04.『器』の終焉[幾多の慟哭]
恐らく、不快で残酷な表現で書いてると思いますのでご注意ください。
あと、『読みずらいですので』イライラしないでご覧ください……慣れてる人は大丈夫かも。
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――熱い。『左肩』が、焼けるように痛む。
その灼熱が、眠っていた意識を無理やり浮上させる。
(……暗い……何も、見えない)
頭に『被せられた布』の中は、外の光を遮った完全な闇。だが、音だけが鮮明に――嫌に鮮明に聞こえる。ジュウジュウと肉の焼ける音。何かが、裂ける音。
そして……甲高く粘ついた、老いた女の声――
「――ま……死ん……まったら、新……な悲鳴がぁ聞けないじゃないさねッ! さっきまでの威勢はどうしたよぉ、クソガキッッ!」
――――っダンッッ!!
下半身からの衝撃とともに、意識が完全に浮上する。
そして、すぐに襲ってきたのは『左膝』からの激痛――いや、それ以上の『灼熱』だった。
直後、焼けた金属板を足の傷口――切断面に押し付けられているのだと、鈍い感覚が教えてくれる。
「ヴぅーーーーーーーー~~~~ん!!!」
跳ね起きようとしても、無理だった。
四肢は革製の拘束具で寝台に縛り付けられ、首には喉を締め上げるようにベルトが食い込んでいるようだった。息も、声も、動くことされ許されない。自由がない。
「ゔぅー……っ、ぐぅ、ヴぅぅ~~……!!」
呻くように唸っても、ただのくぐもった濁音にしかならない。布を被せられているせいで、何も見えない。
けれど、感覚はむしろ研ぎ澄まされていく――左足の『膝から下』が、もう存在していないのだと。
「――んひっ!? けひっ、ひっひひひぃ――おきたぁぁ!! 『まぁた』甦ったよぉこのガキィ!! 『変異種』はタフだからねぇ、『不死の指輪』と相性がいいよぉぉ!! ひひっひひひぃぃ、もっと鳴とくれよぉガキィィ……!!』
(『変異種?』、『不死の』……『指輪?』……何を……言っているんだ? ……オレは、もう何度も死を迎えたのか?)
(なにも……覚えてない……なんでここにいるんだ!? オレは……っ!??)
「あぁ~? そうか、また忘れっちまったのかいぃ、可哀想にねぇぇ~!……でもぉどうせまた忘れるんだ、お前はぁ、ただ鳴いてればぁ、いいんだよぉぉ、イヒッ! ひっひひひひ……っ!! 足の肉は綺麗に削いでおいてあげるからねェ~~!!」
愉快そうに嗤う老婆の声に、背筋が凍る。
――その時、『ズキリッ』と走る幻痛。
いや、違う。最初に感じた熱は『左肩』だった。
(なら……左肩も、もう……っ!!?)
「んふっ、んひっひっひぃ……? わたシが、食べたと思ってるのかぁい? まっさかぁ!『左腕は食べちゃいない』よぉ? そんなもったいないこと、するもんかぁ……」
その声が、耳ともで囁かれる。ゾっとするほど愉しそうに。
「ほらぁ、聞きなぁよ……『お前の左腕』はねぇ……いまじゃ、わたシの腕に『繋がって』動くんだよォ……! あぁ、感触が……あんたの絶望が、染み込んでくるよぉぉ……ふふ、くふふふひっひひひ……っ!!」
コキッコキッ、という骨の鳴る音が、耳の直ぐそばでした。
ぞわりと全身の皮膚が総毛立つ。
(なにを言って……いや、違う)
(この婆は、本当に『オレの左腕』を、自分に移植したのか……!?)
「ひひひ……『この左腕』がねぇぇ……欲しかったのさぁ……ガキの腕で小さかったけど、もう馴染んだよぉぉ……!! 若い左腕はぁ、腐りにくいし、なめらかに動くんだよぉぉ~!!!」
(なにが……なめらかだ)
(なんだ……このイカれた婆は……)
「……わたシの『左腕』…………切り落とされた、『左腕ェ』!! 付けてもツけても、スグ腐る!! わたシだけの『左腕』はぁ! どこダイ!! 『左』、『左っ』、『ヒダリッ』……!? 『左足』を喰って、生えてこない!!? 『左メっ』、『ひだリ耳』、『左のハい』、『心臓ォッッ』!!? どれを喰っテも、モドってこナイィィッ!!!」
――――ッザシュ、ザシュザシュッザシュッッ……!!!
狂ってる。完全に――いや、『狂気の理屈』すら、ここでは『法』のように響いていた。
激情を吐露するたびに、冷たい凶器で、オレの体のいたるところ何度も刺してくる。
「ゔグッ!? ヴっ!! ゔぅッ! ゔっ! グふっ!!――」
視界のない暗闇の中、何度も、なんども、ナンドも、なンども、ナンども――狂気が体を刻み続ける。
「――あぁ? ひひひぃ~! あぁ~またヤっちまったのかい、わたシゃぁ~!……でもぉ、反応が鈍かったからぁ丁度よかったかねぇひっひっひ!! 次はぁ、『左の耳と肺』を取ってあげるからぁ、ちゃんと甦るんだよぉぉ!! ふふふっひひひひひ…………――!!」
老婆が、ここから離れていく気配。
しかし、オレの感覚は、意識は……急速に薄れていく。
(イタい、くるしい……のどに、血がたまって、イキが…………)
――その時、胸の奥、心臓のさらに奥から、なにかが、抜けるような感覚。
意識が完全に落ちる。音も、痛みも、狂気すら忘れて……。
――リンっ
死へと沈む直前、聞いたことのない澄んだ音と一緒に、『見たことのない何か』が、光の消えかけた視界に浮かび上がっていた……――
[――『転生者』の魂に合う器を確認。同調、定着さ……不測の…態に…調、定着……程に…不備が…生じ、失敗……た。再実………一部…敗……。再………――]
ご苦労様でした。『狂気』を表現できてたかな?