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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第廾章 機転
211/394

§199 悪夢

全員を見送った後、小麦粉の袋を取り出して生地をねる。

ラーメンは喉越しが良く、お替りを要求される可能性が高い。


ピザのように具沢山で腹持ちが良い訳でも無いので、

3つ分多めに生地の塊を作った。


次は葉物を適当に刻んで湯がく。

そしてチャーシューっぽい物を作るために、

豚バラを束ねて麻糸で縛った物を魚醤と大蒜ニンニクに付け込んだ。

これに砂糖、ペッパー、レッドスパイスを添えて煮込む。


魚醤は大量に消費したが、これは後でスープにする予定だ。

油は癖の少ないパームオイル。

試しに混ぜた物は何かが足りなく感じた。


ええと・・・そうだ、出汁が無い。

鳥や豚のガラなんて無いぞ・・・。


そういえば茸やら海藻やらを買っていたはずだ。

この際、煮込める物は何でも煮てみよう。


豚バラ肉、ハサミ、蛤、海藻、キノコ、尾頭付きを投入した。


煮えたぎる鍋の中で、色々な物が煮立ちぐるぐると混ざり合って、

溶けだした煮汁を撹拌かくはんする。


濃さの違う液体が流動するさまはシュリレーンと言うらしい。

もやもやシュリレーン、良く出汁が溶け出している表れでもある。

匂いだけ嗅ぐなら海鮮系だ。


隣のチャーシュー鍋も良い感じに香ばしい匂いを放つ。

このまま暫く放置して、パニの様子を見に行こう。


ゲートを開き船室に繋ぐ。

暗い船内でベッドを探るが、パニはそこにいなかった。

飲料を確認するとまだ半分以上残っているようだったので安心した。


ここにいないとなると甲板か。


船室から出て、甲板へと向かう。

途中で船夫と擦れ違って声を掛けられた。


「xxxxxxxxxx!」

「どっ、どうも・・・」


適当に相槌をして返したが、

何か重要な事を言われていたらどうするのだ。

全く、人間語はどれを選択すれば良かったのだろうか。

今更知った所で後の祭りではあるが。


甲板に出てパニを探す。


船の後方には操軸があって、船長が舵を取る。

こんな時代なので、まだギア式操舵輪などでは無い。

大きな柄のような物をグイグイ動かして舵を切るのだろう。


気にはなるが、舵柄だけ見たって構造は解らない。

ただあれを動かすのは相当な筋力が必要だし、

船の操舵が体力仕事だと言うのは解った。


船長とは乗船前に一度会った切りで、その後顔を合わせていない。

言葉も解らないし仕方が無い所もあるが、

航海中一度も顔を見せていないと言うのもまずいだろう。


すっかり自覚が無くなっているが、一応自分もこの船の乗船者なのだ。

本来ならばずっといなければおかしい。

パニは船の後部にいなかったので、それならば前の方にいるのだろう。


「パニ」


パニは船首の右翼に腕をもたれ掛けて海の様子を眺めていた。

声を掛けるとこちらに気付き、体を起こしてやって来た。


「ご苦労様です。このように、何も問題ありません」


「そうか。何か見えたか?」

「ええと、鳥と波ですかね・・・」


「ずっとあの部屋に閉じ籠っていては鈍ってしまうな」

「はい、ですのでこうして少し風に当たりたいと思いまして」


「パニは船に乗った事は?」

「えっ、一度もございません。普通の人は船なんかには乗れません」


「そうか。実際乗ってみて、どうだ?」

「乗る前は初めての航海に恐ろしさを感じましたが、

 実際に乗って、こうして波を見ていると心が落ち着きます。

 ご主人様に頂いた、自由でゆっくりと過ごす時間は、

 僕に取ってはとても贅沢です」


「生命は海から生まれたのだと聞く。

 竜人族も元は鳥だと言う話だし、

 パニの本能が生まれ育った海を求めているのかもしれないな」

「そうなのですか、本能が・・・」


パニと沈黙する。


話す事なんて特に無い。

主従の関係なのだし、そもそもパニはまだ迎え入れて数日だ。

いや、もう10日は経ったか?

もっとかな?


普段迷宮に連れて行くメンバーとは異なり、

エミーやパニとは会話が続かない。

そもそもエミーは喋らないが。


特に何か気の利いた話をしてやる必要も無いのだと思うが、

これまでゴチャゴチャとした中で生活をして来たので、

誰かがいる状態での沈黙はやや応える。


「ずっとこうしているだけだと退屈しないか?」

「ええっと、何もしなくても良いと言うのは僕には不思議です。

 今までずっと働き通して来ましたので、

 これはご主人様が僕に与えて下さったご褒美なのだと思っております」


そうか・・・。


パニの生い立ちを考えると、その毎日は過酷だったのだろう。

奴隷となっても毎日働かされる可能性が高く、

それがたとえ商館と言う陳列棚に置かれた状態であっても、

雑役はしていたのだと推測される。


こうして仕事として留守を任せられ、毎日食べて寝ろと言うのは、

パニに取ってはある意味贅沢な事だったのか。

物は考えようだ。


「そうか。では残り5日、宜しく頼むぞ」

「はい、毎日気遣って頂いて、本当にありがとうございます」


船室に戻る振りをして、通路から台所に戻った。


鍋からは盛大に泡立つ音が聞こえる。

上から眺めると細かい泡がシュワシュワと湧き出し、

薄黄色く煮詰まったスープには出汁が良く出ているように思えた。


スープ用の大匙を突っ込んで少し掬い、

息を吹き掛け冷まして口に入れてみる。


・・・うーん、判らん。


無味では無いが微妙な味だ。

出汁の良し悪しなんて知る訳が無い。

隣のチャーシューの方はもう殆ど水分が抜けてしまっていて、

これ以上熱したら焦げそうだ。


鍋を火から外して冷ます。

食材はこの冷ます工程の間に具材の中へ味が染み込んで行くのだとか。

急激に冷まさず、ゆっくり冷ました方が良いとも聞いた。


更に肉の場合は冷まし過ぎると油が固まって硬くなってしまう。

竈門かまどの近くの温かい所に鍋を置き、

余熱を取りながらゆっくり冷めるように調節した。


器には先程の出汁とこの煮詰まった魚醤を混ぜ、

パームオイルを潰した器から少量を取って混ぜる。


・・・うーん、若干違うがラーメンのスープに近しい物にはなった。


本格的なラーメンには程遠いが、

食べられるかと言えば多分大丈夫だろう。


出汁として使用した具材は刻んで具にし、

そこに湯がいた葉物、チャーシューっぽくした肉、麺を入れれば完成だ。

かまぼこが無いのは残念だ。


無いなら作る?


かまぼこは介宗鱈すけとうだらを練って焼いた物だ。

タラの身は蛋白たんぱくが多く、

熱すると身が凝固するのでそれを利用して固める。

上手く行かなくたって魚のり身入りのラーメンもあるのだ。

やってみるだけやってみよう。


1つだけあった尾頭付きは既にスープの材料として投下してしまったので、

り身を作るには白身を使う。


以前購入したすり鉢でゴリゴリと混ぜ、べちゃっとした擂り身が完成した。

このままでは味も何も無いので、塩とペッパーを混ぜて水気を取る。


固まらなかった時の事を考えると、

何か繋ぎを入れた方が良いかも知れない。

以前ナズは冷温桶に卵を入れていた。


探してみると卵が2つあったので、1つを拝借して擂り身と混ぜ合わせた。

再び水っぽくなってしまったかもしれない。

だが卵なら熱すれば100%固まる。


フライパンにオリーブオイルを引き、

棒状に成形したり身を弱火で焙って焼いた。

うーん、ちょっと固まったかな?


焦げ付かないようにコロコロと回転させながら、

しっかりと中まで固まったのを確認して切ってみた。

うーん、しょっぱ旨い。


それもそうか。

これはただの塩焼き魚なのだし、旨いのも当然だ。


かまぼこ、と言えなくも無い。

かくして具材は完成した。

後は麺を切って茹でるだけである。


疲れたので休憩するよ・・・。

炭を組み替えてスープ鍋を弱火にし、ベッドで横になった。


  *

  *

  *


「結城ちゃん!結城ちゃん!」


女性の声で目が覚めた。

誰だろう、ちゃん付なんて。

何年ぶりかに聞いた気もする。


目を細めてぼやっとする状態のまま声のする方向を見る。


「ああ、良かった、ちゃんと生きてたね。びっくりしたよ」


この声は・・・洋子叔母さんだ。

父の妹、いとこの伸君の母親でもある。

実家からはそれ程遠くない隣の市に住んでいる。


「あれ?ええっと、ここは?」


どうした?日本?

帰って来てしまった?

どうして?死んだ?

死んだら戻って来られるのかな?


今まで活動をしていた場所は異世界転移していた訳では無く、

VRゲームのような物をやっていただけなのか?

それともゲームオーバーになれば現実へ戻される?

いやいや、ただの夢だった可能性もある。

現実的に考えて、その方が近しい。


自室には布団が敷いてあって、自分はそこで寝ていたようだ。

結構迫力がある夢だったなあ・・・。


「大丈夫かい?お兄さん亡くなってから結城ちゃん苦労したのね、

 ちゃんと食べなきゃ駄目よ?それから学校もちゃんと卒業なさいね?

 後少しで卒業じゃないの、折角頑張ったんだからちゃんとなさい。

 仕事なんて直ぐに見付かるから」


「ええっと・・・」


そうだった、自分は大学4年生。

就職に失敗して卒業か、はたまた就職浪人か、

人生の選択を迫られていたのだった。


「食べる物はちゃんとしてる?叔母さんお弁当買って来たから食べる?」


叔母さんは敷かれた布団の横に、

コンビニで買って来たであろうレタスとハムのサンドイッチや、

ハンバーグ弁当、アサリのスパゲティ、幕の内を並べた。

こんな量を一度には食べられないので、選んでゆっくり食べろって事かな?


「だ、大丈夫です。それから、やっぱりこの家は叔母さん達に。

 今の賃貸より広くなるし良いかなと思います。

 僕は・・・就職してその近くのアパートにした方が良いと思いますし」


「うーん、その話は有り難いのだけど、家はあった方が良いと思うわよ?

 手放すんじゃなくて誰かに貸すとか、ちゃんと考えなさい?」

「じゃあ叔母さん達に貸しますよ、知らない人に貸すのも難しいし」


「そういう事ならありがたいわねえ、旦那にも相談しておくわね?

 就職の方は旦那にも当たって貰うからね?」

「ありがとうございます、宜しくお願いします」


・・・。


そうか。

日本に戻って来たならば就職をして、給料で生きて行かなくてはならない。

ファンタジーな生活に憧れをいだき過ぎて幻想でも見ていたのか。

それにしてはリアルで長い幻想だった。


体を起こして叔母さんが買って来た弁当を開いた。


パン、パスタ、ハンバーグ弁当、幕の内。

この中で選ぶのは幕の内だ。

相当長い間、米を食べていなかったような感覚だ。

夢の中でなら、の話だ。


ともかく今は米が恋しい。


これまではそれ程米に対しての渇望が無かったが、

何故だか今は猛烈に体が欲している。

幸いな事に今はそれが目の前にあるのだ。

食べておかねば。


ラップを破って蓋を外すと、叔母さんがお茶を煎れて持って来てくれた。

叔母さんの家でも無いのに、お茶の位置なんて良く判ったな。


部屋にある机の上へお茶が置かれ、

僕は弁当の蓋を開けてご飯を一欠片を箸に乗せて口へ運んだ。


味がしない。

そりゃそうだ、ご飯だもの。

その感覚がどういう訳か懐かしい。


ふっくら炊けたご飯も良いが、コンビニの冷めたご飯もまた良い。

噛めば噛む程、ご飯本来の・・・、

不味い。


噛む程に味がするどころか百草もぐさを噛んでいるような、

渋い味が唾液で広がって不快感が高まって行く。

それに、噛んでも噛んでも米粒が小さくなって行かない。


「お、お茶を」

「結城ちゃん、だいじょうぶ?

 倒れていたのだから急には食べられないかも知れないわね?」


そうか、自分は倒れていたのか。

ネットのし過ぎで疲労が蓄積してそのまま・・・。

叔母さんが発見してくれなかったら、

自分はそのまま本当に死んでいたのだな。


お茶を啜ってみたが、こちらも味気無い。

飲んでいるのに喉の渇きは止まらない。

どれ程疲労が蓄積したらこんな状態になるのだろうか。


煎れたてのお茶であるので香りだけは良い匂いがした。

心落ち着くハーブティだ。

喉の渇きは癒えなかったが、香りだけでも楽しんだ。

口の中の米粒は噛み切れないのでそのまま飲み込んだ。


「結城ちゃん、就職の件だけど何処か行きたい所はある?

 なるべく希望に添えるよう旦那へ頼んでおくから」


「そっそうですね、特に選ばないですよ。

 理系の大学じゃなかったので、製造以外であればどこでも良いです」

「あら、そういうのは駄目よ、ちゃんと考えなさい?

 毎年税金が掛かるのだからちゃんと稼げるようなジョブにしないと」


ジョ・・・ジョブ。

叔母さんの口から。

ゲームのし過ぎだろうか、幻聴か?


最近の叔母さんは暇潰しにスマホのゲームをしていると、

伸君から聞いていた。


時計を見たが今の時刻は17時半だった。

もう夕暮れ時だったのか。

それにしては外がやけに明るい。

外は明るいが、自分の部屋はカーテンに遮られて暗い。


隣のキッチンからは日が溢れて昼のようだ。


「叔母さん、あなたなら経験を生かして商人なんて良いと思うの」


──ぶはっ・・・!


口に含んでいた残りのお茶を噴き出した。

商人じゃなくてそこは商社とか営業とかだろ、何言ってんだこの人は。


「え、営業ね、近くでそんな募集してる会社がありますか?」

「ええ、旦那に頼めばそういう所を探す事もできるわよ?」


そんなに権力があったっけ、叔母さんの旦那さん。

確か何処かのメーカー勤務だったとは聞いているが、

親戚の叔父さんの仕事なんて詳細を知れる訳が無い。

でもまあコネがあれば乗るしかない。


切れ込みを入れたハンバーグを口に運ぼうとしたが、

さっきまで箸を持っていたと思ったらナイフを刺していた。

気が動転してナイフに持ち換えた事すら覚えていない。


幕の内弁当の中にも小さいハンバーグがあった。


「じゃ、じゃあお言葉に甘えて、宜しくお願いします」


就職先の面倒を見てくれるなら大学は卒業するべきだろう。

親族に頼るのもどうかと思ったが、

後も無い状況ならそれに乗った方が良い。

流石に変な所は紹介されないと思うし。


ハンバーグを口に運んで咀嚼するが、

期待したようなケチャップの味はせず、米と同じように無味であった。

味が感じられない程に疲弊しているのだろうか。


父が亡くなり大学は中退を選ぶ直前だった。

恋人もいないしその先の未来が見通せない状況で、疲れ果てて倒れたのだ。

体の感覚が正常に戻るまでは時間も掛かるのだろう。


さっきまでそこにいたはずのおばさんが、

可愛らしい女の子の姿になっている。

幻視も甚だしい。


疲れ過ぎているのだ。


自室のパソコンは電源が落ちていた。

叔母さんが切ったんだっけ?

直前まで使っていたような気がするが、

現実にモニターには何も映っていない。


あれ?


家を譲る話を纏めた封筒を投函した時点で、

電気もネットも止めたはずだ。

なぜ自分の部屋の明かりは点いているんだ?

いや、いつ点けた?


さっきまで暗かったはずだが。


待て、時系列がおかしい。


父が亡くなり、見送った。

就活に失敗し留年しようにも学費の工面が見通せず、

大学を中退しようかと悩んでいた。

その後疲労が蓄積して倒れ、今こうして叔母さんの世話になっている。


家を譲る話なんてしたっけ?

電気とネットを止める?

何で?

倒れる直前まで使っていただろう?


体中に脂汗が噴き出しているのが判る。

一体どこまでが現実でどこからが妄想だったんだ?


と言うか、弁当は?

さっきまで食べていたはずなのに、お茶を残して消えてしまった。

食べた?


・・・いや、何も食べてない。

米は固くて吐き出した。

ハンバーグも無味で戻したはずだ。

握っていたはずのナイフも無い。

うちにハーブティなんて洒落た物がある訳無い。


焦る。


大体、叔母さんはどこに行ったのだ。

この女の子は誰だ?

不法侵入?


そもそも知らない女だ。

見た事も無いし、心当たりも無い。

彼女とは高校で別れたし、合コンでお持ち帰りした覚えも無い。


「あ、あの、あなたは誰でしょうかね?」


少女が振り返る。

少女・・・と言うより少しやつれた感じの女性だ。

何処かで見た覚えがある。


どこだっけ・・・。


「私の事を覚えていないなんて酷いですぅ」

「い、いや、知らん、本当に覚えが無い、誰だっ!」


デジャヴだろう。


見覚えがあって懐かしい感じはするが、同年代ならばともかく、

自分より年上の女性をお持ち帰りするような事は有り得ない。

叔母さんでも無いし親戚にこの世代の女性は知らない。


「うわぁぁぁぁっ!」


焦って、つい大声を上げてしまった。


弁当を食べようとした時に椅子へ座っていたはずだったが、

いつの間にか立っており、パソコン机も何も無くなっていた。


女性と自分だけの空間が広がる。

自分の部屋にいたはずなのに、何故か本能が逃げろと告げる。


逃げる?どこへ?

真っ暗闇の空間に向けて走った。

直ぐに息が上がる。

焦りと急激な運動で汗が噴き出る。


足がもつれて中々前に進めない。

水の中で凄い水流に向かって突き進んでいるように、足が前へ出し難い。

体が重く息苦しくなって来た。


女性は追って来なかったが、

何故か走らなければならない衝動感にさいなまれ、

重たい足取りを必死の抵抗で突き進む。


何も無い所で足を取られ、前のめりに転んでしまった。

痛みは無かったが、その衝撃と自分の置かれた状態に更に汗が出る。


そこへ何者かに腕を掴まれて、体ごと強引に揺さぶられた。


「さま」

「んさま」

「まっ!」


はっ!


ど、どうした、寝てたか、気絶したか、さっきのは何なんだ。

目を開けると、ベッドに自分は寝かされていた。


叔母さんとの会話中にまた倒れてしまったのだろうか。

とんだ悪夢を見てしまったものだ。

ここがベッドと言う事は病院か?

自室は敷布団である。


2回も倒れたらそりゃ救急車を呼ぶよな。

混乱していて今の状況が中々頭に入って来ない。


部屋の様子を見ると石の壁に木目の天井、ベッドも木製だった。

病院にしてはローテク過ぎる。

何処だここは、山奥のロッジか?


手を握られていたようなのでそちらに顔を向けると、

そこに可愛らしい少女の姿があった。


朧気ながら記憶が戻って来る。


ええと。


「ナズ!」

「は、はい、ご気分は如何でしょうか、

 とてもうなされておられましたので」


そ、そうか。

夢だったか。

そりゃそうだ。


これまでの生活が夢だったと仮定して、

自分に降り掛かって来た苦痛や血の感覚、食べ物や時間経過など、

どれも全てが現実の物であると告げていた。


さっき見た夢の方がおかしいのだと、今なら判断ができる。


大体時系列がぐちゃぐちゃである。

家の相続に付いては法律事務所で相談した所までは現実であったが、

そうであるならば大学は中退の届けを出した後である。

卒業なんてできっこない。


どんな夢だったかも朧気になっていて思い出せないが、

支離滅裂で謎の恐怖を感じていた事だけはハッキリ覚えている。

・・・と言うか、夢に出て来たのは多分ラティだ。


どこかで見た事あると思ったが、ラティはあんな顔だった。

誰とか言って済まなかったな。

夢の中で追い掛けて来なかった辺り、現実のラティにちゃんと即している。


ナズが帰って来たと言う事はヴィーも帰って来たのだろう。

他はどうなのだろうか。


「他の連中は帰って来たか?」

「ええと、アナさんとラティさんがまだのようですね。

 ジャーブさんとエミーちゃんはもう帰っておられますよ」


「そうか、では今日は夕食を作ったのでゆっくりしてくれ。

 あ、そうだ、先に風呂へ入ろう。

 寝苦しくてかなり汗を掻いたので、たまには2人で」

「えっ、いえ、あの、アナさんは・・・」


「いいからいいから」


ナズはちゃんと順番を意識しているようだったが、

自分は風呂に入りたいしナズしかいないのだから仕方あるまい。

明日の朝の順序を逆にすれば良いだけである。


  *

  *

  *


なにせ日はまだ高い。


風呂場でナズとたっぷり楽しんだ後、

アナが帰って来た後は自室でも相手をした。

色魔は無い。

そんな事で死んだらシャレにならん。


その後、夕食の支度の為に麺を切ろうと思ったが、

結局エミーとナズが手伝ってくれた。

エミーはドレス姿のままで生地を延ばし、

ナズは細く麺をカットして行く。


秘密兵器であった駒板を自分は四苦八苦しながら使用したのだが、

ナズは替わりますねと言ってすんなり使用していた。

・・・技能に於いては何もかもナズに勝てそうも無い。


と言うか、着たんだ。ドレス。

キッチンから出て行く所までしか見届けなかったが、

エミーもちゃんと乙女であった。


今回お互い何を買い合ったのかは不明だが、

2人は順調に手を取り合っているのだろう。


自分が背中を押した事をエミーは理解している。

命令に従っただけなのか本心から喜んで動いたのかは判り兼ねるが、

御粧おめかししたと言う事を考えるに、楽しく出掛けたに違いない。


エミーは自分の奴隷であり、病も患っているためジャーブは手を出せない。

プラトニックな関係が続く事になるが、

エミーの病気を治療できるようになるまでは我慢して頂きたい。


ヴィーは何だか大きめの骨付き肉を買って来たようだ。

骨・・・さっきまで欲しかった何かのガラがそこに。

今更スープに入れても遅過ぎなのだが、

取って置いて次回使わせて貰おうか。

食べた後に良く洗って乾燥させて置けば宜しい。


それよりも今はラーメンである。

麺を茹で、その様子に皆が集中する。

背の低いヴィーは椅子を持ち出して爪先立ちだ。


スープだけを調合して味を調え、均等にお椀へ盛り配って行く。

具材は等分してスープに添え、後は麺が乗るだけとなった。

パスタの時と同じである。


あの時とは異なり、今回は湯切りがある。

麺を入れて中でほぐし、頃合いを見て1本掬って飲み込んだ。


──ちゅるっ。


ラーメンだ。

麺は完璧であった。

後は味だ。


ラーメン風のスープにはなったはずだが、

麺が浸かった状態で合うかどうかは未知数だ。

茹で上がった麺を皿に移しそれをエミーが運ぶ。

ナズはお茶を配って回った。


全員分の麺が茹で上がり、程良く温かく成ったスープに麺を投入する。

ラーメンの適温は80℃だと言われるが、それよりは若干冷めた。

腕組み大将が現れたらぶん殴られそうであるが、許して欲しい。


ここには大型調理具が無いし、先に麺を入れたらふやけてしまう。

できた順から食べて良いと言うのも序列に反するし、

自分でなければ麺を湯掻けない。


自分の最後の仕上げを見て、全員がそれに倣う。

ヴィーはフォークを握り締めて臨戦態勢に入っている。

これ以上の待ったは危険だ。


「今日はラーメンと言う物を作ってみた。

 好みに合うかどうかは解らないが、

 自分は好きな味だったので大丈夫だと思う。

 それでは食べてみよう、「「「「「いただきます」」」」」」

「あっ、はいっ、あの、ありがとうございます」


倣わない子が1人いるようだが、別に強制では無いので良い。

食べ方の判らない全員が自分を注目した。


フォークで4,5本を掬ってずるずると音を立てて麺を啜り、

チャーシュー(もど)きをかじる。

いや、もどきでは無くちゃんとチャーシューであった。


スープの味もそれっぽい。

どこか懐かしい、田舎のラーメン屋にありそうな味だ。

適当に混ぜた割には意外と食べられる物へ仕上がっていた。


「とっても美味しいです!」

「これまでに経験した事が無い、不思議な味ですね」

「こ・・・これは、ユウキ様は食堂を開けるのでは無いでしょうか」

「おいしー!にくがおいし―!」「あわわわ・・う、上手く掬えませんっ」


あー・・・麺は増量したがチャーシューのお代わりまで考えていなかった。

ヴィーはそっちも欲しがると言う事をすっぽり抜け落としていた、許せ。


「ラティ、麺が逃げて掴み難いなら、

 汁を啜って少し減らせば上手く絡められるようになるかもしれない」

「なっ、なるほどっ・・・ズズズ・・・しっ、汁が美味しいです!」


ラティが口を付けて啜ったのを見て、全員が同じ事を真似出した。


レンゲなんて無い。

うちにあるスプーンでは汁を掬おうと思っても小さ過ぎる。

仕方無い事なのかもしれないが、かなり見苦しい。

奴隷の食事・・・と表現するに相応ふさわしかった。

もうちょっとお上品に食べて頂きたい。


欧米人の目線で見ると日本人の食べ方に嫌悪感を示す理由も解る気がした。

文化が違うのだから仕方無い所もあるが、

猫背になって口を付けて汁をすするのはやはり見ていて心地悪い。

せめて椀を持ち上げて飲んで欲しい。


「し、汁を直接吸うのでは無く、スプーンに取って飲もうか」

「あ、それでしたら私が」


立ち上がってスプーンを持って来ようとしたが、

先にナズが立ち上がって皆へ配った。


口へ運ぶ量がちょびちょびになってしまうが、こうすれば熱くないだろう。

アナはスプーンに麺を巻き取って、パスタのようにして食べていた。

それもアリだ。ラティも真似た。

今度は上手に食べられているようだ。


ラーメンは大成功であった。

結局麺は全員お代わりを要求したので、皆で等分した。

∽今日の戯言(2021/12/08)


夢の表現、いつかしてみたいと思っていました。

小説を書き始めた時から、ではなく、もっと以前から。



夢って最初は設定感がしっかりしていて、

自分がその世界に溶け込んでいる様な

もっともらしい所から始まるんですよね。


ところが段々と支離滅裂な事が起こり始め、世界が崩壊します。

さっきまであった物が無くなったり、

景色や風景が急激に変わったり暗転化したり。


やがて何かに追われたり追いかけたりする展開となる事が多いです。

そして特徴といえばやはり動きの制限。


最初は何ともなしにできていた事が突然できなくなります。


例えば自由に空を飛べる体であったのにうまく制御できなくて落下とか、

水の中に居て呼吸をする必要が無かったのに急に息が苦しくなったりとか。

うまく走れなくなるのもその1つですね。


どうにもこうにも追い詰められた所で目が覚めます。



上手く夢であったと伝える事はできたでしょうか?



よくあるアニメや小説にありがちな、

自分の妄想全開で幸せに終わるような夢って本当は全然見れません。

最後まで理路整然としている夢なんて、私は見た事ありませんよ!


そんな夢の現状にッ!私は挑戦状を叩き付けるッ!



 ・異世界56日目(16時頃)

   ナズ・アナ51日目、ジャ45日目、ヴィ38日目、エミ31日目

   パニ21日目、ラテ3日目

   サンドラッド到着まで5日、決闘まで1日

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― 新着の感想 ―
[気になる点] かん水無いと、うどんじゃないのか?
[気になる点] 夢パートは少し冗長だった。 何というか、夢じゃなくて本編にスペースを使って欲しかったです。
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