05.『器』の終焉[囚われの独白]
暗い話って書いていて『泣ける』のよね……
――――――
――――
――ここは……終わらない牢。
檻の外を見れば、また同じような鉄格子が並んでいる。奥まで見通せるのに、どこにも出口なんて見えない。
足音が聞こえる。鉄の擦る音だ。
(ぁぁ……まただ。あの『騎士』だ)
『深淵に呑まれた、ボロボロの鎧騎士』。何も喋らず、ただぐるぐると同じ道を歩いている。まるで、あれもこの牢の一部みたいに。
(ワタシは……どれくらい、ここにいるだろう……)
時間の感覚なんて、ずっと前に失くした。
お腹が減っても、満たされても、結局は死にかけたままだ。
――――クチャ、クチャ、クチャ……
この音は、ワタシの口元から漏れる。
また、『それ』――この『不気味なをもの』を食べてしまった。
何だったのか、よく分からない。多分、外――外周を牢と廊下に囲われた、中央の奈落から『這ってきたもの』なんだろう。
(『見た目は』、気にしない……美味しいなんて、思っちゃいけない……お腹を満たすため……)
――『あんたぁ~、まだ痩せてるねぇ! そんな腕じゃぁ、わたシの腕に不釣り合いだろぉぉ。ほらぁ、肉をちゃんとお食べぇぇ!!』
でないと、あの『深淵に染まった目』の老婆がやってくる。
にたにたと笑いながら、『あの肉』を……ワタシの口に、ねじ込んでくるのだ。
あれが何の肉か、『誰の肉』かなんて、もう考えたくないっ。
――――クチャ、クチャ、クチャ……
手の『もの』から、赤い血が滴り落ちる。内臓を避け、周りの肉だけを噛み切り、飲み込む。
――――クチャ、クチャ、…………
「―――う゛ぅ゛……っひぐぅ゛…………う゛う゛っ゛……」
自然と、涙がこぼれ落ちた。
そして思い出す、過去のこと――
――あの日、『暗い火の手』の中を逃げていた。
ワタシは生き残りの一族の中でも、幼く、最も臆病だった。大人に言われ、ただ走ることしかできなかった。
それでも、彼――同年代の少年が、ワタシの手を引いてくれた。『深淵の異形』が後ろから迫ってくるなか、不気味な森へと一緒に逃げ込んだのだ。
『走れ! 絶対に……生きるんだっ!』
その一言が、とても印象的だった……。
――『転移墓標』
それは『敗戦後』、『巡礼者』によって各地に設置されたという。
場所も、理由も、設置した者にしかわからない石盤。そして、今なお戦う者――『英雄』達が各地を巡るために使っているという。
それに触れたのは、偶然だった。ワタシたちは、どこかへ逃げようと走り、そして――この『館』に来てしまった。
あの『深淵に染まった老婆』に、捕まった。
『地下』には、何人か、同じように捕らえられた『人種』がいた。
でも、みんな、順番に連れていかれた。
最後に残ったのが、幼く、やせ細っていたワタシと、あの少年。
――そして……彼も、いなくなった。
その瞬間、世界から色が消えた気がした。
ワタシはもう、『誰かのために生きる理由』を失ったのだ……。
――その時、誰かの呼吸音が、すぐ隣の牢から聞こえた気がした。
(誰か、いるっ! ひとりじゃないっっ!!)
生き物だった死骸を投げ捨て、息を止めて耳を澄ます。……でも、次の瞬間には、それはただの隙間風の音だと気づく。
「っぁ……――――――」
壁にもたれて、崩れ落ちる。声にならない、『絶望』が押し寄せてきた。
(……ワタシは、もう……ダメかもしれない……)
(……死んだあと、ただの『肉の塊』として、切り刻まれるのかもしれない)
(でも……もう、いいや…………)
……暗いのは怖い。……痛いのは怖い。…………独りは、もっと怖い。
――『諦めるな!』
連れていかれる間際の、少年の言葉。勇敢な、言葉だった……。
「……ワタシには、むりです…………ごめんなさい。弱い子で、ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……――――」
繰り返される独白。ワタシの心はもう、『空っぽ』になっていた。
(……あぁ。心が、沈む)
熱も、鼓動も、言葉さえも、冷たい石床に零れ落ちてしまったよう。
(寒くない……苦しくない、よぉ…………)
――ただ、『寂しい』だけ。
誰も居ないこの牢に、最後の『命』が、静かに『抜けていく』。
――――リンッ
優しく澄んだ音が、冷たい牢に響いた気がした。
それと同時に、どこか『暖かいもの』が身体に入ってくる。
――けれど、生気のないこの瞳にはもう……なにも映らなかった……――
[――『転生者』の魂に合う器を確認。同調、定……………運………失……同調……に失…。再実…………――]
イメージ『希望の牢』
分かる人には分かる例え!




