§167 宴席
ナズとアナ、2人とお風呂タイムを楽しんだ後でも、
まだ日も高く夕暮れには時間があった。
妙な感覚だ。
いつもはカンテラの淡い光の中で入浴するため、
どこと無く物寂しい雰囲気がある。
今日はまだ全然明るく、日差しは少し入っているので罪悪感が募る。
例えるならば昼間からの酒、平日の2度寝、夜中にラーメン。
振替休日みたいな物だ。
プラマイゼロのはずなのに何故かお得感があり、悪い事をした気分になる。
朝三暮四そのものだろう。
トータルでは得をしていない。
ジャーブとパニ、そしてヴィーが早めの風呂に入る。
アナはナズに呼ばれて台所だ。
自分は・・・そうだな、今日の成果品を売却して来よう。
いつものトラッサの買取カウンターでは無く、
ホドワの探索者ギルドへ向かった。
受付の男性に大量の売却があると伝える。
奥の部屋へ通されて、やはり大きめの台に積んで欲しいと言われた。
直ぐに買い取り担当の女性と入れ替わり、
受付の男性は戻って行ってしまった。
鑑定はしなかったが、受付の男は多分探索者だったのだろう。
時間外で迷宮へ案内する業務もあると思うし、
そもそも受付不在は良くない。
前回と違って岩の数量は100個も無かったので、
驚かれるような事は無かった。
女性従業員が扉を閉めると金貨1枚と銀貨、銅貨がジャラジャラ排出され、
買取金額的には1万5千ナールはあったように思う。
特段計算などする事も無くこうやって換金しているのであれば、
買取金額が3割アップしていようと気付きはしないだろう。
ミチオ君は白魔結晶を3割アップで売却する際に、
色々な物を混ぜてカモフラージュしていた。
しかしこの担当職員の態度を見る限りは全く心配が無さそうである。
事務的に金を取り出してトレイへ乗せただけだ。
ここでは10枚ずつ束ねて積んでくれたので、
1枚1枚数えなくても合計金額が判った。
金貨1枚、銀貨66枚、銅貨38枚。
本来の買取金額は1万ナールを超えている。
やはり深部探索者は稼ぎが全然違う。
あ、これは魔物の部屋のボーナス込みであったか、これは失敬。
岩を集めるには頑張って1日40個だと先日聞いたので、
3日ないし4日で1万ナールならば、やはり高給取りなのだろう。
女性には礼を言って探索者ギルドを後にした。
帰りに服屋でジャーブとヴィー、パニの服を買って帰る。
パニはもう少し町人らしいセンスの良い服を。
ジャーブはラフなチョッキでは無く、しっかりした礼服っぽい物を。
ヴィーには可愛い服を選んでみた。
裾を加工しないと直ぐに破れそうなので、急いで縫って貰おう。
エミーは無しだ。
ルイジーナへ飛び、ブティックで給仕用の服を注文した。
以前エプロンをお願いした事もあるオーダー服屋だ。
給仕服が店頭に並んでいる事は知っていた。
「これはどうも御無沙汰しております、
女中の奴隷でも購入なさいましたかな?」
「ああ、久しぶりだな。エプロンの売れ行きはどうか?」
「はい。概ね好調でございます、特に娼館からの注文が多くて。
お客様の意匠の発想は素晴らしい物がございます。
もし宜しければ、当店専属での技術員としてお迎えする用意があります」
「い、いや、自分はただの客だからな・・・」
なんて事は無い、フリルエプロンなんて既に地球で流行っている。
HENTAI共御用達の衣装だ。ごめん、チョット嘘を吐いた。
普通にエプロンと言えば、ふわふわな物が多い。
ファッションの中心が貴族の間にあるうちは、
意表を突いた衣装は生まれて来ないのだろう。
娼館で人気だと言っていたので、
そうなると次はスク水とかレオタードとか?
日本の変態紳士界隈では逆バニーが最近の流行りだったが、
それは前衛的過ぎて受け入れられないだろう。
まずはバニーからだな。
個人的には半袖で体ぴっちりのレオタードシャツなどが好みではあるが、
伸縮性のある素材できめ細かく編む技術は、
こちらの世界にまだまだ無さそうだ。
注文しても無駄だろう。
・・・いや、変な物を蔓延されても困るし。
これ以上のデザインの持ち込みは止めて置いた方が無難か。
下手をすると、この国全体がHENTAI国家になりかねない。
エミーの背丈に合いそうな小さめの給仕服を2着買い、
量産されて飾られていたエプロンも小さい物を1つ買った。
「お客様は以前よりお世話になっておりますので、
特別に5250ナールとさせて頂きます。
今度ともご贔屓に」
「また何かあったら宜しく」
ジャーブとパニの服だけならポーチに収まったが、
フワフワのエプロンと給仕服2着は流石に入り切らなかった。
手持ちで運び、自分の部屋に戻る。
給仕服はベッドに放り投げ、
ジャーブとパニには着替えるように言い付けた。
ヴィーはまだ入浴中らしい。
「このような服を、俺が着てしまっても宜しいのでしょうか?」
「寧ろその、今着ている服が宜しくない。
一応我々は賓客なのだから粗相が無いようにな」
「あ、あの、僕は呼ばれていなかったと思うのですが」
「お前は所謂妾の奴隷だ。
可愛く着こなすのも大事だと思わんか?」
「そ、そうですね。ユウキ様に気に入って頂けますよう頑張ります」
「い・・・、いや、それは要らん」
止めて、そっちの方面は興味無いから。
気に入って欲しいのはヴィーだから。
もう一度釘を刺して置くか。
「お前の役目はヴィーから気に入られる事だ、そこを間違えないように」
「はっ、はい。頑張ってヴィー様にも気に入って頂けるように致します」
言いたい事が伝わったかどうか不安になる。
「も」って何だよ、「も」って。
・・・・・・。
確かに自分から嫌われたらこの家では居辛いだろうが、
優先順位を逆にして貰いたい。
ヴィーが完全に嫌悪したらパニの存在意義がやばい。
「自分はともかく、ヴィーに嫌われたらお前は仕事が無くなるからな」
「ええ!?そ、それは・・・」
「そういう事だから、ヴィーに好かれるように努力せよ。
それが最大に優先するお前の仕事だ」
「か、かしこまりましたっ」
「そういう訳で、ジャーブも2人の邪魔をしないように」
「ええっ、俺そんなに堅物に見えますかね」
「以前食事を先に食べて置けと言ったのに、
お前が止めた事があっただろう?」
「も、申し訳ありません。
あの時は直ぐユウキ様がお越しになるかと思いまして」
二日酔いだった事はジャーブも知らなかった訳だし仕方が無いか。
しゃーない、不問だ。
「ではまた後で」
「分かりました」「失礼致します・・・」
再び部屋で休んでいると、アナが戻って来た。
「ご主人様、エミーの例の計画ですが」
「おお、どうなった?何かあったか?」
「いえ、噂の流伝を加速するための案として、
ご主人様の作成された、あの赤辛い調味料を使わせて頂きたいのですが」
「え?別に構わないが。どうするんだ?」
「今回の騎士たちに招かれている宴席で、あの料理を出します」
「おいちょっと待て、どの位必要になるか判っているのか?」
「はい、既にナズさんとエミーが作っておりますので、
後はご主人様のご許可だけです」
許可って、おい。
もう作ってるって、それは許可なのか。
見切り発車過ぎてクラクラして来た。
まあ、許可はするけどさ。
「わ、解った。許可するだろうと思って先にやったのなら恐れ入る」
「ありがとうございます」
確信犯(誤用)かよ。
あの人数分用意するとなると、最低50は作る必要がある。
寧ろあの量で足りるのか?
チリソースはまた作らなければならない。
いや、逆に言えばまた作れば良いのか。
今度は買わずにスパイスパイダーが出る階層を指定して、
連れて行って貰えば済む事だ。
そうすれば原材料費タダだし、ナズもエミーもいるので任せる事ができる。
じゃあ良いのか、どんどん布教してくれ。
ナズの歌とタコスでホドワの酒場の名を売って、
ユーアロナ騎士団にいるであろうアイザックの耳へ届かせる作戦だ。
所属する団こそ違えどトラッサ駐屯の騎士達の間で噂となれば、
違う街にも伝播する可能性は高い。
文句の付けようが無く、アナの作戦は完璧だった。
ついでに騎士団へ恩も売れるし、良い案である。
様子を窺いに台所へ入ると、
大皿3つには山盛りのタコスが既に積み上がっていた。
うーん、事後報告過ぎてびっくりだよ。
これを自身が吹っ掛けられるために作っているナズは、
どういう心境で作業していたのかと思う。
ジャーブもパニも生地を捏ねるのを手伝ったようだ。
粉だらけじゃないか、せっかく風呂に入ったのに・・・。
ヴィーがいないのは、まだ風呂に入っているからだろう。
と言う事はさっきまで生地を捏ねていたのか。
ナズが生地を焼き、エミーが肉と野菜を乗せる。
パニが匙でチリソースを掛けて、ジャーブが丸めて潰し、
アナはでき上がったタコスをパピルスに巻いて行った。
奴隷達だけで流れ作業ができていて、2度びっくりする。
もっとこう、カオスで非効率な作業現場を想像したのだが。
この場を仕切ったのは多分アナなのだろう。
発案もアナのようだったし。
パピルスの束が足りなさそうに感じたので、
自室にあったパピルスも追加してやった。
また買って来なければな。
一昨日ジャーブがエミーのために筆記具を買って来たので、
エミーに貸し出していた自分の筆記具は戻されていた。
確か50枚が1セットだったはずなので、
足りないと言う事は遠慮無く沢山書いたのだろう。
手伝ったらまたナズに咎められそうなので、自室に戻った。
***
部屋に入る日差しが赤くなり、椅子や机の影も境が消え始める。
外には夕焼けが広がっているのだろう。
そろそろ頃合いだ。
台所に行くと疲れ果てた5人の姿があった。
ヴィーも何かを手伝ったようだ。
今日は食べられなくて済まないな。
ン?
自分達もその席に座るのだから1つは確保されているのかな?
・・・まあ良いや。
パニを置いてパーティを組み直し、
全員へ持てるだけのパピルスに巻いたタコスを持たせる。
エミーはいつの間にか買ったパン用のバスケットへ詰めていた。
「そうだ、エミー。お前の服を買ってあるので、今着てくれ。
自分の部屋に置いてある、ちょっと行って着て来い」
(ぺこり。)
パニに持たせるよりはエミーに持たせた方が良いだろう。
パニはなんて言うか、沢山持てそうに無い。
転ばれたら大問題だし。
それを言ったらエミーだってそうだが、
彼女にはマイバスケットがあるので大丈夫だ。
ホントいつの間にだよ。
エミーが給仕用の服を身に着け、
カチューシャと共に一層メイドらしくなった。
銀髪ロリ無口メイド、良いじゃないか。
「似合っているぞ」と声を掛け、頭を撫でてやった。
ゲートを騎士団宿舎入口にある木の壁へと繋げる。
自分を先頭に、ナズ達がパピルスの束を持って続く。
既に宴席は用意されており、机と椅子が並べられ、
この団寮の料理人らしき人物達が大皿料理を机に運んでいた。
椅子はざっと50席はある。
上座の4席を含めてだ。
あれはお偉いさんの席だろう。
料理長らしき人物に声を掛け、自分も料理を持って来たのだと告げ、
小皿を各席分用意して貰った。
手分けして1つずつ皿に乗せ、余った分は上座の大皿に積んだ。
エミーを家に戻す。
配布が終わった頃になると宿舎からは騎士数名が表へ出て来始めており、
何人かは鎧を脱いだラフな格好になっていた。
後方に置かれた流しテーブルには大きな樽が運び込まれ、
これは酒ダルなのだろうと一目で判る。
上座の横には雛壇が置かれ、あそこで隊長が音頭を取るのだろう。
自分達の席が判らないので、ある程度埋まってからでないと着席できない。
酒ダルの台の前で眺めながら待っていると、
知らない騎士から声を掛けられ、席に案内された。
騎士は「この辺かな」と言って席に着き、その隣を案内された。
どうやらどこでも良かったらしい。
壇上からは遠くも無く近くも無く、酒までの距離もまあまあ。
かと言って中央でも無い中途半端に控えめな位置である。
「さっきの戦い見ていたぞ、弓で戦うのは初めて見たなあ。
あの弓はどこで手に入れたんだ?」
「ええと、弓に興味がおありですか?」
「いやいや、珍しいから気になっただけだよ。
弓なんて扱える者自体珍しいからな」
「はあ・・・」
「迷宮は長いのか?」
「ええと・・・」
まだ40日程度ですとかは言えない。
ルスラーンには3年の修業をと言ったが、それも計算上おかしい。
56層を3年で行けるはずが無いのだ。
「じゅ、10年ですかね。小さい頃から鍛えられまして」
「そうかー10年かぁ、それでも凄腕だな。
若そうに見えるし、これから何になるんだ?」
何に成るのか。
見ず知らずの騎士の発した何気ない一言だが、
その言葉は自分の心に大きく突き刺さった。
自分はこの世界で何をするのだろう。
迷宮へ行って稼ぐだけの人生か?
これから死ぬまで、軽く見積もって40年以上はあるだろう。
いずれは老いて戦えなくなる日が来るはずだ。
その時に、どういう自分になっているかを想像しないままでいた。
ただ何となくダラダラとスローライフが送れたら良いかな、
などと中途半端に考えて。
大体、異世界小説なんて物は終了が中途半端なのだ。
完結を見ないままで終わるものが殆どであり、
完結していたとしても結婚してハッピーエンド、
ラスボスを倒してハッピーエンド、
復讐を果たしてハッピーエンド、エンドエンドアンドエンドだ。
その後、彼らがどう暮らしたかまるで判らないままだ。
今目の前の障害をどうしたいかでは無く、その後どう生活するかが大事だ。
これはお伽話などでは無く、リアルな自分の人生なのだから。
日本のように生活を保障された老後がある訳でも無い。
介護施設や病院も無い。
奴隷達ならば甲斐甲斐しく面倒を見てくれるだろうが、
そういう彼女らも老いる。
そうなると彼女らを面倒見る奴隷が更に必要となる。
どこかで迷宮探索を止め、何かの職に就かなければならないのだ。
或いは職に就かなくとも、老後もちゃんと生活できるような蓄えがいる。
働かずに羽振りが良い姿を見られたら、盗賊にだって狙われるだろう。
この騎士は、自分がこの世界に於いて何をして行くかの本筋を問い掛けた。
本人はそんな大逸れた命題を問うたつもりでは無かったと思うが。
「うーん、何か良い商売があればそれをやろうかとは思っているのですが、
今の所これと言って何も・・・まずは修業ですかね」
「そうかい、俺は騎士になる前は──」
名も知らない騎士だったが、かつての夢や今後の事、
家族の事や騎士団に入った後は恩給が受けられて老後も安泰と言った、
様々な話を聞かせて貰った。
原住民のリアルな話は参考になる。
話の最中にルスラーン達が上座へ並び、宴席は開催された。
皆一斉に食事に手を付け、酒を酌み交わす。
自分も盃を空にして、横の騎士と共に酒の御代わりへ向かった。
順番待ちをしている所に、マリク副隊長|(?)から声を掛けられた。
「ルスラーン様がお呼びだ。歌の準備をして欲しいとの事だ」
そういえば、そうでしたっけ?ウフフフ。†
それがメインでこの場に呼ばれていたのだった。
先程の騎士に断りを入れ、
自分の席の隣で控えめに食事していたナズに声を掛け、
一緒に雛壇へ向かった。
今回の秘密兵器メガホンを持って来た。
パピルスを適当に束ねて巻いて、油でコーティングしただけの物だが。
外で歌うと声が拡散して遠くまで響かないと思う。
マイクなんて物は無いし、メガホン構えて歌って頂きたい。
「ナズ、歌う時はこれを口に当てて、できるだけ大きい声でな?」
「は、はい。何でしょう?これは」
「声を大きくする物だ。少しだけ遠くに飛ぶようになる」
「す、素晴らしいですっ!」
雛壇の前に行くと、注目が集まった。
一応口上をした方が良いだろう。
壇上でメガホンを構えた。
「商人のユウキと申します!
この度はこのような場へお呼び頂きまして、誠に光栄に存じます!
ささやかな贈り物と致しまして、ホドワで噂になった酒場の歌姫の歌を!
そして、その歌姫が働く酒場で人気の料理を持って参りました!
各テーブルの前にパピルスに包まれた塊がございますので、
酒に合わせてご賞味下さい!
お気に召しましたら、是非ホドワの酒場まで!」
「お前の話は長いぞ!」「いいから歌わせろ!」「ここで商売かよ!」
「これ食い物かよ!先に言え!」「俺は知ってたぞー早くしろー」
ヤジが飛び交うので、壇を降りてナズにバトンタッチした。
ナズの歌が始まると、皆静かに聞き出した。
ルスラーンから呼ばれて席の前に立ち寄る。
「これはお前が持って来たのか。
今回の予定に無い物だったので警戒していたが、そういう事なら頂こう。
それにしても、こんなに沢山良く用意できたな?」
「ウチには料理専属の召使もいますので、家の事は任せております」
「ほー、ソイツも強ェのか?」
このシルクスの騎士団長は強い弱いでしか人を判断しないらしい。
まったく脳筋が過ぎる。
「強いかどうかは判りませんが、彼女は料理人として長くやっております」
「長くってェと、迷宮でか。料理人ッてェのはジョブのだよな?
遠征に連れて来いよ。お前ェら5人だったじゃないか」
「いえいえ、今日の宴席のために朝から準備しておりましたので、
今回はそのような暇が無く」
「ほー、まあ人数分作るとなるとしゃーねェか。どれどれ・・・」
ルスラーンもマリクも、イルハンも、
パピルスの包を割って豪快に齧り付いた。
そんなに一気に行ったら辛くて咽るぞ・・・。
「うわっ・・・辛っ!辛いなこれは!」
マリクが驚いて、酒を一気に飲み干す。
ルスラーンは頑張って噛み締めて喉を通したが、
辛さは後からも来るようで、同じく盃を空けた。
「おお、こいつは良いな、酒に合う。1個しか無ぇのが残念だが」
「皆様方の分だけはここに積んでありますので、是非ご賞味下さい」
そう言って、壇上の料理の陰に隠れたパピルスの塊を指した。
「おお、そう来なくっちゃ!」
「なるほど、素晴らしい!」
「これがホドワの酒場にあるのか・・・」
マリクもルスラーンも上座用に置かれた樽から酒を注ぎ足し、
イルハンは樽ごと抱えて飲み出した。
ここだけ切り取ったらやべー奴だ。
いや、もう最初から粗暴な人物だったが。
一息飲み終えたイルハンから余興の提案をされる。
一対一で戦ってみろと言うのだ。
とんでも無い、自分にはそんな実力など絶対に無い。
ジャーブと戦っても怪しいと言うのに。
勘弁願いたいと思っていたら、戦いたい相手はナズなのだと言う。
今ここでナズの力を示すのは拙い。
華弱い歌姫と言う設定が崩れ、
ボルドレックが恐れて興味を示さなくなる可能性もある。
せめて決闘後にして貰わないと。
目的は支配下に置いて、ボロボロになるまで甚振る事だろう。
ナズが屈強な戦士であるとバレてしまうと、
手を出して来ると言う根底が崩れてしまう。
イルハンには事情を説明して闘志を収めて貰った。
民事不介入と言うか、そもそもが過去に起きた事件。
しかも管轄領外の出来事だ。
流石のイルハンも、それならば仕方無いと溜飲を下げた。
しかし決闘で決着を付けたら、
必ずシルクスへ来るようにと約束をさせられてしまった。
どうあってもナズと戦ってみたいらしい。
おっかねえな、血の気の多いドワーフは。
ナズの歌も5曲目に入り、
集中して聞いている騎士はまばらとなって、
歌を肴に酒や食事を楽しんでいたようだ。
ちらほらとタコスの感想も聞こえ、
隅っこに置かれた誰の物でも無いタコスを巡って、
賭け試合が行われているようである。
血気盛んな職場であるので、恐らくこれが日常なのだろう。
その位の人気が出てくれなければ困ると言うものであるが。
一応壇上の後ろでナズをサポートするつもりで立っていたが、
ジャーブと先程の騎士がやって来て、決闘の許可を求めて来た。
木刀でやるので大丈夫だとジャーブは息を荒らげる。
良いのか?ホントに。
一応ルスラーンに聞こうか。
何だかイルハンと話しているから忙しそうだ。
マリクに聞いた。
「済みませんマリク様。
うちの奴隷と戦ってみたいと仰る騎士様がいるのですが」
「ああ?構わんぞ、怪我の無いようにやってくれ」
と、止めないのかー。
まあそうだよな。
あっちで2試合が行われているのだし、ここでは普通なのだろう。
「許可が出たので良いぞ。頑張って来い」
「はっ。ユウキ様の名を折らぬように戦って参ります!」
どっちでも良い。
逆に負けてくれた方が、
自分が弱いと思われて吹っ掛けられ易くなって助かる。
「そぃじゃあ借りてくぜーぃ」
この騎士はだいぶ酔っている。
駄目だこりゃ。
ナズは10曲を歌い、
イルハンは酒ダルを2つ空けた辺りでその場で倒れて寝始め、
料理も殆ど空になり今日の宴は終了した。
終了の音頭は無い。
満足した騎士達から勝手に宿舎へ戻って行った。
隙間ができ始めた席を前に、自分達もそろそろ帰ろうと支度をした。
「ルスラーン様、本日はありがとうございました。
また何かありましたら宜しくお願い致します」
「ああ、そうだな次は決闘だったな。楽しみにしているぞ」
こちらは全く楽しくない。
命を懸けるのは自分で、賭けるのは大切な自分の愛人だ。
だが、男にはやらねばならない時がある。
多分。
「その折には宜しくお願いします。
それでは今日はこの辺りで失礼させて頂きます」
「うむ。あの辛いパンは中々の美味であった」
会釈してナズを回収し、全員一緒に家へ戻る。
ヴィーも酒を飲んでしまっていたようで、吐息は酒臭かった。
受け答えはいつもと変わらない様子であったので、
ヴィーは酒に呑まれるタイプでは無さそうだ。
良かった、パニのパートナーが彼の恐れる酒乱では無くって。
酔いが回った自分は家へ帰るなりそのままベッドに倒れ込んだ。
恐らく明日は二日酔いだ。
意識が途切れる前に、ナズには明日全員休日だと伝えた。
∽今日のステータス(2021/11/09)
・繰越金額 (白金貨2枚)
金貨 89枚 銀貨 93枚 銅貨 27枚
アイテム売却 (12799→16638й)
コウモリの牙 ×143 9295
コウモリの目 × 2 224
岩 × 82 3280
服購入 (7500→5250й)
給仕服 × 2 6000
エプロン 1500
服購入 (950й)
洒落た服上下 × 2 600
女の子用のズボンシャツ 350
金貨+ 1枚 銀貨+ 4枚 銅貨+38枚
------------------------
計 金貨 90枚 銀貨 97枚 銅貨 65枚
・異世界45日目(夕方)
ナズ・アナ40日目、ジャ34日目、ヴィ27日目、エミ20日目
パニ10日目




