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0195・牢の中のエルフ




 ミクが【陽炎の身体強化】を使った事で、慌てて他の所に居た兵士が雪崩れ込んできた。既に身体強化は使っていないので、誰もプレッシャーは受けていない。



 「いったい何だ!? 何が起きた!!」


 「兵士が犯罪者に金で買われただけ。場合によっては第三王女や王太子に報告するけど……自分達で解決するか、王族に報告されるか。どちらか好きに選んでいいよ」


 「「「「「は?」」」」」」


 「そこの兵士がこいつらに金を掴まされて、こいつらがわたし達を犯そうとするのを手助けしたわけ。で、それを王族に報告されると、あんた達の首がどうなるか分からないって話をしてるの」



 それを聞いた兵士達は、倒れている兵士を詰問きつもん。心が折れていたのか簡単に白状した為、犯罪者どもも含めて牢にブチ込む事に。バカがバカな事をしたで終わる話なのだが、ああいう連中は居なくならないものである。


 だからこそミクが喰える肉が無くならない訳だが……詰め所から解放された怪物は渋い顔をしながら歩いている。理由は奴等を喰う訳にはいかないからだ。もちろん絶対に食べられない訳ではない。


 それでも取調べが終わるまで食べる訳にもいかないのだ。仮に奴等が脱獄、ないしは金でも掴ませて牢を出たなら問答無用で喰えるのだが……。



 「いきなり消えたら怪しまれるでしょうね。脱獄したと思われるでしょうけど、それでも牢の中に居るのが急に消えると……あれ? 少し前に捕まったエルフはどうするの?」


 「あいつらの取調べは終わってるっぽいから、今日の夜に食べてくるけど?」


 「あっ、そう……」



 それ以上アレッサが何かを言う事は無く、食堂に着いた2人は注文する。大銅貨6枚を支払って席に着いた2人は、適当な雑談で時間を潰しつつ料理を待つ。


 運ばれてきた料理をさっさと食べ、終わったらすぐに宿へ。ベッドに寝転ぶアレッサを綺麗にしてから戻し、部屋の中に【浄滅】を使ったらミクもベッドに寝転ぶ。そのまま瞑想の練習を始めるのだった。



 ◆◆◆



 深夜。起き上がったミクは、本体空間にアレッサとレティーとアイテムバッグを転送し、蜘蛛の姿で窓から外に出る。そのまま兵士の宿舎の隣にある牢まで行き、中に入れられているエルフの様子を窺う。


 鉄格子の窓から確認しているのだが、どうやら碌に食べていないらしく憔悴しょうすいしているらしい。さっさと中に入って本体空間に送り、次のエルフの牢へと向かう。


 そんな事を繰り返していると誰かが牢にやって来た。なので廊下の方に出て確認するミク。透明トカゲの能力を使っているので、人間種に見つかる事は無いだろう。関わりも最小限にしている。


 いったい何故こんな時間に来るんだと思っていると、やってきた者は牢を開け始めた。その開けている牢を確認すると、詰め所で下らない事をしていた犯罪者だった。



 「適当に犯罪を犯して捕まり、その間に暗殺。それが我らの仕事だが、それにしても迂遠うえんな方法だな? そうしなければ逃げられんから仕方ないが、面倒な事だ」


 「無駄口を叩くな。我等の置かれている立場は今までと違う。どうやら変装用のネックレスが明るみに出たようだ。今は腕輪型や足輪型がバレていないが、これがバレたら我等の工作は極めて難しくなる」


 「いったい誰だ? バレるような下らない事をした奴は。頭が悪いにも程があるぞ。バレるくらいなら、外してから見つかるべきだろうが。何故、徹底されていない?」


 「王族専用屋敷の奴が見つかったのだ。逃げる暇も無く捕らえられ、更にはネックレスの事まで明るみに出た。こうなった以上、いずれ貴族の中に入り込んでいる奴等もバレる。それに逃げた奴も出た」


 「何と情けない、それがエルフのやる事か。今までに作り出した人脈なり何なりを利用するならまだしも、尻尾を巻いて逃げ出すとは愚かに過ぎる。そいつはもうエルフではないな。同胞とは認めん」


 「逃げたのは侯爵家を乗っ取った奴だ。流石に第三王女の暗殺がバレたのでな、逃げるしかなかったのだろう。あのままでは軍に攻められて、様々なモノが明るみに出かねん。そうなる前に逃げるのは普通の事だ」


 「チッ、そういう事か。おっと、こんな所で話している場合ではないな。城内の警備が厳しそうだが、我等のやるべき事は変わらん。王族を暗殺して混乱に陥れる。唯でさえ本国は混乱しておるのだ、このままではマズい」


 「何かあったのか?」


 「分からん。陛下が忽然こつぜんと消えたらしい。そして闇のあの方も、その日を境に居なくなられたそうだ。そして闇の方の話を元に、陛下は<鮮血の女王>を狙ったと聞く。おそらくは……」


 「失敗して<鮮血の女王>に殺されたか。陛下はともかく闇の方まで殺され、いや滅ぼされるとはな。ある意味で良い事ではあるのだが、我が国は<鮮血の女王>に睨まれているという訳か」


 「そうだ。最悪は揉めている王子や王女方の争いに介入される恐れがある。本国がその状態である以上、こちらも相応に混乱してくれねば困るのだ。さて、我々は行くから誤魔化しは頼むぞ」


 「分かってい、うっ!?」



 そろそろ聞いていても仕方ないと思ったミクは、天井から麻痺毒を散布し、牢を開けた兵士含めて一気に麻痺させる。他の牢の者達も開けて全員出していたのだが、纏めて全て一網打尽にした。


 すぐに本体空間へと転送し、残っていたエルフも全て本体空間へと呑み込んだ。後はレティーが脳を喰って、本体が残った肉を貪るだけだ。


 ミクは蜘蛛の姿からピーバードの姿になると、一気にダンジョンまで飛んでいきオークの姿に変わる。そのまま第6エリアへと踏み込み、ピーバードの姿になるとウロウロと飛ぶ。



 (もしかしたら第6エリアにも隠されている何かがあるかもしれないしね。こんなタイミングでもないと探す気にもならないし、適当に階段の位置を確認しつつ見回ろう)



 元々のミクの目的は骨と糞を捨てる事にあったのだが、それだけでは何なので見回っているのが正しいところだ。1階、2階、3階と見回っていると、レティーが脳の記憶の精査を終えたらしく話し始めた。



 『あの者達はエルフィン本国の者で、どうも裏部隊の者達だったようです。派遣したのは裏の取り纏めを行っている伯爵で、王太子の側近ですね。ただし記憶の限りでは、独断の可能性が高いと思われます』


 『ふむ。王太子の手柄にする為……ではないな。公式にジャンダルコの王族を暗殺したなど醜聞にしかならん。裏での手柄と言ったところで、次の王が手を汚したなど諸外国からのいい笑い者だ。流石にそれが分からん訳ではあるまい』


 『エルフィン内でのみなら評価されるでしょうが、他国に知られれば碌な事になりませんね。力を示すという意味でも、醜聞はむしろ力を落とす事にしかなりませんし……何を考えているのでしょうか?』


 『己の力を誇示する、または裏部隊の力を誇示する為か? 次の王に冷遇されては堪らんだろうからな。先手を打ってのアピールなら分からんでもない』


 『他の者達の記憶も殆ど変わりませんし、牢を開けた兵士は単に潜入任務を行っていただけです。後、言っていた通りに腕輪型と足輪型があるのは間違い無いですね』


 『どのみち一定以上小さく出来ないなら、見つける事は容易いだろう。わざわざ私が介入する必要も無いな』


 『それと食堂で毒を盛ってきた連中ですが、主達が第三王女と一緒のところを見たから毒殺しようとしたようですね。邪魔だと思ったようで……』


 『愚かな事を。短絡的に毒殺などしてどうするというのだ。本当にエルフという生き物は愚かで救いようが無いな。だからこそ私が喰らうのだが』



 各集団というか、しっかりした組織的な動きを感じず、命令系統がバラバラなのかと思うくらい好き勝手に動いている。そんな印象をエルフに持つ本体であった。


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