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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第二章 下積
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§013 成金

「空気の読めない奴じゃの、お主さては商人に成ったばかりじゃな?」


「え・・・、いや、えーと、そ、それは何故そうなるのでしょう・・・」


有り合わせの内容で事情を説明したらガン付けされたので、

色々な嘘が見透かされたかと思って辟易たじろいでいたのだが、

予想とは違う指摘を受けた。


変に挙動不審になってしまう。

その指摘も別の意味で痛い所を突かれてしまった。


「フン・・・。これだけのモノを持って来たのじゃ、

 普通はもっと強気に出るべきじゃろう、幾らで売りたいと」


「そ、そうでございますか」

「そうしたら、こっちはもう少し負からんかと返す。そうやってお互いに、

 損得の一致する妥協点を探して折り合いを付けるのが商売じゃ」


「な、なるほど、申し訳ありません。

 父にはこれを売って来いとだけ言われて放り出されたので・・・」

「なんじゃ、本当に成り立てか。その年まで何をしておったのだ」


「戦士を少々・・・」

「ほう?お主は騎士を目指しておったのか。なるほどのう・・・」


「お分かりになられるのですか」

「お前さんの目は慈悲に満ちておる。悪い事ができん人間の目じゃな。

 騙すような事もせんのじゃろう。そういう輩はだいたい騎士に多い」


この御老人はこれまでに多くの商談を纏めて来たのだろう。

大金が絡むと人は変貌する。

騙し騙されるのが当たり前の世界だ。

人を見る目が確かでなければ、商戦に勝ち抜くのは難しい。


そんなザイード氏からは、自分は悪い事ができない人間に見えるらしい。


確かに、世間的に悪とされるような事をした事は無いし、

そういう輩を見ると腹が立つ。

ヘタレなので見て見ぬ振りをするだけだが。

トラブルには巻き込まれたく無いと言う本能からかもしれない。


いや、多分そういう事では無い。

顔つきが幼いと言う事だ。


日本と言うぬるま湯で、甘やかされて育って来た。

人を騙したり殺したりする事が横行しているような国で、

逞しく育って来た者の顔付きでは無いと。


「お主は商人に向いとらんぞ。

 騎士に成るならワシの所で用心棒として雇っても良いがな。カッカッカ」


この人、今、騎士を用心棒代わりにするとかサラっと言ったぞ。


普通は領主の所属になって治安警備をするんじゃないのか?騎士団って。

それを自警に遣わせるとか、どれ程の力があるのだろうか。


あまり、あちらのターンばかりにするのもまずい。

先に見積もってみろと、初心者商人に優しく諭してくれたのだ。


「はは、済みません、そういう訳にも行かない事情がありまして。

 こちらの石鹸なのですが他の商人に見せた所、

 15万ナール程の価値があるのでは無いかと言われまして」


ちょっと多めに行かせて貰った。

トラッサでは13万ナール以上だと言われたのだ。

多めに見積もって折り合いをと言うならば、切り良く15だ。


「何じゃと?これで石鹸なのか。・・・うーむ、石鹸には見えんの」


ザイードは石鹸を取り出して四方から見詰め、

匂いを嗅いだり軽く叩いたりしていた。


「ワシはてっきり細工の麗しい香料だとばかり思とったのじゃが、

 これが石鹸ともなると・・・15万ナールか・・・ふむ」


しまった、最初に石鹸だと言わなかったせいで誤解も生まれたようだ。

そして商才ザイードであっても、

これが石鹸ならば首をかしげる逸品らしい。


石鹸1つ15万ナールが高いのか、安いのか。

やはり良く判らない。


香料が練り込まれた細工の美術品であれば、

15万ナールは妥当なのだろうか。

ドライフラワーをガラスでコーティングした物だと思えば、

ちょっとした美術品、宝石クラスなのかもしれない。


消え物である石鹸なら15万ナールはやはり高いのかもしれない。

安い奴隷1人位が買えそうな金額なのだし。


「分かった、その値で本当に良いのじゃな?変更は聞かんぞ」


ありゃ、安かったのだろうか。


貴族向けに、1つ20万ナールあたりで流せるのかもしれない。

これ1つに20万ナール払うのだから、

貴族どころでは無く王族なのかもしれない。

晴れの場の贈呈用として重宝できると踏んだのだろうか。


モノと言うのは売る側がその価値を見出す。

実力者が相応の力を持った言葉で宣じて、

始めて価値が生まれるのだ。


某会社の採用試験では、希望者の実力を測るために

100円のボールペンを1万円で売って来いと言われたらしい。


自分のような駆け出しエセ商人が、

これは貴重な物ですよと言い張った所で、

どう考えてもインチキしてるようにしか見えない。

インチキ商人ユウキなのだ。


「正直な所を申しますと・・・、

 これの値段は全く見当が付かず、別の町では足元を見られました。

 これを相応しい方の手元に送り出せる金額がそうであるならば、

 私はそれで満足でございます」


正直な感想を述べた。


恐らくこの老商人にハッタリは効かない。

そうですか、それならばもう少し・・・、

等とマウントを取って行くだけの実力が、自分には無い。


大学を辞め、初めて社会に出た自分の、精一杯がここなのだ。

もっとちゃんと勉強・・・社会勉強をすべきだった。

商売をするに当たり、人生の経験値が余りにも足りていなかった。


「お主は本当に商人に向いておらんのう・・・」


「性分でございまして」


ザイードは目配せしてから何かジェスチャーを送ると、

小間使いの若い男は部屋を出て行った。


出されていた紅茶を口に含む。

地球で飲んだ、日本で飲んだ紅茶とはまた一味違う、

良い香りのするハーブティーだった。


「お主の父親はどうしておる」


「それが数か月前に亡くなりまして」

「それで継ぐ事になったのか。

 お主は若い、お主の父もまだまだ若かったのじゃろうのう」


「もう少し早く、父と仕事をするべきでした」


これは本当だ。

もっと元気な時に、父親と色々旅行なんかをして置きたかった。

嘘では無く本心なのだから、重みがある。

作り話でも所々に真実を混ぜると、本当の事のように聞こえるのだと言う。


ゆっくりとした時間が流れている。

そんな静寂を割って扉の音がしたと思ったら、

さっきの若い男が戻って来た。


「お待たせしました、こちらでございます、ご確認下さい」


銀装飾のトレーに金貨を乗せて持って来ていた。

金貨10枚で一束になっているのだろう。

1、2、3・・・6、7ん?最後の少ない束は8枚だった。

金貨は78枚ある。


自分から提示した金額であっても、3割アップは有効だった。


「お主の誠実さと、お主の父親の追悼、

 そしてこれからの商売に期待して金貨78枚で買おう」


ザイードはそう言って手を差し出して来た。

ありがとうございますと握手を交わした。

リュックから残りの3つの木箱を出して、中身を見せて引き渡す。

箱だけ渡さないで、ちゃんと中身を見せるべきだと思ったからだ。


この商館の規模の大きさから、

いずれまた奴隷をお世話になる時が来るかもしれない。


だがそれは別の機会で良い。

いきなり増えても扱いに困るだろうし、

奴隷を上手く扱えないなんてみっともない姿は見せれない。

ナメられたく無い。舐めては欲しいが。


ナジャリ、アナンタ、先程お前たちに詫びたのは・・・、

あれは嘘だ!夢だッ!†

何もなかった。いいね?†


まだ買ってもいない奴隷達にお仕置きをした。

ご主人様なのだから、厳しく接しなければならない。

いや、虐めるつもりなんて最初から無い。

寧ろ大事にするつもりだ。


さっきから自分の物でも無い他人に、貢いだり怒ったり謝ったり、

ほんと、どうかしてる。


思えばこちらの世界に行くと決めてから、喜怒哀楽の落差が激し過ぎだ。


何度も絶望と恍惚のジェットコースターを食らったのだ。

1人でノリツッコミしなければやり切れない位疲弊している、

多分そうに違い無い。


ウイスキーとネックレスの売却はまたの機会となった。

隠し玉は残して置いた方が良いだろう。

今後いつまた纏まったお金が必要になるかも解からないし。


ともあれ、92万ナールもの資金ができた。

2人を買って装備を揃えてもお釣りが来る。

支払期限には余裕で間に合ったのだ。


・・・何だろう、クレジットカードの返済が間に合わず、

何とか工面して乗り切った感じのアレなのか?

そんな事した覚えは・・・1回だけあるな。

いや、あの時程の絶望感は無い。


今回はダメだったとしても、特に何も失う事は無かったのだから。

「何も得られない」のと、「何もかも詰む」のは

大きく違うと断言して置こう。


2人の装備を先に揃えてしまうのも有りか。

そもそも自分が今身に着けている装備品は盗賊からせしめた物で、

スキル付きの物は靴しか無い。


唯一、頭目が持っていた柳の皮靴はアタリだった。

これのお陰で他人を出し抜いて頭目に伸し上がったのだろう。

この靴は有用なのだ。


トラッサに戻り武器屋へ立ち寄る。


そういえば2人の得意武器などは聞いていなかった。

鍛冶師を取らせるためにナジャリには棍棒で戦って貰う必要があるし、

アナンタは盾を使うのが得意だと言っていた。

自分が今履いている靴はアナンタに渡してしまっても良い。


となると、自分の靴が必要だ。

日本から持って来た靴は装備品としての効果が無い。

防刃チョッキの例もあるし、防御力はゼロだろう。

高級な革靴なのだ、そのうち売っぱらうか。


先日の夕方に大量の装備を売り払った武具屋へ向かい、装備品を吟味する。

昨日の今日で申し訳無いなと思いながら、

店内の商品全てを鑑定で調べ、2人分の武器と防具をピックアップした。


 棍棒(空き) 鋼鉄の槍(空き 空き) カトラス(空き)

 革の帽子(空き 空き) 革の帽子(空き) 革の帽子(空き)

 硬革のジャケット(空き) チェインメイル(空き 空き)

 革のグローブ(空き) 革のグローブ(空き)

 革のブーツ(空き) 革のブーツ(空き) 鉄の盾(空き)


思った以上に空きスロット付きの装備が無い。

流通の問題なのか、腕の良いドワーフがいないのか、

乱数に偏りがあるのか・・・。

そもそもこんな物なのか、良く判らない。


ミチオ君のように掘り出し物を見付けられる確率は、

本来もっと低いのだろう。

もっと良い装備の中でも空きスロット3つは発見できなかった。

3割引きで5万9千360ナールを支払うと、

残りの金貨は84枚になっていた。


雑貨屋で3人分の房楊枝(歯ブラシ)と

2人分のリュックと水筒と手拭い、櫛と桶も1つ買う。

装備の手入れのためにオリーブオイルも揃えた。


肩掛けのポーチも購入した。

持って来たジーンズのリュックよりは商人ぽく成っただろう。


日が昇ってこの時間は閑散としている探索者ギルドで、

滋養丸と毒消し丸と柔化丸を6つ、強壮丸10個購入した。

しかし1680ナールだからと銀貨10枚を積んだ時点で止められた。


やはり計算ができないジョブの者は、

支払い時には商品1つ1つを幾らで、とやるようだ。


銅貨で1680枚も持っていないと言ったら、

今度は1回1回、銀貨1枚と銅貨100枚を交換し始めた。

夕方に買い取りカウンターが混雑する原因は、多分これでは無いだろうか。


冒険者たちがドロップ品の買取に合わせて薬を補充する。

すると、いちまーい、にーまい、さんまーい、とやるわけだ。

お菊さんかッ。

謎の空間に突っ込みをした。


なるほど、薬を買うだけで30分は使った気がする。

早く自力で作れるようになろう。

効率が悪過ぎる。


明日は2人を迎えに行くのだ。その帰りに服屋へ行こう。

自分の持って来た服は、前回の戦闘で切られてしまったので捨てた。


今着ているものは盗賊が身に着けていた服だ。

明日の予行練習もかねて服屋に行って置くか。

自分の服を、もうちょっとマシな物に変更したい。


ギルドの入り口で服屋の場所を聞き、見た瞬間の即決で服を2着選ぶ。

男の買い物は大体こんなものだ。


まず必要かどうかでフィルタされる。

次に使い易いかどうかでフィルタする。

最後に明らかに変では無いかでフィルタする。


女性が似合うかどうか、長く使えるかどうか、

他人に比べて華やかであるかどうかで選ぶのに比べ、

男性の決断は圧倒的に早い。


男性はマイナスでぎ落とすのに対し、

女性はプラスで積んで行くからだ。


一番低くない物ならどれでも良いと言う男性に対して、

女性は一番上で無ければ気が済まないのだ。

と、勝手に思っている。

皆がそうとは限らないけれども。


買い物が終わってもまだ日は高かった。

今は15時か16時位だろうか。


今が何月なのか知らないが、この地方は乾燥していて暑い。

恐らくは南の方の、乾燥地帯なのだろう。


小さな雑木林や草叢くさむらはあったが、

緑が一杯の森林をこれまで見た事は無かった。

どちらかと言うと荒れ地、岩場の方が多い印象である。

砂漠のような物は記憶に無いので、それではサバンナなのだろうか。


宿に戻って荷物を片付けると、だいぶ腹が減った事に気が付く。

何せ今までの生活では1日3食だったのだ。

こちらの町民は朝と晩に2食らしい。


この世界ではと言うより、この地域では、と言う所だろうか。

地球だって1日2食の地域や、4食の地域があるのだ。

ここでの生活に慣れるのは時間が掛かりそうだ。


空腹感は寿命を延ばすだの何だの、

お偉い学者さんが研究していた事をふと思い出した。

∽今日のステータス(2021/07/22)


 ・繰越金額

     金貨 14枚 銀貨117枚 銅貨110枚


  石鹸売却          (60万→78万й)


  装備購入      (84800→59360й)

   品名       空き        価格    用途

   棍棒       ・        200    ナズ、鍛冶用

   鋼鉄の槍     ・・     24000    ナズ、武器

   カトラス     ・       4800    アナ、武器

   鉄の盾      ・       8000    アナ、防具

   革の帽子     ・・      2600    自分、防具

   革の帽子     ・       2600    ナズ、防具

   革の帽子     ・       2600    アナ、防具

   硬革のジャケット ・       8000    アナ、防具

   チェインメイル  ・・     10000    ナズ、防具

   革のグローブ   ・       4000    ナズ、防具

   革のグローブ   ・       4000    アナ、防具

   革のブーツ    ・       7000    自分、防具

   革のブーツ    ・       7000    ナズ、防具


  雑貨品              (3735й)

   房楊枝    ×3          15

   リュック   ×2        1600

   水筒     ×2         100

   手拭い    ×2          20

   櫛                 100

   肩掛けポーチ           1000

   普段着    ×2         700

   オリーブオイル           200


  薬購入              (1680й)

   滋養丸    ×6         360

   強壮丸    ×10        600

   毒消し丸   ×6         360

   柔化薬    ×6         360


     金貨+72枚 銀貨-47枚 銅貨-75枚

  ------------------------

  計  金貨 86枚 銀貨 70枚 銅貨 35枚



 ・異世界5日目(14時頃)

   トラッサの市まで1日、宿泊2日目

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今日のステータス) >棍棒 ・ 200 ナズ、鍛冶用 ナジャリを鍛治師にする為に使う意味なのは分かりますが、用途としてはあくまで武器なのでは。 あと、この時点ではまだ購入して名付…
[気になる点] 原典ですと滋養/強壮丸は60ナールですが、毒消し/柔化/抗麻痺丸は60じゃなく100ナールだったような。
[気になる点] 枚数をかぞえるのは皿屋敷で女性の名前が違います
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