0134・第5エリアのボス前まで
「まあ、それで胴体に攻撃を受けたら半分切り裂かれても不思議じゃないね。それでも相当の一撃だとは思うけど、流石に輪切りには出来なかったかい」
「輪切りにするには流石に刃の大きさが足りないわよ。2度に分ければ輪切りにも出来るけど、わざわざする必要が無いじゃない。半裂きにすれば臓物ブチ撒けて死ぬんだし、それ以上にするなんていう無駄行動をする訳ないしね」
「まあ、いろんな意味で無駄よね。1度の攻撃で倒せるんだから、それ以上をする理由も意味も無い。素早く次の敵を殺す。それが戦闘では最良の行動よ」
「戦場でも変わらないね。新兵ぐらいじゃないかい? 敵に過剰に攻撃するのは。敵が死んだか分からず、何度も何度も死体に攻撃する。新兵にはよくある行動だし、大体は治まるまでやらせるよ」
「治まるまで?」
「そうさ、無理矢理に止めたって意味は無いんだ。自分のやった事を自覚させるには、自分でクールダウンさせる必要があるんだよ。それで初めて冷静に周りを見渡せるようになる。誰かが止めてくれる事に慣れさせちゃいけない」
「ああ、そういう意味ね。確かに自分で止まれるように、自分で冷静になれるようにしないと、兵士としては使えない兵になってしまう。そういう意味だと、止めない方が良い結果になるか」
「探索者だって似たようなものだと思うけどね。過剰に攻撃しちまった、やりすぎて皮が駄目になったとか。そういう失敗を経て一人前になっていくんだし、自分で立ち止まって、儲ける為にはどうするかを学ぶんだ」
「中にはずーっと適当な奴とかもいるけど、大抵は儲からない事を考え始めるからね。少しでも高く売る為にはどうしたらいいかとか。そこを考えられるようになったら初心者卒業かしら」
「誰にでもある……訳じゃないけど、殆どの奴にはある事さ。どうしても高く売れなくて、無駄にお金が掛かり、いつまで経ってもギリギリの生活。そんな奴も居ない訳じゃないけどねえ……」
「そういうのの多くは無駄にお金使ってたり、高く売れない倒し方とかしてるものね。そんな状況なら、いつまで経っても儲からないでしょうよ。新人を見ていて思うけど、口に出す事はしないわ」
「そりゃねえ。一度口を出したら最後、色んな奴が集ってくるよ? 絶対に面倒臭い事にしかならないさ。というか<影刃>なら過去に一度はやらかしてる気がするけど?」
「そうよ。だからこそ2度とその失敗をする気は無いわ。色んな連中が集まってきて面倒な事になったし、上手くいかないとすぐ私に当たってくるのよ。それで教えるのは止めたわ」
「人の話を聞かない奴ほど五月蝿いんだよ、それは軍でも変わらない事だった。何処にでもそういう奴はいるけど、ああいうのは相手にしないに限る。相手をしたって何も良い事は無いからね」
「おっと、9階への階段までやっと来れたわね。後1階分の道で終わりよ。ここまで来れてるんだから、【身体強化】で一気に進む? 殿はミクとアレッサに任せればいいでしょ」
「私達に任せてもらって問題無いよ。どうせボス部屋前で長く休むんだし、その間に食べれば十分回復できるでしょう。ついでに疲労も凄そうだけど、これは仕方ないね。ダラダラするよりはマシだと思う」
<竜の牙>と<鮮烈の色>も覚悟を決めたらしく、一気に【身体強化】で進む事になった。ちなみにアレッサだが、普通にミクから食べ物をもらって食べているうえ、普通の者の【身体強化】よりも消費量が低い。
理由はミクの血肉であり、コレの御蔭で肉体の強化と共に【身体強化】時の栄養消費と疲労が軽減されている。色々な意味で怖ろしい肉塊だが、原初の肉を神々が作っている以上は当然の事なのであろう。
今は肉を喰らい自分で増やしているが、最初の肉、つまり始まりの肉は<根源の神>が創りだしたものだ。色々な者に対して使えている事を考えるに、万能細胞か何かなのだろうと思われる。
そんな細胞の塊は、アレッサと共に一番後ろで暢気に魔物の血抜きを行っている最中だ。アレッサが倒した魔物を触手で持ち運び、その獲物の血抜きをレティーにさせつつ収納していく。
そんなバケモノが走っている前では、【身体強化】もせずに走っているアレッサがウォーアックスを振り回し、出てきた魔物を叩き殺している。それを触手で運んでいるのがミクだ。
妙な連携をしている2人は、【身体強化】をしている<竜の牙>と<鮮烈の色>の面々に離される事なくついていき、10階のボス部屋前まで辿り着いた。
「着いた瞬間、疲労困憊で倒れるなんて情けないねえ。私は肉体が違うけど、それでも長距離を歩く訓練ぐらいはしなよ。まあ、山の地形であるここは特に厳しいけどさ」
「「「「「「「「「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………」」」」」」」」」
「完全に駄目ね。これは復帰するのに当分待たなきゃいけないわ。私達はゆっくりしていましょうか。ミク達はどうする?」
「どうしようか? 解体して必要な素材だけ残して狩りに行く? 待つの暇だし、アレッサのランクの事を考えても多い方がいいでしょ」
「そうだね、狩りに行こうか? 別に疲れても無いし。ミクが持ってる美味しくない保存食は食べたけど、でもそれで大丈夫って事は、やっぱり栄養? っていうのが多いって分かる」
ミクは血抜きだけした獲物を取り出し、触手を使って解体。素材だけをアイテムバッグに仕舞い、残りはレティーとドンナに渡す。乾涸びたミイラみたいな死体はアイテムバッグへ。後で9階に捨てるからだ。
今まで倒した獲物の素材を剥ぎ取ったら、ミクとアレッサは9階へと戻る。そしてゴミを捨てつつ、新たなマッスルベアーとスチールディアーを探して歩くのだった。
「今日の朝から第4エリアを攻略してきてるのに、あれほど体力があり余ってるなんて……。流石はミクとアレッサというしかないよ。アタシ達はアタシ達のペースでと思うも、カルティクさんは大丈夫だし……」
「本当にな。オレ達もそうだが、歩くとかの基本からしっかりやり直さなきゃいけない。じゃねえと、この先もっと大変になるのは間違いねえ。ここら辺りからはきっと、腕っ節だけじゃ通用しねえんだろうなあ」
「だから今まで誰も突破できなかったのかもね。専用の道具とか装備とか、後は水筒とか食料とか。キッチリ用意して対処しないと突破できない。そういう場所になっていくんだろう」
「規格外の力が無くても、攻略出来るっていう指針にならなくちゃいけないし、そういう攻略法を見つけなきゃいけない立場なんだよねえ。見えないトカゲみたいな奴って聞いてるけど、大丈夫かな?」
「ウェルドーザは聞いた事ある? 見えないトカゲの魔物」
「何処かで聞いたような、聞いてないような……そんな感じかしら。何と言うか、頭の隅に微妙に引っ掛かる感じがあるのよねえ」
「そういう事あるね。何かが引っ掛かってるんだけど、何が引っ掛かってるのかは分からないってヤツ。思い出せると良いんだけど……」
「もりのトカゲ。すがたなき、あんさつしゃ。おそれられてる」
「えっ? バッズ、急になに?」
「すがたなき、あんさつしゃ。ふるいじだいのはなしにある。もりのおくにわけいったもの、とつぜんふきとばされてしぬ。えるふぃんのちかくのもり」
「あ、ああ!! あの伝承!! バッズさん、よく知ってるわねえ。エルフに伝わる伝承にあるのよ。森の奥深くには近寄るな、姿無き暗殺者に殺される。そういう伝承がね。唯の御伽噺というか、単に子供を森の奥に行かせない為の話だと思ってたけど……」
「どうやら違う可能性があるみたい。でも昔の伝承って、そういうの多いよね?」
思い出せたのは良いが、ボス戦には役に立たない情報だったようだ。




