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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第廾章 機転
212/394

§200 口上

決闘の日。


緊張した気持ちで朝を迎える。

肩に力が入り過ぎているのだと、自分でも判る。

背中の筋肉がブルブルと震え、その振動は腰から腕まで感じられる。


別に恐い訳では無い。

気が引き締まっている証拠だろう。


ナズの優しい抱擁を、きつく返して返事をした。

その後ろからアナが更に優しく包み込む。


「おはよう、2人とも」

「おはようございます、ご主人様」

「おはようございます。

 今日は弥々(いよいよ)決着をお付けになる日ですね」


「わ、私はご主人様を信じておりますので」

「ご主人様は負けないと知っております」


2人の信頼は厚い。

アナは自分のスキルを熟知している。

自爆玉への対処もイルマとの書面を介して懸念を伝え合っていたので、

何かしらの対策をしたのだと言う事は判っているだろう。


しかしオーバースキルの二重掛けや、

反射スキルの二重掛けに付いては説明していない。

自分の関心が決闘そのものよりも自爆への対処ばかりだった点に於いて、

アナは色々察しているはずだ。


「朝は軽めに、それから全員仕事をさせずに食卓へ呼んでくれ」

「「かしこまりました」」


食卓のテーブルに着く。

まだ朝食は準備されていない。

全員がテーブルに着いたので話を始めた。


「さて、今日は以前から言っていたようにボルドレックとの決闘へ向かう」

「えええぇぇぇぇーっ!?」


ラティが驚きおののいた。

そうだった、ラティは知らないし言っていない。


「ラティはちょっと静かに。後でアナから聞いてくれ」

「はっ、はい・・・すっ、済みません」


「と言っても戦うのは自分だけで、

 お前達には負担を掛けないので安心してくれ。

 その代わりお前達には仕事がある。


 金を渡すので札を買って来てくれ。

 ナズとアナは決闘の場へ出す事になるので、お前達が頼りだ。

 宜しく頼むぞ」

「ええっと、要するに俺ですかね?」


「そういう事になるな。

 購入する札の数に制限があったら、ヴィーやラティを活用してくれ」

「分かりました」


「ジャーブは公開試合で賭け札を購入した事はあるか?」

「ええと、はい。以前言った幼馴染が賭け事は大好きだったもので・・・」


そういえばそいつの所為せいでこうなったのだったな。

買った事があるなら説明する必要も確認する必要も無くて安心だ。

大金を渡す事になるだろうが、その位にはジャーブを信用している。


納屋の床下へ隠してあった白金貨2枚は、先程回収しておいた。

それをアイテムボックスから取り出し、淡々と机に並べる。

更に積み上げた50枚の金貨をジャーブの前へ送った。


「こ、これは・・・白金貨ですか。はっ、初めて見ます」


ジャーブの声を皮切りに、ナズとアナ、ラティが覗き込む。

ヴィーはそのまま、エミーは無反応だ。


ヴィーは食べる方に困っていたのだから、

金よりも食べ物の方が嬉しいのだろう。

本当の貧困とはそういう物だ。


ナズは本人の価値が現在500万ナールだと、先日知った。

テーブルに置かれた小さな貨幣5枚分が等価であると言う事に、

彼女は何を思ったのだろうか。


「では食事後にジャーブはルイジーナの騎士ギルドへ。

 札を買って観戦してくれ。

 ・・・あーっと、そうだ。ミサンガを外すので足を出せ」


ジャーブとヴィーからミサンガを回収した。

アイテムボックスでは無くポケットに忍ばせる。


「ルイジーナに行く際は以前買った良い服を着て行けよ?

 そのヨレヨレの服では格好が付かないからな」

「分かりました」

「あ、アタイそんな服もってないけど」

「わ、私もありませんがっ」


「お前たち2人はジャーブのお付きの者だからな。優劣は大事だ」

「ふーん?」「はっ、はいぃぃ・・・」

「俺、責任重大ですね・・・」


ジャーブはルイジーナの街も知っているようであった。

それもそうか。

探索者として迷宮に来た事があったのだし、街も歩いた事があるはずだ。

元一般人なのでこういう時は助かる。


ジャーブ達をルイジーナの冒険者ギルドに送り、

自分は召かし込んだナズ、アナ、エミーを連れてトラッサの商館へ向かう。

そこでシラーに挨拶して奴隷1人を借り受けた。


「ご要望の奴隷をご用意致しました。

 戦闘に出さないのであれば、代金は不要です」


背格好や髪型は似ているが、顔の作りは異なる。

彼は眉が濃く、目の彫りが深く、鼻が高く、典型的な西アジア人の男だ。

自分は顔が平たく、目の彫りも浅く、鼻も高くない。

平たい顔族である。†


 ・ジトミール  人間  男  探索者 Lv4


「ジトミールと申します。本日は宜しくお願い致します」


「宜しく、早速だがこの仮面を付けろ。

 今日これから、お前には自分の身代わりとして主人の席へ座って貰う。

 自分以外から何か問われたらこちらのアナに相談する振りをして、

 お前は口を開かずアナから代弁して貰ってくれ」

「かしこまりました」


本日の用件をレンタル奴隷に伝えた。

決闘の場へレンタルされてどう思ったのだろうか。

そして主人の身代わりとして座るだけと言う役目に対して、

再びどう思ったのだろう。


「ところでユウキ殿はどうやって現地まで?」


そうだ、ナズもアナも冒険者では無い。


自分は商人なのだから、ここから直接向かっては不自然だ。

決闘の際にはシラーにも立ち合いを求めるのだし、

バラバラに行くのでは無く、一緒に行くべきではある。


「ええと、冒険者ギルドから飛ばして貰おうかと」

「私の使用人がおりますので、ご一緒致しましょう」


「それは有り難い、お言葉に甘えましょうか。宜しくお願いします」

「はい、それではお待ち下さい」


シラーがヨシフへ後を任せると言って部屋を後にした。


「ヨシフ殿は無事奴隷商のジョブに?」

「ええ、おかげ様で仕事を任せて貰えるようになりました。

 と言っても、実際にお客様との契約を行う方はこれからですが」


「ははは。昨日の今日でそれは無いでしょう、でも直ぐですね」

「そうですね。ユウキ殿のおかげです。

 いずれユウキ殿がお困りの際には私どもにご協力させて頂ければ」


「それが今日なんですけどね」

「ははは、それもそうでした。

 貸し出す奴隷を、是非有効にお役立て下さい」


シラーは冒険者であろう男と戻って来た。

使用人と言ったし、奴隷では無いのかな?

身なりはそこそこ良さそうであるので雇用人だろう。


こういった商売なのだから色々な街へ飛ぶ必要がある。

冒険者の1人は必要だ。

それに冒険者の奴隷ならば使うより売った方が良い。


男がパーティ編成の詠唱をする。

そうだった、こちらはパーティを解除しなくては。


自分達4人と、冒険者の男、シラーが入って6人。

あれ?レンタルした1人はどうするんだ?


「ではまず皆様を、お先にどうぞ」


「あ・・・はい。申し訳ありませんね、助かります」

「ではお先にどうぞ。我々は後程」

「行ってらっしゃいませ。私はここでご健闘をお祈りしております」


自分を含め4人が先に冒険者ギルドへ送られ、

パーティが分解されて暫くするとシラーと冒険者の男、

そしてレンタル奴隷がやって来た。


ここからは騎士団ギルドまで徒歩だ。

以前牢にぶち込まれたので場所は知っている。

その時にはまたこうして赴く事になるなんて思いもしなかった。


騎士団入り口には仮設の詰め所が設けられ、

そこで札を売っているようであった。

町人たちが札を求めて行列を作る。

ジャーブ達の姿は見えないので、もっと奥の方に並んでいるのだろう。

パーティを分解してしまったので、もう影を追う事ができない。


自分達は列の横を抜け、騎士団の母屋の方に直接入って行った。



   ***



騎士に案内され控室のような部屋へ通される。

ボルドレックたちはまだ姿を見せていないそうだ。

廊下でち合わないように配慮されているのか、

控室は入り口から入ってあちらとこちらで隔てられているらしい。


シラー達は別の部屋に案内されたようだ。

関係者ではあるが第三者だし、公平と言う意味ではそうなるのだろう。

逆にその方が助かる。


時間まで用意されたソファに座って待った。

ボルドレックだってまだ来ていないし、

あの札の列が終わらないと試合は始まらないはずだ。


ボルドレックは直接主人の命を狙って来る可能性もある。

レンタルした奴隷が殺されては可哀想だし、

賠償金の問題も出て来るので保護しなければならない。


ジトミールの足首に身代わりのミサンガを巻き、

パーティに入れて反射鏡と破魔鏡を掛けた。

これで2発までは安心だろう。


あ。


そう言えば戦闘時では無い訳だから、

今掛けてもリセットされてしまうな。

ま、まあ1発防ぐだけでも十分だよな?

もし死んでしまった場合は許して欲しい。

賠償金は幾らなのだろうか。


と言うか主人に向けて直接手を掛けて来た場合、

責任の所在はボルドレック側なのだから正々堂々と賠償請求できるよな。

ナズへ掛けられた賠償金が次男の200万ナールだったのだから、

本家主人なら500万ナール以上を吹っ掛けられるはずだ。


・・・そう思うと主人への直接攻撃は無さそうかな?

ま、まあそれすらも奴にははした金だって言う可能性もある訳で、

やっぱり身代わりのミサンガだけは一応付けて置くべきだ。


ジトミールに被せたマスクを一旦外し、自分の装備を身に着けさせる。

アナに頼んでジトミールの眉を自分と同じ位の細さへ剃って貰った。

それから髪型の調整を行う。

更にはカルバミを塗りたくって肌の色を調整した。

かなり自分に近くなったのでは無いだろうか。


仕込は完了だ。


命令すると四の五の言わず素直にキビキビと行動する辺り、

教育された奴隷の使い易さには感心する。


ヴィーやラティとは大違いだ。

ヴィーの場合は奴隷と言うより孤児を保護した感じではあるが、

ラティのポンコツっぷりがよく判る。

一般市民だったとしても彼女はかなり怪しいぞ。


続いてナズとアナのミサンガも、ちゃんと付けられているか確認して置く。

陽動を誘いアナを狙って来ないとも限らない。

追い詰められたらナズを始末して幕引きして来るかもしれない。

この2人に対しても万全の状態が必要である。


ソファは6つあるので全員が座れるが、自分を除いて全員が立っていた。


「ジトミール、座れ。

 お前は自分の替わりとして、主人のように振舞う必要がある。

 マスクを外して外に出たら堂々として、胸を張って歩け。

 上手にできたら報酬を出す」

「かしこまりました」


自分とジトミールの2人がソファに腰掛ける。

ジトミールはアナに再びマスクを被せられ、こちらの状態は整った。


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳  商人 Lv30

  設定:商人(30)探索者(62)


   竜革のブーツ(空き)

   身代わりのミサンガ(身代)


 ・BP128(余り62pt)

   鑑定          1pt

   キャラクター再設定   1pt

   ジョブ設定       1pt

   7thジョブ     63pt


 ・ジトミール  人間  男  探索者 Lv4


   強縮のサーベル(麻痺添加 詠唱中断 石化添加)

   木の盾

   不眠の竜革カチューシャ(睡眠耐性 毒耐性 麻痺耐性)

   ミスリルジャケット(空き 空き)

   竜革の手袋(空き 空き)

   駿馬の竜革靴(移動力増強 空き)

   身代わりのミサンガ(身代)



   *

   *

   *



暫くして騎士が部屋の前にやって来た。

名前を呼ばれ準備ができた事を告げられる。


と言うか名前しか理解できない。

自分が人間族なので人間語で喋って来るのは理解できるが、

それが理解できないので困り物だ。


「では行くぞ。ジトミールは自分の動きをよく見ておき、後で真似てくれ」

「かしこまりました」


騎士に連れられてギルド建屋を後にする。


多くの観衆が広場の周りに集まっており、

自分達の戦いの様子を見物に来ていた。


いや、見物ではなく賭けだ。

皆、目が金だ。

ジャーブ達の姿は・・・あった。

パーティ編成スキルを使用して6人パーティに仕上げる。


仲間の持つステータスボーナスは大事にしたい。

ナズの鍛冶師、アナの暗殺者、ジャーブの騎士、エミーの料理人、

それからヴィーの竜騎士だ。


いずれも物理属性に関係するステータス上昇が見込まれる。


特にヴィーの持つHP上昇効果は頼りにしている。

Lv50に近い竜騎士だ。

HP2倍・・・は言い過ぎだが、

相当量のHPが底上げされていると思って良いだろう。

自爆攻撃に耐える算段を高めたい。


指定された場所に到着して暫くすると、

遅れてボルドレック一行がやって来た。


なるほど・・・見るからに胡散臭そうなザ・金持ちと言う感じだ。

やや小太りで体に似合わないカラフルなタキシード。

直ぐ後ろに2人の綺麗所が並ぶ。

そしてイルマともう1人、多分家政奴隷だ。


所持する奴隷を陳列するに当たってズルは無い、と言う事だろう。

自信の表れだとも言える。


戦闘奴隷は、その後ろに1,2,3,4,5・・・おっ、多いな。


「ハン!どこの家の者かと思ったらこんな若造か!

 この私に盾突こうなんて良い度胸してるなあ?

 ・・・覚悟はできているんだろうなぁ」


あまりにもテンプレ通りの文言を掛けて来るものだから、

思わず吹き出しそうになってしまった。

笑いを堪えて苦い顔になる。


寡黙な男と言う設定にしないと、

主人として立つジトミールへ何か発言を要求された際に困るので、

アナに向けて手招きして耳打ちする振りをした。


「おい、アナ、何か言え」


・・・我ながら無茶振りである。


せめてセリフを与えてやるべきだろうが、

何も思い付かなかったので丸投げしてしまった。


「コホン、失礼します。

 この決闘は奴隷同士を賭ける戦いとなるはずですが、

 こちらの差し出すナズさんと比べまして、

 そちらの奴隷はあまりにも価値が掛け離れております。

 対価としてそちらの奴隷は2人を要求致します」


「はぁぁぁぁぁぁぁ?

 何だってぇぇぇえぇ?

 貴様!この私に注文する気か!」


ボルドレックの怒りが一瞬で頂点に達した。

アナも中々怖い物知らずである。

自分からそんな事はよく言えない。


「お言葉ですが、そちらの奴隷は何か特別な技能はお持ちでしょうか?」

「何だと!?貴様知ったような口を利きおって!

 屋敷に従事する奴隷はそれだけで価値があるのだ!

 50万ナールは下らない!」


「それでは話になりません、こちらのナズさんは今でも酒場の歌姫。

 若く美麗で、それだけで50万ナールは固いでしょう」

「だから何だッ!」


「屋敷の奴隷と言う意味ではこちらも同じです。

 炊事は勿論、ご主人様の下で異国の料理を幾つも習得しております。

 彼女の手掛ける料理は多くの街で話題になっており、

 名のある方からは食堂の出店を希望されております。

 従いまして、更に50万ナールの付加価値がございます」

「なっ、何だと?聞いておらんぞ、そんな事は!」


「そして彼女は鍛冶師です。

 鍛冶師の奴隷は100万ナールではきません、

 お安く見積もりましても、更に100万ナールを上乗せさせて頂きます」


「その娘が鍛冶師だと言うのか!」

「先日、彼女の働く酒場に貴方様の使者がやって来られました。

 その際に目の前で装備を作成してみせましたので、

 ご報告はされている物かと思っておりましたが・・・、

 もしやご存じ・・・ありませんでしたでしょうか?」


「なぁぁんだとぉ!」


ボルドレックが観衆の1点を睨み付ける。


その中に例の手の者がいた。

顔は憶えているが名前までは・・・。

鑑定しようにもここでやったらウィンドウだらけで、

逆に探すのは困難だろう。


それに、別に知った所で意味は無い。


それよりもボルドレックの方は知らない様子だったので、

ナズの捜索を任された男は相当いい加減な報告をしたのだと思われる。

べっかを使うだけで、実務の方はお察しだ。


そんな男の事業なんて底が知れていると思うが、

商会の名前を出すだけで相手が震え上り、

その上で強引な商売をして来たのかもしれない。

そうであった場合、その権力が失墜した時は見ものである。


サボー・・・そう、ロクサーヌを追い込んだ、

バラダム家の当主サボーのような末路が。


あれはバラダム家の当主自体を殺ってしまったのだから当然の結果だが、

今回のような決闘ならばボルドレック自身への直接的な危害は無い。

あくまでも彼の金と名声を削るだけだ。


ボルドレックの名を多少は折る事ができるだろうが、

背後にある依存関係までを断ち切る訳では無い。

失墜とまでは行かないだろう。

精々こちらに手が回って来ないよう牽制する位だ。


勿論それで十分である。


「それから・・・」

「まだあるのか!」


アナの挑発が続く。


「彼女は迷宮56層を渡り合える槍の名手でございます。

 ただの鍛冶師などでは無く、

 この国最難関の迷宮でも戦える実力がございます。

 ですので、決闘用の戦闘奴隷としても十分に通用する腕前です。

 シルクスの騎士団隊長様からは直々に手合わせを求められております」

「なっ!何だとッ!」


「そんな彼女が奴隷として取引される場合、

 やはり100万ナールの付加価値があるでしょう。

 先日行われた騎士たちとの合同遠征に同行した実績がございますので、

 証言はそちらの騎士様にお聞き下さい」

「うぐっ・・・」


ボルドレックが観衆の1点を睨み付ける。

ああ・・・彼は終わったな。


現代日本なら責任を取って馘首だろうが、

この世界ではそんな生易しい物で済ませて貰えるだろうか。

あの者は今後枕を高くして寝られないと思う。


と言うか今直ぐに首が直接刎ねられてもおかしくない位の失態である。

まるで報告がなっていない。

こんな世界観で報連相の社内教育が行われているとも思えない。

恐怖政治の末路とも言える。


ボルドレックが口を噛み締める。


「そういう訳ですので、こちらは2人の奴隷を要求致します。

 その代わりにこちらも、私を含めまして2名の奴隷を提出致します。

 大幅に安く見積もっておりますので、この条件を飲まれないのであれば、

 決闘はこちらに何のメリットもありませんので辞退致します」


「フ・・・・・・ハハッ!ハッハッハッハ!

 馬鹿め、勝てると思っている辺りが青いのぉ。

 1人でも2人でもくれてやるわ、勝てたらなぁッ!」


「では言質げんちを取らせて頂いたと言う事で宜しいですね」

「フンッ!好きにしろ!」


「あー、コホン。そろそろ始めても良いかな?」


痺れを切らしたルスラーンが割って入った。

いやタイミングを読んでくれたと言うか、協力してくれたと言うか。

アナの問答を待ってくれた辺り、かなりの助けになった。


と言うかアナは勝手に報酬として奴隷2人を引き出して来た。

有能過ぎない?

イルマ以外要らないんだけど。


あっそうか、売れば良いのだ。

屋敷の奴隷は高いらしいし。


「お互い腕を出せ。おっと、戦闘奴隷たちは良いぞ?」


アナまで腕まくりをし始めたのでルスラーンが止めた。

アナも決闘のルールを知らないのだろう。

迷宮用の戦闘奴隷には縁の無い話だ。


「どうぞ」

「一瞬で終わらせてやる!」


ルスラーンに腕を捲って見せ、

ボルドレックと自分の名前とジョブが大声で読み上げられる。

観衆が沸き立った。


現在のジョブ構成はメイン(1stジョブ)が商人。

インテリジェンスカードのチェックを終え、戦闘用の構成に直した。

ボルドレックのセリフがいちいちツボに入る。

顔を背けて必死に笑いを堪えた。


審判・・・いや、見届人であるルスラーンが中心になり、

その左右にかなりの距離を空けて決闘人用の席が用意されていた。

ボルドレックはこちらから見て右、自分たちは左である。


本来はあそこに座って、戦闘奴隷が行う戦いを見る事になるのだろう。

だがその席に座るのは借りて来たジトミール、戦うのは自分である。


公開試合に於いて、当然ボルドレックは経験者であるはずだ。

と言うかあちらから吹っ掛ける位には血気盛んなのだ。

勝手は解かっているのだろう。


説明を受ける前にズカズカ進んで、用意された席に座った。

4人の女奴隷が付いて行く。


「ルスラーン隊長、奴隷の指名と交換が行われておりませんが」

「お、それもそうだな。ただの決闘と違って賭けだったな」


ルスラーンが横の騎士に一言二言告げ、ボルドレックの前に走って行った。

子飼いの4人の女奴隷ともう1人、男がこちらに歩いて来る。

あれがボルドレックの抱える奴隷商なのだろうか。


「主人から依頼されて参りました。

 まずはそちらの奴隷を私にお譲り下さい」


「そんな事できるかっ!譲り先は見届人だろう」


思わず声を出してしまった。


「それもそうだろう。

 お前達がそのまま逃げないとも限らんので、一旦私が預かる事にする」

「しっ失敬な。この場に及んでそのような事は奴隷商人の名折れ。

 そのような事をするはずが無かろう」


「無いなら大丈夫であろう?一旦私が預かるだけだ。

 まさかこの私が逃げ出す訳もあるまい?」

「し、仕方ありませんな、で、どの奴隷になさるおつもりで」


イルマを見詰める。

そして目で訴え掛ける。


  ──誰にする?


先程のやり取りは目の前で聞いていたはずだ。


イルマの右には長身長髪で胸が大きく目付きも柔らかで大人しそうな女性、

その隣にはやはり胸が大きくウェーブ髪でやや釣り目な勝気そうな女性、

そしてイルマの左には同じ位の背格好の、

可愛いと言う訳では無いが利発そうで肩まで髪を伸ばした女性がいた。


イルマは瞳を動かして左を指定した。


右2人は恐らくボルドレックの愛人1号と2号だろう。

1番、2番とするならば序列は高いのだと思う。


イルマはボーイッシュで短髪。

美形ではあるが特別に美麗と言う程でも無い。

勿論好みの人は多いだろうが。

麗しい方から数えて3番目なので、イルマの序列は3番なのだろう。


その左と言う事は、序列的に一番低い。

賢そうではあるが美人でも美形でも無い。

要するに一番残念な立ち位置だ。


かつてその上か下の位置にエミーがいたはずだ。

助けてくれるような者は居なかったし、その所為でエミーは心を閉ざした。

この女性をあの屋敷から出してやってくれと、イルマから頼まれたのだ。


「綺麗所を2人も貰っては悪いので、下から2人にしよう。

 うちにはもう1人、この美人がいるし」


アナを指さして自慢した。


「自信がお有りのようですが、後で泣くのは貴方様ですよ」


あちらの奴隷商がインテリジェンスカードを操作し、

結果をルスラーンに見せる。


「うむ、確かに」


「では、シラー殿、お願いします」

「はい、かしこまりました」


ナズとの奴隷契約を終えるかどうかウィンドウが目の前に出現し、

2度「はい」を選択した。


今まで奴隷を譲り受ける事はあっても、譲った事は無かった。

カリムの時は奴隷に落としたが、自分の所持奴隷にはしなかった。

他人に奴隷を引き継ぐ際には当然主人の同意が必要なはずだ。

こんな風に同意画面が出るのかと感心した。


ルスラーンにナズとアナが引き継がれる。


「こちらも確かに受け取った。見て貰おうか」


自分とシラー、ボルドレックの手配の奴隷商に、

ルスラーンが自身のインテリジェンスカードを見せる。

所持奴隷の欄にイルマ、クルアチ、ナジャリ、アナンタが表示されていた。


「それでは、この4人は決闘中に害が及ばないように兵舎で預からせて貰う」


「申し訳無いがルスラーン隊長殿、あそこにいるエミーは喋れないので、

 アナまで連れて行かれると対応に困る。

 以前迷宮に同行した通り実力も確かなので、被害は及ばないかと」

「解かった。何かあっても責任は取れんからな?

 それではお互い所定の位置へ戻れ!」


お互いと言ってもボルドレックは既に所定の位置だ。

指名をしなかった奴隷と奴隷商だけがあちらに向かって去って行った。


ルスラーンが横の騎士に3人の案内を頼み、ナズたちは兵舎へ消えて行く。

ナズが安全ならば、彼女に身代わりのミサンガを巻く必要は無かった。


「た、隊長殿、その前に緊張したのでトイレに・・・」

「何だ?仕方無いな。母屋の方へ入って正面の階段の直ぐ右だ。

 兵舎には行こうとするなよ?」


アナとエミーには席へ戻れと告げ、

ジトミールには自分の後を付いて来るように伝えた。


兵舎のトイレに入り、仮面と装備、服を脱がせて自分と交換する。

背格好が同じなので、ジトミールの奴隷服は自分にぴったりだった。


「自分の服はきつくないか?」

「はい、大丈夫です。

 ・・・このような服を着せて頂くのは初めてです」


「お前も生まれた時から奴隷か」

「いえ、町民でしたが貧乏でした。成人の際に売られました」


「そうか、大変だったな。

 良い主人に出会えるかどうかは場数をこなした方が良い。

 こういった仕事ができますと自分から申告できるような技能を持てれば、

 お前は必ず良い暮らしができるだろう」

「は、はい、頑張ります」


最後に仮面を被らせて貰い、後ろの紐を結ばせる。


「しっかり縛ったか?」

「はい、きつく縛りました」


「良し。ではお前が先頭を歩き、堂々と着席しろ。

 自分が窮地に陥った際は悔しがったり、

 勝った時は喜ぶような演技ができれば最高だ」

「や、やってみます」


ジトミールに先導させ、彼は椅子に着席した。

左右にアナとエミーがはべっており、自分はその後ろに並ぶ。

この場で自分はレンタルされた戦闘奴隷だ。

その動きに徹しなければならない。


奴隷のルールを知らない人間が奴隷の振りをする。

ボロが出ないように指示はアナからやって貰う。

一番奴隷なのだから、下位の奴隷に指示するのは当然だ。


自分とボルドレックのやり取りで、

一時はざわ付いた観衆たちが再び沸き上がる。


時間なのだろう。

と言うかこんなに観衆たちが近くで見ていたら危なくないか?

吹っ飛ばされたりして怪我をさせた場合、

賠償してくれとか言われたら困っちゃうのだけど。


ルスラーンが口上を述べ、

あちらの控える1番手が肩を回しながら庭の中央へ移動した。

自分もそこへ行けば良いのだろう?


・・・ゲッ。


最初は竜人族のようだ。

大きな剣と盾を持っているので恐らく2刀流、竜騎士では無かろうか。

しょっぱなから飛ばして来るなあ・・・。

余興などでは無く最初からる気満々だ。


焔のカトラスでジワジワなんて言ってる場合では無く、

こちらも最初から本命武器で行く必要がある。


更にルスラーンが自分の名前を含んだ何かを述べる。


人間語は判らない。

観衆も人間以外が大勢いるとは思うのだが、

皆が理解していると言う事は、ブラヒム語に次ぐ共通語なのだろう。

今更ながら人間語を取得したい。

いや、こちらで学びたい。


「ジトミール、出番です」


アナがそう口を開いた。

ジトミールが席を立とうとしたが、アナが肩を押さえて制止する。

そして自分にも聞こえるような大きさで彼に耳打ちをした。


「ご主人様は御覧なさって頂いて大丈夫です」


そうだよ。

自分がジトミールで、あいつはユウキ様だ。


出番だと言われたので自分が行く番だ。


騎士団ギルドの正面に位置する大きな庭に、

たまたま強く吹いた風に因って砂煙が舞い上がり、

それは小さな渦となって向こう側へ逸れて行った。

∽今日のステータス(2021/12/10)


 ・フジモト・ユウキ 人間   男 21歳  商人 Lv30

  設定:探索者(62)英雄(50)勇者(20)騎士(31)

     暗殺者(42)魔道士(34)

     道化師:メッキ・手当て/HP大上昇・MP大上昇(29)


   強縮のサーベル(麻痺添加 詠唱中断 石化添加)木の盾

   不眠の竜革カチューシャ(睡眠耐性 毒耐性 麻痺耐性)

   ミスリルジャケット(空き 空き)竜革の手袋(空き 空き)

   駿馬の竜革靴(移動力増強 空き)身代わりのミサンガ(身代)


 ・BP128(余り62pt)

   鑑定          1pt

   キャラクター再設定   1pt

   ジョブ設定       1pt

   7thジョブ     63pt



 ・繰越金額 (白金貨2枚)

     金貨 56枚 銀貨 77枚 銅貨 49枚


   札購入          (2500000й)


    白金貨- 2枚

     金貨-50枚     

  ------------------------

  計  金貨  6枚 銀貨 77枚 銅貨 49枚

                   白金貨 0枚


 ・異世界57日目(朝)

   ナズ・アナ52日目、ジャ46日目、ヴィ39日目、エミ32日目

   パニ22日目、ラテ4日目

   サンドラッド到着まで4日、決闘の日

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 本文) >・ジトミール 人間 男 探索者 Lv4 >・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 商人 Lv30 >・ジトミール 人間 男 探索者 Lv4 ジトミールの年齢が書いてませ…
[気になる点] >ヴィーの持つHP上昇効果 竜騎士の持つ効果は体力上昇では?? 原作127話 >道化師:メッキ・手当て/HP大上昇・MP大上昇(29) ?? §185話
[気になる点] あの、「母屋」と表現されていますが、なんとなく民家的な感じがしませんか?騎士団といえばこちらでは警察署とか自衛隊の駐屯地や基地に該当するのでしょう?そういう所では「母屋」とは言わないと…
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