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異世界迷宮の追従を  作者: えぁりん
♯第二章 下積
11/394

§010 迷宮

探索者ギルドは直ぐに見付かった。


この町は探索者が多いのか、受付窓口が少ないのか、

探索を終えたパーティが売却待ちで列を成していた。

今後この時間帯に売買するのは止めて置いた方が良さそうだ。


探索者ギルドで決まった物品なら、いつでも換金できる。

余程の余裕が無い場合を除いて、人が少ない時にすべきだろう。


反対に武器や防具屋は人もまばらだ。

パーティ内の販売担当の者は並び、他は宿に戻ったり食事をしたり、

遊びたい者は風俗街やら酒場やらに繰り出しているのだろう。


この時間から明日の武器や防具を品定めしているような冒険者はいない。


お金が貯まったら、次はこれだと決めている物を買うだけだ。

そういう意味で言うと、

武器防具店は来客が少なくても一定の収益が確保されている。


店終いの支度をしていた店員に声を掛ける。


「店主はいないか?」

「私ですが、買取ですか?」


背にした袋から剣やら鎧やらが見える。

武器屋の店主はそれを見て判断した。


「そうだ、これらを買い取って欲しいのだが頼めるか?」

「少々お待ち下さい」


そう言って店の横にあるドアから隣の防具屋の方へ消えた。

どうやらこの店は隣同士繋がっているようだ。


「お待たせしました」

「いっぱいあるね、どうしたんです?」


武器屋店主が呼んで来たのは防具屋の店主だった。


まあそうだろう。

隣に用があると言ったらそれしかない。

武器屋と防具屋はそれぞれ武器鑑定、防具鑑定、とスキルを詠唱し

品定めをして行く。


「ここに来る途中に盗賊に襲われて、

 それは返り討ちにしたんだが、こんなに沢山の装備品は必要無くてな」


そう明かすと、2人の動きが止まった。


「そいつらの中にアリッサとか言う女は見なかったか?」


武器屋の店主が聞いて来た。


しまった。

関係者なのか、もしかしたら身内だったのかもしれない。

盗賊に落ちたとはいえ、

身内の者が殺されたと知れば思う所もあるかもしれない。


「え、いや、えっとどうだろうか」


返事がしどろもどろになってしまう。


「アイツに俺の息子が騙されて殺されたんだ・・・」


なるほど、その女に恨みがあったと。

頭目の女だったような奴は確かにいたが、

流石に名前までは憶えていない。


「ええと、アリッサと言う名前だったかどうかは解らないが、

 1人だけ女の盗賊はいた」

「そうか・・・」


「確かハリムとか言う奴の女だっ──」

              「何ッ!」


突然言葉を遮られ、びっくりしてしまった。


防具屋の女の店主がシクシクと泣き出した。

騙されたのはこの2人の子供だったのか。


この店は夫婦で細々とやっていた。

アリッサがその息子を騙して殺し、

何かしらの利益をハリムに与えたのだろう。

そういえば、あの女盗賊はLvが高かった。


盗賊頭の女で収まるポジションならば、わざわざ血を流す必要は無い。

Lvだって他の奴に比べたら低くても当然だ。

にも拘らずあの女はLvが高かった。

積極的に誰かをめ、

金、モノ、情報をハリムに流していたのだろう。


沈黙が生まれたこの空間で、いろいろな思いが廻った。


人を殺す事は怖かった。


そもそも、最初から盗賊を倒す計画であったのだから覚悟はできていた。

ついさっきまでは生々しかったとは言え、

RPGで経験値を積んだだけの感覚だった。


だから、殺す事よりも殺される方に恐怖した。

やらなきゃ死ぬ、その勢いで冷静になれた。


それが今になって、人を殺したんだと言う実感が湧き出て来た。

自分が誰かを殺し、誰かが殺された事で、誰かの人生が左右されたのだ。


死が安い、殺らなきゃ殺られる、これはそういう世界だ。


口では、頭では、そう考えられていても、

改めて考えると現代日本で暮らしていた自分には重い。


東京で、大阪で、名古屋で、そんな事は絶対にできるはずが無い。

極悪人がいたとして、だからと言って彼らを殺したら自分が殺人犯だ。


ぶらんと力が抜け垂れ下がった腕には、

金縛りのような重怠おもだるさがあり、

力が入らない代わりに小さく震えた。


「そうか、ありがとな・・・」


そう言って武器屋の店主は装備を纏め始めた。

防具屋の女将さんも涙をぬぐって残った装備の鑑定を再開した。

盗賊とは言え、人を殺した事に感謝を受けた。

少しだけ救われた。


「ダガーが1つ、銅の剣が5つ、

 革の鎧が1つ、皮の鎧が4つ、皮のジャケットが1つ、

 皮のグローブが2つ、皮のミトンが1つ、皮のサンダルが6つ。

 合わせて3800ナールだがこれで良いか?」


「ああ、それで頼む」


買取アップを付けても良かったのだが、さっきの話を聞いてしまった以上

鬼のように取り立てるのは何と無く罪悪感を感じたのだ。


それでもこの町の、とても良い場所に店を構えているのだ。

同情と金銭は線を引いた方が良かったか、

あれこれ考えていると向こうから提案があった。


「この中に、その女が使ってた武器や防具はあるのか?」

「それならこれかな」


マリッサだかアリッサだかが持っていたのは、

小さなダガーだったような気がする。

1人だけ大きな両手剣で無いと言う事は、直接戦闘をしない狡猾な奴だ。

自信は今ひとつだが、多分そうだったと思う。


いや、そうだった気がする。

何せ必死だったから、頭目以外の雑魚は誰が何だったか全く覚えていない。

だが理論的に考えるとそう言う事になる。


「そうか、このダガーだけ、銀貨10枚で買わせちゃくれねえか」


「そちらがそれで良いなら、それで構わないが」


恐らく息子さんの墓にでも持って行くつもりなのだろう。

遺体が迷宮に食われて消える世界だし、墓なんて無いかもしれない。

何かしらの祭壇にでも飾るのだろう。

それで遺族が納得するなら、それで良いと思う。


銀貨47枚と銅貨50枚、4750ナールを受け取り店を後にする。

3800ナールの3割アップなら4940ナールだから

結果的に3割アップ位には儲かってしまった。


必要の無い武器防具を売ってかなり身軽になった。

売却金額的には今の宿に10日以上泊まれる程度が確保できたので、

当面の生活は安泰となった。


西の空は薄く赤みが掛かって来ているが、

日没にはもう30分位の猶予があるだろう。

今宿に戻っても、多分まだ食事にはあり付けない。


となると、迷宮にでも立ち寄って置くべきか。

この町にある商館の奴隷も気にはなる。

1人で宿を取ったのに、出掛けて戻って来たら2人になってました・・・。


いやいや、それは流石にダメだろう。


別で部屋を取るにしても、

奴隷に一部屋与えるような価値観は受け入れられないはずだ。

野晒のざらしにするのもダメだ。

食事と住まいを与える義務がどうのだとかが有ったはずだ。


2人で野宿・・・それはもっと無い。

商館は顔だけ見て置いて、じっくり選ぶのは次回にするべきか。


顔だけ見る、ただそれだけであっても、何人候補がいるかは未知数だ。

途中でここまでですと追い出されたら、それはそれで格好が付かない。


とすればやはり迷宮へ立ち寄って、

移動用のポイントを作って置くべきだ。

これから先ワープで幾らでも直接飛べるし、

何なら宿から1歩も出た様子が無いと言うのもアリかもしれない。


あいつは部屋に籠って一体何をしているのだろう。

食事だけは毎日食べに来る。


外で出会った覚えが無いのに、

探索者ギルドの買取カウンターや迷宮で見掛ける。

そのうち部屋から2人の声が・・・、明らかに怪しい。


色々想像して考えを改めた。

ちゃんと大地を踏んで、顔を見せて外を歩くべきなのだ。

知らない世界に於いては目立たない方が大事なのだから。


この町に滞在する冒険者や探索者の数は多い。

しかし、トラッサの町に徒歩で戻って来るパーティはまばらだ。

冒険者がいれば移動魔法で戻って来られる。

徒歩で戻って来るのは駆け出しのパーティか、ソロで潜るような初心者だ。


買取カウンターが閉まってしまうまでに、

駆け足で戻って来るパーティがちらほらといる。


ギルド前の人混みは、先程よりは少なくなり、

営業終了までには間に合いそうな数になっていた。


町の外にはまだ数名がこちらに向かって歩いて来ている。

彼らの逆を歩けば迷宮があるのだろう。


アムルの町と違ってトラッサの町の外には畑など無かったが、

そのまま渡って通るには濡れてしまう位の小川が流れていた。

町から流れ出るドブが繋がっているのだろう。

そういう場所で無いと衛生環境が保てないので街は発展しない。


川があって平坦ならば農業もできると思うのだが、

この世界ではそのような発想は無いのだろうか。

結構な平原が荒れ地のままだ。

人口の問題か?そこまで食糧難では無いのか?


中世の世界観で言うと、農業の発展が人口増加に直結すると思うのだが、

この世界に於いて農地を死に物狂いで広げない理由が・・・、


迷宮か。


人が増えても一定数呑み込み、外には魔物を撒き散らす。

迷宮近くでは農作業をしていたら襲われてしまう。

農地は迷宮の周辺に無い方が良い。


そして一定数の食糧アイテムが、迷宮から産出される。

手付かずの土地が多い理由を何と無く理解した。


直ぐに道は川沿いとなり、川に沿わない方向への分岐があった。


その分岐の先は切り開かれていない藪があり、

人が行き交うには整備されてなさ過ぎる、

鬱蒼うっそうとした草むらだった。

恐らくはこれが迷宮への道なのだろう。


藪の道と言っても、ある程度の広さで踏み固められており、

草木に足を取られるような事は無い。

藪の中に2本生えている大きな木を回り込んで道が続いており、

そこに黒い壁が出現した。


周囲はもうだいぶ薄暗い。

しかしこの黒い壁のような物は、

更により濃く深く、向こう側は深夜であるかのように黒かった。


管理されている迷宮には、

入り口に案内役がいると言う事前情報だったはずだが、

この迷宮には誰もいない。


国や地域の違いなのだろうか。

管理されていないのだろうか。

夜だから管理する者も帰ってしまったのだろうか。


それにこの時間だからなのか、出て来る者はいなかった。

そういえば町を出て暫くしたら、擦れ違う人もいなくなっていた。

迷宮も、今日は店じまいなのだろう。


黒い壁に手を触れると、そこには何も存在しないかのように空を切った。


恐る恐る黒い壁に近付き、

意を決して飛び込むと目の前に四角い枠が見えた。


・・・階層選択か。


何かこう、適当に作られたVRゲームの如く、

安っぽい四角い枠が目の前に見えるのだ。


今この状態は迷宮の中なのか、外なのか、

体はどちらにあるのだろう。

攻撃は受けるのだろうか。


このまま放置したら喉が渇いたり、

トイレに行きたくなったりするのだろうか。

様々な疑問が頭の中に渦巻く。


・・・が、「ぐー」と言う腹の音に依って色々納得した。

ここではちゃんと時間が経過している。

怪我をしたり瀕死になったら、

この選択画面でやり過ごすと言う甘い考えは許されないようだ。


やはりここは迷宮内であり、

ただ敵が出ないだけの黒い空間なのだろう。


1階とだけ書いてある、白い枠と文字はどうやって動かすかも解からない。

それ以前に1階しか行けないのだから動かしようが無い。

そういう心配は2階以降へ行けるようになってからすべきだった。

当たり前である。


妙な納得感を得た。


白い枠に触れたような、触れなかったような、

触りたいと思ったか、思わなかったかしているうちに、視界が開けた。

薄暗いながらも足元程度ははっきり見える、

不思議な模様の描かれた通路が目に付いた。


この入口のような部屋は、やや広くて5~6人が大きく手を広げて一杯。

その先の通路は、4人も広がれば通せんぼができそうな位の広さであった。

学校の廊下よりは少し広いんじゃないかな、と言う程度だ。


壁はアラビア調の模様がずっと奥まで描かれ、

蝋燭やランタンなんて無いのに自分の周囲だけは薄明るい。

夕方、日は沈んでいるのにまだまだ見える、そんな光量だ。

ここでコンタクトを落としたら多分途方に暮れる。


これが迷宮ダンジョンなのか。


ここで死んだら跡形も無く消える。

そう思うと悪寒が走った。


今の顔は青褪めているのだろう。

肩から腕に掛けて力が入って行かない。

足も金縛りにでも遭ったように、動かしがたい。


ミチオ君は迷宮をほころびた橋だと表現していた。

彼は度胸がある。

慎重に渡れば、向こうに行けそうな橋だと思えていたのだ。


自分にはどうだろうか。

一寸先は闇・・・いや、暗くなって見えないその先はあの世。

それも虚無のような恐ろしさが感じられた。


初めて迷宮に触れたこの世界の人類は、

一体どれだけ心が屈強だったのだろう。

自殺願望者を転移させる世界なのだから、そこはそれで良いのか?


  ──はい、飛び込むならここですよー?


いやいや、そんなぶっ壊れた世界が有ってたまるもんか。

この世界を作った原作者カミサマ?も冗談が過ぎる。


先に行っても大丈夫だ、と言う確信があるからこそ先に行く事ができる。

先駆の者がいたから奥へ行こうと思えるのだ。

先に進んだらあの闇に呑まれて消える、と教えられたら誰が行くものか。


一先ず迷宮見学はこの位にして置いて、

人がいる時にこっそり後を尾けながら、この迷宮のルールを覚えれば良い。


このままここにとどまったって足がすくんで動けないし、

そもそも今はお腹が減っているのだ。

言い訳をしながらワープを唱えて、旅亭の裏口近くの大木に戻った。



   ***



その日の夕食で出た肉と野菜の料理は体に染み渡った。

何せここ数日間、携帯食料と水しか飲み食いしていなかったのだから。


湯は注文しないと受け取れないらしい。

ミチオ君達が宿泊したベイル亭では、

旅亭店員が部屋へ持って来てくれていたような気がする。


注文してから沸くまでの数分間、下の酒場の片隅に座って待つ。


まだ日が落ちて間も無い。

それなりに席は埋まっているが、

宿泊者全員がここで食事をしている訳でもなさそうだし、

まだまだ酒飲み客もまばらのようだ。


部屋番号で呼ばれたので受け取って自室に戻り、体を拭いて洗濯をした。

風呂は無くとも、お湯を絞ったタオルで顔や体を拭くと疲れが吹き飛んだ。

その後はベッドに倒れ込むと、吸い込まれるようにして寝てしまった。

∽今日の戯言(2021/07/21)


今回は話が膨らまなかった。


いや、話を作っているのではない。

もう目を閉じて空想の中動き回るユウキ君を見たまんま書き写してるだけだ。


書ける量が少ないって事は、ユウキが動かなかっただけだ。

そうだろ?もっと動け!動いてよ!

行数が足りないとみんな死んじゃうんだよ!(?)



 ・繰越金額

     金貨  0枚 銀貨 63枚 銅貨 70枚


  賞金獲得           (142900й)


  トラッサ宿泊      (2850→2010й)

    初回登記              50

   (250+30)×10      2800


  取得品売却     (3800 → 4750й)

   鉄の剣                    帯刀に加える

   ダガー         50 → 1000  売却、銀貨10枚

   銅の剣   ×5         1250  売却

   革の鎧   ×1         1250  売却

   皮の鎧   ×4          800  1つを残し売却

   皮のジャケット           250  売却

   皮のミトン              20  売却

   皮のグローブ×3           60  1つを残し売却

   柳の皮靴                   装備に加える

   皮のサンダル×6          120  売却  


     金貨+14枚 銀貨+56枚 銅貨+40枚

  ------------------------

  計  金貨 14枚 銀貨119枚 銅貨110枚



 ・異世界4日目(17時頃)

   トラッサの市まで2日、宿泊1日目

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― 新着の感想 ―
[気になる点] §173 退避でトラッサの話が出て改めて読んで気になったのですが、 トラッサ迷宮への道が整備されてない、と言う事はあるのだろうかと? トラッサは、原作のペイルを参考にしているとは思…
[良い点] オリジナルがカットした日々の取引を金額まで明記してくれるのは庶民的で親しみやすいです。 [気になる点] 「戯れ言」の所は誤字訂正できないからこちらに書きますが、取得品は皮の鎧が5つで1つを…
[一言] 文章自体のテンポは心地よいので、この文章量の中でもっとキャラを動かして欲しいとはそこまで感じないです。 もっと読みたいからもっと更新して欲しいなとは思いますけれど。
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