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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♭番外編    私の迷宮冒険録
130/394

      ∮007 レベル2

転職が無事成就した私は、年が明け世間が落ち着くのを待って実家に戻りました。


ガンダルさんは勿論、ラティさんの分も含めて、移動費は私のお小遣いからです。

私用ですからね・・・。


普段何気なく冒険者さんにお願いして町から街へ移動していましたが、

その代金は迷宮で稼ぐとなると大変だという事は良く分りました。

3人分で900ナール、1日の稼ぎが全部無くなる訳ですから結構な出費です。


マルアドから王都までは片道銀貨3枚。

それ程近い訳ではありませんが、王都への往復は銀貨2枚分ほど安いのです。

利用者が多い為割引されているとの事らしいですが、確かに王都の冒険者ギルドはいつも賑わっていました。


「わぁ、ここが王都ですかぁ・・・おっきい街ですねぇ」


「ラティさんは王都は初めてですか?」

「えっ、いや、まあその、・・・はい。田舎者でして・・・」


「ラティさんのような探索者は迷宮をあちこち移動するのではないのですか?」

「え、ええっと、迷宮をい移動するのは、行きたい階層でかっ、稼ぎにくかったり、

 自分では勝てないなぁと思った相手を嫌って移動するので、し、仕方なくですかね・・・。

 マ、マルアドはそれなりに稼ぎ易かったので、わ、私はあああそこにいました・・・アハハ」


「まあ、そうだったのですか、全然知らずに申し訳ありません」

「逆に王都は初心者には稼ぎ難いから、俺みたいな駆け出し探索者はパートナーを見つけるのに苦労するんだ。

 俺もマルアドから始めたら良かったかなあ」


「そ、それはだめですよっ。ずっとマルアドにいらっしゃったら私と会えなかったじゃないですか!」

「それもそうだね、そっか、王都で良かったよ!」


道すがら3人とおしゃべりしながら実家に戻ってきました。


「ここが私の家です。ガンダルさんは2回目ですね」

「一度来たとは言え、やっぱり緊張するなァ」

「ひぇぇ、こっ、こんなにいい場所に住んでいたのですねっ」


父は商売をやっていてそれなりの地位ですが、家は普通の民家です。

もっとお金持ちの人でなければ門があったり庭があったりしませんので、言うなれば私のおうちは中流階級でしょうか。

それでもラティさんは私の家を見てビックリされていました。


探索者さんたちの日当を考えると、あまり派手に金持ちぶった行動は控えた方が良いのでしょう。

私達とは生活環境が大きく違うのだという事はこの半年で良く分りました。

私は連れて行って貰っているという立場ですから、ガンダルさんに迷惑を掛けてもいけません。

厭味ったらしく自慢してしまわないようにこれまでも注意してきましたが、さらに注意をしませんと。


扉を開けると母とレクチェに出迎えられました。

父は仕事だそうですが、夜には帰るようです。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「ただいま!レクチェ。聞いてくださいっ!私は僧侶になれましたよっ!」

「どうも、ご無沙汰しております」


「まあ、シャムシーおかえりなさい。無事僧侶になれたのですって?良かったですわ。

 ガンダルさんに、それからお連れの方は?」

「ただいま、お母様。こちらはラティさんと言って、探索者の方です。今はこの3人で迷宮に行っているのです」

「あらあら、まあまあ、どうも。シャムシーの母です。いつもお世話になっています」

「いっ、いえ、こ、こちらの方こそお世話になっているというか、入れて貰ったというか・・・ハハ」


「まあそうなの?今日はうちに泊まって行ってくださいね、夕食も用意させるのでゆっくりして行ってくださいな」

「ありがとう、お母様」

「お言葉に甘えさせて頂きます!」

「は、はっ、はいぃぃ」


父が帰って来る夕食までの時間、私たち3人は自室でお茶を楽しみました。

自分の部屋ではありますが、久しぶりなので懐かしいといった気持ちが生まれます。

私は・・・ここからもう巣立ったのですね。


ガンダルさんが騎士になるまで迷宮に通い、そのままどこか別の家を借りて暮らすのでしょう。

勿論その際にはちょくちょく家に帰ったりするでしょうけれども、

この先数年はこの家に帰る事はないのです。


独り立ちが出来て大人になろうとしている嬉しさと半面、寂しさもありました。

きっと父も母も同じ気持ちなのでしょう。

3人でおしゃべりをして父を待っている間、ラティさんは棚に置かれていた本に興味を持たれました。


「シャッ、シャムシーさん、あのぅ・・・?」


「ええっと、昔父に買って頂いた物語本ですね」

「こっ!この本全部ですか!?」


「そうですよ?」


自室には合計38冊の本がありました。

貸本の商売人が時折顔を見せて本を勧めてくれます。

私の好みを知っているようで、どれも持ってくる物語は面白く、

その中でも特に気に入った本であれば、そのまま購入する事も出来ました。


王都には図書館もありますが、そちらはお堅いお勉強の本ばかりなので学者さん専用です。

私達のような町民は、専ら貸本屋からどこのだれが書いたとも知らない物語本を借りて読むのです。


本は安くても1冊5000ナール程。

確かにラティさん達のような探索者には贅沢品かもしれません。


「気になるなら読んでいただいて構いませんよ?」

「ほっ、本当ですか?で、ではちょっとお借りします!」

「へぇ、シャムがどんな本を読んでいるのか気になるなあ。俺も読ませて貰って良いかな?」


「えっ、か、構いませんけど、ちょっと恥ずかしいですね・・・」

「どうしてだい?」


「えっと、その・・・恋愛物ばかりというか・・・」

「そんなのは良いんだよ、シャムがどんな話が好きなのか知りたいんだ」


そう言って2人は私の本を読み始めてしまい、いつの間にか読書会になってしまいました。


レクチェが追加のお茶を淹れてくれたので、私も久しぶりに本を開きました。

うーん、宿屋で寝就けない時に読んでも良さそうですし、2,3冊持って行きましょうかね?

ラティさんも夢中で読まれているようですし。



   ***



「お嬢様、お父上がお帰りになりましたよ、お食事もできておりますので」


「はーい、今参ります!

 というわけで、行きましょう、ガンダルさん、ラティさん」

「ああ、そうだね、つい読み耽ってしまったよ。本も面白いね」

「・・・・・・。」


「ラティさん?あのー・・・」

「ラティ!ラティ!」

「はっ、はいっ!あっ、すみません、何でしょうかっ!」


「お食事の準備が出来たようですので行きましょう?」

「あわわ、は、はい。すっ、すみませんっ」

「そんなに面白かったの?ソレ」


「あ、はいっ!

 主人公は奴隷の女の子なんですけど、その子が奴隷になったというのが育てのおじさんとおばさんから売られたせいで奴隷になったんですけど、その後凄い強い冒険者さんに買って貰えてその人に愛されながら生活を送るんです。

 ライバルの女の子がでてきて主人公の女の子を罠に掛けようと色々模索するんです。それをどれもこれもことごとく神業の回避を決めて全く物ともしないので読んでいてスカッとします!」

「へっ・・・へえ・・・、そうなんだ」


「ああ、迷宮物語ですね。私も大好きなお話です。私の友人から勧められた本なのですが私も気に入ってしまって、結局買ってしまいました。

 もしよろしければ、今日読み切れない分はお持ちになってゆっくり読んで頂いても良いですよ?」

「ほっ、本当ですか!ヤッタァ!」


同じ物語が好みという事は、ラティさんとは趣味が合いそうな気がします。

折角ですので他の本も読んで貰いましょう。

同好の士がいれば今後の生活も楽しくなるでしょうし、共通の話題があるという事は良い事です。

私は迷宮の事には疎いですし、これまでの生活の差があってかラティさんとは距離を縮められずにいました。

この本がきっかけになってくれれば良いですね。


扉を開けると、既に父と母は席に着いていました。

続いて私、ガンダルさん、ラティさんが部屋に入ります。


「シャム、おかえり。僧侶になったんだってな?早いもんだ。

 先生にも報告をしたが、半年で成れるのは見込みが良いと仰っていたぞ」


「ありがとうございます。ガンダルさん達がお強いからですね!

 私は後ろから叩いていただけですので」

「ははは、そういう事かな。

 ガンダル君も、よくやっているようだね。頑張ってくれたまえ」

「はい、一日でも早く騎士になり、シャムを幸せにします!」


「おいおい、君が騎士になる頃にはシャムが行き遅れてしまうだろう。

 結婚はシャムが15になった時だ、良いね?」

「ええっ!」「まぁ、アナタったら」

「そっ、そうですね、緊張します」


「まあまあ、気楽にな。そうだ、春になったらまたウチに来ると良い。その時は祝いの席を設けよう」

「は、はぁ。」


「ええと、それから・・・君が二人を纏めてくれている探索者か。名前はええと・・・」

「あっ、ラッ、ラティと申しますぅ」


「そうかね、ラティ君か。2人の事をよろしく頼む」

「はっ、はいぃ、こちらこそ宜しくお願いしますぅぅぅ・・・」


その後、料理が運ばれてくるたびにラティさんが驚いたり叫んだりして楽しく夕食を終えました。


確かに宿の食事とは違って私たちの普段食べているような食事は豪華な部類なのでしょう。

この半年、一番思った事は食事の違いでした。

今日は私が久しぶりに帰ったという事もあって、レクチェも張り切ったようです。


私から見ても普段の数倍は豪華なお食事でしたので、ラティさんが騒ぐのも分かります。

魚の包み焼きパイなんて、私でも久しぶりに食べましたし。


父とガンダルさんはその後話があるそうで、2人は居間に残りました。

私とラティさんは自室に戻って先程の本の話や、他にもお勧めの本があったのでラティさんに勧めます。


「──という訳で、この3冊がお勧めですよ?」

「わあぁ!こっ、こんなに沢山お借りしても良いのですかっ?」


「ええ、勿論です。この3冊はどれも同じ作者さんのお話なのですよ?」

「ええと・・・本当ですね、ガッソ・チェシャーノ・・・という作者さんなのですね」


「はい、ラティさんは同好の士です!この方の物語のお話ができる方ができて嬉しいです」

「えっ、ええと、そっ、それにはまず私が1冊読破しないと」


「私・・・実はラティさんとどんな話をしたらいいのかずっと困っていました」

「えっ、はい?」


「私はこの通り少し裕福な家の出です」

「はぁ・・・(少し?)」


「ラティさんやガンダルさんもそうなのですが、探索者を生業とする方たちとは中々お話が合うような事が無くって、

 ああ、勿論、ガンダルさんはその・・・婚約者なので良いのですが、その・・・ラティさんとは共通する話題が無くってどうしようかといつも思っていました」

「そっ、そうだったのですかっ、わっ、私はてっきり高貴な方は、わっ、私達みたいな下々の者は相手にしないのだとばかりっ」


「私は高貴でも何でもない只の町人ですよ?これでも一般市民ですからね」

「そ、そうなのですかッ、私はてっきり──」


「ですので、こうして何か1つ一緒の話題があれば、お話が出来るかと思いまして」

「・・・そっ、そうですか。すみません、私のために」


「だってこれから長い間ずっと一緒に生活するんですから、お互い仲良くなりませんと」

「そ、そうですよね。あっ、でも」


「どうされました?」

「そっ、その・・・ガッ、ガンダルさんが騎士になられたら迷宮は辞められてしまうのですよね?」


「私はその後どうするかは決めていませんが、ガンダルさんは多分非番の日は迷宮に行かれるんでは無いかと思いますよ?」

「そ、そうですかっ・・・」


「あっ、そうですよね、ラティさんには死活問題ですよねっ。た、多分大丈夫だと思いますよ?」

「は、はぁ・・・」


「そう・・・ですよね、ラティさんのその後の生活が掛かっていますものね」

「そ、そうなのです。ガガガガンダルさんが抜けられてシャっ、シャムさんまで抜けられると、パーティは解散するしかなくなってしまいます」


「な・・・なるほどぉ。確かに難しい問題ですねぇ・・・」

「でっ、ですので、シャムさんだけでも探索を続けて頂けるとッ」


そうですか・・・。


私はてっきりガンダルさんが騎士となったら騎士の妻として家に戻り、家業の手伝いをしながら夫を支えるという日々を考えておりました。

しかし、パートナーとしてパーティメンバーとなってしまった以上、係わったパーティのその後の面倒まで見る必要がある訳ですね。

確かに、ガンダルさんや私がそれなりに探索者としてやって行けるようになった後、急に2人も抜けられるとパーティは離散するしかなく、その場合は補充をしなければならないでしょう。

ガンダルさんが初心者の探索者を探していた苦労話は何度か聞いていました。


ラティさんや、この後に加わるであろうメンバーを見捨てて私だけが家に戻るという訳にも行かないのですね。

私はそこまでの覚悟はありませんでした。

いえ、そもそも、もっと迷宮探索を軽く考えていたように思えます。


パーティは一蓮托生。

私達だけが勝手にそこで終わりという事ならば、募集しても協力はしてくれないのでしょう。

自分だけでなく、お仲間のその後の事も考えなければならないのですね。


ガンダルさんはどうなのでしょうか。

ラティさんのその後の生活まで面倒を・・・そういえば騎士と一緒に騎士団に入る探索者や冒険者が居ると仰られていたような気もします。

就業の際にラティさんも騎士団の一員として雇って貰おうという計画でしょうか?

それでしたら、流石はガンダルさんです。


「ええっと、多分ガンダルさんならちゃんと考えているでしょうし、大丈夫だと思いますよっ!」

「そっ、そうでしょうかっ」


ラティさんにベッドの半分を貸し、私達はそのまま就寝しました。

ガンダルさんは客室に寝具を用意したようで、そこで寝るのだとか。

そ、そうですよね。まだ結婚前ですし流石に私の自室で寝て貰う訳にも行きませんからね。

・・・既に宿屋では同室で寝泊まりしていましたけれども、それはそれ、これはこれです。



   ***



「それでは、お父様、お母様、行って参ります」

「うん、前回は碌な挨拶も出来なかったからな、気を付けて行って来なさい。それから、何か有ったらいつでも戻って来て良いのだよ」

「気を付けてね、あなたの事だから贅沢はしないのでしょうけど、もしお金が必要なら言いなさいね」


「大丈夫ですよ、お母様。生活できる位には稼げていますので」

「ガンダル君、娘をよろしく頼むな。ええっと、そっちのラティ君だったかな、ラティ君も宜しく頼む」


「はい!必ずやり遂げ、シャムを幸せにしてみせます」

「あわゎゎ・・・は、はいっ、がんばりますぅぅ・・・?」


こうして2回目の門出ではしっかりと見送られ、私達は再び迷宮探索へ向かいました。


「シャム、折角だから場所を変えようと思うんだ」

「はい?ええっと、マルアドに戻られるのではないのですね?」


「その事なんだが、ラティとちょっと前から話をしていたんだ。なあ?」

「えっ、あっ、は、はい、そっ、そうですね」


「ちょっと前にラティの探索者レベルが5になったんだ。俺達はもう4層に行っても十分やって行けると思う」

「そうなんですね?」


「だけど、マルアドの3層ではスリープシープっていうボスが出るんだ。これがちょっと3人では厄介な相手でなるべく戦いたくない。

 おまけに次の4層はグリーンキャタピラーで、こいつも階層の割にはあまり報酬がいい魔物じゃないんだ」

「そっ、それで、私たちの探索レベルで大丈夫そうな相手が居て、報酬もそこそこなユーアに向かおうかという話になりましてっ」


「分りました、私なら大丈夫ですよ。迷宮の事はお2人の判断にお任せしますので」

「そっか、じゃあユーアに行こう」



   ***



王都からユーアまでは1人あたり銀貨4枚、3人ですと12枚です。

そこから迷宮のある町までは1人20ナールの馬車に揺られて1時間。

ユーアも大きな町であることは知っていましたがこの街には迷宮が無く、

迷宮のある郊外のホドワという町まで少し離れているようでした。


馬車に揺られながら、私とラティさんは本を読み更けります。

ガンダルさんは転寝をしているようです。


拠点を移動する事になったとはいえ、私の私用で王都に移動したのですから帰りの代金も私が払いました。

現在の迷宮の稼ぎでは拠点を移動するのもやっとです。

この位は私の小遣いから出しても罰は当たらないでしょう。


王都からですと優遇される割引があるとは言え、結構な距離があるようです。

父はユーアには何度か行った事があると話していました。


普通、大きな町はそれなりに城壁などで囲まれているので遠く離れると町の様子は窺い知れません。

ユーアの町は小高い丘の傾斜を切り開いて作られているため、遠くになればなる程町の全貌が見えてきて良い眺めです。

上から見下ろしたらどんな感じに見えるのでしょうか。


きっとお金持ちや偉い人が住んでいるのでしょうから、ひと際優雅に見えるのでしょう。


ホドワに着いた私達は、そのまますぐに宿を探しました。

こういう事はラティさんが上手なようで、普段の自信が無さそうな感じからは想像できない位にハキハキと動かれます。

得意な事がちゃんと分かっているようで羨ましいです。


私はガンダルさんの後を付いて行くだけですので楽をさせて頂いていますが、お邪魔になっていないでしょうか。

こういう時はちょっと不安になります。

ガンダルさんと二人で宿屋の場所を聞いて回り、結局ラティさんが探した宿の方が30ナール安かったのでそちらに向かう事になりました。


一人30ナールですと3人で100ナール近くですから、大きな差です。

流石はラティさん。

宿を直接探して聞いて回るのではなく、最初から探索者ギルドに聞きに行った所がラティさんらしいですね。


拠点が決まったので実家から持って来た荷物を置かせていただき、そのまま迷宮へ向かいました。


ホドワの迷宮は町中にあって、その周りを重要施設が取り囲み、おまけに商店がぐるっと回りを囲います。

宿の代金もマルアドよりさらに安いらしく、皆ここで探索をすればいいのではと思いましたが、そうはいかない事情もあるようです。

結局出てくる魔物の拾得物が安かったり、ボスが厄介だったりするとその階層を外すほかは無く、

無理に階層を落としたり上げたりしても逆に効率が悪いのだとか。

ズルも楽もできないという訳なのですね。


「ちょっと毒消しを買って来るからシャムはここで待っていて」

「はい、お待ちしていますね」


毒消しですか。


毒を使ってくる魔物が出るという事なのでしょう。

神官さんからは毒は魔法では治せないけれど、回復する事で延命はできると聞きました。

そうなれば私の出番なのでしょう。

でも、毒だなんて恐ろしいので願わくは誰も掛かりませんようにっ!


その後ラティさんが探索者さんにお金を払って3層に案内して貰い、私たちもそれに続きました。

出遭った魔物は以前にも出遭った蜘蛛が大きくなったような敵と、バムオでも戦った事があるオリーブオイルの木。


私はなるべく蜘蛛を避けてオリーブの木を狙いました。

出てくる魔物の数は2匹までですし、2対3ですのでいつでもこちらが有利です。


毒を持っているらしい蜘蛛だって、後ろから狙えば安全に倒せるようです。

ちょっとだけ安心しました。


お腹が空いた頃に丁度中間部屋に辿り着き、そこで買って来たパンをみんなで食べました。


「どうだい?シャム。スパイスパイダーの動きには慣れたかな?」

「ええっと、特に私が狙われるような事は無いので大丈夫ですね」

「いっ、以前に戦った時も、お、お上手に戦えていましたのでっ」


「ありがとうございます、私もお邪魔にならないように戦えているって事で宜しいですかね?」

「そっ、それではボスに向かってみましょう!」

「おっ、ラティも行けそうだと思うかい?」


「はいっ、ボスのスパイススパイダーは回転攻撃があるので後ろ側への攻撃も注意が必要ですが、何回かやれば覚えられるでしょう。

 シャムさんなら大丈夫だと思いますっ!」

「そうか、じゃあこれ食べたらボスまで目指そうか」


「あっ、あのっ!・・・多分ですが、ボス部屋までの道順はある程度・・・」

「そうなのかい?そんな事まで探索者ギルドで聞いてきたなんて凄いなあ」


「い、いえ、こう、何となく、迷宮の奥行きが解るというか」

「ふーん?奥行きねえ?」


「道順が分るだなんて、ラティさん凄いじゃないですかっ」

「い、いえ、そういう訳でも・・・アハハ」


食事後、ラティさんの先行によりあっという間にボス部屋までたどり着きました。

ラティさんの探索能力は凄いですね!

探索者のジョブに就かれている方というのはみんなこうなのでしょうか。


「あ、あの、シャムさんはこれを・・・」

「はい?」


ボス部屋の前の広場でラティさんから黒っぽい丸い物を渡されました。


「く、薬です。どっ、毒になった人が居たり、こここ攻撃を受けて苦しくなったら飲んでくださいっ」

「そ、そうなのですね?」


「何か回転攻撃してくるらしいから、シャムは後ろでも油断するなよ?」

「わ、分りました、気を付けますね」


ボス部屋に入ると、道中で見かけた物よりもさらに一回り大きな蜘蛛が現れました。

ガンダルさんとラティさんが駆け出して行き、左右を固めます。

私は遅れて後ろから近付き、足元の動きを見ながら杖で叩きました。


あら?全ての足が同じ方向に変な風に曲がりましたよ?

多分これでしょうか。

私が思わず飛び退くと、次の瞬間には大きな蜘蛛はぐるっと1回転してガンダルさんとラティさんを薙ぎ払いました。


と言ってもお2人とも盾を持っていますし、ダメージを受けた様子は無さそうです。

さっき渡された黒い粒を握りしめながら様子を窺いましたけれど、私の出番は無さそうで良かったです。

回転を行った後、大きな蜘蛛はお腹から着地してモタモタと立て直しをしていました。


チャンスですね!

あちらが薙ぎ払おうとして来たのですから、こちらも足を狙って払ってみました。

と言っても相手は8本も足があるので、2本くらい払った所で意味は無いかもしれませんが。


思いっきり足ばかりを狙って叩いていると、するっと杖が通り過ぎて2本が折れてしまいました。

これはちょっと・・・気持ちが悪いですね。

他の足も狙おうかと場所を変えると、直ぐにそれは煙になりました。


「ふぅーっ、これなら何とか行けそうだな」

「そっ、そうですねっ回転攻撃というのも盾を構えていれば問題なさそうですし、後ろのシャムさんが狙われるような事も無さそうです」


「シャムは怪我はないかい?」

「はいっ、大丈夫でした。回転攻撃の前兆が判ったので予め避けてみました!」


「えっ?そうなの?」

「あ、あれっ?前兆とかあったんですね・・・」


「はい・・・。何だか足を全部同じ方向に曲げて準備をしてましたので思わず飛び退いたのですが、それが当たりだったみたいですね」

「へ、へーっ。よく見ていたね、シャムも何だかんだで凄いなぁ」

「つ、次は私も足に注目してみますっ」


ボスを倒した後に残された粒状の何かを、ラティさんが拾っていました。


「それは何なのでしょう?」

「あっ、これはスパイスですね。お料理用の」


「まあ、これがスパイスなのですか。私は瓶に入った物しか知りませんでした。この魔物から出る物なのですね・・・」

「そ、そうですね。でっ、ですのでスパイススパイダーは人気の魔物です」


「それにしては人が少なかったように思いますが・・・?」

「俺たちみたいな低層でボスを倒すのは効率が悪いから、稼ぎたい人はもっと奥で雑魚として出て来るのを狩るんだ」


「ええっ?こ、この大きな蜘蛛が何匹も出てくるのですか?」

「そうだよ?」「そうですよ?」


迷宮の仕組みについてはある程度先生から教わりましたが、今戦ったボスが後から道中の敵として出てくるという事は今初めて知りました。

・・・そうですよね、先生からはたった数日しか教わりませんでしたし、それも初歩的な事ばかりです。

まだまだたくさん、私の知らない迷宮の常識がありそうです。


「じゃあ今日はこれをやろう」

「は、はいっ。で、では4層に行ってから中間部屋に戻りましょう」


こうして私達は暫くの間、大きな蜘蛛を相手に戦いを挑み続ける日々を送る事になりました。

ガンダルさんもラティさんも優秀ですので毒消し薬のお世話になる事もありませんでしたし、私の回復魔法が役に立つ日は来ませんでしたよ?

レベル2(ガ6 ラ5)2年目年明け

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― 新着の感想 ―
私はモークー(言葉にもしたくない)が大の苦手なので迷宮には潜れず物語が終わってしまいそうです\(^o^)/
> 神業の回避 > ガッソ・チェシャーノ どこかで聞いたような……
[一言] >「ありがとうございます、私もお邪魔にならないように戦えているって事で宜しいですかね?」 これに誰も答えてあげないのが可哀想で笑いました。 シャムさん真面目だから基本は卒なくこなすけれど、…
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