§037 暴投
「んぁ・・・ふあぁぁ・・・」
翌日、気怠い雰囲気の中で横になりながら伸びをした。
2人は・・・既に起きて待ち構えている。
昨日はナズに先行された気がするので、今日はアナか。
あれ?ナズだっけ?
うーん、前日にどちらが先行したか覚えて行く自信が無いぞ。
後先無く余計な約束をしてしまって後悔した。
アナの方を向いて挨拶をする。
「アナ、おはよう」
「ちゅっ・・・あむ・・・んっ、ご主人様おはようございます」
そのままの体勢でナズの方に手を回し近寄せる。
アナとのキスをしながら、ナズの顔の位置を手で確認して、
そのままナズともキスをした。
「ちゅっ・・・ちゅっ・・・んふ」
「ナズもおはよう」
「おはようございます、ご主人様」
もうこの制度をどうにかしたい。
交代制では憶えていられない。無理だ。
調子に乗って一番が2人とか無茶振りが過ぎたし、
これまで行き当たりばったりで適当に命令し過ぎた。
この際きちっとルールを決めよう。
2人に優劣が付かないで納得できる方法を・・・。
「えーっと2人には悪いが、キスの順番はやっぱり固定しようと思う。
どっちが先になるか自分が忘れそうだ」
「かしこまりました」「えっと・・・、はい」
何だかナズが不満そうな顔をした。
一番を取られると思ったのだろうか。
こういう時にアナは事務的だ。
そのうちジト目で責めて欲しい。
夜はナズが食事を取りに行くので、アナと部屋に戻る事になる。
厳密にはアナも湯桶を持って来るのだが、ナズの方が時間が掛かる。
注文してから料理する訳だし。
だから、先にアナと色々始めてしまうのはもうどうしようもない。
健康的な若者だからな!
「アナ、夜はアナが先だ。アナから始める。
体を拭くのもアナに任せてるし」
「かしこまりました」
「ナズ、朝はナズが先だ。優しく起こしてくれれば尚良い」
「は、はい、かしこまりました。
明日の朝からは私が一番最初で宜しいですね?」
「そうだ」
どうだ、これで遺恨は無いだろう。
命令に従っているだけで、
遺恨どころか本当はしたくない可能性もある。
・・・が、そんな事をハッキリ言われたらショックだし、
奴隷の立場でそんな事を面と向かっては言わないだろう。
知らない方が良い事もある。
「で、では、2人とも、後はいつも通りで頼む」
「「かしこまりました」」
ナズは朝食を取りに行き、アナは装備品の手入れを始める。
自分は服を身に着け、手入れの終った防具を身に着けた。
***
「「「いただきます」」」
3人で朝食を取る。
そろそろ3人の生活にも慣れて来た。
この居心地の良さはこれからも守って行きたい。
それに、そろそろ家を探しても良いと思う。
宿は10日分取ったので、
後3泊したら更新するか出るかを考える事になる。
「この辺りで、家を借りる事はできるのか?」
「済みません、私には解りません」
「ええっと、以前お世話になっていた酒場のご主人は家を貸していました」
「へー、それはどこにある」
「ホドワと言う町です」
「そうか、一度聞いてみるか」
「ホドワに行かれるのですか・・・?」
「以前の知り合いに会うのは嫌か?」
「いえ、そういう事はありません」
「何かあるのか?」
「あの、お会いできればお礼がしたいと思いまして」
「そうか、世話になったのだな」
良い人なら良い物件を貸して貰える可能性もある。
明日は市も出る。
探索を休みにして、買い物や遠出をしよう。
「よし、それでは片付けたら行こう」
「「かしこまりました」」
食器を並べて重ね、トレイも1つに纏める。
放ったらかしにして既に水になっているタライも重ねて纏めた。
その間に2人は装備を身に着ける。
それらの片付けを2人に任せ、
いつも通りにロビーで待ち合わせをして迷宮に向かった。
***
早朝の迷宮は人がいない。
そもそもまだ朝食を取っているか、
低階層がメインの探索者は冒険者がパーティにいないので徒歩になる。
夜間に出現してそのまま残された魔物が多く残っているので、
狩りをするには絶好の時間だ。
「アナ、多少寄り道をしながらボスに行こう」
「はい、・・・この部屋を出て直ぐの角に3匹いるようです」
鑑定は壁を貫通しない。
エントランスの安全地帯を出て曲がった場所、つまり目の前だ。
「どういう感じに陣取ってる?」
「ええと、角側に1匹、奥の壁側に2匹です。
まずは角側を先に処理してしまえば楽かと思います」
「じゃあ一気に全員で飛び出る。
角側を倒すので、奥の2匹を注意しながら囲ってくれ」
「「はい」」
先行をして角に寄らないように大きく回り込む。
・エスケープゴート
・スパイスパイダー
・エスケープゴート
エスケープゴートの角を避けてラッシュで逆袈裟に斬りかかる。
エスケープゴートの顔はこちらに正面だったが、
顔面を正面斜めに切り掛からなければツノガードは避けられる。
簡単に一撃で煙となった。
奥の方は既にアナがスパイスパイダーを牽制し、
ナズはエスケープゴートをアナに近付かせないように槍で邪魔をしていた。
「スパイスパイダーを貰う、左に」
「はい」
合図してアナに道を開けさせる。
アナは左側の壁まで1歩で飛び退き、
スパイスパイダーがアナを追って体を左に向けた。
その瞬間を狙ってラッシュで刺す。
ナズはエスケープゴートの首を狙い、小さくダメージを与え続けていた。
角への攻撃は有効で無い事がナズにも解っているようだ。
槍のリーチを活かしての立ち回り方はもう十分に熟練の域に思えた。
上達が早い。
ちょっとこのままどうするか、様子を見よう。
「アナ、そのまま維持だ。
近付き過ぎないように注意しながら、
エスケープゴートが逃げられないように囲め。ナズに続けさせたい」
「はい」
自分とアナで距離を開けながら、エスケープゴートの逃走路を封じる。
エスケープゴートが身を屈めるとナズは足を払い、
近寄ろうとすると首を突いて牽制した。
既に繰り返しになっており、行動はパターン化されている。
「ナズは才能があるよな?」
「そのようですね、熟練の戦士でも中々あのようには行きません。
簡単にやっているように見えますが、
相手の動きをある程度理解していないと」
エスケープゴートがグルグルと方向を変えた後、
通路的に猶予があるこちらを目掛けて走って来た。
逃走だ。
オーバーホエルミングを唱えてデュランダルで普通に切った。
──スパンッ。
エスケープゴートは胸から腹に架けて両断され、そのまま煙になった。
通常2回で倒せる魔物が、HP半分以下で逃げ出すのなら1発だ。
「ナズ、凄いな。完璧な戦いっぷりだぞ」
「い、いえ、ご主人様がいつ助けてくれるものかと、
ずっとハラハラしていました」
「済みませんナズさん、ご命令だったので手を出せませんでした」
「そっ、そんな・・・」
ナズが涙目になってアナに訴え掛ける。
「ナズ、良い動きだったぞ」
「うぅぅ・・・」
ぽんぽんと頭を叩いて、アナの先行を再開させた。
「ご主人様、次はこの十字路を右に数匹、左は1匹です。
左の方が遠めですが安全をお取りになれるのであれば、
先にこちらに行った方が宜しいかもしれません」
「じゃあそうしよう」
角を曲がると、かなり奥の方にエスケープゴートがいた。
奥だから暗くて見えない。
鑑定があるので何とか発見できたが、人間の目には無理だろう。
灯かりも無いのに、なぜ近くは見えるのだろうか。
謎の力が働いている。
「ちょっと行ってくる」
「はい」
「後ろを警戒しておきます」
1人で駆け出してオーバーホエルミングで倒した。
エスケープゴートは後ろを向いていたので余裕だった。
先程の位置まで戻ると、既に2人は交戦していた。
・エスケープゴート
・グリーンキャタピラー
久しぶりに見るグリーンキャタピラーの方が奥だ。
エスケープゴートに対してアナが盾を構え、
ナズが隙間から攻撃を加えていた。
いけない配置だ。
「ナズッ、こういう場合はグリーンキャタピラーを放置するな!」
「え?あっ、はいっ!」
慌ててナズがグリーンキャタピラーの方に向かうが、遅かった。
遠目で良く見えなかった事が災いして、
既にグリーンキャタピラーは糸の詠唱が完了していた。
再びナズがグルグル巻きになる。
「あぁぁっ、あぅっ・・・あぅっ!」
そこにグリーンキャタピラーが転がって来てナズに突進した。
拙い。
確か糸で簀巻きにした後、毒を仕掛けて来るのだっけ。
手前でアナが往なしていたエスケープゴートをラッシュで切り落とし、
ナズに馬乗りになっていたグリーンキャタピラーには、
ラッシュと念じて思いっきり蹴飛ばした。
デュランダルで切り掛かるとナズごと真っ二つにしかねないので。
丸まっていたグリーンキャタピラーがそのまま奥の方へと転がって行く。
すかさずナズに絡み付いていた糸を慎重に切り裂いた。
転がっていったグリーンキャタピラーを追い掛けてアナは駆けて行った。
「危なかったな、特殊攻撃を使う魔物を放置するなよ?」
「は、はい、申し訳ありません」
アナに追い付いて、グリーンキャタピラーを通常攻撃2回で倒した。
「ナズ、後ろにいる敵程おかしな攻撃を仕掛けて来る。
お前の槍は後列から攻撃できるのもあるが、
敵の後列も狙えるのだから忘れずにな」
「はっ、はい。申し訳ありませんでした」
いずれナズには槍のリーチを生かして、詠唱キャンセルの役目をさせたい。
その際は敵のスキルを潰す練習をこの辺りでした方が良いかもしれない。
「じゃあ次に行こうか」
「はい、ボス部屋は先程ご主人様が倒された魔物がいた方向ですね」
***
その後に出て来た魔物は特に問題も無く片付けた。
と言うか、そうそう問題なんてあって堪るもんか。
余程油断するか、初めての体験位で無いと。
このメンバーに揺らぎは無い。
もうLvだって階層の3倍以上なのだし。
そう思ってパーティ編成を出してみる。
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv29
設定:商人(29)英雄(15)戦士(27)探索者(27)剣士(26)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv23
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv24
想定よりも2人のLvが高かった。
10倍の凄さを実感する。
一見順調そうに見えるが、ここに来て鍛冶師が戦士に追い付いている。
この階層では、もうほぼ上がらなくなったのだろう。
自分もあと1で念願のLv30に達しそうであるが、
ナズとアナのLv感を見る限りでは、
もう少し強い敵を倒す必要が出て来たのだと見える。
ここで頑張っても、もう殆どLvの動きは無いのだろう。
無理をすれば経験値上昇の最大値である20倍を取得できる。
20倍、デュランダル、キャラクター再設定で127ポイントだ。
後の1ポイントはこれまで通りアクセサリー1が良いだろう。
その場合はまた鑑定とサヨナラしなければならない。
迷宮で便利に鑑定を扱うには詠唱省略は必須だ。
オーバーホエルミングとラッシュの合わせ技だって
最低2ポイントが必要・・・。
後Lv2上がるまでは現状何もかもが厳しい。
パーンに慣れるまでボスを周回してLvを上げつつ様子を見よう。
「ご主人様、到着しました」
「お、ここか。
それでは昨日も言った通り、
ボスから離れず追い詰めるようにして戦ってくれ」
「「はい」」
「こいつは魔法を使う前に後ろに飛ぶから、直ぐに間を詰めろ」
「「はい」」
「アナは格闘に気を付けてくれ。足も飛んで来るからな?」
「はい」
ブリーフィングが点呼のようになってしまったが、緊張感は出た。
待機部屋へと踏み入れる。
そしてボス部屋の扉が開く。
──ゴゴゴゴ・・・ゴゥン。
毎回思うがこの自動扉、どうなっているんだ。
ボスは・・・いない、初戦だ。
最初が肝心である。
スパイススパイダーのように崩されたら、流石にこいつは拙い。
「中央に向かって走れ、ナズは左脇だ」
「「はいっ」」
部屋に入ると煙が巻かれ、ボスの形となる。
駆け寄ったのでボスが動き出す前に囲みが完了した。
アナが盾を鳴らして注意を引いた。
直ぐにパーンの連続パンチが飛び交う。
──ガンッガンッ、ガィィン!・・・ベェェン。
あんなに鉄の板を叩いたら拳がどうかなってしまいそうだと思うのだが、
パーンはそんな事に臆するでも無くひたすらに鉄の盾を叩きまくっている。
オーバーホエルミングを念じて横からパーンに踏み込む。
1刀・・・、2刀、3刀目で残心を取って安全圏まで後退した。
安定している状態から集中すればギリギリでラッシュ3刀はできるようだ。
パーンがこちらを睨み付けて来たが、
お前の足の距離からは既に間を取っているぞ。
その後パーンがジャンプして後退した。
ジャンプ中から詠唱が始まっているのか、
着地時点では既に赤い模様が描かれていた。
ダッシュして突きを入れる。
スキルは無しだ。
そんな余裕は無かった。
打合せ通り、ナズとアナもダッシュして詰める。
一手先に出たためにパーンの拳が自分に飛んで来た。
デュランダルを構えて右、左、右と手を払い退けながら後退する。
アナの剣がパシパシと音を立ててパーンの体を叩くが、
深いダメージが入っているようには見えない。
注目は引けていないので、まだまだ自分が堪える必要がある。
パーンの蹴りがアナに飛んだ。
それをアナはしっかりと盾で受ける。
むしろ来る事が判っていて、そこに盾があった感じだ。
その隙にパーンの徒手攻撃範囲から離れて距離を置いた。
パーンの矛先が変わり、再びアナが標的となった。
盾を構えて身構えるアナにパンチが浴びせられる。
ナズも自分の対面から槍で突いたように見えた。
自分も横からゆっくりと近付き、
オーバーホエルミングからの3コンボを入れる。
──スパンッ、スパンッ、パシッ!
そして再びパーンが飛んだ。
これはパターンだ。
ダッシュして今度はラッシュと共に突きを入れ、
先程と同様にパーンの拳を左右に往なす。
1、2、3、4、ここでアナへ蹴りが飛ぶ。
余裕ができたので全体を見渡せる。
ナズもひたすらに槍で突いていたようだ。
臆さずちゃんと付いて来ている。
大丈夫、ナズは勇敢だ。
3回目のオーバーホエルミングのコンボを入れ、再びパーンが飛ぶ。
今度は壁に追い詰めた。
ラッシュで突きを入れて、剣で拳を往なし、アナが蹴りをガードした。
再びラッシュの3連撃を入れる。
──スパンッ、スパンッ、パシッ!
今度は後ろに飛べないぞ、どう出る?
パーンはナズにターゲットを変え、
徒手攻撃を入れようと拳を振り被ってナズに襲い掛かる。
ナズは槍でパーンの体を押し返しながら、
少しずつ後退して間合いを保った。
アナと自分はナズに向けて前進するパーンに間合いを詰めて行き、
アナが斬撃を、自分はコンボを加えた。
パーンが後ろに行きたそうに躊ぐ。
エスケープゴートの逃走のような挙動を取った。
魔法を諦めたのか、蹴りでナズの槍を払った。
ナズはその一撃で槍の鉾先を開けられたが、
その勢いを生かして自身を回転させると、
パーンの腹へ槍柄を思い切り叩き込んだ。
見事なカウンター技が決まったと思う。
パーンが壁に吹き飛ばされて体を打つ。
やはりドワーフの力は凄まじい。
おまけにナズの器用さも相まって、
今のは本来の力以上で叩き込んだと思う。
直ぐさまアナは囲みを縮める。
パーンの手刀がアナの盾を叩く。
デュランダルを握りしめてオーバーホエルミングを唱えラッシュを・・・、
──パシンッ!
1刀目でパーンの体に食い込み、そのまま煙になった。
・ヤギの肉
折角の肉だ、これはいつか自分で食べたい。
「どうだ、アナ。ナズはもう立派な戦士だぞ」
「そのようです。迷宮に入って数日と侮っていましたが、
もう既に私より遥かにお強い気がします」
「い、いえ、私はそんな・・・」
「あー、アナはスキルを使わないのか?ラッシュと言うスキルだが」
「ええと、戦士に成ったと言う実感が無く」
それもそうか。
3年間探索者としてやって来て、自らの意志で無く戦士となったのだ。
いくらスキルが使用できると聞かされても、
これまでの戦術に組み込まれていなければ使いようが無い。
「アナの戦士としての鍛錬は、もう5、6年分は溜まっているはずだ」
「ご主人様、その説明は流石にご無理があります」
Lvと言う表現を使うと、またややこしい事になる。
探索者以外のLvの概念は知られていないとミチオ君が嘆いていた。
「そうは言ってもな、多分今なら1層の敵ならラッシュ1回で倒せるぞ」
「いえ、流石にそのような事は・・・」
「アナさん・・・多分ご主人様は本当の事を言っておられます」
「ええ?いえ、ナズさん、流石にそのような事は」
ナズのフォローにも納得できていないようだ、当然だ。
普通に考えたら3日かそこらで5年分も修業できるはずが無い。
これは実際に体感して貰うしかあるまい。
「ちょっとやってみるか?」
「いえ、あの・・・でもですね?」
「その前に次の階層に行こう」
「はい」
「あの、本当にやるのですか?」
「冗談を言ってどうする、その方が納得できるだろう」
「それより凄いな、さっきの一撃は。見事な槍使いだったぞ」
「いえ、槍を弾かれたので、逃げられないように振ってみました。
たまたま上手く行っただけです」
「そのように動けたナズの機転が凄いと言っているのだ」
「はいっありがとうございます」
「敵の攻撃の威力をそのまま利用するのは・・・」
「それはですね、お盆を落としそうになった時・・・」
困惑するアナを放置して、ナズを褒め千切りながら次の階層へと進んだ。
***
7層を初踏したのち、1層の中間部屋に移動する。
「アナ、ラッシュの詠唱は行けるか?」
「は、はい、大丈夫です」
「じゃあ自分で探してやって来い」
「いえ・・・あの、・・・はい」
疑心暗鬼なアナが歩き出し、その後ろを付いて行く。
手っ取り早く「アナも強いんだ」と認めて貰うには、
正直な所これ以外に方法は無いと思う。
Lvが幾つだと言っても、
そのLvがどういう強さなのかと言う説明から始めないといけないし。
実感が出るとしたら、
攻撃回数が目に見えて減ったと理解しないと始まらない。
「いました、やってみます」
・グリーンキャタピラー
鑑定でも確認した。
と言うか目視では見えなかったのだが、流石は猫人族だ。
1層の敵はグリーンキャタピラーだ。
もうLv20にもなるのだから、こんな敵は何でも無い。
「剣太刀、数多の猛者の奮い立ち、
集えこの一太刀に、ラッシュ!」
──スパーン!
「おー、良い音」
「凄いです!ご主人様の剣のように魔物がスパッと切れました!」
ナズがはしゃいだ。
「あ・・・あ・・・」
アナは戸惑っているな。
「どうだアナ?実感できたか?
アナの剣は武器屋で買ってきた普通の剣だぞ」
「ご、ご主人様・・・私は・・・」
「戸惑うのも仕方無いとは思うが、もうアナは十分に強い。判ったか?」
「は、はい・・・」
「ご主人様、私にも、そういったスキルは無いのでしょうか」
ナズが尋ねて来た。
ドワーフの種族ジョブである鍛冶師には攻撃系のスキルは無い。
寧ろドワーフそのものが、既に対魔物の戦略武器ではなかろうか。
そこにラッシュみたいなのが加わったらもう手が付けられない。
「残念ながら聞いた事が無いなぁ・・・」
「そうですか、お役に立てればと思ったのですが」
残念そうに肩を落とした。
「ナズは既に十分役立っているから何も心配する事は無いぞ」
「そうでしょうか?」
「鍛冶師と言うのはな、それだけで凄いんだ。知ってはいるだろう?」
「ええと、そうなのですが、
やはり私もその、鍛冶師としては自覚が無くって・・・」
「アナの剣を合成しただろう」
「その剣がお役に立っているようには見えないので・・・」
「ま、まあそうだな。今は役に立たないかもしれないが、
アナがもう少し強くなったら、ナズはその力に驚くぞ」
「そうでしょうか?」
「そうなのだ」
そのためにも、アナには早くLv30になって貰いたい。
と言うより、もう目の前だ。
ついでに毒針で仕留めて貰おうか。
折角1層に来たのだしやってしまおう。
自分もジョブを増やすために経験して置く必要があるし。
「ではアナ、せっかく1層に来たのでこれから1つ儀式を行おうと思う」
「儀式ですか?」
まだ少し混乱していたアナに、新たな課題を命じた。
「この毒針を使って、グリーンキャタピラーに当てて毒にしろ」
「はい。・・・と言いますか、いつの間にこのような物を?」
「この日のために用意して置いた」
「ええっと、・・・はい?」
アナは意味が解らないが納得するしかないと、
気持ちを押し込めてくれたようだ。
「毒になったら色が変わるらしいが、判るよな?」
「どうでしょうか、毒になった魔物を見た事がありませんので」
うーん、ミリアもそうだったはずだが、
彼女は色の違いをちゃんと認識できた。
同じ猫人族のアナならば、解かるはずだ。
いや、解って欲しい。
「まあ、やってみろ」
「はい」
そう言って、毒針を3つ渡した。
「では、やってみます」
次のグリーンキャタピラーは直ぐ傍にいた。
アナは毒針を投げて当たる距離まで近付いて投げ付けた。
「どうだ?」
「ええと、何も変わっていない気が致します」
「じゃあもう1回だ」
アナがグリーンキャタピラーに2投目を当てる。
「どうだ?」
「やはり、何も変わりはありません」
そう言ってもう一度投げ付けたが、今度は外した。
それよりも、その距離で外さないで欲しい。
とんだ暴投魔だ。
「じゃあ、はいこれ」
新に毒針を2個渡す。
そこにグリーンキャラピラーが転がって来た。
「おっと」
華麗に(?)避けると、ナズの方に向かっていった。
「ナズ、手を出さずにこっちに来てくれ」
「はいっ」
ナズはこっちに逃げ帰り、アナは追い掛けて毒針を投げる。
「あっ、ご主人様、色が変わりました。本当ですね!」
「だろう?そのまま、倒れるまで避けるか盾で往なすかしてくれ」
「はいっ!」
だろう、とか言いながら自分には違いが判らなかった。
やはり猫人族の目は特殊なのだ。
その間に、さっきアナが投げ捨て・・・いや、失敗した毒針を探す。
これ・・・かな?
薄暗い上に毒針は小さくて黒いから見付け難い。
このまま放置してうっかり誰かが踏んだら、
それは投げ付けた扱いになるのだろうか。
鑑定してみたら毒針と出たので大丈夫だ。
と言うか、鑑定して探せば良かった。
ここに来て間も無い時の食糧難と言い、
自分の機転の利か無さには呆れる。
「ご主人様、倒れました」
「お、そうか、成功だな。殴っていないよな?」
「はい、私は手を出しておりません」
「ご主人様、これには何か意味があるのですか?」
「暗殺者に成るための必要な儀式かな」
ナズが尋ねる。
彼女らからすれば意味の無い行動に見えるはずだ。
先程見せたように、普通に倒したらスキルで1発なのだし。
「これで暗殺者と言うジョブに成れるのですか?」
「勿論これだけでは成れないが、これも必要、と言う事だ」
「そうなのですね、アナさんは暗殺者に成れたのでしょうか?」
「後もう少しかな」
「そうなのですね?アナさん頑張って下さい!」
「えっ?あっ、はい。ありがとうございます?」
ナズは良く解かって無さそうだが、
当事者のアナが一番解って無さそうな所がまた良い。
説明したくない訳では無い。
成ってから説明しようと思っているだけだ。
変に身持ち頑なにされても困るし。
戸惑うアナが可愛いから仕方無い。
「それじゃあ、次は自分が投げてみるが、アナは毒になったら教えてくれ」
「どういう事でしょうか?」
「人間族は暗闇で目が効かないからな。
毒になったかどうか良く判らないんだ」
「かしこまりました。では、その時はお伝え致します」
「次のグリーンキャタピラーはどこが近そうかな?」
「ええっと・・・あちらですね、ご案内します」
アナに付いて行き、新たなグリーンキャタピラーと出遭う。
さっき威勢の良い事を言ってアナの暴投を笑った。
ここで自分が外したら面目丸潰れである。
無駄にオーバーホエルミングを使い、
絶対に外しようも無い位に近付いて毒針を投げ付けた。
いや、寧ろ押し当てたに近い。
「あっ、毒です。色が変わりました」
距離依存か?
いやいや。
一定確率で、とロクサーヌは言っていたし。
たまたまだ、たまたま。
∽今日のステータス(2021/08/03)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv28
設定:商人(28)英雄(14)戦士(26)探索者(26)
剣士(19)
取得:村人(5)色魔(1)
・BP126(余り3pt)
鑑定 1pt 武器6 63pt
キャラクター再設定 1pt アクセサリ1 1pt
獲得経験値上昇×10 31pt 詠唱省略 3pt
必要経験値減少/3 7pt ワープ 1pt
5thジョブ 15pt
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv21
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv22
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv29
設定:商人(29)英雄(15)戦士(27)探索者(27)
剣士(21)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv23
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv24
・異世界10日目(朝)
ナズ・アナ5日目、トラッサの市まで1日、宿泊7日目
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
1 グリーンキャタピラー / ホワイトキャタピラー
4 チープシープ / ビープシープ
5 スパイスパイダー / スパイススパイダー
6 エスケープゴート / パーン




