悪夢を見たのを上書きしようとメイド喫茶に行って疑似寝取られを堪能してたら出禁を食らい、その怒りをNTR漫画にぶつけていたらそれを覗き見た幼馴染が嫉妬に狂って強制分からせを食らった件
「俺は子供の頃、寝取られることに憧れていた」
月明かりに照らされた縁側に座りながら、俺こと杉原学は隣に座る息子に、そんなことを話しかけていた。
「なんだよ、憧れていたって。寝取られなかったのか? 寝取られることを諦めたのかよ」
「ああ。相手にその気がないとね、寝取られるのは難しくなるんだ。そんなこと、もっと早くに気付いておくべきだった」
「ふーん、アホだな」
「ああ、アホだ。お前のお母さんはイチャラブ純愛派だった。クソッ! もっと早くに気付いていればお前が生まれることもなくこの有り余った金で他の女の子と付き合って寝取られることが出来たかもしれないのに……!」
「息子の前でそれ言う? 普通にクソ親父だな、アンタ」
息子が正論を言っていたが、俺としてはそれどころではない。
本当に後悔しても悔やみきれない。
燐子に襲われてさえいなければ、あるいは違うルートがあったかもしれないのに……。
そんな俺の自嘲を込めた笑みを見た息子が、何か意を決したように口を開く。
「そっか、じゃあ俺が代わりに寝取られてやるよ」
「え……」
なにを言い出すんだ突然。
俺の戸惑いをよそに、息子が続ける。
「俺、今彼女がいんだよ。メイド喫茶でバイトしてる子なんだけどさ。客の何人かが彼女を狙ってること知ってるから、上手くいけば寝取られることが出来るかもしれない」
「なん……だと……」
「へっ、任せとけって。親父の夢は、俺が……」
「おい待て巫山戯んな。なに羨ましすぎることほざいてんだコラ」
あまりにもクソボケなことを抜かす息子に、俺は待ったをかけていた。
「へ?」
「あのな、寝取られたかったのは俺なの。お前じゃなく、俺。なんなら今も実は諦めてないし。今も虎視眈々とママを寝取ってくれるチャラ男さんを探している最中なんだぞ!」
「え、そんなことしてたの。ホントクソ親父じゃん」
「うるさい! もう一度言うが巫山戯んなよ!? 俺が先に寝取られるんだよ! 息子なんかにゃ絶対負けねぇ!!」
チャラ男さんに負けるのはいい。
だが息子には負けられない―――!
「――なんの話をしているの?」
そう、思っていたのだけど。
「へ?」
「さっきからうるさいと思って立ち聞きしてたけど。学、なんだか面白いことを言ってたね」
俺の幼馴染にして現奥さんである燐子が、気付けば背後に立っていた。
普段から無表情である彼女だが、俺を見下ろす視線に絶対零度の冷気が混じっている気がするのは決して気のせいではないだろう。俺は空気が読めるし心眼を持った男なのだ。
「マ、マイサン。息子よ、ヘルプミー……」
「あっ、そういや俺まだ宿題やってなかったんだ! 親父、お袋、お休み!」
「あっ、こ、コラッ逃げんな!? 父さんをひとりにするんじゃない!」
助けを求めようとした途端、脱兎の如く逃げ出す息子。このヘタレが! もう小遣いやんねーからな!
だがいつまでもそんなことを言ってはいられなかった。
「学。寝室行こっか。今日は学が誰のものなのか、徹底的に分からせてあげる」
言いながら、がしりと俺の襟首を掴む燐子。
凄い力だ。まるでかの大英雄ヘラクレスのようなパワー。冷や汗が止まらないかった。チビりそうだ。
これに抗うことなど、貧弱な俺に出来るはずもない。
「あの、燐子さん? 俺、明日も早くて……書きかけのラブコメ描かないといけないし、出来れば手加減していただけると……」
「大丈夫。私が寝取られから学を寝取る」
「あの、話聞いて……」
「いくよ学。精◯の貯蔵は十分か?」
「いやーーー!! やめてーーー!!それ俺絶対勝てないやつだからーーー!!!」
俺の叫びなど聞く耳持たず、そのまま燐子に引きずられ、俺達は寝室へと消えていくのだった…………。
◇ ◇ ◇
「―――はっ! ゆ、夢か」
酷い夢を見た。
まるで英雄が生前に犯した罪を突き付けられたかのような、そんな夢だ。
「ク、クソ。冗談じゃないぞ。なんで中立・善属性のこの俺があんな大罪犯したような悪夢を見なきゃならんのだ……」
未だに冷や汗が止まらない。
なんて恐ろしい夢を見てしまったんだろう。
「もしあれが正夢だとしたら……い、いや違う。あれはおそらく神のお告げってやつだ。俺に対する救済、地獄から救わんとする蜘蛛の糸だと思うことにしようそうしよう」
最悪の予想をぶんぶんと頭を振って振り払うと、気分転換をするべく俺はベッドから起き上がってカーテンを開け、窓の外へと視線を向けた。
「ふぅ、気持ちの良い晴天だ。絶好の寝取られ日和だぜ……」
「そんな日和はない。学、なに馬鹿なこと言ってるの。ホントに起きてる?」
「って、うおおおお!! りんこぉっ!? なんでここに!?」
背後から聞こえてきたあり得ない声に、絶叫とともに振り返ると、そこには幼馴染である燐子がいた。
制服姿で当然夢で見た姿より若かったが、心臓に悪いことには変わりはない。
「なんでって、起こしに来たから。学はお寝坊さんだし、未来の妻として当然のこと」
「恋人をすっ飛ばして妻とか言われても困るんだが……アサシンに心臓を鷲掴みされたかと思ったぞ……」
「それは大げさ。私は学の命なんて狙ってない。私が奪いたいのは学の童貞と恋人の座だけ。そのことを、常に忘れないで欲しい」
いや、それはそれで普通に恐ろしいんだが……。
こっちからすれば違う意味で命を狙われてるとしか思えないぞ。
「ちなみに聞きたいんだが、仮に付き合ったとして燐子は寝取られてくれるのか?」
「は? あり得ない。私は学が描いてる漫画みたいに純愛イチャラブ派。寝取られみたいなバッドエンドは御免被る」
「ですよねー」
断固とした態度とともに首を振る燐子を見ながら、やはりコイツとは付き合えないという決意を大いに固める。
確かに燐子はとんでもない美少女で、俺には勿体ない女の子だ。
だからこそチャラ男さんみたいないい男に寝取られて幸せになって欲しいというのに、燐子はそれが嫌だという。
世の中というものは、上手くいかないように出来ているらしい。理不尽である。
「ま、とりあえず学校行こうぜ。もしかしたら学校に結界でも出来ていて、寝取られたくなるような気持ちになったりするかもだからな」
「学。その妄想力は評価するけど、真面目に一回病院に行った方がいいと思う。大丈夫、私も付き合うから、その性癖を根気よく直していこ?」
「絶対嫌だ。寝取られ性癖じゃなくなった俺なんて俺じゃない。もし性癖が歪むようなことがあったら、その場で舌を噛みちぎって死んでやるわ」
「そ、そこまでなの……? どうしてそこまで歪んで……むむむ」
何故か慄く燐子を尻目に登校の準備を進める俺。
(そういえば、夢の息子はひとつだけ良いことを言ってたな)
もう忘れたい悪夢ではあったが、いい機会だ。
久しぶりに寝取られ成分を補給しよう。
そう決意を固め、俺は部屋を出るのだった。
◇ ◇ ◇
「「「お帰りなさいませ、ご主人様ー!」」」
放課後。
細かいことは色々省くが、俺はメイド喫茶にいた。
「はーい、ただいまー! いやー、メイドさんはいいですね。ねっ、担当さん!」
「まぁ否定はしないッスけど……ウチと一緒に来る場所でなくないスか?」
ちなみに担当さんも一緒である。
今日は打ち合わせの日でもあったため、せっかくだからいつもの喫茶店ではなくこちらに来てみたというわけだ。
「まあまあ。これもいい経験だと思って。ラブコメならたまにメイド喫茶ネタとかあるじゃないですか。俺も今後これをネタとして使いたいなって思って」
「あ、そういうことスか。漫画の糧になるなら大歓迎ッスよ。それならウチも楽しむことにするッス」
俺の言葉を信じた担当さんは、ウキウキしながらメニューを広げる。
見た目が中学生のため、見ていて若干微笑ましい気持ちになる。
「あ、やっぱりこういう店って高いんスね。経費で落ちるかな……先生も出来ればちょっと安いメニューにして欲しいッス」
……訂正。発言はあんま微笑ましいものじゃなかった。
見た目は未成年でも中身は大人の世知辛さみたいなものをヒシヒシと感じる。
「いや、俺が誘ったんだし奢りますよ。そこまで気にしなくていいですって」
「駄目ッス。ウチは先生より年上で、なにより大人ですからね。お金は会社が払うんで、常識の範囲で安いものを頼んで欲しいッス」
「は、はぁ……」
なんだろう、まともなことを言ってるんだろうけど、内容がえらく情けない。
大人になるって大変なんだなと思いつつ、俺は空気を読んで比較的安いオムライスとクリームソーダを注文することにした。担当さんも似たようなメニューを頼み終えると、オーダーを聞き届けたメイドさんがこちらにニッコリと微笑んでくる。
「ありがとう御座いますご主人様! すぐにお持ち致しますね!」
「はーい! 待ってまーす!」
「ふふっ、元気なご主人様ですね」
笑顔の眩しいメイドさんが離れていくのを見て思わず破顔するも、そんな俺が気になったのか担当さんが茶々を入れてくる。
「フフッ、やっぱり先生も男の子ッスねぇ。いっつも寝取られがどうの言ってますけど、やっぱ可愛いメイドさんには弱いんスか。このこのー」
「え、いや違いますけど。俺にとって本番だったから、ついニヤケちゃっただけです」
「は? 本番? なにがッスか?」
「フッ、あれを見てください」
言いながら俺はとある場所へと指を差す。
「おまたせしました、ご主人様。注文を承らされて頂きます!」
「あれって、さっきのメイドさんじゃないッスか。あれがいったい……」
「フゥ、フゥー! ね、寝取られてる! 俺のメイドさんが、別の客に寝取られちゃってるよォーーー!!!」
「って、なんかめちゃくちゃ興奮してるッスーーー!!!」
大声を張り上げる担当さんを他所に俺は確かに興奮していた。
理由は言わずもがな。メイドさんを寝取られたからである。
「さっきまで俺がご主人様だったのに、今はもう他の客をご主人様なんて呼ぶなんて……! こんなの、寝取られじゃなくてなんだってんだ! ああ! 凄く悲しいし胸が痛い! 最高かよぉっ!!!」
「へ、変態ッス! 最低の変態がここにいるッス! コイツ、ウチをプレイに付き合わせやがった! あり得ねェーーー!!」
またもや絶対する担当さん。
普通に迷惑だからやめてほしい。出禁になったらどうするんだ。
「先生! いやクソガキ! なにしてるんスか!? 疑似寝取られを堪能したらひとりでやってくださいよ!? ウチをアンタの性癖に巻き込まないで欲しいッス!」
「え、だってひとりでメイド喫茶に入るとか恥ずかしいし……」
「メイド喫茶で興奮しながら身悶えしてる野郎の存在の方がよほど恥ずかしいんスけど!? ていうか、ウチのほうが断然恥ずかしいッス! 描く漫画は素晴らしいのに性癖が終わりすぎてて、一瞬担当を変わってもらおうか真剣に考えちゃったんスよ!?」
「担当代わったら寝取られ展開描かせて貰えますかね?」
「描かせるわけないでしょ!? アンタ、ウチに対する情とかないんスか!? なんで担当代わるのは寂しいとか嫌とかじゃなく、寝取られ展開描けるかを真っ先に心配するんスか!?」
「だってそれが俺にとっての全てですし……この世の全ての性癖を寝取られに染め上げることが俺の夢だから……」
「そんな夢今すぐ捨てるッス! アンタはラブコメで天下取って皆を笑顔にするんスよ!」
「いやだいいやだい! 俺は寝取られを描くんだい! メイドさんも寝取られるんだい! 笑顔じゃなく、絶望を皆に届けたいんだい!」
「こんのクソガキがぁ……! なんて聞き分けのない……!」
お互いの主張がぶつかり合い、ヒートアップしていく俺達。
勿論折り合いなどつくはずもなく、このままどこまでも熱くなっていくかと思われた、その時だった。
「ご主人様、お嬢様」
「「へ?」」
気付けば先ほどのメイドさんが、俺達の席の前に立っていた。
「貴方たち、出禁で」
そして額に特大の青筋を立てながら、そう宣告してきたのだった。
◇ ◇ ◇
「ふざけるな! ふざけるな! この馬鹿野郎!!!」
家に帰った俺は怒りに満ちていた。
「せっかく寝取られを堪能していたのに出禁を食らうだなんて……理不尽だ、こんなのもう、メイドさんの寝取られものを描くしかない!」
出禁を食らった理由は明白だったが、感情が納得するはずもない。
「メイド喫茶も許せないが、なにより許せないのは担当さんだ! あのババア、いつも俺に文句言いやがって! 今日という今日は許せん! アンタを俺の寝取られ漫画のヒロインにしてやるぜ!」
生モノを描くのは主義じゃないが、今の俺は本気で怒っている。
怒りに任せて筆を執ったクリエイターは強いのだ。そのことを、俺が証明してやる!
「内容はメイド服を着た担当さんが俺をモデルにした主人公と付き合い、イチャイチャプレイ! 朝は裸ワイシャツで朝チュンし大いに盛り上がった後に、これまた俺そっくりな主人公の双子の弟に寝取らせてやるぜ! 俺の怒りを思い知るがいい!」
きっとこの後冷静になった俺は後悔からのたうち回り、この原稿を即座に破棄するだろうが、今はどうでもいいことだ。
とにかくこの怒りを吐き出さなければとても収まりそうにない。
「喰らえ担当さん! 俺の怒りを! そして知るがいい! |天地乖離す開闢のNTRを――――!」
「学。なに描いてるの?」
咆哮を上げながら筆を走らせる俺の後ろから、ひょっこり顔を覗かせた燐子が、俺の原稿をのぞき見る。
「――――」
瞬間、時が止まった。
いつの間に部屋に入ってきたのか知らないが、確かに止まった。
少なくとも、俺にはそう感じる。ちなみに描いていたページではモロに俺と担当さんモデルのキャラの絡みを描いていたところだった。最悪である。チビりそうだ。
「……あの」
「学。これなに」
フリーズから再起動し、なんとか弁明しようとした直後、被せるように燐子が聞いてくる。
「あの、聞いて欲しいんだ。これはだな」
「これ、明らかに学と担当さんだよね。学、担当さんのこと好きだったの? 駄目、それは駄目。それは禁断の恋ってやつ。知ってる? 未成年と大人の人が付き合ったら、大人の人が逮捕される。つまり世の中では犯罪扱いされる行為ということ。未成年淫行はよくない。なにより学は私のもの。他の誰にも渡さない。私が学の鞘になる」
肩にかけられた手に力が籠る。
痛い。めっちゃ痛い。肩が砕けそう。チビりそうだ。
「あの、燐子さん」
「なに?」
「……どうか、優しくしてください」
「それは保証出来ない。私は担当さんから学を寝取る」
ああ、これがチャラ男さんからの言葉であれば、どれほど嬉しかったことだろう。
「そうか。ああ――めっちゃ不安だ」
更にいえば凄く不満だ。
この世の理不尽を嘆きながら、俺は幼馴染に椅子から引き倒され、ベッドに連行されるのだった―――。
「……で、先生。弁明を聞きましょうか」
「その前に、どうか服を着させてください……」
「学。もうワイシャツを着ているから服は着てるよ?」
「……パンツだけは履かせてください……」
その後、朝チュンした俺達の部屋に担当が来て俺の描いた原稿を見たことによりさらなる修羅場が展開されることになったのは、また別の話である。
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