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「みて、先輩!買っちゃいました!」
そう言ってギノアが袋から取り出したのは、先ほど見ていた花びらの入ったフレーバーティーだった。
「買ってもお前、紅茶なんか飲まないだろ。淹れ方わかるのか?」
「うぐっ、だ、大丈夫っすよ!いざとなったら副団長に教えてもらいますし!」
「じゃあ淹れられるようになったら飲ませろよ」
「は、はいっ!楽しみ待っててくださいね!」
ギノアは笑顔をはじけさせてクロノを見た。
なんだかその姿が大型犬が主人にしっぽを振る様子に見えて、クロノは苦笑した。
どうやらギノアは根っからの犬体質らしい。
「次は菓子店か。またもやアウェーだな。もうお前だけで行けよ」
「えっ、いやっすよ!」
レイルが指定した店は大通りの中心部にある、有名店だった。
連日婦女で賑わい、買ったケーキが食べられるようになっているオープンテラスはカップルの姿が多い。
すくなくとも、男同士で訪れている者はいなかった。
一組を除いて。
「……なぁ、もう勘弁してくれ。頼むから解放してくれ」
「えー、だめっす。副団長は書いてあったタルトでしょ?俺はチョコケーキかチーズケーキっす。先輩はどれがいいっすか?」
その唯一の男同士である二人は店内のショーケースの前だった。
今すぐにでも逃げたいというクロノの腕をギノアはがっちりホールドしている。
その状況がなおのことクロノの精神を削っている事など、ショーケースの向こうのスイーツに夢中なギノアは気づかない。
「まじで頼むから……ギノアさん聞いてる?」
「先輩はショートケーキが似合いそうっすね!ショートケーキでいいっすか?」
「もうなんでもいいから早くしてくれ」
「じゃあ季節のタルトとチョコケーキ、ショートケーキお願いします!」
結局チョコケーキとショートケーキにしたギノアは、注文した後もクロノの腕を離さない。
ちらちらと店内にいた女性客達に見られている二人。
気づいていないギノアはルンルンだが、クロノは恥ずかしさでいっぱいで顔を伏せた。
そんなクロノの耳に「ぎゃあっ!わんこ系後輩×美人系先輩キタコレ!」と友人と興奮しながらしゃべっている女性客の声が届かなかったのは不幸中の幸いなのかもしれない。
テンション絶好調のギノアに対し、げっそりとしたクロノ。
二人が店を出る頃にはちょうど昼時になっていた。
「先輩、お腹すいたっす……どっか寄りましょうよ~」
腹の虫を鳴かせながらそういうギノアにクロノは同調する。
「大通りは人が多くて入れそうな店もないな。ちょっと外れたところにある店に行くか」
「やった!ごはんっ、ごはんっ」
「お前は五歳児か!?恥ずかしいから黙ってろ!」
二人は大通りを一本外れた場所に位置する小さな店に入った。
店の規模こそ小さいが、確かな味らしく店内は賑やかだ。
「お二人様ね!そっちの空いてるテーブルにどうぞ!」
快活に二人を出迎えたのは女将らしき人物。
料理を店中に豪快に運ぶ姿は見ていてもすかっとする働きぶりで、クロノは若干後ろめたいものがあった。
「メニュー多いっすね!どれもおいしそうで迷っちゃいます」
「俺はトマトパスタな」
「えっ、先輩たんま!ど、どうしようっっ」
「慌てなくてもなんも逃げねーから」




