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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第丗章 道筋
274/394

§261 年季

「ただいまーって、・・・アレ?」


プタンノラの旅亭に戻ったが、部屋には誰一人いなかった。

皆は隣の部屋に集まっているのだろうか?

木彫りを進めてくれとお願いした筈なので、その手伝いだろうか。


印刷の仕方を教えるためにも、隣の部屋に向かう。


「のぁっ」


ドアの取っ手に手を掛けると、押す前に引っ張られて変な声が出た。


「し、失礼しました、お戻りになったのですね、お帰りなさいませ」


手には桶が抱えられていたので、

木の板への写し作業も誰かがやっていたのだろう。

桶の水は黒かった。


「いや、問題無い。水を換えて来るのか、悪いな」

「いえ、私にできる事はこの位しかありませんので・・・」


部屋に入るとジャーブとラティが木彫りを進めており、

ナズとパニが複写をしていた。

そうか、パニもなかなか字は綺麗だった。

元町人だしペンを扱うのは慣れていたのかもしれない。


ナズは言うまでもない。

やらせればやらせただけ上手くなる子だし。


アナもエミーも、家事はできるが意外と不器用だ。

針子ができるジャーブは元々器用な奴だったと言う事になる。

カウンター型戦士に求められる繊細な動きは、その賜物なのだろう。


ヴィーはパワー1本だからな・・・。

雑巾を搾ってるのが一番似合うよ。

手拭いをじり切らないか心配だけど。


「「おかえりなさいませ」」「お疲れ様です、この通り順調です」

「オーッ、お帰りナサイ!ってコトはもう終わり?」


「まだだぞ。せめて昼食まではやれ」

「ハーイ」


作業中の木の板を見ると、皆まずまずの進行具合であり、

これならば昼食が来るまでにはお互い1面ずつ終わりそうである。

と言ってもまだ低階層の地図なのだ。

今後、部屋が広い深層階になれば作業は難しくなり、

細かく繊細な技術が求められるようになる。


そのためのステップアップだと思えば良いだろう。

迷宮は段々と複雑になり、徐々に広くなる。

木彫りの作業も次第に難しくなり、その間に技術を高められるはずだ。


紙に刷る方はアナやエミーにもできるのでは無いだろうか。

分担させても良い。

ではそれで。


「ナズ、エミー、パニ、作業を止めて、こちらの部屋に来てくれ」

「「かしこまりました」・・・した」「これは如何致しましょうか」


「それはまた次回で良い、新しい仕事を教える。アナも来てくれ」

「かしこまりました」


4人掛けの机では作業スペースが足りない。

木彫りの組の邪魔になるし、集中できないだろう。

4人を自分たちの・・・いや、女性組の部屋に呼び寄せ、

インクトレイとインクローラー、馬簾ばれんを取り出して見せた。


「4人には、木の板からパピルスへ印刷する技術を覚えて貰おうと思う」

「ええと・・・いんさつ・・・ですか?」

「あの木版で終わるとは思っておりませんでしたが、

 それらを使って一体どうするのでしょうか?」


印刷の技術が無いせいか、皆首を傾げている。


時代背景的には、図書などはまだまだ手写しが基本のはずだ。

歴史書などの場合、禄でも無い写本家に依って事実が曲げられたり、

都合の良い話に書き換わったりする。

図画などは写す度歪になって行くのだ。

手写しの弊害であるが、それが味だと言う人もいる。


まあそれはさて置き、

セリーも帝国解放会のロッジで、

パピルスに書かれたメモを羊皮紙へ写すバイトをしていたはずだ。

我々は攻略情報を綺麗な形で残そうと思う。


「印を押す場合は、判にインクを付けてパピルスに落とすだろう?」

「そうですね」「蝋印の事でしょうか」


「これは逆だ。インクを付けた判にパピルスを落とす」

「ええっと、良く解りませんが、それでどうなるのでしょうか」

「仰っる事は判りました。

 しかし、それでは全て真っ黒になってしまうのでは」

「それよりも、このような道具は僕たちにも扱えるのでしょうか・・・」


「やって見せるので、手順を覚えてくれ。

 どうせ最初は失敗するだろうから、何度か練習をして貰う事になる」

「「かしこまりました」」「分かりました」(こくっ)


インク壺から適量をトレイに垂らして水で伸ばし、

版画用のローラーに満遍無く馴染ませる。

昔は刷毛ハケでやっていたそうだ。


江戸時代に於いてカラクリ人形を作る技術があるのに、

版画用ローラーを生み出せなかったのは技師の怠慢だな。


いや待てよ・・・?

刷毛ハケの方が上手く木版にインクを馴染ませられるのか?

生まれなかったのでは無く、生む必要が無かったとも考えられる。

歴史家でも無いし版画師でも無いので真相は量りかねる。


まあ良いや、難しい事は無しだ。

ラティが彫ったダイダリ1層の木版を持って来ていたので、

ローラーで伸ばしたインクを広げて真っ黒にした。


次にパピルスを上から押し付け、馬簾ばれんで伸ばす。

ある程度強い力で伸ばした後パピルスを丁寧に引き剥がすと、

そこには迷宮の地図が綺麗に浮かび上がった。


「す、凄いです、ご主人様!」

「所々(かす)れてはおりますが、

 使用する分であればラティが描いた物と遜色ありませんね」

「木の板に写される事で終わりなのかと思っておりましたが、

 最後はこうなるのですね・・・」


「とまあこれが1層の地図だとして、33層分集めて本を作りたい」

「本、ですかっ!」「かしこまりました」

「ユウキ様は・・・本までお作りになれるのですか!」


「ああ、それで沢山作って探索者向けに売ろうと思うんだ」

「これまでラティさんに言い付けなさっていた地図の作成は、

 全てこのためだったのですね?」

「概ね承知しております」

「本は高価な物だと聞きます。

 実入りの少ない低階層の探索者が買えるのでしょうか?」


「本とは言っても、しっかりした物では無いからな。

 どうせこの国の迷宮は持って1年、早ければ数か月で倒されると聞いた。

 高い金を出してまでしっかりした地図が欲しい者はいないだろう。


 1層から11層までは1枚30ナール、

 12層から22層まで70ナール、

 23層から33層までが150ナールでバラ売りするつもりだ。

 全部合わせると2750ナールだが、

 全てが揃っている本ならばそれぞれ銀貨3枚、7枚、15枚。

 1層から33層までの全ては銀貨25枚で売ろうと思うが、どうだ?」


「素晴らしいお考えだと思います」

「宜しいのでは無いでしょうか」

「迷宮の地図とは言え、本が銀貨3枚で買えてしまうだなんて・・・」


パニの感覚ではそうなのだろうけど、

羊皮紙を使って綺麗に製本する訳では無い。

単なるメモ帳だ。

雑な作りで十分なので、それほど高い物で無くても良い。


そもそも高いと売れない。

ミチオ君だってクーラタルの迷宮の地図を購入する際は、

羊皮紙の地図は高いといってパピルスの冊子を買っていた。

80層まであるのだっけ?


クーラタルの迷宮の地図は1層1枚10ナールだったはずなので、

80層まで書いてあるパピルスの冊子が1束800ナールだ。

物量からしてかなり安めだと思うが、

あちらは騎士が管理していたはずなので、人海戦術が効いた結果だろう。


我々は民間人、公共事業では無いので取れる物はきっちり取らせて頂く。


ミチオ君達が向ったクーラタルの迷宮は、

事実上討伐する事が不可能な難度の迷宮であるし、

ネーミングバリューや町の規模からして訪れる探索者は多い。


例え1枚10ナールで売っていたとしても、

騎士団は薄利多売でしっかり儲けているのだと思われる。

逆に自分達が作るダイダリの迷宮地図はこの先討伐される運命であり、

購入者はそこで途絶えてしまう。


そうは言っても現在攻略のメインである階層が網羅された地図ならば、

狩場の取り合いへ巻き込まれずに済むし、

凶悪な魔物の部屋を避ける事もできる。

実力のあるパーティーなら逆に魔物の部屋を探したいかもしれない。


実際に迷宮を回って収入を得た感想から算出した、

捻り出すには無理が無いライン。

それが11層単位での小冊子、そして1層当たりの値段設定だ。

我ながら絶妙の価格設定である。


「本と言っても、しっかりした紙で作る訳では無いからな。

 その位が妥当だろう。そもそも手書きでも無いんだし」

「それで、この道具なのですね?」

「問題は・・・私にできるのでしょうか」


「最初は練習なので失敗して良い。

 どうせパピルスにインクだから大した金額にはならん。

 4人で交代にやってみて、できそうなところをやってみろ」

「「かしこまりました」」・・・ました」「頑張ります」


まずはナズとアナがインクの付いたローラーを木版に塗り込む。

ナズは自分がやってみせた1層、アナは3層の地図だ。

エミーとパニがその上からパピルスをそっと載せ、

馬簾ばれんしごいた。


パリパリと気持ちの良い音が鳴り、めくられたパピルスに印字がされる。


──ズビビビッ!


「あっ・・・」


エミーは引き剥がす際に破ってしまったようだ。

パピルスだし脆い。

普通の紙のようには行かないだろう。

インクで吸着した柔い紙を剥がすのには繊細な力加減が求められる。


「あの・・・もうし・・・ありま・・・ん」


悲しそうに見るな!

練習だって言ってるじゃないか。

こういうのは何度もやらないと上達しない。


食材を無駄にして勿体無くなってしまう料理の失敗は許されないが、

こういった図画工作はトライ・アンド・エラー以外に方法が無い。


「気にせず何度もやってコツを掴め。

 失敗した分上達するはずだ。ある程度やったら交代してみてくれ」

「はい、やってみます」

「エミー、次は私にやらせて下さい」(こくっ)

「で、ではナズ様、僕と交代して頂けませんか?」


4人が席を立ち、ぐるっと回って交代をする。

普段関わらない者同士の組み合わせだが、

これはこれで連携が取れていると思う。


その光景だけで満足したので、後はお任せした。

どうせ放って置けば勝手に上達するだろうから、

アレコレと口を挟むのは野暮ってもんだ。


自分は自分の作業に入った。

テーブルでは4人がわいのわいのしているので、

自分はベッドに腰掛ける。

そこで膝を台にして木工作業を開始した。


木の板に穴を開け、ギアを動かす車軸を通す。

もう1つは出っ張りができるように円状の窪みを彫って、

回転ハンドル側のギアを固定する。


結構な量を彫った後、ギアを嵌め込んでハンドルを回してみたが、

ギアは噛み合わせが悪く引っ掛かってしまい上手く回らなかった。


・・・まあ、素人設計のギアなんてそんな物だよ。

何もかも上手く行くのは主人公補正が掛かってる奴だけだ。

自分は物理だの工学だのと言った知識を微塵も持ち合わせていない。

ただの一般市民だと言う事を痛感した。


ええと・・・どうして動かないんだ、これは。

ゆっくり回して考えてみる。


と言うより、回すどころか噛み合った所から微動だにしない。

完全に噛んでしまっている。

嵌め込まれる前と、抜け出す時に遊びが必要かな?

ギアの歯の部分が□型では駄目だって事は理解できた。


そういえば身近にギアを持つ工業品を持っていたじゃないか。

参考にしてみよう。

まったく、ナイス自分だ。


握りハンドル式LEDライトをリュックから取り出し、

蓋をこじ開けて中のギア部分をじっくりと調べてみた。


・・・・・・うーーーん?

確かに、ギアの先端部分は『□』では無く『△』でも無い。

どちらかと言うとその中間の形をしている。

将棋の駒のような先端が尖った5角形だ。


木ギアをそのような形に3,4か所彫ってみた所、

手直しした部分はスルスルと嵌り合った。

さっきまで知恵の輪の如くガッチリ噛み込んでいた木ギアは、

音も無く綺麗に回転を始めたのだ。


なるほど、これで良いのか。

発注する際はこの事も併せて指定せねばなるまい。

またどこから持って来た知識だとつつかれ兼ねないな・・・これは。


いにしえの天才レオナルド・ダ・ビンチは、

数々の不思議な機構のギアを発案した人物だと言う事でも知られているが、

彼の頭にはこういった噛みあわせの理屈が組み込まれていたのだろう。

自分は先人にならうのみだ。


ありがとう、古代人。ありがとう、文科省。ありがとう、ミチオ君。


ひとしきり全ての角を丸めたギアが完成し、

滑らかな回転をするギアに感動を覚えつつ、

目的はまだまだ先だと言う事を思い出した。


隣の部屋に行き、さっきまでナズたちが使っていたペンとインク壷を取る。

ジャーブとラティの木彫りは一段落付いており、

ヴィーが床の木屑を集めて掃除をしていた。


「終わったのか、では暫く休んでくれ。昼食後も続きを頼むぞ」

「分かりました、今日の仕事は主にこれですね」

「えっ、あ、は、はいっ!がっ、頑張りますぅ」

「エーッ!ってコトはこのあと買いものナシッ!?」


午後から遊びに行く気満々だったヴィーが般若の顔で不満を漏らす。

君、一応自分の奴隷なんだが・・・。


そしてそれを注意するパニもここにはいない。

勿論午後を休みにしてやろうとは思っていたが、

こうも露骨な態度を取られると、主人としての威厳がだな。


・・・無いな、それは自覚している。


昨日から期待していたようだし、

ヴィーの今後のやる気にも関わって来るだろうから、

言い方には気を付けなければならない。


「買い物から帰って来てから掃除すれば良いだろう」

「そっか!ヨカッター」


「ジャーブ、ヴィーが外でもああ言う感じなら、

 その時は注意してやってくれ。

 金持ち相手に怒らせてからでは遅いのでな」

「わ、分かりました・・・、やはりマズいですよね・・・」


「後は・・・、ラティもだな。

 ラティは奴隷教育を受けていないので、

 何か行動する前は必ず誰かに相談しろ。

 最低でもナズかアナかジャーブのうちの誰かから了解を取れ、良いな?」

「は、は、はっ、はいっ、わわっ分かりましたっ」


パピルスとペンを持ち自分の部屋に戻ったが、

こちらでは机全体で印刷作業が行われていた。

駄目じゃない。


4人がギリギリ食事を取れる位のスペースしかないのだ。

大掛かりな作業をここでするための机では無いのだし、

折角順調に作業が進んでいるので止めるのも忍び無い。


仕方が無い、ジャーブの部屋で机が片付いたら描こうか。

木ギアを持って部屋を再び移動した。


「と言う訳でちょっと机を借りるぞ」

「はい、構いません、今どかします」


ジャーブとラティは一頻ひとしきり彫り終えた木の板を部屋の隅に片付け、

机を綺麗に払った。


えーっと、まずはギアの拡大図を描いて・・・って面倒だ。

ギア自体はこのまま渡せば良いじゃないか。

これを組み込んだ所の図だけ描けば良い。


再び遠心分離機の図を描き、

ハンドル部分とギアボックスの部分だけを別図にし、

精密なギアの模写は省いた。


勿論シリンダーを嵌めるリング部分は、

遠心力に依って展開するベアリング機構を付け足した。

以前も描いたつもりだったが滲んで見えなくなってしまっていたので、

今回は精密且つ拡大図だ。


後はこれを持って行くだけだな。

といってもシュメールの城内はかなり広い。

今から行っても内周を回っている間に昼食の時間を過ぎてしまう。


複雑な機構をお願いする事になるし、

所長もあちらに何かの手土産を期待していたようだ。

ではその準備もかねて午後からにしよう。


ヴィーは2つのギアが固定された木の板に興味を引かれたのか、

ハンドルをクルクルと回してその動きを眺めていた。

そのうちヴィーの仕事になるかもしれないし、そのままで良いか。

模型で壊さない力加減を学んでくれ。


  *

  *

  *


「──と言う訳で、これを用いて回転する部分を作って貰いたいのです」


午後イチで皮の水筒を買って酒を注ぎ、

パニと共にシュメールへやって来た。

図面を所長に見せ、木の板に嵌め込んである木ギアを渡す。


「これはまた凄い物持って来たね。

 君、本当にただの探索者なんだろうか?

 どこかの国の宮廷技士とかでは無いよね?」


「やだなあ、自分そんな風貌に見えますか?」

「才能がある者はその才能を隠すと言うし、

 君がただ者では無いと言う事は解かるよ」


持ち込む資料や注文の仕方、

金に糸目を付けないし、作成する物は実験器具だ。

そういう筋の者だと最初から思われていても仕方無いのか。


「いや、本当にただの一般市民なので。嘘も偽りも無いですよ?」

「でもいつかは宮中にと思ってるよね。

 これで何を作るか知らないけど、とんでも無い物作りそうだよ、君は」


「いやいや、自分は迷宮をやって細々と暮らす方が性に合っているので、

 そんな所に興味は無いですね。

 宮中なんて堅苦しい所は勘弁願います」

「え~?ココはかなり自由で緩いですよぉ~?

 食事は食べ放題だしぃ」「酒は飲み放題だぜ!」


「でも迷宮へ行ったり外に行ったりはできないだろう?」

「それはまあ、仕方無いね。それだけ裕福に生活できるのだから。

 でも、その位の制限であって、一生安泰。

 老後もこの城内で暮らせるから魔物の心配も無いよ」


「うーん、それでも自分は迷宮に行く方が合っているので・・・」


ボーナススキルで盛れるだけ盛れる上に、

他人より就業ジョブ数が多い。

それらを駆使して迷宮を走破するような転移ボーナスであるのに、

迷宮へ行かずに置くのは勿体無さ過ぎる。


それに余り変な物を持ち込んだり作ったりしない方が良いと思う。

仮に今後同じ世界へ自殺願望者が転移して来た場合、

ファンタジーを選択したはずなのに近代化されていては大問題だろう。


仮にこの世界が21世紀の地球のような文明まで進んだとしよう。

探査ロボットや自動戦闘マシーンなどを作った場合、

迷宮は一気に討伐されてしまうのだろうか。

そうであったならば世界のバランスが崩壊してしまう。


迷宮と言う人類共通の敵があるからこそ世界は戦争も無く平和であり、

資源が豊富で奪い合いも少なく、

迷宮に入る事でジョブが生まれるのだ。


迷宮が無くなれば資源は枯渇し、奪い合いが起き、国同士が戦争を始める。

文明は戦争に因って進化を繰り返し、

現代地球と変わらないいがみ合いを持つ事になる。


そうなると、どうなんだ?


同じ設定で転移した場合、

ココと同じ世界のコピーへ転移する事になるのか?

もしかしてこの世界は個人個人1つずつ存在して初期値が同じ?

余りにも世界を弄り回すと、そうなる可能性も秘めていると言う訳だ。


同じ世界で転移する日付が固定で決まっているとか。

・・・それだと転移者だらけになっているはずだから、その線は無いな。


ミチオ君に会えるかどうかはやはりクーラタルの金物屋へ行き、

家を紹介して貰う以外に確認する方法は無さそうだ。


「何でぇ、あンなトコ俺ぁ就業のために行った1回キリでもう御免だ」

「アレー?バラさんは迷宮で魔物と戦ったんですかぁ?」


「ボクらの時代は騎士など付かず、

 自分らで5階層のボスまで行ってたんだよ。

 うーん・・・10年位前かな?入るだけになったのは」

「俺らの時は騎士団が3人付いて5層まで歩いて行かされたぜ、6回も!

 でっかい牛とか出て来ておっかねえの何の。

 ペーは入っただけかよ、チクショウ」

「そっ、そうなんですねっ、知らなかったぁ~。

 私この時代に生まれて良かったですぅ」


「うん、やっぱり5層となるとさ、

 事故で亡くなる技術者が出て来るからね。

 就業前の身分とは言え、

 国としては大事な技術者を減らす訳にも行かないからね。

 ご家族への賠償金もあるし、だから今は入るだけで戦いは」

(指でバッテン)


「カァーーーッ!ったくよぅ。だから今の若いモンは根性が無ぇンだ」

「エー!?だって私が決めたんじゃ無いですからねっ!?

 私は行く気だったしぃ、母からお下がりの装備まで貰ったんですよぉ?」


「ソンでも行って無ぇなら──」


そ、そうなのか。

確かにジョブ就業には村人Lv5?が必要だろう。

その為の経験値稼ぎとして5層への到達が目標とされている。


以前は自力で行かねばならなかったが、

貴重な技術者を迷宮で失う事が多かったのだろう。

現在では日々訓練する騎士団のパーティに入れ、

迷宮外レベリングする事で身の安全を確保している訳だ。


セリーの話ではそういった事は貴族ならやると言う話であったが、

この国ではそうやって普通に迷宮外育成が行われている。


ペルマスクも確か迷宮を持たない離れ島であったはずだから、

細工師や錬金術師の育成は、

ここと同じように探索者や冒険者のパーティへ入れさせ、

迷宮外育成に依って就業させていると考えられる。


職人の卵とは言え、連れ出して逃げられては大変だ。

技術や知識は就業前から教わっているだろうし、

知識だけでも持って外で拡散されては困る。


恐らくその迷宮とやらもこの城門内のどこかにある訳だ。

町中に魔物が沸いては大変なので、

定期的に騎士達が入って制御しているのだろう。

ならば、ここでもドラッハのような管理迷宮があるのだな。


取り敢えず所長は自力でLv5まで上げ、

バラさんは騎士団の協力の元やはり自力で5層まで到達し、

ペイルネッタは迷宮に入っただけらしい。


言われてみれば?

確かにペイルネッタは苦労をあまり知ら無さそうな雰囲気だ。

今時の子って感じはある。


そういえば、名前名前。


 ・バラエボ    ドワーフ♂ 32歳  細工師 Lv12

 ・ペイルネッタ  エルフ ♀ 26歳  細工師 Lv4

 ・ウィーバ    人間  男 51歳  細工師 Lv22


へー、所長は結構高齢なんだな。

10年前から入るだけになったのであれば、

ペイルネッタが細工師へ就業したのは16歳前後だったと言う事になる。

15歳で成人らしいし、納得の勘定だ。


そしてバラさんとはバラエボさんであった。

でもバラさんで良いや、その方がしっくり来る。


「まあまあ、2人とも。良いじゃない、人は人、自分は自分だよ。

 ボクから見れば、バラエボ君も最初の頃はどうかと思ったけどね」

「おっ、おう・・・」


2人の愉快なやり取りが所長に依って止められた。

が、再びまた2人は騒ぎ始めた。


「え~?ドンなだったんですかぁ~?」

「アー!ナシナシ!所長、言わんでくれ、な」

「ははは、結局は年季だけの問題だよ。

 ペイルネッタ君もそのうちドッシリ構えた頼れる細工師になるさ」


「ですよね!流石、私!」

「そういう所だっつってんだろっ」


仲が良いな。

ドワーフとエルフがどうのと言うのは、

職人同士の間では関係が無さそうだ。


「あー、で、頼んだ方の物なのだが」

「ああ、うん。あちらにお願いして置くから、それは任せてくれたまえ。

 逆に君のような優秀で冷静な若者を見ると、

 今の時代も捨てたもんじゃ無いなって、ボクは思うよ」

「あーっ!今私の方見ましたねっ!?」


「おう、そんでよう、頼まれた難しい奴はもう提出しちまってるが、

 多分アンタの理想通りになったと思うから注文して受け取ってくれよ」

「そうだね、あのへんな形の入れ物、名前が解らないんだけどさ、

 一応、出して置いたから。申請、お願いね」


「おおっ、アレがとうとうできましたか。ありがとうございます。

 この場で何もお礼ができませんが、感謝の意を」

「そんなそんな。かしこまる必要は無いよ、

 ボクらはそれが仕事だからね。

 お礼なんて良いの良いの。国の方からたっぷり、ね?」

「私はあの美味しいビスクビットで!」

「それよりこの前の酒、なんて言うのか教えてくれよ。

 注文しようにも名前が解らないんじゃあ呑みっぱぐれだ。

 仲間のドワーフにも自慢したんだが、名前が解らないんでな。

 このままだと法螺ホラ吹き呼ばわりされちまう」


「ええと、ビスケットはフローダルの酒蔵の前の食堂で、

 ドーバシューギアと言う名前で売られている。

 酒はサンドラッドのプタンノラと言う街の特産品で、魚骨酒と言う。

 一番大きい瓶で買うと、その分安くなるし見た目で驚くと思う」


「おうっ!これでまたアレに在り付ける。助かるぜ」

「わぁー、じゃあいっぱい買うんだったら私にも分けて下さいよぉ」


「ハァ?お前が欲しいなら自分で買えっ!」

「えーっイイじゃないですかぁ、ちょっと位ィ~」


また時間が掛かりそうな問答を始めたぞ。

もう用事は無いのだし撤収に限る。

定期的に持って来て下さいとか言われたらたまらない。


「では自分はこの辺で。

 これ、うっかり忘れて行っちゃうけど、もう取りに来られないかも」

「ああ、頼まれた品物は完成したら手紙を出そう。

 置いて行ってしまった物に付いては、

 取りに来られないならばこちらで処分して置くヨ」


所長はニコッと笑ってパピルスの包と水筒を受け取った。


「ではこの街の時計亭で。木の模型は完成した商品と一緒に返して下さい」

「了解した。また君と仕事ができる日を楽しみにしているよ」


「あははは、もうこれ以上は無いと思いますけどね」


無いと思うよ、本当に。

色々作り過ぎてもね。

どうしても必要な物だけで良い。

便利に暮らす必要は無い。


小雨が降るシュメールの中壁を、やや小走りにして帰る。

竜革のブーツなので水が靴の中に侵入して来る事は無いが、

それでもじっとりとした空気の中では蒸れて気分が悪い。


今回は外套を被っているのでずぶ濡れになる事も無かったが、

それでもやはり雨の中で長時間外へ出ていたくは無い。

傘があるのだっけ?

コウモリの羽を縫い合わせた蝙蝠傘こうもりがさが。


日本では和紙を張り合わせた和傘があったが、

ヨーロッパでは17世紀までは傘らしい物は無く、傘といえば日傘。

日避けの天蓋を従者が持って歩いたと言われている。

金持ちは雨の日に外へ出ないのだ。


一般市民は・・・この外套のみだ。

江戸時代だって農民や町民はみのを被っていたし、

傘と言えば精々三度笠であった。

アレは日避けの用途だが。


現代でも通用するような蝙蝠傘こうもりがさなのであれば、

雨具に関しては意外と進んでいる?

・・・いや、でもなあ。


実物を見た訳では無いし、どうせ高級品だろう。

現代の傘だと思って無理に注文しても、使い物にならない可能性はある。

やはり時代背景的に言えば、

使用人に持たせると言う考え方で間違っていないはずだ。


しかし自分が運用するならばそれでは駄目だ。

自分だけ濡れずに、持っている者が濡れるのであれば可哀そう過ぎる。

奴隷なのだから良いだろうと言う世界なのだろうが、

自分はそんな図太い性格では無い。


どうせ迷宮へ行くだけで外に出る用事なんてほぼ無いのだし、

トルキナでは殆ど雨が降らないじゃないか。


外套が一頻ひとしきり重たさを感じる位まで濡れ切った後、

パニと合流して宿に戻った。


プタンノラでは雨こそ降っていないものの、

いわゆる雨上がり直後の篭ったような空気が重く広がっていた。


どんより曇った空に湿度が高い宿屋の中息苦しく感じ、

エアコンも扇風機も無いこの部屋で寝るのは厳しいとさえ感じられた。

文明の利器に囲まれたひ弱な日本人であったので。

∽今日のステータス(2022/03/22)


 ・繰越金額 (白金貨30枚・利用券2枚)

     金貨 29枚 銀貨 25枚 銅貨123枚


  手土産               (275й)

   ハニービスケット ×6        75

   皮の水筒              200


            銀貨- 2枚 銅貨-75枚

  ------------------------

  計  金貨 29枚 銀貨 23枚 銅貨 48枚



 ・異世界76日目(昼前)

   ナズ・アナ71日目、ジャ65日目、ヴィ58日目、エミ51日目

   パニ44日目、ラテ23日目、イル・クル20日目

   プタン旅亭宿泊6/20日目 シュメ旅亭宿泊6/20日目



 ※ ユウキの作った特殊な形状のガラス容器は

  「下口セパラブルフラスコ」といって、

  沈殿した液体を規定量下から抜き取る器具です。

  或いは抽出する液体の量をコントロールすることで、

   一滴づずゆっくりと別の容器に入れ替える事ができます。

  市販品ではウォータードリッパーと言う商品があります。

  水出しコーヒー用で、スリープサイフォンとも呼ばれています。

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