Operation20:スクランブル
改訂しました。
午前六時二十五分。降りしきる雨の音が続く中、功一は目を覚ました。ベッドの上で上体を起こし、目をこする。いつもなら六時にアラームで起きているが、昨日はアラームをオフにしたまま眠ってしまったようだ。
立ち上がり、薄暗い窓の外を眺める。ベランダに吹き込む雨粒と、干しっぱなしの洗濯物が目に入った。
「しまった……!」
慌ててベランダに飛び出し、びしょ濡れになった洗濯物を回収する。風が肌寒い。シャツやタオル、その他もろもろをドラム式洗濯機に突っ込み、乾燥モードにしてスイッチを入れた。
テレビをつけると、天気予報を映していた。それによると、台風十四号が上陸し、暴風域は北陸を通過中とのことだった。
手早く朝食と身支度を済ませ、功一はパジェロで大学に向かった。
※
その、少し前。日本海側、能登半島にある航空自衛隊の輪島レーダーサイトが、飛行予定にない機体を捉えた。レーダースクリーンをモニターしていた要撃管制官は、その機体に対して敵味方識別信号を発信した。しかし、IFFトランスポンダの応答はなかった。
国籍不明機、領空に接近中。管制官は防空指揮所に情報を伝えた。
直ちにスクランブル(緊急発進)が下令され、石川県の小松基地、第六航空団第三〇三飛行隊から二機のF-15Jイーグル要撃戦闘機が離陸した。
航空自衛隊入間基地・中部航空警戒管制団の防空指揮所で、団指令の空将はレーダースクリーンを他の隊員たちと共に注視していた。
「小松三〇三よりコールサイン・ペガサスがスクランブル。 国籍不明機、防空識別圏を方位〇九〇、三百四十ノットで飛行中。領空まで四十分程度です」
要撃管制官の報告を聞き、団司令は首を捻った。速度が遅い。輸送機か?
※
日本海上空、七時五十六分。
スクランブル発進したイーグルのコクピットで、大越秀一三等空佐は操縦桿とスロットルレバーを握っていた。
小松基地を離陸してから、ボギーに会敵するため北へ向かって飛行中。ちょうど、台風の暴風域は小松を通過中。離陸時はひどい揺れで、冷や汗をかいた。
こんなタイミングで来やがって。こっちの身にもなれってんだ。
ただし、雲の上に出てしまえば関係のないことだった。キャノピー越しに、どこまでも青い無限の大空が広がり、太陽が照りつける。一瞬、気が抜けそうになるが、大越は正面のHUDのグリーンの表示に視線を戻した。
アフターバーナー使用の指示がなかったため、エンジンはミリタリーパワーで上昇し、マッハ〇・九五で巡航飛行に入っていた。急ぐ必要がないということは、おそらく敵は戦闘機ではない。もっと遅い、中型機か大型機。爆撃機か電子偵察機だろうか。
「This is Pegasus01. Now maintain angel 32. (こちらペガサス01。現在高度三万二千フィート)」 大越は要撃管制官に告げた。
『Pegasus01, this is Arc. You are under my control. Steer 320, maintain present angel. Follow datalink.(ペガサス01、こちらアーク。これより誘導を開始する。高度はそのまま、方位320へ。これより先はデータリンクに従って飛べ)
』
「Pegasus01, Rojer. Follow datalink.(了解)」
ボギーへの誘導はデータリンクによって行われ、HUDに速度や方位、高度の指示が表示される。パイロットはそれに従って機を飛ばせば良い。大越は操縦桿を握り直し、僚機に方位三二〇への旋回を告げた。
※
防空指揮所、八時十分。
「ボギー、速度、高度そのまま。領空まで百四十マイル。まもなく、ペガサスが目視圏内に入ります」
「ペガサスからの目視報告はまだか?」 指令が問うた。
「ペガサス・フライト(編隊)、ボギーを目視できるか?」
『目標視認。これより接近する』
※
日本海上空、同時刻。
青い空、前方やや左手、下方に数ミリの黒い点を見つけた大越は、目標視認の報告を防空指揮所に入れると、スロットルを絞り、右に機体をバンクさせつつ降下に入った。やや遅れ、左後方に占位する僚機の日下部二尉のイーグルも続く。
ボギーの後方に回り込む。かなり遅い。まだ遠いが、四発のターボプロップ機だ。左手の親指でスロットルレバーのスピードブレーキスイッチを引き、機体の背中に大きな板を展開させる。空気抵抗で減速。HUDの速度表示が瞬く間に下がる。機首が下がろうとするので、操縦桿を若干引く。四八〇ノット……四三〇ノット……四〇〇ノット。スピードブレーキを戻す。
水平飛行に移り、後方からボギーに接近、睨みつける。一機しか見えない。胴体の上から主翼が生えた高翼の大型機。
NATOコードネーム「カブ」、ロシア製のアントノフAn-12だ。空に上がってから資料を広げる余裕はないので、周辺国の軍用機は外見から基本スペックまで、全て頭に入っている。
「ボギーはアントノフAn-12。国籍は……確認できない」
大越は思わずボギーの機体を注視した。機体は淡いグレー一色で、翼、胴体のどこにも国籍マークが見えない。最近流行りのロービジ(低視認性を重視した、カラーではなくグレーの濃淡で描く塗装)か?
「もう少し接近する」
大越はボギーの右斜め前方に占位した。日下部はボギーの後方で、いつでも撃墜できる態勢をとる。二万九千フィート、三五〇ノット。やはり国籍マークはない。それどころか、識別マークも部隊マークも、一切のマーキングがない。日に焼けていないライトグレーは、まだ塗装からそれほど日が経っていないのではないかと大越に思わせた。さらに、キャノピーはスモークフィルムが貼られているのか、搭乗員の様子が全く伺えない。
なんだ、こいつは。まるでナンバープレートを外し、ガラスをフルスモークにした暴走族の車のような機体だ。
「貴機は、日本の領空に向かっている。直ちに進路を変更せよ」
ロシア語、中国語、朝鮮語で警告するが、全て無視。悠々と飛び続ける。領空まで百マイル。鈍足のおかげで、まだ時間はある。時間はあるが……何もできないのが問題だ。
相手は輸送機、こちらは戦闘機。やろうと思えば、二十ミリのバルカン砲だけで一方的に撃墜することができる。丸腰の暴走族を、マシンガンで蜂の巣にしてやるようなものだ。だが逆に言えば、相手がこちらを攻撃できない以上、わが国の憲法と法律では、こちらから攻撃することはできない。たとえ領空に入られてもだ。これが他国の空軍であれば、領空に入ろうとしたところで撃墜して終わり。
不審な荷物を持った不審者が、庭先に入り、強引に玄関から家に押し入ろうとしている。警察を呼ぶ。駆けつけた警察官は立派な銃を持っているが、口頭の警告と威嚇射撃しかできない。自分から何もしなければ絶対に撃たれないと分かっている不審者は、侵入した家にいた家族を目の前にする。
不審な荷物が、実は爆弾だったら。不審者はスイッチを押す。気付いた警察官は発砲しようとするが、もう遅い。丸腰の家族は、警察官もろとも爆殺されてしまう。誰も助からない。
そんな馬鹿な話があるか。
ここで言う家族とは日本国民、警察官は自分たち自衛隊員。不審者はこのボギーだ。いくら高性能な銃——戦闘機があったところで、武器を使えなければクソの役にも立たないのだ。
だが、いまさら空で文句を言っても始まらない。次は、警告射撃。
「ペガサス・ワンよりアーク。ボギーは無線警告を無視。警告射撃の許可を要請する」
(ペガサス、待て)
大越はボギーの左側方にイーグルをつけた。相手のコクピットからも、こちらが警告射撃をすればよく見えるはずだ。
領空まで六十マイル。いくら鈍足とはいえ、もたもたしていたら領空まであっという間だ。
マスターアーム、射撃管制レーダー、オン。兵装スイッチを機関砲モードへ。HUDに射線を示すガンクロスが表示される。
あとは、操縦桿のトリガーを引くだけ。この位置なら、機関砲の弾丸は海に落ちてくれる。民家などへの直撃を心配する必要もない。
だが、要撃管制官は意外な指示を伝えてきた。
(ペガサス・フライト、警告射撃は待て。無線警告を続けろ)
大越は舌打ちしたいのを抑えて、「ペガサス・ワン、ラジャー」 とだけ答えた。続いて(ツー) と応答した日下部の声も、どこか不機嫌そうに聞こえた。
このまま飛べば、秋田県と山形県の県境あたりの上空に差し掛かる。その先には、攻撃目標となるような施設、たとえば自衛隊や在日米軍の基地、原発などは存在しない。であれば、左旋回して青森の三沢基地か、右旋回して新潟の原発……。
まるで、大越の思考を読み取ったかのようなタイミングだった。ボギーが右へバンクして右旋回を始めた。二機のイーグルもそれに追随する。さらに、高度を下げ始めている。そのまま反転してくれれば良かったが、変更後の針路は方位二一〇。新潟の海岸線に沿うように南下するコースだ。その先には原発もある。
だが、いま大越の視界、HUDの先に見えているのは、発達した台風の、白い積乱雲だった。ボギーは、まっすぐそれに向かって飛ぶ。
大越は、今度こそ舌打ちした。
「貴機は日本領空に近づいている。直ちに進路を変更して退去せよ。繰り返す、……」
※
防空指揮所、八時三十九分。
「ボギー、右旋回。方位二一〇、速度そのまま」
「このまま、領空に入らずに南下する気か……?」 団司令は唸った。ボギーの意図が掴めない。このまま南下すれば台風に直撃。それを避け、再び右旋回して引き返すつもりか?
「司令、ペガサスが警告射撃の許可を求めています」 若い要撃管制官に代わり、先任管制官の二佐が団司令に告げる。
警告射撃。事後処理が面倒だが、どうする……。いや、そんなことよりも、針路上の原発が問題だ。もしボギーの狙いが原発だったら。だが、輸送機一機でどうするつもりだ? 現在、他のボギーはいない。降下部隊をパラシュートで降ろす? 現在新潟県を通過中の台風十二号は、最大風速五十メートル毎秒の非常に強い台風だ。そんな中、まともに降下できるはずはない。だが、万が一……。
「司令」
早く決断しろ、と言わんばかりの先任管制官の声に、団司令は「警告射撃はまだだ。無線警告を続けさせろ」 と答え、腕を組み直した。
原発に対する武力攻撃。それなら、潜水艦から密かに特殊部隊を上陸させれば済むことだ。わざわざ時代遅れの輸送機で「これから原発に向かいますよ」 などと大手を振ってやってくるものか。
「ボギー、降下率を上げました! 現在二万フィート。領空まで二十マイル」 若い管制官が報告する。
ディスプレイを見ると、ボギーとペガサスの高度表示が、みるみる下がっていくのが見えた。
「急降下だと?」 台風に向かって。そんな馬鹿な。積乱雲に突っ込むつもりか。機体強度がもたないはずだ。団司令の額に汗が浮き出る。
まさか……ボギーが積んでいるのは、核……? 台風に突っ込み、自爆するつもりで……?
いや、そんな馬鹿な。ありえない。焦る頭で、団司令は怒鳴っていた。
「警告射撃を許可する!」
※
手遅れではないのか?
そんな疑問が脳裏をかすめていたが、警告射撃の許可を得た大越は操縦桿のトリガーを軽く引いた。百十発毎秒の連射速度で二十ミリ機関砲弾が撃ち出され、曳光弾が軌跡を描く。
ボギーは動じない。台風に向かって飛ぶ。高度一万七千フィート、なお降下中。
台風のアウターバンド(外側降雨帯)が近づく。柱状にそびえる雲の群れに突入し、機体周辺は急に暗くなった。太陽光が遮られたのだ。大越はヘルメットのバイサーを上げる。キャノピーに雨が打ちつけ始める。次の瞬間、強烈な上昇気流が機体を襲った。振動で全身が揺さぶられる。操縦桿を押し、機体の上昇を防ぐ。ボギーはなおも降下しながら直進。HUDの機体姿勢、速度、高度を見て操縦しながら、ボギーを追う。
野郎、どうするつもりだ。
断続的な雨。イーグルのキャノピーにワイパーはない。整備員の手作業で丁寧に磨き上げられたキャノピーは、強力に水を弾いている。その先に、強風に煽られながら飛ぶボギーが見える。
キャノピーの枠につけられたミラーには、日下部機の航空灯がちらちらと映っていた。彼も、イーグルドライバーとしてはベテランの域に入る経験年数だ。この悪天候だが、なんとかついてくるだろう。
このまま進めば、スパイラルバンド(内側降雨帯)に入り、さらにその先は暴風雨の積乱雲・アイウォールが待っている。
ボギーは、針路を維持。降下し続ける。まったく怯む様子がない。
ただの偵察や嫌がらせではない。このボギーは、何か強力な意志を持っている。それも、日本の安全を脅かす意志だ。
「ボギーは警告射撃を無視! 台風に突っ込む気だ! 指示を請う」
(ペガサス、追撃は可能か?)
その問いかけに、大越は一瞬考えた。この強さの台風で飛んだ経験は、なかった。どんなパイロットでも、自殺志願者でもない限り回避するだろう。そもそも、機体が持つか分からない。
「日下部」 大越は防空指揮所との通信を切り、後方を飛ぶ部下のTACネームを呼んだ。
(はい)
「無理はするな。危険だと思ったら退避しろ」
数瞬の沈黙。
(いま一番危険なのは、この下にいる我々の家族なのでは?)
その通りだ。妻と息子の顔を思い出し、口を苦笑に歪めた大越は、「台風なんぞに墜とされることは許さん。必ず帰還しろ」 とだけ告げ、日下部との通信を切った。
「ペガサスよりアーク。台風で通信アンテナの調子が悪くなったが、回復したようだ。……追撃は可能と判断する」
(了解。ペガサス・フライトはそのままボギーを監視せよ)
「ペガサス・ワン、ラジャー」
(ツー)
前方にどす黒いアイ・ウォールが、名前通り壁となって近づく。雷光が見えた。直後、エンジン音に雷鳴が混じり、振動が全身を揺さぶる。
(自衛隊)
唐突にヘルメットのイヤホンに飛び込んだ声に、大越は目を細めた。若そうだが、硬質な響きを持った男の声。
いま、自衛隊と言ったか……?
(我々は、死ぬ覚悟ができている。我々に付いて来られるかな、自衛隊?)
ノイズ混じりの男の声に、嘲るような色が混じっていた。流暢な日本語。これは、あのボギーからの通信だ! やはり、台風に突っ込むつもりなのだ。
死ぬ覚悟……だと。
直後、三機はアイ・ウォールに突入した。
まるで、巨人の手で下から殴られたようだった。突風で急上昇。スピード低下。失速警報。スロットルを前に進める。即座に反応した二基のF100エンジンが唸る。機体が分解するのではないかと思わせる、強烈な振動。
操縦桿とラダーペダル、スロットルで機体を制御しながら、HUDを見る。高度は一万八千フィート前後。速度三百ノット前後。数値が乱高下して正確に読み取れない。
ボギーは。
まだ前方に捉えている。主翼が大きくしなっている。硬すぎると折れてしまうので、飛行機の翼はわざとしなるように造ってあるのだ。第三エンジンが黒煙を噴いて止まっている。今ごろボギーのパイロットは、第二エンジンの推力を絞って左右のバランスを取っているはず……。
「ボギーの第三エンジンが停止した」
報告した直後、再び警報が鳴った。燃料漏れだ。左のインテグラルタンク、つまり金属やゴムのタンクではなく、翼の構造体をそのまま燃料タンクにした部分からジェット燃料が漏れている。異常な応力がかかって、主翼に亀裂でも入ったのかもしれない。イーグルの燃料タンクは合計八個。一カ所から漏れても問題ない。タンク間を仕切るクロスフィードバルブを閉鎖し、インテグラルタンクからの燃料供給をカット。
大越は左翼を振り向く。目視では、異常は見当たらない。エルロンもちゃんと動いている。本当はすぐにでも緊急着陸したいところだが、状況が状況だ。
そうこうしている内に、三機は日本の領空に入った。
「ボギー、領空侵犯中!」
(ペガサス・フライト、警告を継続……)
(ペガサス・ツー、エマージェンシー!) 日下部の悲鳴のような声が割り込んだ。(右エレベーターが効かない! ハイドロ(油圧)が死んだ)
「日下部、大丈夫か!?」
エレベーター(水平尾翼)が動かなくなれば、最悪操縦不能だ。大越は後方の僚機を見た。日下部のイーグルは左にバンクしながら急降下してゆく。明らかに制御できていない。
(操縦不能! 繰り返す、制御できない)
「離脱しろ、日下部!」
(ペガサス・ツー、新潟空港へのエマージェンシーランディングを要請する!)
あんな状態で、ランディングなどできるものか。
「ダメだ、ベイルアウト(緊急脱出)しろ!」
返答は、日下部の絶叫だった。その直後、急降下する日下部のイーグルは、大越の視界から消えた。
「ペガサス・ツーはどうなった!?」
(ペガサス・ツー、ベイルアウト! 海上です! 小松救難隊に出動命令を……!)
慌てた要撃管制官の声が大越の耳を刺した。日下部はベイルアウトした。この台風の中、無事に着水できるか? 考えながら、ボギーが機首を引き起こしたことに気づく。減速しつつ、水平飛行へ。高度二千七百フィート。速度百二十ノット。
ボギーの機体後部、ドアが開いている。両開きのカーゴドア。An-12にあんなドアはあったか? いや、改造したのか。
空挺部隊を積むために。
人影が見えた。パラシュートを背負ってボギーから飛び出す。一人、二人、次々と、日本の空に降下してゆく。原発の奇襲作戦か!
「アーク、ボギーから空挺部隊が降下している! その数十以上」
(空挺だと!?) と怒鳴ってきたのは防空指揮所の団司令か?
(いい気味だ、自衛隊) 先ほどの男の声が割り込んできた。
「きさま……!」
(ここまで付いてきたことは褒めよう。だが……死ね)
なんだと。丸腰の輸送機で、何を言っている。
ボギーから、一人、飛び出した。一瞬、こちらを見た気がした。大越は直感する。いま飛び降りたやつが、通信してきた男だと。
続いて、何か外国語でわめく声が聞こえた。朝鮮語か。さっきの男とは別の声。殺気を帯びていた。
まさか。
衝突警報。ボギーが右へ急旋回し、大越のイーグルの目の前に覆いかぶさるように減速した。
HUD越しに見えるボギーの機体が、急速に大きくなる。右の主翼が、キャノピー前面に広がる。
追突する!
左へ回避——
※
レーダースクリーンから、ボギーとペガサス・ワンが、同時に消失した。
要撃管制官が呼びかけるが、ペガサス・ワン——大越三佐から応答はない。
ベイルアウトはしていない。つまり……。
団司令は両の拳を握りしめ、がくりとうなだれた。