それってクソ金持ちってことじゃん‼
ショップに移動してからは、色々なアニメの概要とキャラの説明なんかをしていたのだけれど、ついつい熱くなってしまう自分に若干げんなりしてしまった。
そんな話を彼女は真剣そのものといった表情で聞き入っていた。
そして気になったアニメがあったらそのタイトルをメモしていた。
その理由は、レンタルショップでDVDを借りて観てみるから、ということらしかった。
そして彼女が見てみたかったというグッズは〝魔導師見習い 魔女っ子☆マリカ〟――通称、魔女☆マリ――というタイトルのラノベが原作になった同タイトルのアニメ、それは俺自身もかなりハマって――もちろん原作の小説も全巻揃えているし――一話たりと逃すことなくリアルタイムで録画しながら観ていた作品だった。
それはもうかなりの人気の高さで、来年の春に映画化もされるという話をちらほら聴いたりもしている。
彼女はそのアニメのヒロインのフィギュアを眺めていた。
「えっ!? フィギュアって、こんなに値段すんの!?」
「まあ、ピンキリだけど、大体はそんなもんだな・・・・・・」
「じゃあ、こんなのいっぱい持ってる人ってかなり金かけてるんだ・・・・・・」
真木は言うなり深々と溜め息を吐いた。
「あ、お前、考えらんな~い、とか思ったろ?」
すると彼女は虚を突かれたような表情になった。
「あ、いや。そうじゃないけど、こんなの大量に集める人たちって、みんな金持ちなのかなあって思ってさあ・・・・・・」
「そうでもないんじゃねえの?」
「ちなみに・・・・・・蒼ちゃんはその辺の資金ってどうしてんの?」
「俺は親に出してもらったり、お年玉とか小遣い貯めて買ってるかな」
彼女は、そっかあ、と呟いて更に質問をぶつけてくる。
「小遣いって月いくらくらい?」
「三万から四万くらいかな? 足りないときはそんときに追加でもらってるけど・・・・・・」
「はぁ!?」
「は?」
――なんかおかしなこと言ったか?
「蒼ちゃんの親ってなにしてる人なの?」
「一応、父ちゃんが東京で出版社の社長やってて、母ちゃんがこっちで小説家やってるけど。それがどうかしたか?」
真木はなぜか目と口を大きく開けて呆けた顔をしながら言い放った。
「それってクソ金持ちってことじゃん‼」
――そうなのか? 俺んとこなんか普通だと思うけど・・・・・・。
「でも、良太たちの家の方が金持ってるぞ? 良太のとこは県議だし誠ノ介んなんか両親揃って大学病院の外科と内科の病院長やってるし、一騎んとこは弁護士やってっし、佑斗は全国チェーンの予備校の元締め会社の代表だから、桁違いだけどなあ・・・・・・」
理由はよくわからないけれど、真木はその場で頭を抱えて唸り始めてしまった。
「あんたらのとこでは大したことなくてもこっちからすりゃあかなりの金持ちだって。なんなの? 五人揃って金持ちのボンボンって・・・・・・。どこの少女漫画よ!」
たしかにそんな感じの漫画はいくつもあるけれど、たしか四人のイケメン男子と貧乏な女が一人とか、警視総監とか酒蔵とかの超大金持ちの子供が美男美女合わせて六人だったはずだし、男五人組なんてあった覚えはない。
まあ、俺が知らないだけなのかもしれないけれど、そういう場合の鉄則は男はイケメンなはずだからほかの四人は該当しても俺はその規定から外れてしまうわけで。
全くどこまでいってもイケ尊ブサ卑な社会にはほとほと嫌気が差してしまう。
こちとら好きでブサイクやってんじゃねえんだっての。
「・・・・・・もしもーし? なにを一人でブツブツ言ってるわけ?」
俺は彼女の問いかけで我に返る。どうやら心の声が実際に言葉として口から出てしまっていたらしい。
そればかりは気を付けないとアブナイ人になってしまう。
「あ? いんやなんでもないわ。で? それ、ほしいわけ?」
フィギュアを見つめていた彼女の首がくるりとまわって懇願するような潤んだ瞳で見つめながら言う。
「もしかして買ってくれるの?」
「んなわけあるか」
即答。
俺がそんなことをするわけがない。
「金出すことは簡単だけど、んなことしたら自分で貯金するなりして初めてフィギュア買ったときの感動奪っちまうことになるだろ? そんなことできるわけねえじゃん・・・・・・」
そうだ。
あの感動は半端なかった。
嬉しさなんて通り越して、どう表現していいものか言葉が見つからないほどの感動で自分でも気が付かないうちに涙が溢れていたほどだった。
そんな経験を彼女から奪うわけにはいかない。
すると彼女は少し拗ねたような表情を見せたものの、フィギュアの方は諦めて同じキャラクターのクリアファイルを数枚手にしてレジへと向かった。
ショップを出た足でそのまま映画館まで取り留めもない会話を交わしながら向かった。
今日観ることにしていた映画は漫画が原作でアニメ化もされ、国内外問わずに絶大な人気を博していたものの実写作品だ。
その主人公をイケメン俳優が演じるとあって映画館には女性客の姿も多かった。
おそらく俺の隣に座っている真木も、きっとその俳優が目的なのだろうと今日会う直前まではタカをくくっていた。
けれど、その真意はどちらかと言えばこの作品を鑑賞した上で原作を観るための予備知識にするのだということに朧気ながら察しがついた。
それにしてもどうしてこうまでしてアニメを観ようと思うようになったのだろうか。
そのきっかけは人それぞれで、俺の場合は昔からアニメが好きでそれが今でも抜けないということにあるのだけれど、ついこの間まで彼女はそういったオタク文化には興味の欠片もないといった様子だった。
それがここ最近は急に熱心すぎるほどにアニメに対する知識を吸収しようとしているという事実に少なからぬ違和感を感じずにいられない。
たちまち館内が暗くなり、予告が立て続けに何本も流れる。
ここで俺は自分の身体に違和感を覚えた。
ずっと観たかったはずの映画で、楽しみにしていたのにも関わらず、瞼が重力に逆らうことを拒否し始めたのだ。
自分の意思命令に背くようにして周囲のけたたましいほどの音が徐々に、しかし確実に遠退いていき、本編が始まるより先に俺の意識がブラックアウトしてしまった。




