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バカクソ兄貴!

 暫くするとお馴染みの四人組が屋上に姿を現して、私と蒼次郎をぐるりと取り囲んだ。


 私が可能な限り手短に詳しく説明すると、それを聞き終えた良太が口を開いた。


「こりゃ、熱中症かなんかだろうな。大した体力もねえのに、四宮のことを捜すために一階からここまで考えもなしに全力で走ったんだろ。そんなことしたもんだから倒れたんだ」


「そんなに呑気なこと言ってていいの!? 友達が倒れたんだよ!?」


 私の抗議に、あっけらかんとした口調を崩さないままで良太が言う。


「んなこと言ったって、俺らにできることは全部やってくれてんじゃん? だったら仕方ないっしょ?」


「あと俺らにできることっつったら、救急車を待つことくらいじゃん? 大体、こいつは無鉄砲なとこがありすぎんだよな・・・・・・。今回もこないだも後先考えずに動きすぎ・・・・・・」


 良太に続いて誠ノ介が言った。


 それに続くように佑斗が口を開く。


「そのくせして、行動するまでがいちいち異常なほどに長すぎんだよな。それまでずっと考え込んじゃったりして、慎重なんだか大胆なんだか全くわかりゃあしねえんだよ・・・・・・」


 三人の言葉を聞き届けた一騎が総括するように一言付け加える。


「ま、それがこやつの魅力なんだけどね~」


 それから四人は倒れている彼を尻目に揃って笑い合っていた。


 彼らが言うことは、たしかにその通りなのかもしれない。


 なにせ幼馴染だという人たちが言うことなのだから。


 それに、一騎が言ったことに関しては私にも少しだけ心当たりがないわけでもない。


 その様子を見て、もしかすると彼らは彼らなりに心配しているのかもしれないと思えた。



 ほどなくして救急車が到着し、蒼次郎は一騎に付き添われて病院に搬送されていった。


 良太はだれかに電話をかけ終えて戻ってきたところだった。


「さてと・・・・・・。俺らも病院行くとすっか? 搬送先は九国大の病院らしいわ。・・・・・・もうすぐ倫佳がくるから、四宮はあいつと一緒に帰るといいよ」


「私も病院に行くよ!」


「そりゃあ、ダメだね・・・・・・」


「どうして!?」


「そりゃあ、あんたがアイドルだからだよ・・・・・・」


「そんなの関係ないでしょ!? アイドルとファンって以前に同級生だもん! それに、今回のことは私のせいでもあるんだし・・・・・・」


 良太は言葉を捜すように腕組みをして暫く考え込み始める。


 そこで良太との会話に誠ノ介が割ってきた。


「関係あるさ・・・・・・」


「どう関係あるっていうのさ!?」


「関係あるんだ。少なくともあいつにとっては。君がアイドルである以上は、学校と現場以外で君と会うことは望まないよ。君のことが嫌いとかじゃなくて。街で見かけても声かけないと思うよ? そういう区別ははっきりしたやつだから。変なとこ几帳面なんだ。根っからのB型、ド典型だから。自分はどう思われてもいいけど、そんなことして君が勘違いされたりして君の立場が悪くなったりするのが一番嫌なんだって。そんなやつなんだよ」


 それを聞いてしまった以上なにを言い返すことも、反対を押し切ることもできなかった。


 誠ノ介はそれだけ言い残して三人一緒にタクシーを拾ってそのまま病院へと向かった。


 それから倫佳と莉杏が迎えに来てくれたけれど、倫佳は結局、蒼次郎が搬送された病院を聞くと、病院に向かってしまった。


 彼女の立場が、このときばかりは少し羨ましかった。


 間違いなく当事者でありながら完全に取り残されてしまったその腹いせ半分に、帰りのタクシーの中でこの日起きたことの全容を延々と話して聞かせた。



         ☆



 病院のベッドの上で目を醒ましたときには既に陽が傾き始めていた。


 目を醒ましてすぐに、その場にいた良太、誠ノ介、一騎、佑斗、倫佳、そして我が妹である萌花プラス母ちゃんというおまけ付きのこの上なく個性の強い七人によっててひどくも訳のわからない仕打ちを受けることになってしまった。これこそまさに吊るし上げ状態。


「四宮のことが好きだからっつって、その好きな相手にあんまり心配かけんじゃねえぞ?」


 えっと、良太くん? 


 一体なにを言ってんのか理解してるのかな? 


 たしかに間違っちゃいないけど、その通りなんだけどさ・・・・・・。


 こんなとこでそんなこと言っちゃったら、知られたくない相手に俺が四宮のこと好きだってバレちまうだろうが!


 アホメガネが! 


「お前ってホントバカで無茶苦茶なのか賢くて慎重なのかぜんっぜんわっかんねえな?」


 誠ノ介さん・・・・・・。


 それに関しては全くもってその通りです。


 ってか、間違いなく前者。


 勉強できてもそのほかで馬鹿だから仕方ないじゃん?


 でも、こんなときに言わなくてもいいだろ!


 ちょっとくらい、心配したぞ、的な言葉をかけてくれたっていいじゃないか! 


「お前のせいで今日の夕方のアニメ見逃しちまったじゃねえか! どうしてくれんだ!」


 はい、一騎はとりあえず黙ってろ!


 てめえ、勝手に観てりゃあ良かっただろうが!


 もしくは可愛い妹ちゃんに録画でも頼んどきゃあ良かったんじゃねえの?


 まあ、オタク兄貴マジキモイ!


 ってバスケットボール投げ付けられて終わったろうけどな、ハハハ。 


「今回のことは昼飯一ヶ月分の奢りで赦してやらんでもないぞ? いい取り引きだろ?」


 佑斗くん?


 お前に奢る飯なんてこの世に存在しねえっつーの!


 大体、お前に一ヶ月も飯奢るくらいなら、もっとまともな使い道考えるわ。


 四宮になんかプレゼント買うとか、好きなアニメのDVD買うとか、だれがてめえの昼飯代なんて無駄な金使うかってんだ!


「まったく! 早絵のことが好きなんだったら色々と、もっとちゃんとしなさいよねぇ?」


 倫佳さーん?


 ちょっとなに言ってるかよくわかりませんけど?


 ってか、早速バレちゃってんじゃん!


 頼むからそのことだけは外には漏らさないでいただきたい。


 そのためならなんでもしますから。


 佑斗の代わりに昼飯一ヶ月奢るから!


 二ヶ月でもいいから!


「やってくれたわね? バカ息子! 今回の入院費は全部自費でどうにかしなさいよ?」


 そんなつれないこと言わないでよママン。


 頼むから入院費払ってよマミー。


 可愛い可愛い息子のためだと思ってさ。


 ・・・・・・って、おいっ‼


 ブッ倒れた息子に対してなんてこと言いやがんだゴルァ!?


 ふざけんじゃねえぞクソババア‼


 簀巻きにして沈めてやんぞ!?


「バカクソ兄貴! 心配してやったんだから、このいたいけな乙女に感謝しなさいよね!?」


 妹よ、君がもし、万が一にでもいたいけな乙女なんだとしたら、きっとこんなところでナースのコスプレなんてしてないはずなんじゃないのかい?


 大体、本当にいたいけな乙女は自分の兄をバカだクソだと宣ったりしないし、自分でいたいけなんて言わないと思う。



 まあ、なんだかんだ言ってみんなが心配してくれているということは充分伝わってきた。


 そんなぶっきらぼうだけど暖かい人間に囲まれている事実を噛み締めながら、高校三年間のうちの最初の夏休みの――始めの四日間に及ぶ――久々の入院生活を大いに満喫した。



         *



 退院早々に地元の夏フェスにCutiesが参加するという情報を聞きつけて駆けつけたところ、ライブは終わってしまっていたけれど、四宮は最後まで残るということだったために、ほんの少しだけ会話を交わす時間があり、そのとき四宮から、


「今度あんな無茶したら絶対に許さないからね!? 心配したんだからね!?」


 なんて言われてしまったけれど、そう言った彼女は燦然と輝く笑顔を浮かべていた。


 なにはともあれ、どうやら仲直り(?)は無事に成功したらしいことに、一安心すると同時に、心配をかけてしまったことに関して再度謝罪した。


 俺はその日、フェスのラストに打ち上げられる花火を一人で眺めながら、また一つ新たな誓いを心の中で密かに立てた。


 たとえ今すぐには無理だとしても必ず自分の本当の思いを自分の声で彼女に伝える、と。


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