§122 名家
ぼんやりとした状態で目が覚める。
意識は戻ったが、目は開かない。
ナズもアナも、今日は揺さぶって起こしに来なかった。
今日の朝は起こさないで欲しいと頼んで置いた。
昨晩は遅くまで作業をしたし、
ナズを迎えに行ったのはその後、日が変わる頃だ。
要するに夜更かしをしたのだ。
エミーもやって来ない。
朝必要な桶3杯分の水は昨夜の間に出して置いた。
「・・・ナズさん、お目覚めになられたようですよ」
くっ、鋭いな。
もう少しこの微睡みの中で狸寝入りをしようと思っていたのに。
「おはようございます、ご主人様」
微睡みから現実に、
唇を割ってナズが侵入して来たので強制的に覚醒させられる。
「・・・ああ。おはよう」
怪訝を示した事を察したアナは、
軽く口付けだけに留め、こちらの顔を胸で挟んで抱擁して来た。
ああ、これならば心地良い。
「今日は遅いお目覚めでしたね、もう少しお休みになりますか?」
若干怠いが、意識は完全に覚醒してしまった。
男って単純だ。
「いや、もう起きる。アナもおはよう」
昨夜ナズを送ってから倉庫にしまって置いたサバイバル本を読み、
「誰でも作れる簡単!石組みオーブンの組み方」のページを参考に、
2段式のピザ窯の図を描いた。
要するに寝不足だ。
と言っても、殆ど丸写しだ。
日本語が書いてあって写真付きで載っている本を、
大工達に見せる訳には行かないからだ。
図を描き写した後、アナに手伝って貰って文字を入れた。
メモ帳に書き留めた事を話しながら書いて貰ったので、
アナには地球から持って来た本の事はバレていない。
それよりも、サバイバル本は読んでいて面白かった。
納屋にしまう際、ついつい無駄なページまで読んでしまったが、
ナズを迎えに行く時間となってしまったので、途中で切り上げた。
「無人島で生活する事になったら」の章は、
この世界で暮らす事に、多少通じるものがあるのでは無いだろうか。
簡単なキャンプから登山で遭難した時、無人島でサバイバル生活、
「文明が崩壊したら」などと言う項目もあった。
中二病擽る部構成だ。
やはり持って来て正解だった。
暇つぶしになるし、そういう時に読もう。
何か活用できるかもしれないし。
さて、今日の予定は・・・、何時頃かは判らないが大工が来る。
それだけでは時間が余り過ぎるので、絨毯を買いに行こうと思う。
大工達のパーティの準備もしなければならない。
前回は酒を女将さんから買ったが、もっと安く買える場所を聞きたい。
手拭いやタオルも一定数必要だ。
何人来るかも判らないので、手拭いは持参して貰おうか。
後は食材だ。
チリソースはまだあるとして、トルティーヤの生地が無い。
小麦粉、唐黍粉、中の具材。
肉も沢山いるし、他の食材も・・・。
ナズを買い物に行かせて、肉は取りに行こう。
どうせパーンにパンパンパーンと魔法を撃つだけだ。
アナがいれば良いだろう。
大きな伸びをして台所に出る。
朝は先に食べて良いぞとも言って置いたはずだが、
皿がしっかり6人分綺麗に配膳されている所を見ると、
まだ誰もキッチンに来た様子は無い。
エミーだけはしっかりと朝食の準備をして待っていた。
水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
ようやく完全に目が覚めた気もした。
「遅くなって悪いな」
(ふるふる。)
「朝食にしようか」
(こくり。)
「では皆を呼んできます」
アナがジャーブとヴィーを呼びに行くと、
お腹の減った2人は一目散にやって来た。
だから、食べて良いと言ったのに・・・律儀だなあ。
ひょっとして「食べて良い」では無く、
「食べて置け」で無いと駄目なのか?
多分忠誠心とかでは無く、融通が利かないからだ。
遅めの朝食を取りながら、今日の予定を説明する。
午前中、ジャーブとヴィーは剣の練習をすると言う。
大工達が来たら台所へ通して待って貰うようジャーブに頼んだ。
これからアナは自分と調達へ、ナズとエミーが買い物だ。
宴会用の食材とエール樽を2つ買って来いと言って、
銀貨40枚を追加で渡した。
前回女将さんから買ったエールは1樽で1500ナール。
2つ買えばそれだけで銀貨30枚だ。
コップも沢山必要だろうな。
食事を終えた後、エミーが無言でパピルスを渡して来た。
読めないが、ジャミルだろう。
内容は聞かなくても良い。
注文したカードの何かが手に入った報告だ。
「そうだ、ナズ。出掛ける前にちょっと木刀と木の盾を作ってくれ」
「はい?木の盾は以前作れませんでしたが・・・」
今回は銅がある。
フレーム部分に成るはずだ。
これが鉄製なんて事は・・・多分無いと思う。
値段的に。
木の板2枚と銅のペレットを持たせてやらせてみたが、
詠唱をしても何も起こらなかった。
「あの・・・、本を取ってきますね?」
ナズが自室に向かい、鍛冶師ギルドから借り受けた本を持って来た。
「木の盾は板が3枚で、銅が2個、ブランチが2本だそうです」
必要素材にブランチが出て来た。
確かに、金属加工には熱が必要だ。
銅だけでできるはずが無い。
言われた通りに持たせると、木の盾が1つでき上がった。
「ではもう1つ」
「かしこまりました」
木の盾が2つ目。今度は空きスロットが1つ付いた。
「木刀も2本欲しいが、まだ行けるか?」
「大丈夫だと思います」
ナズはパラパラと本を捲ると、
机へ積んで置いた木の板の山から3枚手に取り、
武器作成の呪文を詠唱して木刀を作った。
「済みません、ちょっとこれ以上は」
「そうか、ではこれで」
強壮丸を2つ渡し、残りの木刀を作成する。
結局、木の板は12枚も消費した。
矢を作るためにと思っていたが、残りの板は6枚だ。
羽毛を手に入れたら、追加で木の板も買わなければならない。
矢のストックも心許無いので、早く入手したい所である。
「では買い物を頼んだ、アナは一緒に行くぞ」
「「かしこまりました」」
***
アレクスムの商人ギルドは、今日もオークションで賑わっていた。
遅めの食事で鍛冶もさせたので、
オークションは既に始まっていたようだ。
9時は過ぎている。
・・・いやこの世界では7時だったかな。
暫く入り口で待っていると、ジャミルが現れた。
「よーうお待たせ、丁度今しがた追加のコボルトを入手した」
「そうか、それは助かるな」
「じゃあいつもの部屋で」
商談ルームへ向かい、
ジャミルは入手したモンスターカードを並べた。
「こっちからコボルト、芋虫、トカゲだ。
それぞれが、ええと5400、3900、5500。
それから朝イチの出品で出て来たコボルトは5600だった。
今日の分は明日以降に掲示板で確認してくれ」
今日の結果の貼り出しは、今日のオークションが終わってからだろう。
前回もそんな事を言っていた気がする。
読めないし面倒なので確認はした事が無いが、
流石に太客認定した相手から詐取したりはしないだろうと思う。
大体、そちらと齟齬があれば糾弾は避けられない。
そんな素人でも直ぐに解るようなインチキを、
ここで商売をやっているような金に聡い連中がするものか。
「解った、ありがとう。では追加の注文だが」
「よし来た、今度は何だ?」
「コボルト、ウサギ、潅木を頼む」
「もう芋虫は良いのか?」
「相変わらず失敗が続いている。
こういう時は他の物を織り交ぜた方が験を担げるかと思ってな」
「そうか、やっぱり現物を狙った方が早いかも知れないな」
前回ナズに作らせたミサンガは、空きスロット率2/42だった。
普通に合成したら20個は破壊した計算だ。
鑑定スキルが無かったら酷い事になっていただろう。
「それじゃあ、通信費合わせて・・・合計で2万と1700ナールだな」
手持ちの金貨が少なくなりそうなので、金袋から白金貨を取り出す。
いつもはアイテムボックスに入れているが、
今回は事前に取り出して置いた。
体面的に商人だし。
「おいちょっと待て、手持ちの金貨がそんなに無い。
釣りが用意できないから、受付で両替して来てくれ」
そういえば釣りを払うのはジャミル個人だった。
取引があるとは言え、金貨で100枚も持ち歩く人なんて居る訳が無い。
そこまで思い付かなかったのは商人として失格だな。
ギルドカウンターで白金貨と金貨100枚を交換し、
ジャミルに金貨で3枚を支払った。
「これで良いか?」
「本当にどこかの貴族の子息とか、
大商人の跡取りとかじゃないんだよな?」
「いや、たまたま大金を手にする機会が在っただけだ。
この前に宝石の話をしただろう」
「あれか。では相当貯め込んだ奴を倒したのか、それもまた凄いな」
「そういえばタクトはどうなった?」
「それなんだが、ちょっと厄介な事になってな」
ジャミルが言うには、凄い商品を流す際は事前に市場調査をするらしい。
オークションへ出すにしても高過ぎると誰も手が出ないし、
欲しがる者が少ないと流れたり安くなってしまうのだそうだ。
そしてその調査の結果、
強力な魔法使い用の武器を欲しがっている、
大金持ちの娘がいる事までは掴めたそうだ。
「と言う訳で、直接取引をするのはどうだ?」
「その場合、手数料はどうなるんだ?ジャミルに利があるのか?」
「少し貰う事になるが、競売での2割は取らない。1割で良い」
「相手は富豪なんだろう?礼儀とか作法は知らないぞ」
「そこは大丈夫だ。直接と言っても、相手はお抱えの仲買人だ」
「なんだ、仲買人同士の話し合いか」
談合である。裏取引である。
こういう物があるが、お宅んトコどう?買わない?
要らないならオークションに流すよ。
ホラ、滅多に無い物だよ、どうする?
きっと水面下では色々な高級品がやり取りされているのだろう。
滅多にお目に掛かれない逸品などは、
仲買人同士で融通しあってしまうのでオークションに流れない。
やはり懇意にして置かなければ珍しい物は入手が難しいのだろう。
仲買人同士の裏社会だ。
勿論、敢えて混乱させる必要なんて無い。
自分もそれに乗っかろうとしている。
ミチオ君だって聖槍を入手する際は活用していた。
「それで値段の方は?」
「150万で話が付けてある」
「えっ、そうなのか。早いな」
「他に良い方法が無いからな」
「じゃあ手数料は15万か?」
「そういう事になるな」
それでも十分に儲かるのだし、ここで恩を売って置いても良いか。
下手に突っぱねてオークションで足元を見られても困る。
ジャミルに恩を売って置く事もできるし、
その金持ちの仲買人とパイプが太くなれば、
ジャミルも喜ばしいだろう。
「ではそれで」
「そうか!じゃあ準備するから、2時間位したらまた来てくれ」
早っ!
この流れで自分は売るだろうと言う予想で準備していたのだな。
さすが仲買人、侮れないな。
手玉に取られているようで微妙な気持ちになったが、
依頼人のため彼なりに上手い事働いたのだと信じようか。
2時間後、と言われたので地球時間では1.5倍して3時間。
要するに昼過ぎで、それまでかなり時間がある。
一旦家に帰って置こう。
大工達が来たかもしれない。
「ただいまー」
「お帰りなさい、ご主人サマ」(ぺこり。)
「ユウキ様、お疲れ様でした。大工が既に来てます」
廊下に戻ると、ジャーブとヴィーが直ぐに出迎えた。
ナズはいないので、まだ酒の買い出し中か。
「よぅ大将、来たぜ」
台所に入ると、大工とその弟子2人が椅子に腰掛けていた。
もう1人の弟子はキッチンにしゃがみ込んで、紐で何かを計っている。
「ああ、ではこれだ」
用意して置いた2段式オーブンの図面を見せる。
パピルス4枚を繋ぎ合わせて、大判にした図面を広げた。
徹夜で描いたので、ちゃんと描けたかどうか不安だ。
アナに入れて貰った文字も自分では読めないし。
「お前、絵が上手いな」
「これは凄いですね、親方!
このまま作るだけなら手間が掛かりませんね」
弟子たちが感心している。
こういった物を作るのは、本来は彼らの役目なのだろう。
と言うか、この弟子たちはブラヒム語が達者だ。
一部の者しか扱えない言語では無かったのだっけ?
「どうだろう、作れそうか?」
「こんなしっかりした物見せられちゃあ、応えなきゃならんだろう。
任せて置け!ガハハハ」
「どの位掛るかな?」
「そうだな・・・まずは家の壁だ。そこをブチ抜いて石の壁に変える。
期間はそうだな、セメントを入れるので丸1日掛かるな。
夜までには元の形に戻すが、昼は使えないと思ってくれ。
要するに昼飯は別の場所で食べてくれってこった」
「それで他は?」
「ここまで大きい石窯を組むにはセメントで固めながらだから2日、
竈門なら半日で組めるが同時にゃ難しい。合わせて3日くれ」
3日か。
キッチンを使えない期間が昼だけなら、特に問題無いだろう。
今回は留守番としてエミーもいるし、探索に行っても支障は無い。
「解った、宜しく頼む。
後は、このテーブルにもう1つ椅子が欲しいんだが・・・」
これもお願いして置きたかった。
将来的に、うちには7人住む事になる。
エミーの姉の勧誘に失敗したとしても、
パーティはあと1人枠があるのだから。
「6人掛けに見えるが?お前ンとこは6人じゃないのか?」
「実はもう1人増やす予定なのだ。
迷宮に行くには6人だが、このエミーは戦闘をしない」
「そうかなるほど。それで、ここがお前さんの席か」
「そうそう」
大工は、自身が今座っているお誕生日席の椅子をポンポンと叩いた。
「同じ物で良いのか?それともちょっと良い奴にするか?」
うーん・・・。
同じ物にして、他人が来た際に舐められても嫌だ。
──あの家の主人は奴隷に椅子を使わせ、
更に同じ椅子に座っている。
多分、不名誉な事だろう。
しかし1つだけ豪華な物を作っても・・・。
「2つ豪華な物を頼む。自室にも1つ欲しい」
「解った、任せとけ。そっちは2つで2000だ」
そういえばエミーも増えた事だし、
ジャーブの部屋にも1つ椅子が欲しかった。
部屋に案内して同じ物を要求する。
「その位だったら500もありゃ良い。
座れれば良い位の椅子だったら見習いに作らせる。
奴隷用なら材料も端材で良いだろ?」
自分じゃ作れないし、贅沢は言えない。
奴隷用の家具ならば、見習い大工の練習材料に丁度良いって事だ。
500ナールはほぼ材料費なのだろう。
結局1万5千500ナールになった。
その場で支払い、前準備の作業をすると言うのでジャーブ達に任せた。
ジャミルに指定された時間まではまだあったので、
今度は絨毯を探しにアレクスムへ向かった。
場所は先程ジャミルから聞いて置いた。
店の外にも豪華な絨毯が張られており、
これならジャミルに聞かずにも判っただろうと思う。
「いらっしゃいませー」
玄関に立つなり、店員が揉み手でやって来た。
確か、絨毯は高級品。
訪れる客も懐の温かい者ばかりだろう。
つまり、全員上客だ。
全く商売上手達め・・・。
「ええと、移動用の絨毯が欲しい。
頻繁に取り下げるので、
できれば取り外し可能な物があれば良いのだが」
「左様でございますか、それでしたらあちらなど如何でしょう」
店員が示した先には釣り下げられた絨毯が幾つか並んでおり、
専用のハンガーのような物で吊るされていた。
「あのハンガーも売り物か?」
「ハxxー?ええと何でございましょう」
「ああ、ええと、済まない、吊るしている器具も売っているのか?」
「吊るし器ですか。あれは展示用ですので、販売用はこちらになります」
どう見てもハンガーなのだからハンガーで良いと思うんだが、
そういう言葉では使われていないらしい。
と言うか吊るす文化があるなら、
服用のハンガーもあると思うのだが。
雑貨屋では見た事が無かった。
古着屋でも紐に直接袖が通されていたし、
高級服店では畳まれて置かれていた。
無いのか?ハンガー。
作るか?ハンガー。
店員が選んだ絨毯を1つと吊るし器もセットで買い、
割引で2450ナールを支払った。
高級店ではちゃんと店員が商人だから助かった。
ホドワの町の雑貨屋では、
仕入れの店主は商人だったが店番のおばちゃんは村人なので、
当たり外れがあって困る。
「こちらの種類の吊るし器ですと、回収も楽です。
壁や天井などに杭を打って頂いて、そこに掛けるだけですので。
このような棒があれば直ぐに取り外せます」
店員はY字の小さい刺股のような棒を見せ、
店内の壁に取り付けられたフックへ掛けたり外したりしてみせた。
その棒まで買う必要は無いだろう。
何だって代用できるし。
絨毯を丸めてアナに持たせ、
店外にあった絨毯からホドワの迷宮横にあるシンボルストーンへ飛んだ。
酒場までは目と鼻の距離だ。
***
昼前の酒場は女将さんがいつも掃除をしている。
「やあ、あんたかい」
「ああ、今日は絨毯を持って来たんだ。アナ広げて」
アナがその場で少しだけ広げてみせると、
酒場の女将さんは少し悩んだ様子で答えた。
「うーん・・・。これ、店の外に飾っても良いかね?」
「うん?別にどこに置いても構わないと思うが」
「これをナジャリの来る日に出すようにして置けば、
歌う日も判るし冒険者も飛んで来られるからね、どうだいよ」
なんて合理的、商売人の鑑。
女将さんの商売魂に感心した。
別段断る理由は何も無い。
ナズが安全に酒場へ行き来できれば、それで十分な代物なので。
それを宣伝に使うと言うのだから、たまげたなあ。
クレープは美味しかったけど、
酒場で出す物では無いから残念だと言われた。
お礼に美味しい物を食べて貰いたかっただけだし、
ウチではいつでも食べられる。
酒場のメニューなら、ブルスケッタの方が良かったかもしれない。
別にそこまでする必要は無いのだが、
もし次に何か無いかと言われたらの話だ。
一旦家に戻り、昼食を食べながら進捗を聞いた。
大工達が庭にレンガを運び込んでいたようで、
畑の周りは凄い事になっていた。
その後、アナと再びアレクスムの商人ギルドへ向かう。
受付係の男に予定があると伝え、いつも通り奥の部屋を案内された。
商談室で待っていると、やや中年太りの仲買人と共にジャミルが現れた。
どんな男なのだろうと鑑定をしてみる。
・クローガ 人間 男 49歳 目利き Lv34
目利き!
って何!!
「はじめまして、ユウキと申します」
先に立って挨拶をした。
「これはどうもご丁寧に。クローガと申します。
私はさるお屋敷で、品物の調達をさせて頂いております。
クローとお呼び下さい」
クローが調達で苦労か。そんな事はどうでも良い。
それよりも、ついつい聞きたくなる。
「クロー殿のご職業は?」
「はい、こちらで仲買をしながら屋敷の物品の調達をしておりますね」
言わないか。
ジョブは?と聞いた訳でもないし、
初対面でジョブを聞くのはどうなんだろう。
やはり失礼な行為なのだろうか。
目利きと言うのだから、武器防具とアイテムも鑑定できそうだ。
空きスロットの方はどうなのだろう。
判ったら世界のバランスが崩壊するし、やはり無理なのだろうな。
商人ギルドで鑑定するとモンスターカードの名前が出て来たが、
武器の空きスロット数までは出ないはずだ。
おそらく、それらアイテムの名前の鑑定ができるのだと思う。
武器や防具の鑑定魔法では、名前だけが判明する。
〇〇の△△と言うフォーマットで、
接頭語から付いているスキルを判断するのだから、
自分の持つオールマイティの鑑定とはまるで違う物だ。
ボーナススキルの鑑定では名前と効果が全て表示される。
恐らく正規職のスキル鑑定では、
2重3重に付けたスキルの効果は上級職でも判別できないに違いない。
売却する際は気を付けないと。
「この度は貴重な武器を売って頂けると言う話でしたが、
既に物品の確認はさせて頂きました。
それなりの額をお支払いする用意があります」
「で、どうだろう、150万ナールで提案したのだが異論はあるか?」
「無いな。その値段で買って貰えるならば、こちらとしても有り難い」
「ありがとうございます。感謝致します。
ユウキ殿は何をなさっている方なのですか?」
「今は商人ですが、迷宮にも行っていますね」
「ほう・・・それでは奴隷商でも目指されるのですか?」
「いや、そういうのは興味無いですね」
奴隷商、もう持ってるし・・・。
侍らす奴隷達だけで、もう一杯一杯です。
売る程に管理できる器量も無いだろうし。
奴隷商人を目指さない商人が迷宮へ行くのは異例なのだろう。
そりゃま迷宮に行って稼ぐ必要は無いのだし、
物のやり取りだけで十分暮らしていけるのであれば、
わざわざ危険を冒す必要は無い。
大体、顧客を放っといて死地に向かうとか無責任だろうからな。
「では・・・、その先のジョブに?」
「ええと、その先と言うと──」
「目利き・・・へ?」
出た、目利き。
彼の口から。
クローの目がキラッと光った気がした。
「目利きと言うジョブは初めて聞きました。
そのようなジョブがあるのですか?」
「おおっと、これは失礼しました。ここだけの話にして下さい」
そう言われても、気になるものは気になる。
ジョブをたくさん集めて置けば、
遊び人の上級ジョブを解放できるかもしれないし、重大問題だ。
「宜しければ、詳細を教えて頂けると有難く」
クローは、やれやれと言った具合に語り出した。
武器商人として経験を積んだ後、防具商人でも同等に経験を積む。
その後、商人として経験を積むと目利きに成れるのだそうだ。
武器商人や防具商人は探索者Lv30が必要だ。
その後同じように武器と防具商人をLv30まで上げ、
更に商人をLv30だろう。
道が果てしなく長い。
武具商人の上級ジョブと言っても良いだろう。
一般人ならばLv30まで上げるには効率良く回って10年だ。
アナ曰く、早くて1年で3層。
一般市民ならせいぜい2層だ。
と言う事は、10年で30層・・・Lv30だ。
その計算ならば合計40年は掛かってもおかしくない。
この男は49歳。
そして現在もLv39と高い。
いや転職後にLv1からやり直すとしても、
パーティメンバーや戦闘技術は生かされるだろうから、
初期ブーストを考えると流石にこの限りでは無いだろう。
それにしたって気が遠くなる道のりだ。
知っていたとしても、やろうと気軽に思えるジョブでは無い。
恐らくお抱え仲買人としてだけでは無く、
家の者と一緒に迷宮へ入り、戦闘でもサポートしているのだろう。
強い魔法武器が必要であるならば、当然強い魔法使いがいる。
或いは当主が魔道士なのかも知れない。
一般人よりも遥かに効率が良い。
ならばギリギリ、そこに到達できる訳だ。
「そんなジョブがあるとは。
私は家の跡を継がされる事になりそうなので、仕方無くです」
「では豪商を目指されるのですか、頑張って下さい」
こちらの情報は無い。
彼もそうでは無いのだから、聞き出すのは無理だろう。
「ははは、それは夢のまた夢ですね」
白金貨と金貨50枚を受け取り、
そこから手数料として金貨15枚をジャミルに渡した。
金貨の袋がパンパンになると、一気に金持ちになったと錯覚する。
実際にはさっき崩した白金貨分が両替されたに過ぎないのだが。
「ユウキ様はこのような高級品をお持ちです。
いずれまた、何かをお願いする事があるかも知れません。
その時はジャミル殿を頼れば宜しいかな」
「えっ?ああ、そうですね。そうして頂けると」
「ではまた何かありましたら」
「いいえ、こちらこそ」
これ以上は何か頼まれても何も出て来ないと思うのだが、
あちらさんはそうは思わなかったらしい。
只の社交辞令かもしれないが。
クローは商談ルームを出る際にもご丁寧に一礼をして去って行った。
「やったな、あちらさんは相当な名家のようだぞ」
「なんだ、ジャミルは知らないのか?」
「流石に、彼の口からその先が出た事は無いな。
いつも高級品を持って行くなァと思っていたので、
最初に声を掛けてみたんだ」
と言う事は、ジャミルに取ってもファーストコンタクトだったのか。
それでここまで持って来たのだ、彼の手腕は本物だった。
「ジャミルの交渉術は流石だ、これからも色々お願いしたい」
「任せとけ!」
お互いに懐が温まり、両者ホクホク顔で別れた。
∽今日のステータス(2021/10/05)
・繰越金額 (白金貨2枚)
金貨 5枚 銀貨154枚 銅貨161枚
昨晩の酒代 (595й)
タコス(大) ×5 325
カクテル ×3 150
ジュース ×4 120
宴会と酒の予算 (4000й)
依頼品 (21700й)
伝令料 100
コボルト 5400
コボルト 5600
芋虫 3900
トカゲ 5500
依頼費 1200
家の修繕 (15500й)
壁打ち直し 5000
2段窯 2000
竈門 6000
椅子(豪華)×2 2000
椅子(普通) 500
絨毯など (3500→2450й)
絨毯 3000
吊るし器 500
装備品売却 (1350000й)
神籬のタクト 150万й
手数料 -15万й
金貨+132枚 銀貨-141枚 銅貨-145枚
------------------------
計 金貨137枚 銀貨 13枚 銅貨 16枚
白金貨 2枚
・異世界31日目(朝)
ナズ・アナ26日目、ジャ20日目、ヴィ13日目、エミ6日目




