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クロノが器用に皿の上のキノコをよけていると、エイトが「そうだ」と口を
開いた。
「春になったら引っ越すぞ」
「…………は?」
唐突に、自然に言われたその言葉にクロノの頭は追いつかなかった。
固まるクロノを気にした風もなくエイトは続ける。
「すぐ隣の国の南にある、小さな町のはずれに土地を持ってるんだ。小さい森みたいなのだけどな。小屋があるからしばらくはそこに住みつつ、新しい家を建てるつもりだ。ここよりは町に近いし便利にはなると思うぞ」
「え、まって。ちょっとストップ」
「何だ?」
しれっとしているエイトに、頭がパンクしそうなクロノは若干の殺意すら持った。
「何だ?じゃないから!引っ越すって別の国に!?てゆうか何でそんなところに土地持ってるわけ!?そもそもいきなりすぎだし!」
「あー、いきなりなのは悪かった」
「誠意を感じない!」
悪びれもしないエイトに怒りを越えて呆れたクロノは大きく溜息を吐く。
「ちゃんと説明してよ?」
「わかってるって」
エイトは食事の手を止めると、居住まいを正して話の続きを待つクロノに促されるように口を開いた。
「まずは何だ……俺があっちに土地を持ってるのは、俺が元々あっちの国出身だからだ。仕事でこっちに来て移住した人間だから、もともと住んでた家とか持ってた土地はそのまんまなんだよ」
クロノは記憶があるときからずっとこの村で生きてきた。
故に親であるエイトもまた、この国出身だと疑っていなかったし、そんなことは気にしたこともなかった。
そのためエイトが隣国出身だという事に驚きを隠せず、あからさまに呆然とする。
「もしかして、僕も……」
零れ落ちた疑問にエイトは一瞬表情を固くした。
だがすぐに元に戻り、なんでもない風に取り繕う。
「お前も産まれはあっちだよ。引っ越すとこの近くだ。まぁ、お前にとっちゃ
故郷って感じはしないだろうけど」
「……」
確かに、クロノにとって故郷というものがあるならば、それはこの村でありこの王国だろう。
けれどずっと、エイトと自分の違いを意識し始めた頃から避けてきた、自分の産まれに関しての話を少しでも知れたことは大きなことで。
どんな場所かも知らない、それでも確かな自分の故郷に思いを馳せると、クロノの胸は熱くなり涙が溢れた。
「お、おい!?どうしたいきなり!?」
急に涙をこぼしたクロノに、エイトは慌てて立ち上がると自分の服の袖をのばしてクロノの目元を拭った。
「……なんでも、ない」
「そうか?」
止まらない涙を流しながらも心底嬉しそうに微笑んだクロノに、エイトは首をかしげながらその涙が止まるまで拭い続けるのだった。




