§035 周回
スパイススパイダーに再戦を仕掛けた。
今回も丁度良くボスと戦っているパーティはおらず、
ボス部屋に着くなり扉が開かれた。
「アナは正面、ナズはボスの左、自分は右に行くッ、走れ!」
「「はいっ!」」
煙が巻かれた事を確認して、2人に囲うように指示する。
アナは先行し、飛び掛かりを受ける有効範囲を詰めて封じた。
ナズと自分はやや遅れて左右からスパイダーの両脇を押さえる。
「ナズ、回転する攻撃に気を付けろ、こいつは横にも攻撃して来た」
「はいっ」
ナズは槍だからある程度は近接攻撃を受けない。
接近を許さなければダメージを受ける事は無いだろう。
自分は・・・ちょっと怖いので。
オーバーホエルミングで2回のラッシュを掛けたら跳び退く。
いつ回転攻撃が来るかドキドキしたが、
スパイススパイダーはアナの盾にガンガン噛み付いている。
攻撃が単調過ぎないか?
・・・まあ虫だし。
スパイススパイダーは囲めば何でもなかった。
恐れていた回転攻撃も、途中で攻撃対象を変える事も無く、
4回目のラッシュ2度斬りで倒れた。
前のパーティは2人だった。
盾も持ってなかったし、1人が毒で怯んだのだろう。
いや、さすがに毒消しは用意していたはずだ。
モタモタして飛び掛かられて、薬を飲む暇も無かったのかもしれない。
ともかく、正面が崩れたらパーティは崩壊する。
自分達のパーティはかなりアナの盾に助けられている。
前衛は避けるか受けるしかないのだから、
どちらかが上手な者がいればパーティが安定するのだ。
「今回は楽勝だったな」
「そうですね、先程のような事は稀です」
「ナズもどうだった?」
「さっきは怖かったのですが、今回は安心して戦えました」
「アナのおかげだな」
「はい。ありがとうございます、アナさん」
「い、いえ、私はそんな」
「じゃあもう1回行くぞ」
「「はい」」
先程のボス部屋手前の小部屋に、ダンジョンウォークで飛ぶ。
道順は憶えたのでアナに先導して貰う必要は無い。
「ご主人様、右に曲がった所に魔物が、左にも接近する魔物がいます」
「どちらが先に出遭う?」
「えーっと、左の方がこちらに向かっていますのでそちらにしましょう」
丁字路左奥に、魔物3匹が見えた。
こういう事があるから、やはりアナを先行させた方が良い。
道を知ってるからと飛び出すと、碌な事にならないと反省する。
・チープシープ Lv5
・チープシープ Lv5
・スパイスパイダー Lv5
「スパイスパイダーをやる、後は任せる」
「「はい」」
チープシープの横を素通りして、奥のスパイスパイダーに切り掛かる。
と言ってもそう距離は離れていないので、
大股2歩分位チープシープから離れた感じだ。
流石に近いだけあって、チープシープの角が迫って来た。
多分間に合わないのでオーバーホエルミングを念じると、
チープシープの動きがスローモーションになった。
跳び箱を飛ぶ逆の動きで、後ろから迫るチープシープを股下に送り、
上から剣を突き立てて刺した。
まだ効果時間がある。
アナが剣で往なしていたチープシープは、
やや距離があって袈裟斬りするには遠い。
仕方無い、そのまま全力で飛び込んで突いた。
ホールケーキにナイフを入れるような柔らかさでするっと剣が突き刺さり、
チープシープはそのまま煙になった。
「ご、ご主人様は相変わらず滅茶苦茶な動きをなさいますね・・・」
「わっ、私には・・・何が何だか解かりませんでした」
アナには見えているのかな?
動体視力が良くないと躱す事は難しい。
流石は猫人族と言うべきか。
「まあな。ええと、直ぐ近くに別の魔物がいたんだっけ?」
「はい、あちらは動いていませんね」
反対側を見ると、遠くの方にスパイスパイダーが2匹いた。
「2匹のようだな、ちょっと倒して来る」
1人で走ってスパイダーの群れに追い付いた。
オーバーホエルミングがあれば、2匹は容易い。
ぐにゃっーと歪んだ空間の中で、
タイミングを合わせて2匹を同時に切り裂いた。
1匹目はすんなり行くのは解かっていたが、
2匹目は効果が切れて空振りするかと思った。
しかしそんな懸念は払拭された。
そうか、オーバーホエルミングを有効に使うならば、
1匹相手では無く同時に複数当てると言うのも作戦だ。
ナズだって一度に2匹できたんだし。
セリーなんか棍棒だ、それで強引にぶち当てた(らしい)。
効率良くMPを使うと言う意味では、狙える時は狙って行こう。
ナズとアナが追い着いて来た。
「ご主人様は、稀に尋常では無い動きをなさいます。
どうなっているのでしょう」
「たまに瞬間移動していらっしゃいます」
「い、いや、ちゃんと歩いて移動しているが・・・」
「動きが・・・」
「瞬間移動・・・」
2人に嫌疑の目を向けられて牢籠いでしまう。
アナにジト目されると、何かこう・・・良い。
ナズは・・・何と言うか畏敬の目だ。
大丈夫、お前の主人は人間だ。
うーん、説明しておくべきか、誤魔化しておくべきか。
説明しておいた所でそれを頼られて、
いざ使える状況にない場合は困る事になるし、
言っておかねば延々と嫌疑を向けられるだろうし。
「自分でも、たまに速く動いているような気がするのは知っている」
「そう・・・?なのですか?」「いえ、あの・・・」
自分も良く解らない、と言う事にして置こう。
「・・・・」
「・・・・・・・」
「そ、それよりボスだな」
「・・・あ、はい」
それで納得しろ、と、目で懇願する。
「そ、それもご主人様の秘密の1つと言う事でしょうか」
ナズっ!勘の良い子は嫌いだよっ!†
「そ、そうだな。秘密にしておいてくれ」
訝し顔のアナが先行を再開する。
戦闘が始まってうやむやにならないかな・・・。
無理だ。
待機所には先行するパーティがいた。
直ぐに彼らの番が来たらしく、会釈をするとボス部屋に消えて行った。
そして広い待機部屋には自分たち3人が残される。
「ごしゅ──」
「あー、解かった解かった、・・・さっきの高速移動はスキルだ。
何のスキルかは言えないんだが、兎に角そういうスキルなのだ」
「・・・はぁ」
「そうだったのですね。
聞いて良かったのか解らなくて、見るたびにドキドキしていました」
「商人にそのようなスキルがあるとは、聞いた事がありません。
やはり教えては頂けないのでしょうか」
「そうだな、その先は知られたら少し拙い事になるかもしれん。
もう少し、状況を見てから言うかどうか考えたい」
「かしこまりました。スキル・・・、と言う事でしたら、
ご自由に使用できると考えても宜しいのでしょうか」
「まあ、そうだな。
余裕があれば使えるな、とっさには難しいかもしれん」
「余裕・・・ですか?」
「そうだ、不意打ちなんかの時に自動で使える訳では無い。
戦略的に、ここだっ!と思わないと、上手く使えない。
と言うか、自分自身が使いこなせていないので練習中だ」
「そ、そんなスキルだったのですね。
・・・そういう事でしたら私もこれ以上詮索は致しません。
お教え頂き、ありがとうございました」
「そうして貰えると助かる」
種明かしはここまでで良い。
英雄のジョブが反逆罪になるかもしれない、とセリーは言っていた。
この国でもそうなのかは知らないし、
そもそも知られていないかもしれない。
アナが裏切って密告・・・するような事は無いとは思うが、
話が出た際に別パーティが近くにいて、たまたま聞かれるかもしれない。
スキル名も謎のままにして置いた方が良さそうだ。
何かのきっかけでそれを知っている人物がいたとして、
闇討ちされるような事態になったら困る。
──このジョブを知っているのは俺だけで良い・・・。
中二病なハンターが自分を狙ってくる図を想像して身震いした。
「まだかな?」
「まだでしょう」
「そうなのですか?」
「ナズさん、ご主人様と一緒だと気付けないかと思いますので、
一応説明させて貰います」
「はい?」
「これまで苦労する事無くボス戦が終わっていますが、
普通の方々はもっと時間が掛かります。
稀に、利を求めてギリギリの戦いを強いるパーティもいます。
ご主人様はお強いので、私達はとても楽をさせて貰っております」
「そ、そうなのですね、すみません。
ご主人様ありがとうございます」
「前にも言ったように、ナズを落とすつもりは無いからな。
2人が苦労するような階層には絶対に行かないから安心してくれ」
「あっ、ありがとうございます・・・」
「ありがとうございます」
しかし、暇だな。
何かする事は・・・。
「アナ」
「何でしょうか」
「こっちへ」
「かしこまりました」
「尻尾は自由に動くのか?」
「そうですね、ある程度自由に動かせますが」
手招きすると、そこに乗せて来た。
そうそう、これだよこれ。
このツヤ感。肌触り。この硬さ。
「あ、あの・・・」
「駄目か?」
「い、いえ、そういう訳ではありませんが・・・」
アナの尻尾をコリコリして遊んでいると、ナズが凄んで来た。
「ご主人様、私には尻尾はありませんが、髪なら長いです」
「そ、そうか・・・」
差し出されたナズの後頭部に、手を潜らせて髪の毛を指に絡ませた。
しっとりとした太く長いドワーフの髪の毛は、指の間に良く馴染んだ。
誰か来たらどうするんだろう。
どう見てもこれはイチャイチャしてるようにしか見えない。
悪目立ちする前に手を放して2人を解放した。
「つ、続きは夜、だな?」
「は、はい」「・・・」
アナの返事は無かったが、
手から離れた尻尾が、腕を撫でながら遡った。
──ゴゴゴォォン・・・
ボス部屋の扉が開かれたようだ。
前のパーティーは・・・多分倒したのだろう。
「よし、行くぞっ。前と同じようにナズは左だ」
「「はいっ」」
***
その後も、ボスに再戦を掛けた。
道中は魔物が出て来なかったため、
ボス戦の手応えをそのまま残して再戦する事ができた。
4回目ともなるともうやる事も解っているし、
どの位で倒れるかも予想できる。
ある程度無茶をしても平気だ。
オーバーホエルミングでラッシュ3回をヒットさせる練習もした。
深層に行くとこのボスたちが通常の魔物として出現する。
倒し方の理解を深めた方が良いだろう。
苦手なボスをそのままにしたら必ず詰む時が来る。
スパイスは10粒で1セットの扱いなのか、4回倒して40粒になるが、
アイテムボックスには普通に40粒入っている。
仮に5粒だけ取り出して使ってしまったら、
アイテムボックスが一杯になった際に、
入り切らない5粒の余りが出るのだろうか。
それとも、1セットの枠が有効で、10粒全部が入らないのだろうか。
疑念は尽きない。
検証するにはアイテムが足りない。
ナズのアイテムボックスは10セット入ってしまうし、
アナの探索者Lv7でも7セット入ってしまうから、
厳密に検証するなら最低あと4回倒さなければならない。
やっとくか。
切り上げるか。
「ナズ、今何時だ」
「まだ夕暮れには時間があるように思います。早めに帰られますか?」
「いや、後4回位スパイススパイダーを倒そうかなと思って」
「今の速さで回れば、ちょうどその位で夕食の時間かと思われます」
「そうか、じゃあアナ、宜しく」
「かしこまりました」
*
*
*
4回目のスパイススパイダーを倒し、床にはスパイスが転がる。
アイテムボックスには8回分のスパイスが溜まっている。
アナのジョブを・・・、
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv22
もうこんなに強くなったのか。
経験値10倍は凄い。
デュランダルのお陰で魔物は5倍以上の速さで倒し、
アナのおかげで3倍以上の雑魚に出遭っている。
低めに見て経験値効率は150倍だ。
そう考えると、寄り道や休憩もしているから納得のLvなのか。
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 探索者 Lv7
アナのジョブを探索者に戻し、
自分のアイテムボックスから65粒のスパイスを取り出す。
「アナ、ちょっと一時的にジョブを探索者に戻した。
アイテムボックスにこれを入れてくれ」
「ええっ?・・・あっ、おできになるのでしたね。少々お待ち下さい。
八百千五百のお宝を、収めし蔵の掛け金の、
アイテムボックス、オープン!」
65粒ともなると、65粒なのか50粒なのか70粒なのかは、
パッと見て解らない。
アナは疑問も抱かずアイテムボックスへスパイスの粒をザラザラと入れた。
「ナズ、そのスパイスを拾ったらアナに渡せ」
「かしこまりました」
アナが受け取り、追加のスパイスをしまう。
アナのアイテムボックスには渡したスパイスしか入っていないはずなので、
溢れた分が次の1枠に収まっているはずだ。
「アナ、今受け取った分のスパイスが、いくつ次の枠に入った?」
「ええと、全部では無いようです・・・5粒ですね」
なるほど。
どのスパイスでも未使用なら混ぜても10粒で1セットの扱いか。
今後複数個でセットのアイテムが出るかどうかは不明だが、
同じ種類のアイテムはバラしても纏まると言う事を覚えて置こう。
「済まないな、アナ。ちょっと実験をさせて貰った。
スパイスは別のボスの物でも10粒で1セットに纏まるんだな」
「そのような実験だったのですか。
一応知られている事ですが、実際に検証をしてみたのは初めてです」
がーん、知られていたのか。
・・・良く考えてみたらそうか。
纏まらなかったら使い勝手が悪過ぎる。
買い取りカウンターも困るだろう。
「そ、そうか、じゃあ返してくれ。実験は終了だ」
「・・・どうぞ」
75粒・・・(のはず)のスパイスを受け取り、
自分のアイテムボックスに戻す。
アナのジョブも元に戻した。
「では帰ろうか」
「「はい」」
ワープをボス部屋の壁に出す。
・・・次は戦闘中に抜け出せるかどうか検証しよう。
ここから出たら拙いかもしれない。
幸い自分が出した移動ゲートは、
消そうと思った任意のタイミングで消せる。
どういう理屈か解らないが。
「済まなかった。
ここから直接出るのは拙いだろうから、
一応6層のゲートを渡ってから帰ろう」
「そうなのですか?」
「そもそもボス部屋にダンジョンウォークは出せませんからね」
やっぱそうだよな・・・。
旅亭の裏へゲートを抜けると、黄昏が少しだけ残っていた。
∽今日のステータス(2021/08/01)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv26
設定:商人(26)英雄(13)戦士(24)探索者(24)
剣士(17)
取得:村人(5)色魔(1)
・BP124(余り1pt)
鑑定 1pt 武器6 63pt
キャラクター再設定 1pt アクセサリ1 1pt
獲得経験値上昇×10 31pt 詠唱省略 3pt
必要経験値減少/3 7pt ワープ 1pt
5thジョブ 15pt
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv18
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv19
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv28
設定:商人(28)英雄(14)戦士(26)探索者(26)
剣士(19)
取得:村人(5)色魔(1)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv21
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv22
・異世界9日目(16時頃)
ナズ・アナ4日目、トラッサの市まで2日、宿泊6日目
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
4 チープシープ / ビープシープ
5 スパイスパイダー / スパイススパイダー
6 エスケープゴート / パーン




