2度繰り返す事になるのが欠点だ。
「アナもさっき拭いたのだ、
ナズだけ拭いてやらない訳には行かないだろう?」
アナをダシに使わせて貰う。
女性は同調圧力に弱い。
「そうなのですか?アナさん」
「はい、先程ご主人様に綺麗にして頂きました」
「そっ、そうなのですね。で、では宜しくお願い致します」
ナズがワンピースを上まで捲ると、小さな膨らみが見えた。
持ち上げて腕を抜いている仕草が可愛かったので、
下着を脱ぐのを手伝った。
「あっ、ご主人様、自分で、自分でやりますのでっ!」
脱ぎかけたワンピースを再び下ろして、裾を引っ張ってガードされる。
無理やり脱がす構図になってしまうが、大丈夫。
これは清潔な行為なのだから。
「いいから、されなさい」
そう言って、下着の紐を緩めて下に落とした。
この世界にはゴム紐が無いらしい。
下着は女性も男性もカボチャパンツで、
腰と両足太腿の3か所を紐で縛って止められている。
チョウチョ結びを覚えないと苦労する世界だ。
現代日本では大人になってもできない人がチラホラいるらしい。
ゴムの発明は偉大だった。
ナズが足を抜くと、すかさずアナが服を回収して行った。
このメイド・・・できるッ、・・・違うか。
モタモタされても彼女の仕事が遅くなるだけだし、早くしろって事だ。
ナズの体は小さくて可愛い。
獣人とは違って毛も薄く、その代わり髪の毛量が多い。
ドワーフの中では力が無い、と言うだけあって腕も足も細い。
流石に顔だちは整っているので正確には子供では無いが、
体型そのものは子供だ。
合法ロリ・・・。
これまで数日間この体を弄んで来たのだが、
じっくり見るとその背徳さ加減に、
イケない事をしたような気に苛まれる。
拭いてやるのだから、良く見るのは仕方無いな!
都合良く解釈して開き直った。
ナズの体を拭いている時に気が付いた。
体のサイズからかけ離れた強靭な攻撃ができるにも拘わらず、
ナズの筋肉量は少ない。
細く孅そうな腕はプニプニしている。
骨格の構造も、然して人間と変わらないと思う。
一体どこからあの力が湧いて出るのか。
1つ目はファンタジー的要素が掛かっている可能性だ。
ドワーフが重たい装備品を持てば重量が軽くなる説。
逆も然り。
一般人が重たい装備品を持てば重量が重くなる説。
2つ目はダメージに係数が乗る可能性だ。
この世界の武器はどんな装備を身に着けても、
一定量のダメージが貫通して直接体に届く。
それはこの世界に来て間もない時に、
防刃チョッキが全く役立たなかった点に於いて立証されている。
片方、又は両方が存在しているからこその、
ドワーフと言う存在なのでは無いだろうか。
何だそれ。
種族チートじゃない?
おまけに唯一無二の鍛冶スキルを持っている。
人間なんてエロ系に全振りの色魔だぞ?
モテない奴とか、身持ちが堅くて1人しか愛せない奴とか、
パートナーが怖い人とか、種族ジョブ無理じゃない。
大っぴらに言えるジョブですら無い。
対してドワーフは、私鍛冶師ですよ!おおスゲー!
なんたる不公平、なんたる理不尽。
神様、本当にここは救済の世界なのですか?
そろそろこちらの人生もハードモードだと気付いてしまったのですが。
そんな事を考えているうちに、ナズの体も拭き終わってしまった。
まあアナも事務的に拭いたのだ、その位でちょうど良いのだ。
∽今日の戯言(2021/08/04)
こちらの期待に反して、アナにジト目させるのは難しいようです。
もう彼女たちを強引に動かすことができません。
自我を持って、勝手に動き回っています。
こちらの命令は聞きません。
結城君の命令なら聞いてくれるでしょう。
でも結城君は自分の信条に従って勝手に行動します。
人格を確定させるために
様々なバックストーリーを用意したのが仇になりました。
もっとアレしたりコレしたり命令しろよ!
・異世界10日目(夜)
ナズ・アナ5日目、トラッサの市まで1日、宿泊7日目




