§036 尻尾
「それじゃあ今日も宜しく、ナズは夕食、アナはお湯を頼む」
ナズとアナに全てをお任せし、自分は先に部屋へ戻る。
これが日本なら、これが彼女なら、
毎回命令ばかりして何もしないパートナーなら、
喧嘩になったり嫌われたりするだろう。
しかし、ここは異世界。
あくまでも主人と契約者の間柄だ。
簡単な雑用から面倒事まで、丸投げで自分は楽ができる。
主人が仕事に集中するために、
代わりに雑務を引き受けて貰う・・・と言えなくも無い。
それならば、現代社会の雇用形態とあまり変わらない。
その対価が著しく低いだけ・・・、
いや、彼らには家族が、前の主人が、大金を前払いで受け取っている。
結局は雇用形態の1つなのかもしれない。
その契約が法制度以上に世界の仕組みとして、
生物に刻印されているに過ぎない。
犯罪を犯したら隠し通す事なく盗賊に落ちるシステムに至っては、
ある意味最高の治安維持装置だ。
雇用主は裏切れない奴隷システム、悪事を働いたら盗賊になるシステム、
誰もが安心して、納得できる法整備された安全な世界、
と言い換えても良いだろう。
なるほど、社会的に追い詰められた生活弱者向けの世界だ。
真面目に生きた者が割を食い難い仕組みなのだから。
そんな事を考えながら装備品の手入れを行っていたら、アナが帰って来た。
「戻りまし・・・ご主人様!
そのような事は私が致しますので、ごゆっくりなさって下さい」
・・・止められた。
「い、いや、何かこう、暇だったからな?」
「ご主人様は、ご主人様にしかできない事をなさって頂いて構いません」
「と、言われてもする事が無いのだし」
「そうは仰いましても、装備品の手入れなどは私の仕事です!
ご主人様がなさるような事ではありません」
何でもやって貰ってばかりいると鈍ってしまうよ?
定年退職した管理職のおじさんは、
その後の人生で輝ける仕事・・・、
例えば趣味が無ければすぐボケてしまうらしい。
主人にも雑用を!
「て、・・・手入れをする事で、
新たな装備の性能を見い出せるかもしれない」
「装備品に性能があるとすれば、それはモンスターカードに因る物です」
くっ・・・これだから実務者はっ。
ナズなら、「へーそうなんですか」とか言って
騙されてくれたに違いないぞ。
「じゃ、じゃあ、そうだな、主人の仕事として、アナに拭かれよう!」
両手を広げて、清拭をお願いした。
服は着ているので、脱がす所から・・・。
アナが手拭いを濯いで絞った。
「・・・。かしこまりました、後ろから失礼します」
そう言ってベッドの上に乗りこんで裏を取ると、
抱き付くように前裾に手を伸ばして上着を脱がし始めた。
すぽっとアナに服を剥ぎ取られ、ズボンは自分で降ろし、
更にその間シャツが捲られる。
自分は下着だけとなって、アナは腕に乗せていた手拭いで拭き始めた。
・・・する事が無い。
暇だったのでアナのお尻をまさぐって尻尾を掴んだ。
「あっ・・・」
それだけ言って、アナは黙々と清拭を続ける。
尻尾を扱いたり軽く捻ったり、撫でたりした。
「ご主人様、下を開けて下さい」
アナの事務作業が続く・・・。
その後も、足、腿、腰まで来て、パンツを下ろさせられ、
股間は優しく拭き上げられた。
全て拭かれ終わってしまったので、
アナは手拭いを絞りに戻ってしまう。
尻尾の堪能も終わりか・・・、
と思っていたが、その後も執拗に下半身を拭かれ続けている。
「ア、アナ・・・?」
「ご主人様、その・・・放して頂けないと終れません・・・」
なるほど、放さなければこのままと言う事で理解した。
「ちょっと今忙しくて放せないし、やり難いから後ろ向いて」
「・・・・・・かしこまりました」
アナが後ろを向く。
猫人族であるアナは尻尾を出すために下着を浅く履き、
ズボンも尻側に緩くカットされているデザインの服を着ている。
その上から上着がふわっと被るため、
尻尾に押されて、ほんの少しだけ背中が見える。
「もうそろそろ宜しいでしょうか?」
「えっ、あ、そうだな。引き留めて悪かったな」
切り上げを要求されたのでしぶしぶ尻尾を解放する。
アナは手拭いを折り畳むと、タライに戻って行った。
その間に自分はロープに干してあった下着を手に取って着替える。
「アナの尻尾は本当に気持ちが良いな」
「そうでしょうか?」
タライに向かって洗濯を続けるアナの尻尾が、左右にクイクイと揺れる。
「尻尾は自由に動くのか?」
「そうですね。自由に動く時と、意思も無く動く時がありますが」
ロクサーヌは動かせないといった。
ミリアは・・・判らない。
どうだったっけ。
上手く言葉が伝わっていなかったようだし。
「今動かしたのは?」
「ご期待にお応えしまして、動かしてみました」
なるほど、サービス精神旺盛のアナならではか。
他の猫人族に言っても多分素っ気無く返されて終わりなのだろう。
「どの位細かい動きができるのだ?」
「ええと、掴んで持ち上げる事はできませんが、絡み付ける位であれば」
おおお、と言う事は!
その動きでご奉仕して貰っても良いんじゃないか?
人間では決して味わえない尻尾での奉仕!
獣人ならではのスタイル!
期待が膨らんだ。
自分の期待する所の期待も膨らんだ。
自分の服だけ洗濯を終えたアナが戻って来た。
「このようにも、できます」
尻尾がシュルシュルと腕を掴んで巻き付く。
毛皮のマフラーが腕を這うような感覚だ。
気持ち良くすぐったい。
尻尾はそれほど長い訳でも無いので、アナの腰が密着する。
思わず撫でたくなるが、今はこの柔らかい尻尾を外されたくは無い。
「自分で触るのも気持ち良かったが、
積極的に擦れられると更に気持ち良いな」
「もう少し複雑な動きもできます・・・」
腕に絡み付いた尻尾の先端で、
二の腕を突ついたりペシペシと叩かれた。
他にもその先端で撫でられたり、
尻尾全体でぎゅっと腕を締められたりした。
「凄いな・・・、尻尾でこんな事ができるのか」
「ご満足頂けましたでしょうか」
「したした、凄いな!」
「ええと、尻尾でこんなに喜ばれたのは初めてです」
アナが照れくさそうにした。
普段から真面目なお澄ましさんが照れると、ギャップを感じて良い。
「それは披露する相手がいなかっただけでは?」
「いえ・・・。
そもそも興味をお持ちになる方の方が少ないので」
そういえばこの世界は普通に獣人がいるのだし、
尻尾の存在は当たり前なのか。
例えば人間の手が普通に5本指だとして、
6本目の指を付けた種族の指使いが気になるかと言われたら・・・。
いや、気になるわ。
上手い例えが見付からないな、そもそも地球では人類は1種類だけだし。
まあ、普通にそこら辺に転がってる石なんか気にしないよって事だ。
「戻りました」
丁度良くナズが返って来た。
「ああ、おかえり」
「ええっと・・・」
ナズがアナの尻尾の先を見て困惑している。
「あ、ああ。アナの尻尾が器用に動くからな、
こんな事もできるのだと教えて貰っていた」
「そ、そうなのですか、凄いですね。
猫人族の方は尻尾を自由に動かせるとは知っていましたが、
そこまで絡み付いているのは初めて見たかもしれません」
「そうですね、私もこんな事をしたのは初めてです」
え、そうなの?自信持ってできるって言ってたじゃないか。
できると知っていても基本的にしない?
猫らしい考え方だな。
あっちの方も淡白だと言うのが通念みたいなようだし、
今回のように尻尾で積極的に他人に触れるような猫人族は稀なのだろう。
他の猫人族にお願いしたら、物凄く面倒臭そうにされるに違いない。
人間なら如何にその技能を使って、
他人より儲けたり出し抜いたりするかを考えると思うのだが。
だから強欲で色魔なのか、そうですか。
そんな事を考えていたら、
反対側の腕にナズが髪の毛をグルグル巻き付けて来た。
「あの・・・ナズ。こんな事どこで覚えたんだ」
いやまあ、嫌と言う感覚は無いが、何の図なんだこれは。
右腕にアナの尻尾、左腕にナズの長い髪が纏わり付いている。
「あ、あの、迷宮の時からご主人様は、
・・・その、アナさんの尻尾にご執心でしたので・・・。
わ、私にはこの位しか・・・」
ナズ・・・恐ろしい子ッ。
この娘は自力で謎の変態行為を編み出してしまった。
全世界の大きいお友達たちが、
女性の髪を巻き付ける変態趣味を持ったらどうしてくれるんだ。
と言ってもこれはドワーフならではの長髪、毛量だからこそか。
ここまで長い髪を持った娘もそうそう居まい。
アナの尻尾はフワフワで気持ち良かったが、
ナズの髪の毛も、サラサラで気持ち良かった。
でも、そろそろ放してくれても良いのですよ?
「も、もう良いぞ、2人とも」
「あっ、はい」「かしこまりました」
しゅるしゅると解けて行く髪と毛。
ウールとシルクのような肌触りが名残惜しい。
両サイドで絡み付かれるのは邪魔なのだが、触感は最高だった。
「じゃあ、2人とも食事にしよう」
「「かしこまりました」」
食事をしながら、明日の予定に付いて話す。
「明日はパーンを倒して7層、
できれば夕方までにボスまで行き8層にも行ってみたい」
「かしこま「ご主人様!宜しいでしょうか」」
ナズはパーンがどういう魔物かは詳しく知らない。
これまで通りだと思い、普通に了解をした。
止めてきたのはアナだ。
勿論想定済みである。
「良いぞ?」
「ナズさんはまだ迷宮に入って数日です。
私も・・・、パーンとは戦った事がありません。
ご主人様はとてもお強く、パーンをも倒せるかもしれませんが、
私は・・・ご主人様をお守りできるかどうか不安です」
想定内の問答だ。
やはりパーンは初心者泣かせの恐ろしい魔物の認識だ。
「パーンの事ならある程度知っている、アナの心配も想定内だ」
「・・・はい」
「アナ、この剣を見てくれ」
デュランダルを取り出して見せる。
「ご主人様の剣ですね。
大変切れ味の良い、恐ろしい剣だとは承知しております」
「そうだ、これには詠唱中断が付いている」
「えっ?」
「詠唱中断だ。詠唱妨害では無い。
これがあればパーンは魔法を撃って来ない。
安心して前だけに集中してくれ」
そういえば、このやり取りはセリーの時とほぼ同じだ。
その時ミチオ君はセリーからドン引かれていた。
鍛冶師の家族を持つドワーフの立場からすれば、
ただでさえ失敗する事が多いスキルカードの合成に、
2個も3個もスキルを付けるのは常識的にあり得ないと言う事なのだろう。
しかしアナはそうでは無く元々奴隷だ。
実家の倉庫から持ち出して来たか、或いは金の力で手に入れたか、
そんな風に思っているに違いない。
アナは想定していた文言を放てなくなって口を閉ざした。
いや、開けっ放しになっている。
「パーンは人型だ、知っているかもしれないが」
「あ、ある程度は・・・」
「格闘術のほかに、距離を取ってからの魔法が脅威だ」
「存じております」
「距離を開かせないように、パーンを上手く追い詰め。
どんどん距離を縮めるのが攻略方法だ」
「ご主人様は戦った事がおありなのですか?」
「いや、無いが、たまたま知る機会があった」
「そう・・・なのですね・・・。
差し出がましい事を申してしまい、申し訳ありませんでした」
「なに、ナズを守りたい気持ちや、自分が無茶をしようかといった時に、
ハッキリと止めてくれる姿勢は頼もしい」
「はい」
「今後も、何か思う事があれば遠慮なく口を挟んでくれ。
臆する必要は無いぞ、知っているのに言わない方が罪だ」
「・・・かしこまりました」
「あの、それで私はどうすれば・・・」
「ナズは今まで通り魔物が後ろに抜けて行かないように塞いだり、
手が出せる場合は攻撃だな」
「解りました」
「横に構えて通せんぼしても良いし、柄の部分で叩いても良い。
その場で振り回せば牽制になるし、魔物だって近寄って来ないだろう。
槍はそうやって使うものだ」
「そうなのですね?色々やってみる事に致します」
そういえばエスケープゴートを後ろに逃がさないためにも、
パーティの立ち回りで敵を取り囲むように散開させる必要があった。
ナズにもそれを練習させたのだ。
なるほど、上手い事ボス戦への布石になっていたのか・・・。
恐ろしいな。(原作者が)
「それよりアナ、8層は何だっけ?」
「8層はニードルウッドと聞いています。
魔法を使って来ると言う話ですが、
私は7層までしか行った事がありませんので、
どのような魔物かは存じません」
なるほど、ニードルウッドか。
この世界へ来て直ぐに出遭った、あのゆっくりした動きの木人だ。
魔法といったが、ミチオ君達は低階層で出遭ったために、
その脅威は無かったのだとセリーの説明があった。
あれの放つ魔法はウォーターボールだ。
撃たれたとしても、パーティ全体に向けられないのであれば脅威では無い。
しかし、8層からは4匹。
低階層の中では後半だから十分撃って来るだろうし、
混戦になれば当たる可能性がある。
オーバーホエルミング中のラッシュ2回で、
通常1太刀の所要時間として考えるならば、
その範囲で倒せる内ならまだ1ターンで落とせる。
そろそろギリギリかもしれない。
7層に出るらしいミノで、
ラッシュを確実に3回出せるように訓練をした方が良さそうだ。
明日の予定が決まった。
6層のボス、そして7層の突破。
8層の様子見と、厳しかったら7層に戻って鍛錬を続行だ。
ニードルウッドからリーフを狙えば薬草採取士に成れるだろう。
しかし現状では新職を設定できるポイントに余りが無いため、
ジョブ育成は商人がLv30を超えてからとなる。
それでも十分だろう。
食器を片しながら、残りの洗濯と片付けを2人に頼んだ。
そういえばもう蝋燭も少ない。
次の市では色々買おう。
そう思って、買いたい物のリストをメモした。
・蝋燭 ・桶
・食器 ・薬
・ナイフ ・あれば魚醤
・下着の替え ・果物
ナズが帰って来て、アナと体を拭き合っている。
もう隠すような素振りは無い。
恥じらう少女はいなくなってしまったが、これはこれで良い。
水浴びをする異世界の美少女達には憧れがあった。
そのうちどこかの山に遊びに行くか・・・。
百合混ざりになってしまうが、お兄さんたちは許してくれるだろうか。
ベッドに横になって、ぼぅっと2人を見ているうちに、
今日の疲れで微睡んで来た。
このまま寝に入ってしまったら、2人はベッドに入り難いだろう。
空いているベッドに行かれるのも嫌だし。
最後の指示をする。
「ナズ・・・」
ポンポン。
「アナ・・・」
ポンポン。
2人の名前を交互に呼んでベッドを叩いた。
後はお任せして先に寝た。
∽今日の戯言(2021/08/02)
百合に混ざりたい男性の性嗜好を葱と表現する動きがあるようですが
残念ながらイマイチ広まってないようですね。
住み分け大事。
・異世界9日目(夕暮れ)
ナズ・アナ4日目、トラッサの市まで2日、宿泊6日目




