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花のない薔薇  作者: 愁
第二章 賢王と愚王
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17/142

4

「メニューはお決まりで?」


例の快活な女将が二人のテーブルまで来ると、ギノアはメニュー表を見てあわあわとしだす。

それに苦笑したクロノは、同じく苦笑していた女将に聞いた。


「この店の一番の名物は?」


「そりゃあミートパイだね!ミートパイならここらのどの店、いや、この国のどの店にだって負けないさ!」


胸を張って言い切った女将にクロノもギノアも自然と笑顔になった。


「じゃあそのミートパイとトマトパスタを。それでいいか?ギノア」


「は、はいっ!ミートパイ食べたいです!」


「ははっ!じゃあ少々お待ちを!」


そう言って女将は厨房へと消えていく。


「ありがとうございます、先輩」


「は?何が?」


「何でもです」


少し照れ気味にそっぽを向くクロノに、ギノアはにやにやしてしまう。


「ウ・ザ・イ!」

「ぎゃあっ、先輩いたいっ!」


にやけ面のギノアにムカつき、クロノは向かい合った状態のギノアの足を思いっきり蹴りあげる。

いい感じに脛に入ったその蹴りにギノアが涙目になるのを見て、満足そうにクロノは笑った。


・・・・・・


「お待ちどー様!」


ドンッとテーブル上に置かれたトマトパスタと名物のミートパイ。

温かそうな湯気とともに漂ってくる食欲を誘う美味しそうな香りに、二人の口角は上がっていく。


「ミートパイは一個おまけだよ!そちらの黒髪の方もぜひ味わって頂戴な!

じゃあ、ごゆっくり!」


「ありがとう」


皿の上には二つのミートパイが乗っている。

クロノはさりげない女将の気遣いに感謝した。


「先輩ずるいっ!先輩もミートパイ食べるなら、俺にもトマトパスタちょっと下さいっ!」


「お前なぁ……」


食べ物に関して貪欲なギノア。これはクロノが引くしかないのだ。


「一口だけだぞ」


しぶしぶクロノはたっぷりとトマトソースのかかったパスタをフォークでつつく。

その様子をみてギノアは心の中で叫んだ。


『先輩ってばあーんする気だぁぁ!!こ、心の準備がぁっ!』


ギノアの脳内ではすでに、照れ顔のクロノが「ほら、あーん」なんて言いながらフォークを差し出す光景が広がっていた。

鼻血が出ないか大いに心配である。



「ん。口開けろ」


「……はい」


実際のクロノは真顔で、恥ずかしげも無くフォークをさしだすと、口を開けたギノアにパスタをつっこんだ。

ギノアはあーんはあーんであるために、嬉しいような悲しいような思いでいっぱいになる。


「おし、ミートパイよこせ」


「いやっす!なんか違うからいやっす!」

「はあ!?」


ギノアはミートパイの盛られた皿をクロノから遠ざけるように持ち上げて抵抗したのだった。

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