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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第八章 停滞
136/394

§124 優先

家に帰ると、エミーは即座に出迎えをした。

廊下に直接、5人がドタドタと上がり込んで来るので、

部屋で大人しく過ごしているだけならばすぐに解かるだろう。


流石は元お屋敷のメイド。

よく教育されていると言うか、立ち居振る舞いがしっかりしている。

恐らくトリアの商館では追加の教育などを受けていないだろう。


ここだけ切り取ってみると、

なぜ彼女が酷い目に合わなければならなかったのかと疑問に思う。

エミーは素朴で従順で、仕事もしっかりできる。


いつも通り挨拶は無いが、お辞儀で済ませて来た。


(ぺこり。)

「ただいま、何か変わりは無かったか?」


エミーはスッとパピルスの折りを渡してきた。


このパターンはジャミルから通信だ。

隣で鎧を脱ぎ終えたジャーブに読んで貰った。


「ウサギを──」

「判った、もういい」


「えええっ?・・・わ、分かりました」


ウサギか。


あれだけ苦労して1枚だったのに、買うとあっさりだ。

まだジャーブの武器をどうするかは決めかねているので、

すぐ取りに行かなくてもいいだろう。


「ナズ、台所に行く前に、これで木刀を作ってヴィーに渡してやってくれ」

「はい?かしこまりました」


当のヴィーはアナに鎧を外して貰っている。

1人で着脱できないのが難点だ。

大人でも難しいんじゃないのか?


今日は早めに帰ってきた。

する事も無いので夕食までのんびりしようと思っていたのだが、

鍛冶をお願いした時に矢のストックが大幅に減っている事に気付いた。


矢が足りない。

数えたら残り9本だった。

複合的に魔法を使い過ぎた。


グラスビーの毒攻撃を止めるために、

何度も詠唱中断を狙いながらブリーズストームを放ったのだ。

あれだけ酷使したらそりゃあ減るか。


羽毛がどうなったか、冒険者ギルドに飛んだ。


自分が依頼した票は掲示板から消えており、

誰かが依頼を受けたようだ。

受注なのか、完了なのか、そこまではまだ良く解っていない。


荷役の場合は受注時に票を取ったのだが、納品の場合はどうなのか。


「以前ここに依頼を出したのだが」

「はい、何の依頼でしょうか?」


「ええと、羽毛を90個だ」

「羽毛ですか・・・あ、これかな?・・・はい報告済みですよ」


報告、と言う事は完了なのだな。

納品依頼では、集めてからその場で報告と言う事で間違い無さそうだ。


「そうか、自分の依頼だ。荷を貰いたい」

「はい、それではインテリジェンスカードの確認をさせて頂きます」


え?

そうなの?


そうだよな、依頼主を騙られたら大損だ。

どうやってチェックするかと言えばインテリジェンスカードだ。

至極当然だ。


でも誰がチェックするんだ?

ヤバっ、商人にしておかないと。

大急ぎでファーストジョブを商人に変える。


奥の部屋に通されると、騎士が待ち受けていた。

依頼主自体の名前と、依頼主が盗賊でない事のダブルチェックなのだろう。

受ける時はチェックなんて無かったのに。


・・・荷役だと冒険者しか不可能だから、

そもそもチェックする必要が無い訳か。

いや、仕事をしたり納品する側のチェックは無いのだろう。

誰でもウェルカムって事だ、多分。


良く解らないまま納得した。

身分証のチェックをされると、すぐに袋に入った羽毛を受け取った。

ごちゃまぜなので何個あるかが判らない。


流石に、ちゃんとギルドの方でチェックしてくれているとは思うが。

軽くて嵩張らないアイテムなので、楽に持ち帰れてよかった。

家に帰り、台所にいるナズの手を止めて矢を作って貰った。


今ある木の板は残り3枚。

合計60本の矢を作成してもらってアイテムボックスへしまった。

これだけあれば暫く持つだろう。


「ありがとう、残り8本だったから焦っていた所だった」

「いえ、この位は何でもありません。補充が間に合って良かったです」


「そうだ、白身がいっぱいあるんだ。今日は魚の料理を追加してくれ」

「ええと、既に肉を焼いてしまったのですが・・・」


しまった、遅かったか。

帰る前に渡して置けば良かった。

その前にエミーが下ごしらえをしてしまった可能性もあるな。


残念な気持ちでエミーを見詰めると、

鍋の蓋を開けて、そこへ入れるように催促された。


「うん?それはスープか?」

(こくこく。)


「さすがエミーちゃんです。では魚のスープに致しますね!」

「では3切れくらいでいいかな?」


「はい、ではお預かり致します」


と言う事で、今日は魚の身が入ったスープになった。

野菜や芋だけのスープと違い、

淡白な具が入ると一気に料理のグレードが上がる。


ああっ、醤油ベースのスープが・・・飲みたい!

芋煮でも、ちゃんこでも、寄せ鍋でも何でもいい!


どこで売っているのかなぁ・・・。

今度、酒場の女将さんに聞こうかな?

・・・ナズが歌う日は忙しそうだから厳しいか。


庭の方から、打ち合う音が響き合う。

ジャーブとヴィーが練習しているのだろう。

ジャーブも良く付き合ってやっていると思う。

1回りも年が離れてるし、娘のように接しているんだろう。


「明日の昼はどうしようか」

「はい、お弁当を作ろうかと思っています」


「弁当?」

「はい、以前ご主人様がお作りになった、

 あのパンに肉を挟んだ物をたくさん作ろうかと」


ああ、以前作ったラップサンドね。

巻くのはパピルスだけど。


「そうか、朝から作ると相当早起きをしなければならないな」

「いえ、夜の間に作りますので大丈夫です」

(こくり。)


「エミーには説明したのか?」

「はい、楽しみだそうです」

(こくり。)


何だかいつの間にか意思の疎通ができている。

料理の心は言葉がなくとも伝わると言う事なのか?

2人が仲良くやってくれるなら、それに越した事は無い。


序列1番であるナズと打ち解けあったのならば、

今後エミーが困る事は無いだろう。

後は姉が何とかなればなあ・・・。


「では任せた。あれは旨かったからな、楽しみにしておく」

「かしこまりました」

(こくり。)


ずっと厨房を見届けるのはやりにくいだろうと思って、自室に戻る。

自分の家なのに、自分の配下なのに、ここまで気を使う自分って・・・。

もっと堂々としないと舐められるよな・・・絶対。


「ご主人様、本日のお風呂はどうなさいますか?」


「あー、今日はいいや」

「そうですか・・・」


何だか残念そうに見える。

アナもお風呂が気に入ったかな?

風呂探索が唯一の仕事だから、何も仕事が無い己に後ろめたさを感じる?


そこんトコどうなの。

やっぱりハッキリ言って欲しいなあ・・・。

ヴィーみたいに解りやすいと尚良い。


「じゃあ行くか?」

「はい、お供致します」


行きたいらしい。


風呂に入りたかったのか、仕事がしたかったのか不明だ。

いつも迷宮で探知の仕事をして貰っているのだけど、

当人に仕事の自覚が無いのも問題だな。


遊び人のスキルを水魔法にセットし、

いつものようにお湯・ウォールを出現させる。

魔法使いや英雄はLv30を超えた。

遊び人自体も、もうすぐLv30になりそうだ。


MP上昇に振っているだけあって、順調に伸びて来ているのが実感できる。

前回は確か連続使用で6セットだったと記憶していたが、

今回は一息で8セットをこなす事ができた。


湯加減調節のために、水火+水水+水火でワンセットだ。

8セットで壁魔法48回分。

迷宮でのMP回復作業は3回に短縮された。


ずいぶん楽になったと感心する。

相変わらず魔法1発の待機時間が長いが、

こればっかりはどうやっても短縮できないので仕方無い。


夕食後、追加のお湯を少し足してアナと先に入った。

ナズは明日の昼食を作ってかららしい。

後でヴィーと一緒に入るのだそうだ。

ナズの中の仕事の配分と言うか、優先順位がおかしい気もする。


洗ったり洗われたりするために風呂を用意したと言うのに。

主人おやの心、使用人知らずである。

仕方がないので、アナとお楽しみ椅子でお楽しみをした。


もう、ほぼほぼ楽しんだ後なのでベッドでぐったりしていると、

弁当を作り終わったナズが戻って来た。


「おまたせしました、私の番ですよね?」


番って・・・。


順番待ちしている間暇だから仕事をしてきました、

みたいな流れはやめて頂きたい。

ナズの考える優先順位は、最初に食事で次に自分だ。


そうだよな・・・。


本来ナズは妾として売りに出されていたが、やらせている事は雑役だ。

ハッキリと妾だとは宣言をせず、

逆にハッキリと迷宮へ連れて行って鍛冶をさせる予定だと明言してしまった。


ならば雑役が優先されるのだろう。

ナズの頭の中では、呼び付けられない限り同衾が仕事の優先では無いのだ。


ちょっと傷ついた。


「疲れているだろう?無理はしなくていい」


ので、ちょっと拗ねた言い方をしてしまった。


「いえ、これは大事なお務めですので」


大事、なお、務め、なら、こち、らを、優先、して、くれ!


突っ込みを入れたくなったが、ぐっと堪える。

既に服を脱いでいたので、悪い気はしない。

単純だなあ、自分。


喧嘩してもエッチで仲直りしちゃう馬鹿ップルみたいだ。

馬鹿は自分だけなのだが。


そもそも、風呂に入る際に弁当を優先すると言われた時点で、

こうなる事を予想できたはずだ。


「風呂に入ろうか」ではなく「風呂に行くぞ」であるべきだった。

ハッキリとした態度を示せなかった自分が悪い。

命令は曖昧ではいけないのだった。


ちょっぴり恥ずかしくて、疑問形にした自分のせいだ。

ナズにしてみれば、自分の職務を無駄なく遂行したつもりだったのだろう。

日本人の感覚が抜けなくて、何となく下手に出てしまった。

バカバカバカッ!


それでもやる事はきっちりやった。


ナズは可愛いし、お願いしますとか言われたら全てを許してしまう。

くそう・・・・・・。

・・・・・・。

・・・。

zzz。



「ナズさん、まだ起きていますか?」

「はい、ご主人様はもうお休みですね?」


「そうですね。先程の事なのですが」

「はい?」


「ご主人様は、ナズさんともお風呂に入りたかったご様子でした。

 とても残念そうにお見受けしました」

「ええっ?

 わ、私はてっきり、明日の準備をしっかりやるよう言われたとばかり」


「エミーもいるのですし、任せられなかったのでしょうか。

 ご主人様はナズさんともっと一緒にいたかったから、

 エミーを迎え入れたのだと思います」

「そ、そうなんですね・・・。私、何か思い違いをしていたのでしょうか」


「そもそも、エミーを迎え入れた経緯が、

 ナズさんの朝の負担を軽減するためだったはずです。

 その・・・私にも原因があるとも言えますが」

「そっ、そうでしたね・・・」


「ご主人様は、少しでも私達と一緒に過ごしたいのだと思います。

 お風呂やお情けを頂く際には、自分の仕事を後回しにしてでも、

 お相手差し上げた方がお喜びになるのだと思います」

「そうなのですね・・・アナさんは良くご主人様の事が判りますね。

 いえ、それだけでなく、他のみんなの事も」


「最初は・・・、どうしたら割を食わないかを考えていたんです」

「ええ?」


「相手が望む事を先にするようにしていったら、

 段々と待遇が変わっていくのが解りました。

 それから、主人が今何を考えているのかを推測するようになりました」

「そういえば、アナさんは生まれも奴隷だったのでしたね・・・」


「子供の頃は毎日が忙しくて、何も考えていませんでした。

 早く仕事を終わらせて、横になりたいとばかり思っていました。

 15歳の時に売りに出されて、16で最初の主人に買われた際も、

 特に何も考えてはいませんでした」


「ではどうして?」


「前の主人は向上心がある方でした。

 もっといい暮らしをしたい、もっと稼ぎたいと言っておられました。

 私が心を改める切っ掛けになったのは、

 もっと強い奴隷が欲しいとこぼしたのを聞いた時です」


「ええ?だってアナさんは十分にお強いじゃありませんか?」


「いえ、全然そんな事ありませんよ。

 そういうナズさんだって・・・いえ、そういう話では無くてですね。

 自分が強くなって存在感を示さなければ、

 新しい奴隷を買うために売りに出されてしまうと思ったからです」


「ええっ?だって、そんな事・・・」

「戦闘奴隷では普通にある事のようです。

 探索者以外の奴隷は強さの指標が判りません。

 そこで、探索者の奴隷と一緒に育てて、

 ある程度強くなった頃に売却し、別のジョブの奴隷を買う事もあると」


「それって・・・」

「はい。私の元主人の友人が一緒に買われた奴隷は、

 私の転職に合わせて剣士のジョブに就けさせられました。

 その後、私達は考えました。

 私のレベルがある程度まで上がったら、私は売られるのでは無いかと。

 ですので、私達は強さ以外で価値を高める事を考えました」


「それで、相手のお気持ちを察して動かれるようになった訳ですか」

「どういう訳か、私にはそれができました。

 以前の主人は、夜のお務めをあまりお求めにならない方でしたので、

 女である事には価値が余りありませんでした。

 もう1人の奴隷の子は主人の話を聞く事に徹して、

 とても聞き上手だったのを覚えています」


「ええと、以前お聞きした魔物の部屋で亡くなった方ですか?」

「はい・・・。

 その時まで、私は魔物の気配が読める事は当たり前だと思っていました。

 自分から、こちらですと進言した事は一度もありませんでした。

 そもそも、奴隷の立場で主人に物申す事は許されませんし」


「今のご主人様では考えられませんね」


「私たちが入っていたのは7層で、

 それ程迷宮が入り組んでいなかったため、

 魔物がまったく見つからなくて迷う事はありませんでした。

 みんな、解かっていて移動しているのだとばかり思っていましたが、

 魔物が集まっている部屋に入るなり全員が狼狽うろたえました。

 その時初めて、魔物の気配は他人には読めないのだと知りました」


「そうだったのですね・・・。

 私は・・・私はとても恵まれているのですね」

「少なくとも、今の生活は奴隷の待遇ではありませんからね」


「そうですよね・・・私は仕事をする事が恩返しになるものだとばかり」

「先程も言いましたが、

 ご主人様は私達が傍にいる事を強くお望みです。

 他の仕事を後回しにしてでも、

 一緒に過ごした方がお喜びになるのだと思います。

 もちろん、そのままにしたら怒られるとは思いますが・・・」


「では、私達はご主人様のお妾なのでしょうか」

「戦闘もできる、ですね」


「そうですよね、「ふふふ」」


「ありがとうございます、アナさん。

 知らずにいたら、これからもご主人様の期待を裏切る所でした」

「いえ、私たちは2人で一番だそうです。

 お互いに、足りない所を補い合いましょう。

 それがご主人様のご希望ですので」


「解りました。では、おやすみなさい」

「はい、おやすみなさい」

∽今日の戯言(2021/10/07)


新作メト●イド(恐)の発売日なのです。

この世には誘惑が多くて困ります。


エミーとか言うのが出てきました。

恐ろしい奴です。

何度もぶっ●されました。


こちらのエミーは可愛いですね。

希望としては銀髪で褐色なのですが(今更)

他の人が考える無口メイドのテンプレは

どういうのがセオリーなのか気になります。


メイドとメト●イド、同じエミーという存在・・・。

むむっ!?似ている点ばかりです。

じゃあ次は鳥人族の登場人物を・・・。


いや、ここはひとつ超古代文明で、インテリジェンスカードとかは

マザー頭脳による統治によるものだと言う追加設定を。

ここは銀河連邦管理下の惑星SP388だという設定も足してですね・・・。



緊急事態発生!メイドが脱走しました!直ちに鎮圧してください!



 ・異世界31日目(夕)

   ナズ・アナ26日目、ジャ20日目、ヴィ13日目、エミ6日目

   工事の日まであと1日

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― 新着の感想 ―
[一言] 水火+水水+水火なら遊び人は火じゃなくて水じゃないかな?
[気になる点] >遊び人のスキルを火魔法にセットし、 火ではなく水ではありませんか? >水火+水水+水火でワンセットだ。 水水ですので。
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