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兎は満月の夜に願う  作者: うさ
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「あ……し、た…」



 えっ? なんて? なんて言ったの? 明日? 明日何かあるの?

 突然わたしの前に白くて靄がかかっている人物が現れた。途切れ途切れで話しててよく分からない。



「ゆ………り、や………」



 なあに…? きこえないよ…? やだ、待って…どこへ行くの? 置いていかないでっ!

 わたしが必死に待ってって言っても靄はわたしから離れていく。必死に走りながら追いかけるも、わたしの足じゃ到底追いつけない。



「ま、た…………」



 微かに聴こえた声は、またなって聴こえたようなきがした。




ーーーーーーーーー




 ん、んん…? 朝が、来たのかなぁ。何か、夢を見ていた気がする。でもよく思い出せない。

 なにか重要な事を忘れている気がする。

 ま、いっか。夢だし。わたしの妄想なのかも。


 ぬくぬくとする体温の中、目を擦りながら目を開けてみると、白い足が見えた。毛むくじゃらになってる。ん…んん?!あっ…そっか。わたし、兎になってたのか。って、夢じゃなかったんかーい…夢オチとか期待してたよ、なんだよ…。


 そういえばわたし拾われたんだっけなぁ。エリオって言うんだっけ。エリオはどこだろうとキョロキョロみたら案外近くにいた。と言うよりエリオの首のあたりにいた。ひゃー!びっくりした。そっか、わたし子兎だもんね。改めて人間って大きいんだなぁ…。

 エリオはスースーとまだ寝ているようだった。


 そんなこと考えていると、頭の上からぴたんぴたんと水が滴ってきた。

 えっ、涎?嘘でしょ?わたしはエリオを起こさないように後退りをして、涎じゃありませんようにーー!と願った。



 結果的に涎ではなかった。良かった…のかな? 水の正体は、彼の涙だった。



 え、えー。なんで泣くの、エリオ。悲しい想いでもしたの? 誰かにいじめられたの? わたしがやっつけてあげるよ? まだ出会って2日目だけど、わたしエリオにたくさんの恩があるからねっ!

 エリオはしかめっ面で、無意識に泣いているようだった。何だかとても切なくて、わたしまで悲しくなってきた。だってこんな仏頂面から涙がボロボロと零れて来てるんだよ? やだ、もう泣かないでっ!



 わたしはエリオを慰めたい一心でひたすら涙が滴っていく首をペロペロと舐めていた。



ぐすん。エリオが悲しいならわたしも悲しいよ。ただの子兎だけど、元気だして。わたしがそばに居るからね。



 ペロペロとされてくすぐったがったのか、エリオは目を覚ました。自分で泣いているのに気が付き、起き上がって無言で涙を拭いていた。なんで泣いていたのかな。子兎には教えてもらえないよね。人間の言葉はわかるけど、人間じゃないし…。



「慰めてくれたのか」



 不意に声をかけられわたしは驚いた。だって話しかけられたって反応できないし。鼻をヒクヒクさせることしか出来ないよ。慰めたくても涙をペロペロするしかできないし。



「ありがとな」



 いやぁ、お礼を言われるほどじゃないよ。ふふふ。言葉が通じなくても、こうやってお礼言われるのってすごく嬉しいな。出会って2日目でもこんなに心が通うものなのね。


 キュルルルポヘン。


 なんだなんだ??この調子外れた音は。驚いてベッドの上でワンジャンプしちゃったじゃないの!犯人はわたしのお腹の音だった。くそぅ。感動のいいところだったのに!わたしのお腹のばかばか!

 それを見ていたエリオは、ははっと声を出して笑っていた。


 笑ったぁ。顔をクシャッとしてわらう姿はカッコイイ。いや、どこからどう見てもかっこいい。今更だけど寝起きだからか上半身裸だけど。まだ出会って2日目なのに、こんなにエリオに愛着を持ってしまった。変なの。助けてくれたからかな。飼い主になってくれたからかな。ま、いいか。



「ご飯食いに行くか。野菜の端切れ貰えたら貰ってくるけど、無かったらビスケットでいいかな。」



 …!!エリオ好きぃ!分かってるじゃない!ビスケットとお野菜どっちもわたしに与えてくれたっていいのよ!あっ、餌につられて好きとか、懐いたとか、そんなんじゃないんだからねっ!わたしはエリオの心根が好きなだけなんだから!ほ、本当なんだから!だから、どっちも食べさせて?

 キラッキラさせた目でエリオを見つめてみた。



「食べさせすぎはよくないしな」



 ボソッと呟いて昨日の服装に着替え始めた。

 え〜ケチ〜。ふくれっ面してみるもわたしは今子兎だから上手に膨れられない。ぶー。


 着替えが済んだのか、エリオはわたしを見た。



「ましろ。おいで。」



 差し出された手にぴょんと乗るとエリオは目を細めゆっくり撫でてくれた。

 んふ。気持ちいい。

 そして昨日の定位置、右ポケットから顔を出して、わたし達は下の食堂へ向かった。

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