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ただの恋愛ゲームだよ!

 先日耳にした話のもどかしさをどこにぶつけていいものかわからず、自分の部屋でただひたすらにバリバリ十八禁のエロゲをしていた。


 このゲームの存在を知り、やり始めたきっかけは、中学三年の春頃に佑斗から勧められたことだった。


 最初は彼のソフトを借りてやっていたのだけれど、それから自分でも――ネットの通販サイトで――購入し、それからは膨大な時間を費やしていたのを昨日のことのように覚えている。


 あえて言うまでもないことなのかもしれないけれど、ヘッドフォンを装着して音漏れしないように最大限の配慮はしている。


 この作品は諸設定こそ、王道中の王道(?)ではあるけれど、かなりの名作と言われている。


 女子大生や幼馴染、近所のお姉さん、両腕を骨折してしまって入院した先の看護師やら女医さんなんかが主人公にあの手この手の色仕掛けで迫ってくるというもの。


 その中で最終的にだれか一人を選んで結婚までこぎつけてクリアーとなるのだ。


だからただのエロゲというわけではない――という意見が多い――らしい。


 もちろんエロいことが大前提で――とても異性には見せられないほどにドエロく――はあるけれど、それ以上のドラマ性がある。


 個人的にはそのドラマが好きでこのゲームをやっているつもりだ。


まあ、そりゃあ、たしかにエロいからというのも動機の四割を占めているけれど。


 最終的に一人を選ぶため、そのほかを切り捨てなければならないわけで、そのときのイベントが、そして個々のキャラクターオリジナルのイベントにおける過去やなんかのストーリーが凝っていて涙を誘う。


 そのストーリー性にはかなりの評価があり、この作品を基にエロ要素を差し引いたアニメやドラマが放送されたほどだ。


 もちろんドラマもアニメも観たけれど、やっぱりオリジナルのゲームには勝てない、それが率直な感想だった。


 そして、このゲームの中でのシーンがエロ度――と共に俺のジャスティスくんも――マックスに到達したその瞬間、不意に後方から肩を叩かれ、大慌てでパソコンを閉じて振り返ると、そこにはなんと四宮がいた。


「四宮が、どうしてここに・・・・・・?」


「どうしてって、永篠くんが呼んでくれたんじゃない」


 ――俺が呼んだ? 自分の部屋に? 四宮を?


「それより、なにそれ・・・・・・? 信じらんない・・・・・・」


 彼女が目を赤くして涙を溜めたまま言う。唇は堅く引き結ばれ、眉根はきつく寄せられている。


「こ・・・・・・これは、その・・・・・・。なんて言うか、恋愛について学ぼうと思ってやってたって言うか、別にそんなにいかがわしいもんじゃないんだよ! ただの恋愛ゲームだよ!」


 なわけがない。


ガッツリしっかりエロゲだ。


ただの恋愛ゲームじゃない、ただのエロゲ。


 そして彼女は俺の方を見て涙を流しながら言った。


「信じてたのに・・・・・・」


「え・・・・・・?」


「信じてたのに! 永篠くんのこと・・・・・・ずっと、好きだったのにっ!」


 ――好きだったのに? ・・・・・・だった?


 ということはつまり過去形。今はそんな感情はないということだろう。


 中学の頃の記憶とデジャヴした。心底好きだった相手から自分の趣味が原因で拒絶され、俺は失恋してしまったんだ。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ――――――――っ!!



「嫌だ――――――――っ!!」


 目を開くと馴染み深い部屋の天井が見える。


 ――夢・・・・・・? 夢だったのか・・・・・・?


 この瞬間、自分が夢を見ていたことを悟り、心底ほっとした。


本当に夢でよかったと心の底から思った。


夢じゃなかったらシャレにならない。


 全身が汗でびっしょりと濡れていて、いつもより若干呼吸が荒くなってしまっている。


「どうしたの? 蒼ちゃん?」


 声のする方を見ると母ちゃんが驚いたような心配そうな表情で立っていた。


「あ、いや、ちょっと嫌な夢見ちゃったもんだからさ・・・・・・。大したことないよ」


「そう? だいぶうなされてたみたいだったけど、大したことないならいいわ。それより朝ごはんできてるから、冷めちゃわないうちに早く降りてきてよ?」


「ああ、うん。わかった」


 母ちゃんは一度微笑むと踵を返してリビングへと降りていった。


 とりあえず食事の前にシャワーを浴びて汗を流し、それから食事を終えてひとまず学校で出された課題を片付けることに専念した。


 その後はなにをするという明確な予定がなかったからただただアニメを観たり、趣味の延長で片手間に書いていた小説の続きを書いたりして過ごした。


 ちなみに今書き進めている小説の内容は、とある進学校に入学した高校一年生の主人公と同じクラスに自称、魔王のとびきり可愛い――とんでもないアホな――女子が入学したことで、勝手に勇者だと勘違いされてしまってなんやかんやありながらも二人の間に絆が生まれる、というラノベではよくありそうな話。


 昔はミステリーなんかも書いていて、学校の課題でも未だにそっちの路線で書き続けているけれど、ぶっちゃけラノベを書く方が楽しい。


 まあ、才能のなさはどちらに転んでも大した変わりはない、というのが事実ではあるけれど、根本的なモチベーションが大きく変わると思う。


 それでいつかはプロの作家としてデビューしたいと思っているんだけれども、明らかにその道は険しく遠い。


 昨日の夜の段階ではエロゲをしようと思っていたけれど、あんな悪夢を見てしまった以上、そんなものをやる気になんて到底なれなかった。


 そもそもエロゲなんかをやる男なんて四宮が好きになるわけがない、という考えで頭の中がいっぱいになってしまって思うように集中できなかった。


 エロゲ大好き、アニメ大好き、アイドル大好き、ボカロもラノベも大好きな根っからのオタクなんかに、あんなに可愛くてミステリアスな彼女なんてできるわけがない。


 四宮が地味で冴えないオタクな俺なんかと付き合ってくれるはずがないなんて、そんなことは告白する以前から百も承知で、しかもたったの一度もまともに会話すら交わせていないのだから、彼女はきっと俺のことなんて記憶にすらないはずだ。


 名前を覚えてもらえているなんてことは絶対にあるわけがない。


けれどそれでもいつかは今の自分の想いを彼女に伝えられたらそれでいい。


 とりあえず今のところはそれで充分な気がする。


付き合いたいと思うことは思うけど、そんな話は彼女に想いを伝えた次の段階の話。


 それ以前に、彼女が男に興味がなかったらそれで終わりだ、という考えがあれからずっと頭の隅にこびり付いて離れない。


 もしそうだったら正直言ってかなりショックだけれど、たとえ強がりでももう今の俺にはそんなことは関係ない、と思うしか道は残されていない気がした。


 だけどこの重苦しい疑念は、やっぱりこの日も消えてはくれなかった。


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