0132・竜の牙に武具を渡す
「おっと、そういえば<竜の牙>に渡すのを忘れてたね。単に会わなかったというか、アレッサの事を優先してたからだけど。…………思ってるより量が多いものの、これで全部だよ」
ミクはテーブルの上に、グレートソード、素槍、ショートソードとダガー、片手斧2本、大型のメイスとタワーシールドを出した。すると<竜の牙>の面々は待ってましたと言わんばかりに手に取る。
「おぉー!! こりゃ凄い! 尋常じゃねえぜ、これは! ……こいつがあれば、明日の第5エリアの突破は確実だなぁ!」
「凄いねえ、この槍は。……うんうん、良い重量バランスで実に私好みだよ! 本当にこいつは素晴らしい!」
「……これアレだね。ショートソードの切れ味もさる事ながら、ダガーの防御力が高そう。この分厚い刃はワイバーン素材なんだし、相当の攻撃でも綺麗に捌けるよ」
「うん! これ投げやすいし、叩き付けやすい。良いバランスだし、コンパクトでもある。このちょうど良いバランスの片手斧ってなかなか無いのよねえ」
「このたてつよい! このメイスもつよい! おれ、もっとかつやくできる!」
5人それぞれが喜んでおり、作った側としてミクも嬉しそうである。
<竜の牙>の面々からは大銀貨5枚と小金貨7枚を支払われ、これで売買は完了。何故かイリュとラーディオンが羨ましそうな顔で見ているが……。
「いや、ワシも備えの武器を持っておって悪い訳では無いし、そこまでの武器でなくても携帯しておきたいと思ってな。特にワイバーン素材なら、何かあった時も安心して使える」
「私も欲しいのよねえ。久しぶりに見た武器は手入れしてなかった所為で駄目になってたし、前はミクのを借りたけど、やっぱり自分の物は持っておきたいし……」
「別に良いんだけど、何を使うかはそっちで決めてよ。何か適当に良さ気なヤツとか言われても困るからさ。だから決まったら言ってね」
「私はもうちょっと長めのヤツかな? カルティクが持ってる合口、あれよりもうちょっと長めのヤツ。ショートソードよりちょっと短め? いや、同じくらいでもいいかな? ただ、緩やかに湾曲したのが良いわね」
「ワシは大型の鉈だ。探索者をやっとる頃からの武器でな、鉈は普通の剣より安いし頑丈なんで長く愛用していた。いつからか大型を特注で作ってもらうようになって、ワシといえば鉈というぐらい知られるようなったのだ」
「なら脇差か小太刀、どっちかと大型の鉈ね。とりあえず作り始めたから、明日の朝には渡せるよ。イリュに渡しておくから明日ここに取りに来て」
「了解だ。ワシも久々に暴れられるかもしれんが、ま、そんな事は無い方が良いので期待はせんでおこうか」
「それと、私達は明日第4エリアからだから、シャルとカルティクと<竜の牙>に<鮮烈の色>は第5エリアの攻略を朝からお願い。私とアレッサの体力は多いからね。【身体強化】で走れば簡単に追いつける」
「そりゃそうでしょう。最強の怪物に元ヴァンパイア・ロード。どう考えても私達の方が先に攻略開始しなきゃいけないじゃない」
「「「「「「「「「「ヴァンパイア・ロード!?」」」」」」」」」」
「ちょっと待て! そんな事は聞いておらんぞ! いったいどういう事だ!?」
「アレッサはエルフィン樹王国の農村の生まれで、500年ぐらい前にヴァンパイア・ロードに襲われて眷属にされたの」
「その後はクソヴァンパイアに連れられて色々な所を放浪したわね、他にも眷属はいたけど。ただ、襲われて滅ぼされたり、強力な魔物に食い荒らされたりで滅んでいったわ。そして最後に残ったのがわたし」
「残ったアレッサはヴァンパイア・ロードの呪縛によって、自分を眷属にした主を復活させようと、エルフィンの闇ギルド<黒の墓石>に近付いた」
「わたしは<黒の墓石>のトップがリッチだと知っていたから近付き、あのクソヴァンパイアを復活させようとしていた。でも、あのリッチはわたしの心臓を奪って使い、伝説の<ノーライフキング>に進化したのよ」
「<ノーライフキング>…………って、おい!!」
「その<ノーライフキング>は、一撃でミクに滅ぼされたからどうでもいい」
「お、おう…………そっか」
「で、滅びかけていたわたしに血肉を与えて復活させてくれたの。代わりに<隷属の紋章>を刻まれてるけど、有って無いようなものなのよね。だって、殆ど縛られてないし。むしろ奴隷系が効かないとか、【真偽判定】が効かないとか有利な方しかない」
「更に言えば、私の血肉の所為で既にアレッサはアンデッドじゃなくなってる。【浄化魔法】が効かないし、お腹も空けば普通に夜も寝てる。つまりヴァンパイアから生者に変わった」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「まあ、驚くわよね。アンデッドが生者に変わってるんだし。変わらないのは不老ぐらい?」
「あたしはワイバーンの肉を使ってるから随分と変わったけど、アレッサは心臓を補完されただけだから見た目とかも変わってないんだろ?」
「ヴァンパイアじゃなくなったから髪色は元に戻ったよ。それとミクの血肉の御蔭で、ヴァンパイア時代よりも怪力になったね。だからウォーアックスも振り回せるし」
「その小さな体でウォーアックスを振り回すのかよ……」
「ウォーアックスというかポールアックスというか、それともウォーハンマーというか……」
「あん?」
「槌頭が片方で、もう片方が斧刃なのよ。そして長柄。それを肩に担いで振り回す感じね、別に担がなくても振り回せるみたいだけど、膝と背筋と回転を足して叩きつけるんですって。ヴァンパイア以上のパワーで」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
呆れた目線を送られたアレッサはどこ吹く風と食事をとっている。「ミクといい、この2人は本当に好い根性してるよ」とシャルは思っているが、そのシャルを見たカルティクは「貴女も同じでしょうが<雪原の餓狼>」と思っている。
誰しも自分自身の事はなかなか分からないと言うが、それは本当の事らしい。
「もう一度言うけど、シャル達は明日の朝一から第5エリアの攻略を開始してね。私達が追いつくだろうし、第5エリアの5階以降って登り下りさせられるのよ。だからそっちは朝から攻略して、先に着いたら休憩してて」
「了解、了解。確かにあたしは体が体だから体力はあるけど、後は普通の連中ばっかりだから、そっちをメインに考えないと駄目だね」
「第5エリアって起伏が物凄く激しいのよね。5階までなら真っ直ぐ進めば済むんだけど、それ以降は登り下りかー……。ますます1回だけにしてほしいわね。途中で帰る事になって2度3度はキツいわ」
「だな。オレ達も迂闊に先へと進もうとはしなかったが、それはあの山の厳しさもある。もちろんマッスルベアーとスチールディアーで稼げるのは事実だが、あの山の地形を突破する自信が無かったんだよな」
「仕方ないでしょ。真っ直ぐ移動だけならまだしも、上下に移動するとなれば、何処から襲われるか分かんないんだしさ」
「いきなり、はさみうちをうけるかもしれない。それ、きけんすぎる」
「本当にね。攻略するのと、素材を集めるのでは意味が変わってくる。あそこは攻略となると、途端に凶悪な地形が牙を剥く」
<竜の牙>が攻略に本気にならなかったのには、それだけの理由があるらしい。そんな理由をミクは蹴散らしていったのだが、その御蔭で地図ができたとも言える。
唯その地図を持ってしても、起伏の激しい山の地形の攻略は難しい。




