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0156・ハチミツと魔剣の話




 「あの、姫様。ここがゴールダームだという事は分かりました、そして私が呪われていておかしくなっていたというのも事実なのでしょう。しかし、エクスダート鋼を手に入れるという事と公務は……」


 「……ああ! 記憶が無いから分からないのですね。既に公務は終え、エクスダート鋼の材料も揃ったので本日製作されているそうです。明日受け取ったら本国へと戻りますよ」


 「ハッ! ……私は呪われていた間、いったい何をしていたのでしょうか?」


 「何だか癇癪を起こした子供みたいに喚いていたわよ。王女が注意しても聞く耳もたず、それどころか睨むような有様だったわ。まあ、呪われていたのなら致し方ないでしょうね、呪いとはそういうものだし」


 「………何という事だ」



 イヴィエルテは頭を抱えてうめいてしまう。仕方ないと思って諦めるしかないのだが、簡単に割り切れる性格はしていない。その分だけ信頼できるとも言えるので、上に立つ者としては痛し痒しというところだろうか。


 そんな王女の微妙な心境をおもんばかったのか、オルティマが明日の予定を話す。



 「明日は馬車で本国に戻る予定ですので、今日のうちに探索者ギルドで手続きをしておきたいと思っています。何か外せない予定はありますか?」


 「いや、無いよ。第6エリアの攻略中だし、特に急いでもいないしね。ハチミツが大量で困ってるくらいかな? トレント材が足りないから、また補充しておかなきゃいけないけど、それは夜だし」


 「ハチミツ……ですか?」


 「そう………これ」



 ミクはハチミツの入った樽を取り出すと、木のスプーンを取り出して掬って渡す。何事もなく受け取った3人は、警戒もせずに口へと運ぶ。


 口に入れても味を感じない事を奇妙に思っていると、急に甘味が口の中で爆発。唾液が止まらなくなるが、その唾液をもってしても甘味の洪水になるだけであった。



 「「「うびゅふぇぶ!?!!?」」」


 「凄い声が出たわね。吐き出すのだけは必死に我慢してるんでしょうけど、駄目ならコップに吐き出しちゃいなさい。そのハチミツは異様に甘いのよ。薄めないとまともに使えないレベルでね」



 あまりにアレな光景なので「見せられないよ!」という感じだが、コップの中に吐き出して楽になったのか、ようやく落ち着いたようだ。それにしても唯の糖ではここまでの甘さは出ない筈である。


 あの花の蜜は特殊な甘さの糖なのだろうか? だとすればきっとファンタジー物質で出来ているのであろう。



 「………ゴクッ! ふぅ、お水ありがとうございます。ようやく落ち着きました。確かに甘いハチミツではありましたが、あれ程の甘さのハチミツが存在するなんて……」


 「甘いという状態を超えていたように思います。それ、凄く息が花の香りになっていますね。とても良い香りですが、この香りを得る為に甘味地獄に落ちるのは流石に……」


 「甘い物は嫌いではありませんし、貴重な物でもありますが……限度というものがあると思います。あのハチミツは間違いなく限度を超えており、甘さが異常なほど強い。本当にハチミツなのか疑うくらいですよ」


 「本当にハチミツだよ、ただしダンジョンの第6エリアで採れたハチミツだけど」


 「それでも水で薄めたりすれば十分に使えるし、食べられそうなのよね。水分が異様に少ないのと、甘さが濃いから際立ってるだけでしょう。ちょうど良い状態まで薄めれば、むしろ普通のハチミツより美味しいんじゃないかしらね」


 「あれを食べられるイリュの言葉は信用できないんだよね。どうしてあのハチミツを口に入れて普通で居られるのか、あたしは不思議でしょうがない。味覚が無いんじゃないかと思ったよ」


 「失礼ね。味覚が無いなんて事が、ある訳ないでしょうが。確かに甘いけど、あんた達が言う程には甘くないというか、耐えられない程じゃないだけよ」


 「あれを耐えられるという時点で、私には化け物か勇者か、どちらかにしか思えないわ。もしくは英雄かしら? どれにしても、普通の人間種が耐えられる物じゃないわよ、現に王女達でも駄目だったのだし」


 「大丈夫だったのはミクとイリュだけだから、怪物と女王しか平気な者は居ないって事。どっちにしてもアレな人物しか耐えられないね」


 「言うほどかな?」


 「そうよねえ?」


 「「「「「「………」」」」」」



 この場の者は色々言いたい事も多いものの、グッと堪えて話を変えた。怪物と元女王に何かを言っても意味は無い。どっちも規格外の存在なのだから言っても無駄である。



 「食事も終わってるし、そろそろ探索者ギルドヘ行こうか。場合によっては魔剣の話もしなきゃいけないし、その場合は時間が掛かるだろうしね」


 「「「「魔剣!?」」」」


 「ああ、第6エリアを攻略中に魔剣を見つけたんだよ。見つけたのはミクなんだけど、ミクは剣が好きじゃないから要らないって言って、アレッサも脆いから要らないってさ。で、あたしとカルティクが貰ったよ」


 「いいの?」


 「いいも何も、私が持っても使わずにアイテムバッグの中だよ? そのうえ出す事も無いだろうしね。火と冷気だったから自分で魔法を使えば済むし、わざわざ魔剣を持つ理由が無い」


 「私は叩きつければいい方が楽だし、魔法が必要ならミクが何とかしてくれるしね。わざわざ魔剣を使って戦うの面倒臭い」


 「いや、まあ、言いたい事は分かるけど……いや、この2人に魔剣を持たせるのは無駄か。活用しないで死蔵させるくらいなら、ちゃんと使う2人に持たせた方が良いわね」


 「使わない道具なんて無駄でしかないからね、それなら使う者に渡した方がマシだよ」


 「それを自分であっさり言うのも、どうなのかしらねー。っと、こんな話をしていても時間を無駄にするだけよ。まずはギルドに行って手続きをしてきなさい」



 そのイリュの一言で席を立ち、宿を出発する一行。どうやら王女も徒歩で来たらしいが、いったい何故であろうか?。



 「ここゴールダームならまだしも、祖国では馬車に乗って町に出たりなどしません。オアシスとはいえ砂が飛び交います。馬車で移動していると、車輪に砂が絡んで動かなくなる事がありますから……」


 「その度に馬車を止めて砂を排除、という事を繰り返す事になり、全く進めないという事も……。そういった事もあり、王都ブランでは王族の方とて徒歩で動かれるのです」


 「その事に慣れていらっしゃるので、ジャンダルコの王族の方々はあまり馬車がお好きではないのだ。箱の中に閉じ込められている気分になられるのだろう」


 「まあ、分からなくはないわね。私達も乗る事になるんだろうけど、走った方が早いし楽そう。護衛にならないから出来ないけど」


 「護衛だから当然一緒にいなきゃいけないんだけど、私達は徒歩でも問題ない気はするけどね。だいたい馬車って遅いし」


 「それでも徒歩よりは速いですよ。早歩きぐらいの速度ですし、それを続ける事は出来ないでしょう」


 「………私達いっつもダンジョン内を早歩きで進んでるんだけど? 体力的には問題ないし、歩き回るのも普通に出来るというかやってるし……ねえ?」


 「だね。私達が乗るとその分だけ重くなるし、馬の疲労を考えても徒歩の方が良いと思う。っと、着いたね」


 「私達は魔剣の説明ぐらいだから、終わったらいつもの第3エリアかな。今日はもう第6エリアはお腹いっぱい」


 「あたしもさ。あそこ殺意が高いから、ずっと居続けるのは無理だよ。疲れる」



 特に森は上下から攻撃されるからだろう。上にも下にも警戒し続けるのは大変である。


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