§033 後ろ
5層のスパイスパイダーからは、毒を体験した。
毒を使う敵だと判っていても、
いざ対処するのは現場では難しいと言う事も理解した。
飛び掛かって来るスパイダー系の動きに対しても、
ある程度の判断ができるようになった。
もうボスを倒して次に進んでも良い頃合いだと思う。
「それで、ボスは?」
アナの尻尾に悪戯しながら聞いた。
「あ、あの、ここを左に曲がった先です」
「そうか」
「・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
あの、そろそろお許し下さい」
「お?・・・おお!す、済まん!つい触り心地が良くって!」
そういえばそうだったと思って、慌てて尻尾を放した。
毛並みは柔らかく、しっかり芯があって、ぐねぐねと動く。
毛の方向に撫でるとするっと進み、
逆側にははっきりと抵抗感があるが、
触り心地は癖になりそうな程良かった。
また堪能したい。
今夜はアナの尻尾で遊ぼう。
「ボス部屋の待機室です」
「そうか、ボスは何か変わった事をやって来るかな?」
「遠い所まで糸を吐きますが、
ホワイトキャタピラーのように広範囲では無いので、
少し外せば簡単に避けられます」
「ふんふん」
「糸に当たってもキャタピラーのように巻かれる事はありませんが、
毒を受けるので気を付けて下さい」
ああ、縛られるんじゃなくて、遠距離の毒攻撃なのね。
「それから、体が大きく足もそれなりに長いので、
飛び掛かられると一気に間合いを詰められます」
「それはそうだな」
「稀に天井まで登る事があり、
その場合は下りて来るまで手が出せないので厄介です」
「ああ、そう・・・」
まあ蜘蛛だし。
「そういう事らしいから、気を付けてな?」
「はい、頑張ります!」
ナズに振ると、勇ましい言葉が返って来た。
待機室の中央まで進むと扉が開いた。
誰も戦っていないのだろう。
丁度昼時で、空いていたのかもしれない。
扉をくぐって3人で駆けて行く。
ボス部屋に中央に煙が・・・、
・・・ない!
ボスは既にいる。
「いるぞ、どこだ!?」
「ご主人様、後ろです!」
アナが叫ぶ。
スパイススパイダーは入り口の扉の上辺りに待ち構えており、
スキル詠唱の模様が赤く足元に照らされていた。
「避けろッ!」
──ビシュッ!
糸が放出され、入り口の扉一番近くにいたナズに絡み付いた。
「ああぁっ」
ナズの悲鳴が上がった。
足を取られて尻もちを付き、腰を抜かしてしまった。
「アナっ、ボスを!」
「はい!」
アナが扉付近まで駆けて戻り、盾を叩いて注目を呼ぶ。
その隙に自分はナズに絡み付いた糸をデュランダルで裂いた。
縛るような糸では無かったので、逆に剣の方に絡み付いた。
このまま攻撃したら毒の剣になる・・・訳無いと思う。
恐らく毒の判定はヒットした最初だけだ。
纏わり付いた糸を手で振り払った。
「ナズ、今のうちに毒消しを飲め」
アイテムボックスから取り出した毒消し丸をナズの口に捻じ込み、
喉が鳴ったので飲み込んだのを確認できた。
嚥下できなくなるような状態は回避されたので安心だ。
スパイススパイダーがアナを目掛けて飛び掛かる。
何しろサイズがでかい。
盾で受けようとしたようだが、覆い被されてアナも尻餅を付いた。
更にスパイススパイダーはアナに咬み付いているようだ。
その連続攻撃を避けようと、
アナはスパイススパイダーの足の隙間からローリングで脱出した。
「この薬をアナにも飲ませろ」
「はいっ」
アナの方は毒を貰ったかどうか判断できないが、
一応ナズに指示をしてからオーバーホエルミングを唱える。
再びアナとの間合いを詰め始めたスパイススパイダーに、
ラッシュを2回叩き込んだ。
3連続ラッシュをするまでの技量は無い。
ラッシュして袈裟斬り、ラッシュして逆袈裟斬り、ここまでで精一杯だ。
ちゃんと剣の特訓をするべきなんだろうか。
オーバーホエルミングの効力が切れると、
スパイススパイダーはそのままアナに突っ込んで行く。
横から斬り付けただけでは注目は引けなかった。
アナは完全に起き上れていなかったが、
そこから更にローリングでナズの手前に転がり、
薬を受け取って口に入れた。
流石は3年、ギリギリの修羅場を掻い潜った技量、動きが華麗だ。
我々全員とスパイススパイダーの距離が広がり、
再び足元に赤い模様が描き出される。
・・・止めるっ!
走ってスパイススパイダーの腹を横からラッシュで切った。
5層ともなるとボスもタフだ。
4層のスリープシープならそろそろ倒せているはずだろう。
スキル発動を失ったスパイススパイダーは、
正面に見えるナズとアナの方へと駆けて行く。
早っ!
慌てて追い掛ける。
2人はそれぞれ反対の方向へ避け、スパイススパイダーは方向を迷った。
そこへ後ろからのラッシュが届き、無防備な臀部を撫で斬った。
しかしまだまだ奴はピンピンしている。
もう一度ラッシュをと思い振り被った所、
スパイススパイダーがグルッと回転して足で払われた。
「うわっ」
足払いとか姑息な事しやがって。
スパイススパイダーが一旦距離を離し、そこから飛び掛かって来る。
これは避けられないと思い、デュランダルを正面に突き立てた。
余欲くばそのまま突き刺さってくれ!
この場合ラッシュが効くのか判らないが・・・。
──ラッシュ!
目を瞑って衝撃に備えるが、何も起こらなかった。
「・・・ん?」
足元には黒い豆が転がっていた。
・スパイス
おお、これが例のスパイス調味料ね。
割と倒すのに苦労したのだけれど。
ひょっとして胡椒を集めるのは大変なんじゃあ。
一応、1匹から4、5、6・・10粒が出るようだ。
調理で使うとなると1回か2回分、いやもうちょっとかな?
兎に角、数回程度だろう。
ミチオ君達はもっと簡単に倒していた気がしたのだが・・・、
あれはもっと低階層だったかな?
単に、ストーリー上の演出で描写が省かれていた可能性もある。
ここは初心者に人気の低階層エリアらしいし、
何か効率の良い狩り方があるのかもしれないが、
今回は結構ギリギリの戦いをしたような気がする。
いや初手が悪かっただけかもしれない。
煙に巻かれた時に3人で囲んでいれば、
トリッキーな動きはされなかったかもしれないし。
「ご主人様、大丈夫でしたでしょうか?」
「ああ、大丈夫だ、アナも毒を受けていないか?」
「多分大丈夫だったと思うのですが、
ナズさんから薬を受け取りましたので、念のため飲ませて頂きました」
「そうか。ナズもご苦労さん」
「はいっ」
「部屋に入った時に、後ろにボスがいたのはちょっと驚きだな」
「そうですね、大抵は直ぐ判る位置にいるものなのですが、
スパイススパイダーは天井にも登ってしまうので、
そういう事もあるかもしれません」
「と言うか、誰かがやられたと言う事か」
「多分そうだと・・・あっ」
アナが指さすと、そこには皮の鎧と銅の剣が2セット落ちていた。
「2人だったのか」
「そのようです」
「ええとご主人様、これは?」
「前のパーティの持ち物だ」
「その方々はどこに?」
「迷宮で死ぬと遺体は消えて無くなるらしい」
「ッ・・・」
ナズが口元を押さえた。
「取り敢えず回収して、次に行くぞ」
「はい、取って参ります」
アナが部屋の隅へ駆け寄って行った。
ナズはまだ気持ちの整理が付いていないようだ。
自分だって迷宮で誰かが死んだと思えば、やるせない気分になる。
幸い誰が死んだのかは知らないし、言ってみれば赤の他人だ。
ここは初心者に人気の階層と聞いた。
欲を掻いたり気を抜いた結果がこうなのだと、ハッキリと示された。
慎重に行こう。
さっきだって魔物の2グループに襲われて四苦八苦したのだし。
「ナズ、あんな風にならないように、自分達は強くなる」
「・・・」
「油断せず、確実に、1歩1歩進めば大丈夫だ」
「・・・はい」
「お待たせしました、皮の鎧が2つと銅の剣2本ですね。
それから皮のブーツと魔結晶もありました」
両手に大荷物のアナから種類ごとに受け取り、
アイテムボックスにしまった。
「そういえば魔結晶をアナに渡していなかった。
それはこれからアナが持ってくれ」
「かしこまりました」
思わぬ臨時収入なのだから喜ばしい事かもしれないが、
誰かの死体の追剥ぎだと思うと正直気が乗らない。
日本なら「祟られるぞー」とか言いそうだ。
ロクサーヌは貰って当然と言う体で回収していた。
この世界の常識がそうなら仕方無いが、
自分たちの荷物がラッキーされないように気を付けたい。
「それじゃあ、次の階層でもちょっと戦ってみようか」
「はい」「・・・はい」
うーん、ナズの戦意が明らかに落ちたな。
∽今日のステータス(2021/07/31)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv25
設定:商人(25)英雄(11)戦士(23)探索者(23)
剣士(15)
取得:村人(5)色魔(1)
・BP123(余り1pt)
鑑定 1pt 5thジョブ 15pt
キャラクター再設定 1pt 武器6 63pt
獲得経験値上昇×10 31pt アクセサリ1 1pt
必要経験値減少/3 7pt 詠唱短縮 1pt
結晶化促進×2 1pt ワープ 1pt
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv16
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv18
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv25
設定:商人(25)英雄(12)戦士(23)探索者(23)
剣士(15)
取得:村人(5)色魔(1)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv17
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 戦士 Lv19
・異世界9日目(午後)
ナズ・アナ4日目、トラッサの市まで2日、宿泊6日目
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
5 スパイスパイダー / スパイススパイダー




