残念ながら、間違いねえよ・・・・・・。
今日は久しぶりの半日休みだったため、私は莉杏とランチに行き、彼女と別れた後、CDショップに寄って目当ての一枚を購入した。
それから午後に予定されていた撮影の現場へと一人で向かった。
この夏にリリースされることになっているシングルのミュージックビデオ撮影。
その現場がこの付近にあるのだ。
撮影は既に三日目に突入していて、スケジュール上では今日が最終日で、映像は残すところ終盤のみというところまできている。
「早絵ちゃーん! 今日も撮影だねー! 頑張っていこーねー!」
そう言いながら腕にしがみついてくる少女が一人。
彼女の名前は仲俣美花、中学時代の同級生にして黎柏館高校に通う女子高生。
同じグループに所属しているメンバーの一人だ。
彼女が勢いよく腕に飛びついてきたとき、ウェーブ気味の茶褐色のボブヘアーが風に撫でられてふわりと揺れた。
「そうだね。頑張って今日中に撮影終わらせちゃおう!」
そう言って彼女に負けないくらいの笑顔で応える。
それに美花は何度となく頷いていた。
「そういえば今日は吏子ちゃんとは一緒じゃないの?」
私がふと浮かんだ疑問を口にすると、美花は少し恥ずかしそうに、えへへと笑って言う。
「実は今日もちょっと寝坊しちゃって、吏子は先に行ってるって連絡があったんだよね~」
それはなんとも美花らしい理由に思えてならない。
彼女はなんでもギリギリになってしまうことが多い。
その最たる例が集合時間だ。
もろもろの撮影は然り、イベントのリハも中学時代の修学旅行でさえも、いつでも登場は最後の方だった。
けれどそれでも――通常授業の始業時間以外は――一度も遅刻したりすることはなかった。
ちなみに吏子というのは美花の親友にしてグループメンバーの一員であり、元同級生の石田吏子のこと。
美花と同じくアイドルとアニメが大好きなオタク系のキャラクターで、運動神経が高く明るい性格で、グループ内では超が付くほどド天然な美花の世話役的存在。
いつも底抜けに明るい二人と、比較的物静かだという位置付けの、中学時代にアイドルとモデルを兼業していた私ともう一人のメンバー。
その中間色となっているのが莉杏という具合だ。
私は勝手に、そんな五人だからかなりバランスが取れていると思っている。
美花と吏子は持ち前の明るさと押しの強さ、頭一つ抜きん出た可愛さから獲得しているファンの数は多い。
莉杏だって見た目と性格のギャップと人当たりのよさに定評があり、話し好きであるキャラクターが強みとなって確固たる数のファンがいる。
Cuties最後の一人である――一年と少し前に転入してきたことをきっかけに――中途加入してきた井内倫佳でさえも、目鼻立ちがくっきりしていて日本人離れしたハーフのような顔立ちと、一七〇センチ近い長身、モデル顔負けのスタイルを備えているがゆえにダントツの人気を誇っている。
きっと彼女にほほ笑みかけられただけで大抵の男はなびいてしまうと思う。
対する私は〝リーダー〟という肩書きがあるだけで、倫佳ほどの美貌もなければ、莉杏のように人付き合いが得意なわけでもないし、美花や吏子のような可愛さも明るさもない。
どちらかと言えば人付き合いは苦手な部類。
気心の知れた友達といるときなら素を曝け出してバカな話だってできるけれど、初対面の人に対しては壁を作ってしまうことが多い。
だから入学早々にクラスでも浮いてしまうし、グループ内でもクールキャラというポジションがいつの間にか割り当てられてしまっている。
極度の人見知りと臆病さ、強がりな性格や自分のキャラクターが禍して、人と接するときに明るく楽しく会話ができない。
どうしても緊張してしまって素っ気なくなったり、つい余計なことを口走ってしまう。
そんな自分を変えたくてアイドルになったはずなのに、相変わらずこれまでと同じことを繰り返している。
私も美花や吏子のように、もっと前に出て自分という存在をアピールした方がいいのかもしれないと思うことはあるけれどどうしてもそれができない。
自分に求められているキャラクターがそんなものではないこともわかっているし、それが自分に似合わないという自覚がある。
それでも、そんな風に明るく振る舞える二人のことが羨ましいと思わずにはいられないし、そんな二人に憧れている自分がいる。
隣の少女はこちらの考えなんて露ほども気付いていない様子で、鼻歌を奏でながら私の腕を取ったままで軽やかな歩調を崩さない。
そんな美花を見ていると、不思議とこちらも慰され、穏やかな気持ちになれる。
それからはそのまま、とりとめもない会話を交わしながら目的の場所へとたどり着いた。
*
入学式からようやく三週間が経過し、クラス内にもいくつかのグループが形成されてクラスメイトが大方どのような人柄であるかを朧気ながらでも把握でき始めた頃、俺たちは相も変わらず四人――昼休みになるとそれに一騎が加わって自然と五人になる――で固まってくだらないことを駄弁っていた。
それから、鷲田を筆頭とする隠れオタクが意外と多いこともわかった。
けれど、いまだにどうしてもよくわからないこともある。
それがなにを隠そう四宮早絵のことについてだ。
それとないグループへの勧誘が彼女にもあった。
それなのに、四宮はそれら全てを断り、それをきっかけに今やクラスでは孤立気味となってしまっている。
最初の宣言どおりに部活にもはいっていないらしく、校内で彼女が会話を交わしているところは、明らかなナンパ、もしくは教師との対話意外を最近では見かけなくなった。
かろうじてわかっていることといえば、授業中はいつも眠っていること、下校時間は毎日最速で遅刻や早退が多いこと、そして遅刻・早退・居眠りが多いにも拘らず、教師から叱責されることなど一切ないということ。
その事実が四宮を余計に謎多き少女たらしめている。
よく言えばミステリアスでクールビューティー。
悪く言えば変わり者で無愛想、それがクラスメイトの彼女に対する評価だ。
現状では後者の評価が第多数を占めている、というか、前者的な評価を下しているのは俺しかいない。
でなければ、彼女がクラスで孤立するはずもない。
そして、そのどちらの解釈にも該当していないのが良太、誠ノ介、佑斗の三人と鷲田という構図で、そもそも根本的に彼らはそんなことには興味を示してすらいないのだ。
こういった話題が大好物なのは一騎くらいのもので、四宮に関する噂話の類いはいつも彼を経由して俺の耳まで届くことが多い。
とは言うものの、当の一騎だってただの噂話としてあくまで興味本位で話すような程度のものだから、彼もこちらもそれら全てをまるごと信じているというわけではない。
今だって伝聞であることを主張する風な文言を頭においてから、出来うるならば決して聞きたくないような話題を展開している真っ最中だ。
「・・・・・・それからこれも、こないだ俺のクラスのやつらが言ってたんだけどさ、あの四宮って娘はどうもユリらしいって噂が立ってるみたいなんだよな・・・・・・」
「おっ、お前なあ、それってなんかしらの根拠があっての話なんか?」
俺はさすがにムキになりながら放課後のカフェテリアで誠ノ介を隣に据えて一騎に訊く。
今日の面子は俺たち三人だけで、良太と佑斗は最近発売されたゲームの購入以来、クリアのために放課後から夜遅くまで時間を費やしているらしい。
俺の苛立ち混じりの詰問口調に一騎は少々困り顔をしながら言う。
「いやなあ・・・・・・。俺もさすがに信じらんねえで訊いたんだよ。そしたら四宮さん? が、他校の女子生徒と会話しながら腕組んで歩いてんの見たって生徒が、何人もいんだよ」
俺はそれに対して、少し強引な客観的見解を述べる。
「あ、あれじゃねえか? 実は姉妹でした、とか? ほら、よくあんじゃん。見知らぬオッサンと女子高生が歩いてんのを見て、援交かと思いきや、実は親子でしたみたいなパターン。それか、単純に戯れ合ってただけだろ、んなもん! そんくれえ珍しくねえって!」
俺の必死の弁護を論破したのは、普段ならこの手の話は黙って聞いているだけで絶対に加わったりはしないはずの誠ノ介だった。
しかも今回の彼は証人という立場だった。
「そればっかしは俺も一騎の話が根も葉もない噂とかいう次元じゃねえと思うわ・・・・・・」
「どう言う意味だよ? まさか、お前もなんか知ってんのか?」
誠ノ介は一瞬だけ逡巡する様子を見せて、ゆっくりと頷いた後に言う。
「くれぐれも、落ち着いて聞けよ?」
彼のただならぬ雰囲気に、俺は黙って一つ首肯した。
「俺さ、もっとヤバい感じの見たんだ・・・・・・。四宮が女とホテルにはいってくとこ・・・・・・」
――四宮が? 女同士でホテルに? まさか・・・・・・。いつ、だれと? どんな目的で?
「二人っきりで・・・・・・か?」
誠ノ介は苦い顔をして頷いた。
「人違いなんじゃねえか? よく似た別のだれかとか・・・・・・」
俺の質問に今度はゆっくりと首を横に振った。
「残念ながら、間違いねえよ・・・・・・。ありゃあ、たしかに四宮だった。物凄い楽しそうにはしゃぎながらはいっていくとこだったから、俺も最初は別人かもしれねえと思って注意深く見てたんだけど、どう考えても見間違いなんかじゃねえ・・・・・・」
誠ノ介は絶対に他人を貶めるような嘘をつく人間ではない。
ということは、自分の目で見ていないことを全面的に信じる主義ではないが、つまるところ必然的にその噂がほぼ限りなく事実に近い、あるいは事実であることを認めざるを得ないということになる。
とはいえ、俄に信じられなかった。そしてなにより絶対に信じたくなかった。
四宮が、そっち系だったなんて・・・・・・。




