§174 生麺
昼食の準備が進む間に、パニを自室に呼ぶ。
以前の事もあるので、緊張しなくて良いぞと声を掛けた。
入って来るなりまた脱ぎ出されても困る。
今回は連れ立って入室したので誤解も生まれないと思うが。
「昨日の事なんだが」
椅子を用意して座らせ、話を始める。
「はい」
「ダンジョンの中で、パーティの様子はどうだった?」
「ええと、どういう事でしょうか」
「昨日ヴィーの練習に付き合い迷宮に行っただろう?
その時の様子が気になってな。
何か感じた事や気付いた事は無かったか?」
「ええと、僕からは何も・・・。アナ様が魔物を探して下さり、
ジャーブ様がヴィー様に戦い方や魔物の特徴をお話しされ、
ヴィー様は頑張って戦っているように思われました。
僕にはヴィー様が受け持った魔物を
後ろから攻撃をするようにと言われましたので、
何度か剣を振りました」
ふーん、パニも戦ったのか。
怪我の報告は無かったようなので、
ヴィーがしっかりと抑えられたのだろう。
「アナの命令やヴィーの命令はどうだ?」
「どう・・・と言われますと、その・・・返答に困りますが、
アナ様はお優しいので、無理を強いられた事はありません。
ヴィー様は少々粗暴でいらっしゃいますが、
少なくとも僕ができそうに無いご命令はありませんでした」
そうか。
取り越し苦労だったかな。
確かにヴィーは常識が足りてない所もあるが、
基本的には年齢相応よりちょっと幼い感じの素直な子だ。
アナはやはり全体の事を考え、人の気持ちを察するのが上手い。
無茶は要求しないし、個人の技量を的確に判断するのだろう。
「では質問を変えるが、迷宮はどうだ?率直な感想を言ってみろ」
「ええと、僕は戦った事も無く、初めは正直言って不安でした。
これまで僕が剣を振るだなんて考えた事もありませんでした。
アナ様やジャーブ様に励まされ、
ヴィー様のお手伝いができていると思うと、
僕でも戦えるのではないかと思えるようになりました」
「そうか。怪我は無かったな?魔物から狙われる事はあったか?」
「そういった事はありませんでした。
ヴィー様はいつも僕を魔物から庇って頂けます」
ほう、ヴィーにもそんな一面が。
パニに魔物が向かって行って大怪我されたら、
守れなかった事に対して咎められると思ったからかも知れない。
或いは竜騎士としての立場を認識して、
後衛を守り抜くと言う正義感が生まれていたり?
・・・無いな。
それは無い。
だってヴィーだし。
心から大事に思ってパニを守っているのだとしたら喜ばしい事だが、
多分そこまで考えていないのだろう。
いつも通り前を抑えているだけだ。
「それから、拾った物を収納したり階層案内をしたりと、
できるのは僕だけなので、その、頼られると嬉しいと言いますか・・・」
それは良い傾向だ。
自己肯定は成長に欠かせない。
パニが頑張る事で皆に頼られると言う事が、
パニの中でプラスのサイクルを生み出している。
「そうか、ではこれからも精進してくれ。
それから、本来探索者はギルド神殿で試験を受ける。
いずれはパニにも正式に試験を受けて貰うので、
アナに特訓をして貰ってくれ」
「試験、ですか?」
「ああ。本来の探索者は時間を正確に測る技量が必要になる。
それからパーティメンバーの調整だな。
どの敵に誰を向かわせたら安定するかと遠巻きで眺める。
パニがもう少し迷宮に慣れたら、
今後自分達の後ろから付いて来て貰おうと思っていたが、
その様子では直ぐでも大丈夫そうだな」
「はぁ・・・ええと、ご主人様が今向かわれている所に、
僕も付いて行くと言う事ですね?」
「そうだ。迷宮は本来6人までのパーティを連れて行ける。
今の自分達は5人で戦っているので1人分の猶予がある。
戦い自体に不慣れなパニを前面で戦わせる事は無いが、
これからヴィーと行動して迷宮に行く事も増えるだろうから、
パニは全体を見る能力を養った方が良いだろう」
「分かりました、頑張ります」
「それじゃあアナから時間を計る練習を受けてくれ。
合格を受けたらギルドの正式な試験を受けるのでそのつもりで」
「かっ、かしこまりました」
パニは部屋を出て台所に向かった。
アナに特訓のお願いをしに行ったのだろう。
アナとの関係性も悪くないし、ヴィーとも概ね良好のようだ。
ジャーブは弟を見るような感じだったし、
現時点で言えばこの家の中は平和だった。
願わくばこのままずっと、緩い関係性を続けて行きたい所である。
***
昼食には珍しい物が出て来た。
葉野菜の炒めはこれまで塩とスパイスで味付けられていたが、
今日に限ってはそれが赤い。
渡した唐辛子かと思ったがツンとしないし、この香には覚えがある。
ケチャップだ。
エミーはアレクスムで何かの壷を買ったが、それはケチャップだったのか。
作り方は簡単、トマトと酢と塩だ。
作ろうと思えばトマトを買って来ればいつでも作れるが、
これまでナズは作って来なかった。
それ程手の込んだ料理は必要無かったとも言える。
まぁトマトっぽくある野菜というだけで、
いつも食しているアクバニアとやらは純粋なトマトでは無いようなのだが。
どこと無くケチャップとは風味もコクも異なる調味料なので、
やはりアレとコレとは野菜の品種が違う可能性があるな。
それにしてもケチャップか・・・。
オムレツやホットドッグも行けるな。
ナポリタンモドキも作れる。
ああ、パスタ欲が上がってきた。
ペペロンチーノ、ナポリタン、ミートスパ、カルボナーラ・・・。
馴染みのイタ飯屋のラインナップが思い起こされた。
頭の中がパスタを指定すると、
もうそれだけしか考えられなくなる魔性の食べ物だ。
同類にはカップ麺やカレー、蕎麦なんかもあるが、
蕎麦もカップ麺も、この異世界では絶対に無理だ。
そこは諦められる。
だがパスタとカレー、ラーメンは限り無く可能に近いので、
もう動き始めた心は抑えが利かなくなってしまった。
止められない止まらない。
「エミー、夕食はこの調味料を使って自分が1品作るので、
パンを買わずに小麦粉を練って置いてくれ。
以前作った麺を再び作る」
(こくり。)
「宜しいのでしょうか、昨日も特別な食べ物を頂きました」
「それでは、午後はあまり無理な探索をしないように努めさせて頂きます」
「ユウキ様のお料理がまた!」
「おー?こんどは辛いのか?」
(ヴィー様っ「です」をお付けしましょうっ)
「辛く、はやれない事も無いな。よし、ヴィーのは特別に辛くしよう」
「やッたぁ!」
そういう訳で、ケチャップで炒められた野菜炒めを頬張った。
パンで挟んで中に肉も入れ、即席でホットドッグモドキにした。
肉は加工されていない原型そのままなので、
ホットドッグとはちょっと違うが、味は近しい。
嬉しくて懐かしくて、目には涙が溜まった。
感慨に耽っていると、ナズもアナも真似し出した。
真似っ子動物どもめ・・・。†
明日までお待ちなさい、本当のホットドッグを食べさせてあげますよ?†
いや、やらないけどさ。
急いで食事を取った後1人で納屋に向かう。
レシピ本の中から「自家製麺で作る本格ナポリタン」のページを開き、
生パスタの作り方をメモした。
急がないと他の者が装備を身に着けるため、またここに集まってしまう。
パスタのレシピは持って来た本に数種類載っていた。
ソースの材料もこれを見れば安心だ。
エミーにお願いするのは麺だけで良い。
自家製麺で作る本格中華そばも載せろよ・・・。
ええと、生地には卵、塩を混ぜるだと・・・?
塩はともかく卵は大丈夫かな?
まだ食事を取っていたナズに卵をお願いすると、
直ぐに冷温桶から4つ取り出して来た。
そこに入っていたのね。
確かにその方が日持ちするけど。
卵を溶いて塩を足し、捏ねて丸める。
本に書いてあった文言通り伝え、
分量はこちらの世界の単位へ変換しそれらをナズにメモさせた。
エミーはそのメモを見てコクコクと頷き、
やって置きますと返事を認めた。
読んでくれたのはアナだったが。
***
午後はパニを連れてトラッサの21層へ向かった。
迷宮攻略の再開である。
我々は21層と22層の攻略を飛ばして23層に飛んでしまっている。
前回21階層に着いた時点でこの階層の魔物であるピッグホッグとは、
入り口付近で一度戦ったきりで直ぐに撤収していた。
その後は騎士団との合同遠征を想定して戦闘経験を急ぐ余り、
21層と22層の攻略を飛ばしてしまったのだ。
午後にホドワの36層で戦っても、
どうせレッドスパイスを集めて回るエリート勢の後を追う事になる。
効率が悪いので、集めるならば夕食前か早朝に回った方が良いだろう。
氷で固めて置けばアナが直ぐ石化してくれるのだし、
特徴さえ理解すればスパイクスパイダーは何の問題も無かった。
初見殺しと言えばそうなんだろうけれども。
・・・情報、欲しいなあ。
「アナ、21層の攻略の続きだ。
今後はここから深層へ向けて進んで行きたい」
「かしこまりました、それでは攻略を目標にご案内致します」
攻略中心となっても当然魔物とは出会すし、
何だったらちょっと離れている位なら狩りに向かう。
相手はピッグホッグ、小さいブタだ。
その上位の魔物であるピックホッグとは、既に何度も雑魚として戦った。
かつて苦しめられたロートルトロールも頻繁に出現するが、
大楯を構えたヴィーに取ってもはや天敵では無くなった。
相変わらず狙われる対象はヴィーになっていたが、
大楯のカバー範囲が広い事もあって、
簡単に打撃を防ぐ事ができるばかりか2匹相手でもびくともしなかった。
重量も増した事で蹌踉めく事はあっても、
防御に成功したのに盾ごと殴り飛ばされる事は無くなったのだ。
そうなるとアナやジャーブの手が1つ空き、こちらの一方的な攻撃が入る。
楽勝だ。
耐性で固めたジャーブとヴィーを前に、
麻痺だけの1発屋であるラブシュラブは空気であった。
ナイーブオリーブの枝振り攻撃のような危険性は無い。
流石に棘があるので当たったら痛そうだけれど。
極稀にマーブリームが出現したが、
敢えて放置して魔法詠唱を促し、
留まった所をナズが槍で叩き落として串刺しにした。
誘い受け?いや誘発だな。
ナズもナズなりに考えて対処している。
元々賢い子なのだ。
全ての敵を仕留めるには火魔法と雷魔法で5ターン。
火に弱いロートルトロールとラブシュラブは4ターン。
火魔法と中級火魔法では最短3ターンだ。
以前魔法使いの火魔法連射で大体3,4ターン掛っていたはずなので、
現時点で魔法使いと魔道士の魔法のどちらが強いかの判断は難しい。
体感で0.8~1.2倍程度の威力を発揮しているのだと思われる。
微妙な判定だ。
変更するにはまだもう少し早い。
せめてLv20になってからにしよう。
現在のLvは16だったので、
駆け出しからちょっと毛が生えた程度だ。
少なくとも今の修練度では全然頼りになりそうもない。
それにしても33層も奥で戦ったのだ。
今更21層なんて楽勝である。
油断大敵と言う事もあるので戦闘自体は慎重に対処するが、
折角連れて来たパニは完全に空気だった。
何せ指示する事が無い。
指揮系統を覚えて貰おうと思ったが、
各自が個人の力量を十二分に発揮して対処するので、
自分のやる事は魔法とMP回復のために弓を引く位だ。
無理に石化を急がせるメリットも無いので、
博徒と暗殺者の付け替えも行っていない。
最低1分以内で全ての魔物を倒せるのだし、
付け替えている時間分だけ逆に効率が悪いまである。
「パニ、どうだ?」
「ええと、はい。皆さん凄いです。このように戦われていたのですね。
それから、ご主人様の魔法がとても凄いと感じました。
スキルの詠唱などは必要無いのでしょうか?」
あっ・・・。
そうだよ。
パニは一般人で居て貰う予定だったが、もう何度も無詠唱を見られている。
何だったら自分がパーティを組み、魔法を詠唱して射撃まで決めている。
何だったらさっきヴィーが不意打ちを食らって痛がったので、
手当ても使用した。
駄目じゃん。
「秘密を知られたからには生かして置けないな・・・」
「ええっ?・・・あ、あの、それはどういう意味でしょうか」
手をワキワキさせながらジワジワ迫ると、パニは身構えて警戒をした。
「いや、まあ冗談だが、
自分には人に知られると困るスキルが沢山あるのだ。
他人の前でその事を喋ったりしないように、良いね?」
「かっ、かしこまりました」
結局の所自分の周りで生活するとなると、
ボーナススキルの秘密を隠し通す事は無理だと言う事だ。
何だったら、まず風呂がおかしい。
魔法使いなら炎も水も用意できるだろうが、
15秒で1回魔法を使って行くとすると、
風呂として完成するには相当大変だ。
MPだって枯渇するし。
自分だってMP回復速度を盛って、
2重に発動させて何とか30分なのだ。
魔道士が加わった事で加速はするだろうが、それでも厳しい。
ほぼ毎日?
金持ちだってそれは無いだろう。
それを奴隷達にも使わせてやっているのだから、
最初から秘密なんて無理だったのだ。
風呂に関しては、諸手を上げて喜んだ大工達の反応の方が正しい。
主人を前にして騒がないだけ、良く我慢したものだ。
魔物を蹴散らしながら迷宮を彷徨い歩き、
夕食の提案前にはボス部屋に到着した。
ピッグホッグを倒すたびにヴィーが肉だと喜んだが、
30匹程度倒した辺りから何も言わなくなっていた。
人間、慣れて来るとそれが当たり前の価値観になってしまい、
幸せが目減りするのだ。
今更パンだけの食事になったら、多分ヴィーは大暴れするだろう。
「どうだろう?
もうボスは直ぐ倒せる事が解っているし、今日はこのまま帰ろうか」
「お料理をなさる時間を考えますと少し早めに帰られた方が宜しいですね」
「かしこまりました」
「俺は畑の手入れをしますっ!」
「ここのボスってなに?」(ヴィー様っ、そこは何でしょうか、ですっ)
「・・・あっ、何でしょうか?」
「33層先でも戦った事があるだろう?ピックホッグだ、豚のデカい奴」
「えっと、足のトゲが大きい」
「そうそう。今更倒しに行く事も無いな」
ゲートを家に繋ぎ、くぐりながら答えてやった。
ヴィーは迷宮の基本的な知識も無い。
そのうちジャーブに教えて貰ってくれたまえ。
***
家に帰り、早速パスタの準備に取り掛かる。
丸められた生地は全体が薄い黄色に変わっており、
よく見るパスタの麺っぽい色合いになっていた。
・・・あれ?この色合い、中華麺も同じでは?
同じで良い?良いよね?
そしたらラーメンも作っちゃうけど。
この際だから多少の食感の違いとか気にしないよ。
生地を千切って1人分の小分けにした後、再び丸め戻した。
うどんを打つ際にも使用した棒で延ばして平らにし、
そこから厚めの太さに短冊切りする。
うどんのように大体正方形の太さに切らずに済むので、
パスタの麺を切る作業は適当で良い。
切られた麺の断面は平たく、潰れた形状になっている。
平たい麺はフェットチーネと言う。
太いマカロニみたいなのがペンネで、
小麦の形に練り直したものがフィダーシュと言う。
フィダーシュは見た目なら麦粥に近いが、食感はたらこに近い。
マカロニ風の麺は器具が無ければ作れないのでちょっと難しいし、
フィダーシュは練り戻す作業が面倒臭過ぎて手作業でやるべき物では無い。
いわゆるスパゲティは綺麗に切り揃えるのも大変なので、
適当に切っても太麺だと言い張れるフェットチーネが最も作り易いのだ。
1つをやってみせた後はエミーにお願いし、
自分が作った物より遥かに綺麗な麺状へ仕上がって行った。
パスタの生地は冷温状態で2,3時間程度の「寝かせ」が必要だが、
納屋に放置した程度で大丈夫だっただろうか。
小麦グルテンが発酵してどうのこうの。
詳しくは知らない。
エミーが次の生地を平棒で延ばしている間に、
自分はソースを作ってそれから風呂も入れるか。
ナズに豚バラを渡し、ミンチにするようお願いした。
やはりと言うか、ミンチを作る事に対して「躊躇い」がある。
こればかりは大き目にカットされると味がうまく乗らないので、
できるだけ細かくとお願いする。
この工程が普通になってくれれば、ミンチ料理も作りたい。
ハンバーグも良いが、やはり餃子、ピーマンの肉詰めやら、
ヴィーの好きな辛い料理であるタコライスだって行ける。
あっライスが無いや、じゃあ麻婆豆腐で。
パスタの具にはナスが欲しい所だが、
そういう物がストックに無かったので、
ニンジンをバターで炒めて置いて欲しいと頼み、
自分は風呂場へ向かった。
遊び人の魔法は魔法使いの初級火魔法にセットしてあった。
これを魔道士の中級水魔法に変え、
更に魔法使いのジョブをセットし、
魔法使いのウォーターウォールと、魔道士のアクアウォール、
そして魔道士のバーンウォールを発動させた。
多分これが最適解だと思う。
バーンウォールより1.5倍程度横にはみ出たウォーターウォールが、
中央部分で熱せられてゴポゴポと泡を立てていた。
バーンウォールの火力が高いのだろう。
15秒後。
魔法の効果が切れて風呂桶の底に溜まったお湯は適温だった。
素晴らしい。
ウォーターウォール2枚分で約1センチだったが、
アクアウォールならば1枚で1センチ。
これなら60センチ貯めるまで60ターン、15分で終わる。
MP消費量的にも20倍の自然回復が十分追い付いたので、
強壮剤の使用は1粒で済んだ。
やはり魔道士のMP底上げは大きい。
魔法使いと合わせて2倍以上になったのだと思う。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ、ニンジンのバター炒めができ上がっています」
緑。
それだけが唯一気になる所だ。
エミーもパスタの生地を切り終えて、今はスープを回している。
ぐーるこん、ぐーるこん・・・。†
いや、エミーは喋らないが、そんな感じだ。
ナズからミンチにされた肉を受け取り、
ケチャップとオリーブオイルで和える。
刻んだ玉葱にソテーされたニンジン、酢とペッパーを加える。
肉々しい臭いと焼けたケチャップの匂いが広がり、
台所は芳ばしい香りで一杯になった。
更にニンニクと刻んだレッドスパイスを加えてホットソースを作る。
ナズとヴィーは意外と辛くても行ける口だ。
アナは熱いと辛いが混ざると厳しいようだし、パニは薄い味が好み。
自分はどちらでも。
両方の希望へ応えるためソースを半分にして、
辛い方と辛くない方に分けた。
大皿2つにでき上がったソースを盛る。
ひとまず置いただけでこのまま食べる訳では無いのだが、
ヴィー、ジャーブ、パニはその皿を興味津々に取り囲んだ。
空いた鍋を一旦洗い、水を満たして塩を振る。
ええと、パスタを茹でる際の塩は必要無いとか何とか。
そういう議論も起きているらしいが、その顛末がどうだったかは知らない。
興味も無いし。
自分は昔ながらで行こう。
鍋的には1回で3,4人分まで茹でられる。
乾麺では無いのでボトン、ボトンと投入するだけだ。
捏ねられた生パスタの固まりが、
熱湯の中で解れて広がり、やがで沸騰する中で踊り出す。
麺が踊り出したら揚げ時だ。
小さい笊を利用して掬い挙げようとしたが、
つるつると滑って掬い難かった。
以前作ったフォーク(に足る物)を利用して1人分を掬い、
それぞれのお椀に投下する。
麺だけあっても・・・な状態だが、それすら皆には珍しい物だ。
前回作ったうどんとはまた別次元の、黄色くて平たくモチっとした麺に、
全員が興味津々だった。
2回目の麺を茹でる。
再び躍り出すまでは5,6分。
それまではもっちり茹で揚がった麺も、
芳ばしい香りがするソースもお預けなのだ。
ヴィーはしびれを切らしたのか席に座って足をバタバタと揺らしている。
パニはそれを窘めるが、果たして言う事を聞く奴なのか怪しい。
奴隷と言う身分のはずだが、うちでは最も態度がでかくて我儘だ。
子供だし、教育を受けていないのだからしょうがないのだろうか。
そういう所を咎めない辺り、自分は甘過ぎる。
パニを教育係に迎えた事は正解である気がした。
「ナズ、そろそろ食べられるからスープをお願いしたい」
「かしこまりました。楽しみですね」
ナズがスープを装い、エミーはそれを配って回った。
茹で上がった4人分の麺を各自のお椀に盛り、配膳はエミーに任せた。
「それでは食べようか。今日のはボロネーゼと言う物を作った」
「これは、ボロぜいね?、と言う物なのですか」
惜しい!逆だ、ネーゼ!
「ご主人様に召し抱えられまして以来、
ずっと食事には事足りて参りました。
そればかりでなく更にこうして何度も異国の料理を振舞って頂き、
感謝の念が堪えません」
重い!お前はもっと楽に生きろ。
「昨日の食べ物はそういえば何と言う名前だったのでしたっけ。
今日のこれと似ている気がするのですが」
「うどんだ、うどん」
ジャーブはちゃんと話を聞けっ!お前はいつも肝心な所で抜けている。
「どうやって食べる?」
「机の真ん中に置いてあるソースを掛け、それを絡めて食べるのだ。
赤い方が甘い奴、やや黒っぽい方が辛い奴だ。
好きな方を掛けて食べれば良い。ナズかエミーに取って貰ってくれ」
「おおおお!からい方!」(ヴィ、ヴィー様っ!ご主人様がまずお先です)
お前は落ち付けっ!
「そういう訳なので、食べ方を教える。
ソースをこの麺の上に、・・・この位掛けて食べる。
麺はソースをしっかり馴染ませて」
ソースを皿の中で伸ばして麺と混ぜ、
適量をフォーク(でいいよね?これからは)でクルクルと巻いて、
スプーンで持ち上げて口に入れた。
「こうやって食べる。先割れスプーンの使い方が重要だ。
無理そうなら皿に口を付けて啜っても構わないが、
格好悪いので本来あまり宜しくは無い」
「わ、解りました」「難しそうですね・・・」
「やってみます!昨日のうどんは食べ易かったですので」
「あい!」「とても美味しそうです・・・」
うどんとパスタは、同じ麺でも食べ方は異なる。
うどんの方は1,2本を何とか掴めば、
後は啜り入れるだけで食べられるのに対し、
パスタは1口分をフォークで巻き取って、
持ち上げるのが無理ならその固まりをスプーンに乗せなければならない。
汁ごと吸ってもうどんは食べられるが、
パスタには汁が無いので麺を寄せる手段が無い。
意外とね、テクニックが要るのだよ。
パスタを食べるには。
器用なナズは上手にスプーンに乗せて食べていた。
元々両手で武具を扱うアナも、
少し練習したのちに両手で持ち上げて食べる方法を編み出した。
まあ、それもアリだ。
ヴィーもそれを見て真似た。
盾持ちは両手を器用に扱う必要があるので、
この3人は両手で食器を扱うハードルをクリアした。
ジャーブとパニは・・・残念だよ。
良い歳したおっちゃんと綺麗な顔立ちのパニが、
赤いソースを顔中に付けて貪り食うのは。
・・・見ていて残念な気分になった。
「ジャーブ、パニ。周りを見て、上手に扱えるように練習しろ」
「は、はい、申し訳ありませんっ」
「済みませんユウキ様っ。ユウキ様のように上手に食べられません」
「せめてヴィーの真似で良いから」
「ん?アタイ?もしかしてスゴい?エラい?」
「ああ、初めてなのに上手に食べられて、偉いぞ」
「ほんと!やったー!・・・からくておいしくてもっと食べたい!」
そう来ると思ってもう1玉余分に作ってあったので、
エミーに頼んで湯がいて貰った。
パスタも好評であった。
∽今日のステータス(2021/11/17)
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv54
設定:探索者(54)遊び人:火魔法/知力中(49)
英雄(48)細工師(49)暗殺者(38)魔道士(16)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv46
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv45
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 騎士 Lv45
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv44
・エマレット 狼人族 ♀ 19歳 料理人 Lv32 OFF
・パニ 竜人族 ♂ 15歳 探索者 Lv45
↓
・フジモト・ユウキ 人間 男 21歳 探索者 Lv54
設定:探索者(54)遊び人:中火魔法/知力中(49)
英雄(48)細工師(49)暗殺者(40)魔道士(19)
・ナジャリ ドワーフ ♀ 16歳 鍛冶師 Lv46
・アナンタ 猫人族 ♀ 20歳 暗殺者 Lv45
・ジャーブ 狼人族 ♂ 28歳 騎士 Lv45
・ヴィクトラ 竜人族 ♀ 12歳 竜騎士 Lv44
・エマレット 狼人族 ♀ 19歳 料理人 Lv32 OFF
・パニ 竜人族 ♂ 15歳 探索者 Lv45
・戦利品
白身 × 2
木の板 ×14
鑄 ×35
豚バラ肉 ×89
・異世界47日目(昼)
ナズ・アナ42日目、ジャ36日目、ヴィ29日目、エミ22日目
パニ12日目
・トラッサの迷宮
Lv 魔物 / ボス
18 マーブリーム / ブラックダイヤツナ
19 ラブシュラブ / ラフシュラブ
20 ロートルトロール / ロールトロール
21 ピッグホッグ / ピックホッグ




