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数週間後
クロノはエイトの指導のもと、着実に風属性の技術を上げていっていた。
それはいいのだが。
ここ数日クロノの機嫌を著しく低下させているのは、エイトの周辺にちらつきはじめた女性の影だった。
「昨日なんか一緒に話してるの見ちゃったし……」
ぶすーっと暮れはじめた窓の外を睨みつけながら、昼過ぎに出て行ったきりの人物の動向を想像する。
「また一緒なのかなぁ」
ぽつりと人気のない部屋に響いた言葉は、余計にクロノの心を重くした。
エイトがここのところ会うようになったのは、村の外れに住む医者の娘。
年頃はエイトの少し下といったところで、傍から見ればお似合いの二人だった。
エイトの方の気持ちはともかく、クロノの見た限りでは女性にはその気があるようだ。
もし急に真剣な面持ちでエイトに「話があるんだ」ときりだされ、女性を紹介されでもしたら、とクロノの心は休まらない。
「あーっ、もう考えるのやめ!勉強!」
マイナス思考を振り切るように大きな声をだしたクロノは、傍らに放りだされていた魔法の本をめくった。
次はどれにチャレンジしようか、と魔法の事で頭を埋めていれば、嫌なことなど忘れられる。
いつの間にかクロノにとって、魔法を学ぶ事がエイトのためでも、認められるためでもなく、心を紛らわす術へとなりはじめていた。
・・・・・・
王国・王宮玉座の間
「それは確かか?」
威圧感のある低いが、不愉快そうに発せられる。
実際よりも大きく聞こえるほど静まり返った部屋に響いたその声に、場に居た全員が反射的に身体を震わせた。
「はっ、隣国へ送った間諜よりの信用にたる情報にございます」
玉座の男、国王ヴィジェーンは眉間に皺を寄せ、その美しくも冷酷さを滲ませる顔を歪めた。
「下がって宰相を呼んで来い。他の者も下がれ」
「はっ」
全員が恭しく礼を取って玉座の間から立ち去ってゆく。
その素早い足取りは、一刻も早くその場を離れたいという思いの表れであった。
王の機嫌を損なわない為か王自体を恐れてか……それは本人達のみ知るところだ。
人払いがされた玉座の間で、ヴィジェーンはひとり瞳をぎらりと光らせながら、
小さく笑った。
「……いい収穫がありそうだ」




