屍の従者達
ここ一年、私の周りはいつも死臭がしている。
当然だ。私の従者は全て屍。肉は腐り続けている。早く骨になって欲しいところだけど、骨になると、今度は誰が誰だかわからない。
「ようやく、王都に攻め入る事ができるわね」
私の言葉に誰も反応はしない。
「ここまで一年か……」
一年前、私は王国の聖女をしていた。そして魔族と戦っていた。魔族軍との戦いが優勢になった頃、私は神殿と貴族達に放逐された。理由は魔族との内通。私がかくまった数名の魔族の孤児は捕まえられ、浄化され消え去った。
孤児とはいえ、魔族を聖女が匿うなど言語道断。それはわかる。しかし、私の家族、従者、直属の騎士団までもが処刑された。
私は最低限の物だけ持たされて、王都を追放された。
王国では、罪人といえど、墓地に葬られるのが常識だった。しかし王はこう言った。
「荒地に捨てて野ざらしにしろ」
私は今その荒地に向かっている。
遠くからでも死臭がわかる。こっちに私の大切な人たちがいる。
私は一歩一歩と踏みしめながら、後悔をしていた。
「魔族をかくまった事にかって?」
いいえ。王や神殿に仕えていた事よ。
三時間程歩いて、ようやく荒地についた。
私は考えた。
そして降霊術、ネクロマンサーの術を使った。
以前に戦った魔王軍のネクロマンサーが持っていた魔導書。
勉強のためにと置いておいてよかった。
しかし上手くいかない。何がいけないのかしら。
「神よ。何がいけないのでしょうか?」
「術者の血が一滴必要よ」
私は短剣で指先を切り、血を一滴落とす。
屍は動き出す。十分ほどバタバタとして、ようやく落ち着いた。
「私はクロム。あなたは?」
「……」
口をカクカクさせるが、声は聞こえない。
屍は剣を振る仕草をした。
「騎士?身長からしてビスマスかしら」
屍は頷いた。
「よかった。元気になっ……」
言葉をのみこむ。
屍は首を振り、膝をついた。
あぁこの仕草はビスマスだ。
「次は誰にしましょうか……」
「……」
「ビスマス。ここの屍。誰が誰かわかる?」
ビスマスは、あちらこちら見て回る。
そして屍の服を引っ張る。
なるほど、みすぼらしい服に着替えさせられてはいるが、性別くらいはわかるって事か。
「じゃあ、男女交互にやってきましょう」
私は女性のような屍に術をかける。
屍は三分ほどバタバタとして、落ち着いた。
「私はクロム。あなたは?」
「……」
口をカクカクさせるが、やはり声は聞こえない。
屍は腰に手を置き、文句をいう仕草をした。
「スズなの?」
屍は頷いた。
「すぐにわかったわ」
スズは照れくさそうにする。
私はこれを三十回繰り返し、気を失った。
気が付くと、私は荒地に寝かされていた。
従者達が介抱をしてくれていたようだ。
「ありがとう。他の皆もしなくちゃ」
ビスマスは首を横に振る。
「魔力切れということね」
ビスマスは頷いた。
私はパンを一口食べる。
「あなた達も食べる?」
パンを差し出す。
皆首を振り、お腹を触る。
「そうね。食べないのよね。しかしお腹は空かないの?」
皆首を傾げている。
「そうね。さっき屍として生き始めたわけだものね」
「……」
「屍として生き始めた?おかしいわね。屍として死に始めた?屍として活動し始めた?」
皆首を傾げている。
お腹が一杯になると、睡魔に襲われた。
私はそのまま眠りにつく。
翌朝気が付くと、半分くらいの屍がいない。
「皆どうしたの?」
スズが手振り身振りで説明する。
どうやら、近くに身を潜める場所がないか探しに行ってくれたようだ。
まぁゆっくりしてくれと、スズは世話を始める。屍になっても性格はまるで変わっていない。
私は休憩を取りつつ、残りの五十体の屍に術をかけた。
作業が終わるころには、貧血で倒れそうになっていた。
夕方、兵士が鳥を捕まえてきた。私の短剣を使い、鳥を調理した。
そして私は鳥肉を食う事になる。
皆鳥肉には興味を示さないが、その血には興味を持っていた。
私は鳥の血を皆に渡した。
皆指でちょろっと取っては口に流し込む。
心なしか嬉しそうだ。
「美味しいの?」
皆頷いた。鳥の内臓が余っている。血液をずいぶん使ったので、内臓も焼いて食べたが、全部は無理だった。
「内臓は食べたりしない?これも血っぽいよ」
そう言うと、皆が集ってきた。
皆少しずつ、手に取る。
そして口に含む。嬉しそうな顔をしている。
「美味しいの?」
皆頷いた。鳥の内臓は食べつくされ、骨の髄まで割って楽しんだ。
私は彼らが食べられる物が見つかり満足した。
次の日、私達は移動を始めた。遺体が放置された場所から1時間くらいの距離の場所に村があると報告を受けた。もっとも何を話しているかはわからない。とりあえず、何かがあるのだろう。私達はその村に向かう。
村は壊滅していた。遺体は内臓を食い破られ、血もなかった。
私は戸惑った。声が聞こえる。
「悔しい」
私は遺体を集めさせ、再び術を使う。
屍達は動き出した。手を取り合い喜んでいる。
「私は王国の聖女だった者です。これは王国に皆殺しにされた仲間です」
村の屍は頷く。
「悔しいと言われたから、復活させたけど、どうしたい?私は聖女だから浄化で天に上げられるわよ」
村の屍は首を振る。
そして各々の家に戻り、農具を持ち寄ってきた。
「戦いたいという事?」
村の屍は頷く。
「わかったわ。でも浄化されたければ、いつでも言って」
そう伝えると、一人の屍が手を上げる。
「あなたは浄化されたいの?」
屍は頷く。
「わかったわ。浄化しましょう。皆下がって」
私は浄化の祈りを捧げる。
屍は灰となって消えた。
皆驚いている。
「他には浄化されたい人はいる?」
そう尋ねると、皆必死に首を振った。
それが少し滑稽に思えて、私はくすっと笑った。
「私の仲間も武装させたいの。道具もらえたりしない?」
村の屍はついてこいと手招きする。
そして各家々に散っていった。
しばらくし、皆色んな装備をしていた。
鍋の蓋、カマ、熊手、中には剣まであった。
あの勇猛でプライドの高かった騎士団がこんな装備をするのかと、それは少し滑稽だった。
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