∮008 レベル3
今回の物語中では、標識(UID:486096)氏の執筆された、
ミニ小説である「友達(NCode:N2091HY)」
https://ncode.syosetu.com/n2091hy/
を参考文献として使用させて頂きました。
制作サークル「なんかつくろう部」の内輪コンペにおいて、
同氏から提供されたお題「友達」を用いた物語を作るという企画の中で、
既存ストーリーへの組み込み許可を頂いた件につきまして、
この場を借りまして感謝を致します。
ホドワの迷宮探索を始めて間もなく30日が経とうとしています。
私たちは3層のボスを数日かけて慣らした後、4層に出て来る石の塊のような魔物を相手にするようになりました。
石のように見えてあれで実は生物だというのですから、珊瑚と言うのは良く判りません。
足元だけ見ればグネグネピョンピョン跳ね回る変な魔物です。
頭部の石の部分は固いので、なるべく下部の気持ち悪い方を叩くと良いらしいのですが、
どうしても頭の方が大きいし狙いやすいので、そちらばかりを叩いてしまいます。
ガンダルさんやラティさんは剣でめちゃくちゃに叩いていらっしゃいますが、刃毀れしたりしないのでしょうか。
包丁であんなものを切ったらすぐに欠けてしまうと思うのですが、そこはやはりベテランの探索者さんだからなのでしょうか。
私の武器は幸いにも杖ですし、先端には硬くて痛そうな鉱石が填められていますので、遠慮なく叩いて行けます。
そして叩く度にいい音が鳴ります。
珊瑚の魔物は首を振って当ててきたり、跳ねて来て頭部をぶつけて来る以外は特に変わった事もやってこないので、初心者向きの魔物なのだとか。
確かに、頭の部分の岩が飛んでこないかだけを見れば良いのですから、私でも簡単に避けられるので全員怪我もありません。
一度だけ大きな蜘蛛が3匹出た事がありましたが、それはラティさんが2匹を上手く誘導してくれたので私はやっぱり後ろから叩くだけでした。
ラティさんが居なかったら3匹を2人で相手しなければならなかったので、本当に感謝しかありません。
珊瑚の魔物のボスもやっぱり珊瑚で、大きさだけ強化したような感じで私たちのパーティは難なく倒せました。
とはいえ、私の杖の間合いでは届かないので、安全そうな時だけ狙って突いては逃げ帰りを繰り返しているだけですが・・・。
そういえば初心者向きの敵なのでしたっけ、ここで止まっているようなら迷宮は向いていないと言う事なのでしょう。
わ・・・私は向いていないのかもしれませんが、ガンダルさんとラティさんなら大丈夫!
頭部の大きな石の塊を盾ひとつで受け止めるガンダルさんはやっぱりカッコいいです。
思わず見とれてしまいますが、ガンダルさん曰くそれでもまだまだなのだとか。
平気そうに見えて、意外と衝撃が大きいのかもしれません。
慣れるまではずっとこのボスと戦うのだとか。
そ、それってつまり私が慣れるまでっていう事ですよね?
頑張りませんと・・・。
簡単そうに見える事でも、実際にやるとなると大変なのです。
私ならば上手く盾に当てる事ができても、そのまま吹き飛ばされてしまいそうですし。
そう思うと、ラティさんは私とあまり体格の差が無いのにしっかりと防御できているようですので、鍛え方が違うというか、やはり人間は逞しいというべきなのでしょうか。
種族差を感じてしまいますね。
普段の自信の無さそうな言動とは違って、戦っているラティさんもカッコいいです!
そしてボスを倒した後は迷宮の真ん中あたりに戻って再びボスを目指します。
勿論、私も仕事は忘れていません。
途中何度かガンダルさんが魔物の攻撃を受けたので、手当てで癒して差し上げました。
ラティさんの方は全然攻撃を受ける様子は無いので、流石と言うしか・・・。
そして周回する事3回目。
ボスを倒して私たちは宿に戻りました。
今日もなかなかの収入です。
私たち、もう十分探索者としてやって行けますよね?
冬ももうすぐ終わりです。
ガンダルさんとお知り合いになってから、もう間もなく1年が過ぎようとしていました。
私は探索者としても、ガンダルさんをお支えする妻としても、
ちゃんと準備が出来ているのだと、今なら自信を持って言えるでしょう。
僧侶として役に立っているはずです!
宿に帰り、父には手紙を送りました。
ガンダルさんからも一言伝えたい事があったそうで、私の手紙の後に続いて書いて貰いました。
これは・・・私が覗き見てしまっても大丈夫ですか?
ええと、次の春の1日に王都に戻りますので、その時にシャムシーを妻に迎えさせて頂きます・・・ですって?
きゃあ、どうしましょう。
そんなに急いでも式の用意ができるのでしょうか。
私自身が準備が出来ていませんよ?
先程、準備は出来ていると言いましたが、それは心の準備です。
結婚式のほうは準備をしなくて良いのでしょうか。
確かに他の方の結婚式は何度か見てきましたが、いざ自分がするとなると話は別です。
まさか座っているだけという訳にも行きませんよね?
とりあえず、同室でこれまで一緒に冒険をして来たラティさんにもその事を伝えませんと!
・・・もう寝ていらっしゃるようですので明日でも良いですよね。
***
「と、いう訳でして、春が来たら私達は結婚する事になったんです」
「えっ・・・え?・・・・・・エーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
こ、声が大きいですよ、ラティさん。
他のお客様に迷惑にならなかったでしょうか、心配です。
朝食時に、昨日ガンダルさんが手紙に書いていた件を3人の席でお話ししました。
ガンダルさんは腕を組み、うんうんと頷いています。
ちょっと強引な所も素敵です。
その位ありませんと、リーダーとして、騎士として引っ張って行けませんでしょうし、
我ながら将来有望なお方を捕まえたようですよ?私ったら。
「そんな訳で、春の1の日には結婚式を挙げる予定だから、ラティも参加してくれ」
「えっ、い、いえ、わ、私はただの探索仲間と言いますか、ハイ。あの、そんな大層な身分でもなく・・・」
「そんな事はありませんよ、私達はこれからもずっと一緒に探索を続けていく仲間じゃないですかっ。もう親友のようなものです」
「えっ、いや、あの、と、親友・・・なのですかね?わっ、私達は」
「同じ志を持つ者として一緒に居るんだから、盟友って所だな、俺としては」
ガンダルさんも同じような気持ちでラティさんと一緒にいたようです。
今年は素敵な旦那様と一緒に、私には素敵な親友ができました。
ラティさんにその関係がどうなのかと聞いた所、友達とは一緒に遊んだり、楽しい事をする相手なのだとか。
「それでしたら、私達は一緒にいて楽しいと思ったり、遊びではありませんが、迷宮で苦楽を共にしているではありませんか?」
「そ、そう言われてみましたら、そっ、そうかもですかね?」
「では私達はお友達で、家族で、仲間です!」
「俺もね!」
「は、はいっ、お友達として、今後ともヨロシクオネガイシマス・・・」
当たり前のようなお返事が返ってきましたが、ラティさんにとっては大切な事だったのかもしれません。
これまでずっと一人だったようですし、私達がお友達1号と2号と言う事で。
ラティさんはお友達を一緒にいて楽しい相手なのだと捉えているようです。
そういう事でしたらもう既にもっと前から私達は定義に収まっていたのでしょう。
ラティさんの喋り方は特徴的ですが面白いですし、私とガンダルさんとの掛け合いも微笑んで見ておられました。
でも、ちょっとだけ不安な事があります。
折角今日初めて心の底から打ち解け合えたのですし、思い切って聞いてみましょう。
「私達二人が先に結婚してしまうので、そこは申し訳ないといいますか、許して頂けるのかなと思いまして」
そうです。
ラティさんはまだ独り者の身。
変な喋り方も気にしているようでした。
そこを自覚しているからこそ、私たち二人の姿には恨めしく思っていたはずです。
毎日私達二人が仲良く過ごしているのを見るラティさんが見せる笑顔は、
心の底からではなく単に話を合わせるための作り笑いなのかとも思えていました。
時折変に引きつった顔は見掛けていました。
私はその事に対して取り乱す事なく、積極的にラティさんをフォローしていたつもりだったのですが。
「そっ、そんな事は関係ありませんっ、お、お二人が幸せになる道を、え、選ばれたのですからっ。
ゆ、許すも何もっ、わっ、私はおっ、お祝いするだけですっ」
ラティさんのその声は、私に勇気と自信を頂けました。
「やっぱりラティさんは大事なお友達なのです」
「どっ、どっ、どうしてでしょうかっ?」
「お友達に祝福されるのはとても嬉しい気持ちになれるからです。
これからもずっと、私のお友達でいて下さい」
「はい、はいっ、こ、こちらこそ、よ、よろしくおねがいします」
そういって、ラティさんは恥ずかしそうに含羞みました。
私も多分、これまでした事のない飛び切りの笑顔だと思います。
だってほっぺたが持ち上げられて痛いんですから。
「お友達でしたら勿論、結婚式には来てくれますよね!」
「そっ、そうですかね?わっ、私で良いんですかね?」
*
*
*
春の2番目の1の日。
私たちは王都にある大きな食堂を借りて結婚式を行いました。
エルフの結婚式は伝統衣装を身に纏い、
その町一番の古い木の前でお互いに手を合わせて永遠を誓い合います。
丁度この王都では、この食堂の前にそびえ立つ木がそれに当たるらしく、
私はこれまで何度もこの木の前で結婚式を行うカップルを見てきました。
少女時代に憧れ、つい数年前まで次こそ私がと夢見ていた憧れの舞台。
そしてお相手は・・・。
「き、緊張するよね、本当にシャムを貰ってしまって良いのだろうか」
いつも私の前で頼りがいのある大きな背中は、丸まってしまって今日ばかりは可愛いガンダルさんです。
食堂の方が腕によりをかけて用意してくださった豪華なメニューは、
ガンダルさんにもラティさんにも初めての経験だったらしく、恐る恐る口に運ばれていました。
そうですよね。
私のお知り合いと言えば皆宮中に出入りするような大商人や、実家の周りに住むお金持ちのお方ばかりですので、
お二人のこれまでの生活環境との格差が浮き彫りになってしまったかもしれません。
でもでも、私はもうガンダルさんを支える つ ま なのですから、
探索者生活も慣れましたし、ガンダルさんや私たちが強くなって迷宮の奥地へと行けるようになれば、それなりの収入を得られるのだと先生も仰っていました。
何事も最初は苦労するものです。
父も裸一貫で商売を始め、ようやく今の地位に成ったのだといつも言っていましたし。
その話題が始まると母の話が長くなるので苦手なのですが。
結婚式中の私は、頭の上から刺繍の入った黒っぽいパッラと言う布を被り、結婚式中は皆に顔を見せない決まりとなっています。
私からはギリギリ、布の切れ込みの隙間からは見る事ができるのですが、これではお料理は食べられません。
ちゃんと取って置いてくれるらしく、式が終わったら頂けるらしいのですが、さっきからお腹が減って大変です。
一昔前ともなると花嫁になった方は1日何も食べられなかったのだとか。
大変ですね。私は現代に生まれてよかったと思いますよ?
ちなみに布を被る理由は、私たちエルフは美麗なので結婚式に参加した別の男性から色目を付けられないように隠すのが目的なのだとか。
そうは言っても、それならばガンダルさんのような素敵な男性が、結婚式を見に集まってきた他のエルフの女性から色目を使われる可能性だってあるじゃないですか。
ズルいです。ガンダルさんも被るべきだとおもいます。ダンジョビョウドウ!
一応?私は聞き分けのいい子ですので、壇上でお澄ましして座っているだけなのですが、
華やかそうで憧れた結婚式というのは、花嫁としてはただ座っているだけでタイクツです・・・。
せめておいしそうにお食事を食べているラティさんでも見て和みましょう。
早く終わって私も豪華なお食事が食べたいのです!
父の挨拶や来賓の方の挨拶のふりをした営業が終わり、
唱歌隊のみなさんの讃美歌も終わり、そしてお食事が終わった所でお開きとなりました。
来賓の方々が帰りようやく私の食事です。
朝から着慣れない衣装を着たり作法を聞いたりで忙しかったので、今日はまだ何も食べていません。
早速・・・
「シャム、婚姻の手続きのギルドはどこにするか決めたのかい?」
「私は商人ギルドで良いと思うのですけど、あなたたちの結婚ですからね、もう決めているんですか?」
父と母がやってきて、これから私達を何処かに連れて行くそうなのです。
えっ?結婚式が終わればもう終わりなのでは!?
「ギルド神殿ってどういう事なのでしょう?全然聞いていませんよ?」
「ええっ?お前は以前からかなり結婚願望が強かったから、知っている物とばかり」
「そういえば、教えた事は無かったかしら?そうだとしたらごめんなさいね、シャム。
普段からギルド神殿なんて用がありませんからねえ・・・私達は」
「ガっ、ガンダルさんはご存じでしたかっ?」
「ええっ、シャムは知らなかったのかい?」
「わっ、私でも知っていましたケド・・・」
がーん・・・。
私が世間知らずって事じゃないですか。
ガンダルさんは教会のギルド神殿がいいと仰ったので、
父は馬車を手配して教会まで走らせました。
父が所属する商人ギルドでは人が多すぎますし、
戦士ギルドも冒険者が多くあまり注目されたくないという理由だそうです。
確かに?教会でしたら怪我人がいなければ閑散としていますし、私も所属していますのでピッタリですね。
というか・・・そうなのですか。
結婚を誓うのはギルド神殿ですか。
では先ほど行った結婚式は何のために・・・。
「お母様、なぜ先程の催しがエルフの伝統的な結婚式なのでしょう?
ギルド神殿にお願いすればよいだけなら、必要ないのでは?」
「それはね?──」
母が言うには、大昔の事。
エルフだけが住んでいる集落で結婚式が行われていた頃は、
ギルド神殿とは長老の木そのものだったそうです。
大樹の前で式を行い、そのまま長老の木に誓い合えば済んだのだそうで。
今でもその長老の木は各地にあるそうなのですが、
ここ王都には無いらしく、手ごろな大木がその代わりなのだとか。
そんな事初めて知りましたよ!?
「わっ、私も聞いた事がありますぅ。
エルフの種族ジョブは長老樹のギルド神殿で行って、
森林保護官のジョブに就けるそうですぅ・・・」
「森林保護官は迷宮で植物系の魔物に強くなる探索者向けのジョブなんだ。
毒や麻痺も受けにくくなるし、エルフの俺達には人気だね」
「そっ、そうなのですね、知らない事ばかりです・・・」
「はっはっは。そういった事も含めて、ガンダル君。
うちの娘を今後もよろしく頼むよ。
この通りずっと家に引き籠っていたばかりの世間知らずの娘だが、
これから世間を渡り歩いて社会の厳しさを叩き込んで欲しい」
「か、かしこまりましたっ・・・」
「そうですね、商売人の娘たるもの、一度は厳しい生活も経験しませんと。
私達のまだ若かった頃は──」
ああ・・・お母様の長い話が始まってしまいましたよ。
教会でも戦士ギルドでもいいので早く降ろして下さい。
ガンダルさんもラティさんも、返答に困ってお顔が引き攣っているじゃないですか。
その後、一般市民街にある教会に着いた私達は神官である担当の方に連れられて、ギルドボックスの部屋に案内されました。
言われるがままにガンダルさんと二人で手を翳し、就業の時よりはあっさりとした光が一瞬だけ見えて儀式?は終了しました。
えええっ!?
結婚で本当に必要な事ってこれだけなのですか?
私、今日一日ずっと食事を取っていないのですけれど。
我慢する必要ありました?
レベル3(ガ6 ラ5)2年目春




