ぶっちゃけ、日本語じゃないじゃん?
「んで? 四宮さんはどっか分かんないんじゃないの?」
「え? な・・・・・・何で?」
おそらく分からないことだらけだったのだろう。
そして、どうして俺がそれに気付いているのかさえ気付いていないらしい。
「あれだけ唸ってたんだから分かるさ」
「え? うそ? 私、そんなに唸ってた?」
「そりゃあもう、便秘のやつが便所入ってんのかってくらいに」
俺は思わず笑ってしまう。
「・・・・・・ごめん」
「で? 何処が分かんないわけ?」
「関係代名詞のとこなんだけど、そもそも英語って、根本的に何言ってんのか、さっぱり分かんないんだよね・・・・・・。ぶっちゃけ、日本語じゃないじゃん? だから拒否反応を起こしちゃうんだと思うんだよね・・・・・・」
「まあ、四宮さんはどっちかって言うと理数系だからね。でも、だから英、国、社の文系三教科ができないのが当たり前って言うと、そうじゃない。特に四宮さんの場合は、どちらかと言うと僅差で理数系、って言うレベルだから、やれば理数系だろうが文系だろうが身につくんだよ」
俺が何を言いたいのかあまりよく分からないのか、彼女は口を開けてしまっている。
そして、我に返った途端に弱音を吐いてしまう。
「私、そんなに万能じゃないよ? 勉強、得意じゃないもん・・・・・・」
「今は苦手なだけさ。四宮さんは基礎的な理解力と吸収力が高いはずだもん。じゃないとダンスなんてとてもじゃないけど、何曲分も覚えられないよ。・・・・・・ってことで、んじゃ、やろっか! 関係代名詞」
俺が言うと四宮は不安そうに頷いた。
☆
再びプリントを開くと、意味がよく分からない英単語や英文がずらりと並んでいる。
「じゃあ、まず・・・・・・」
と呟いて本を一瞥した後、蒼次郎が驚くべき言葉を放った。
「このプリントの山は使わないことにして、片付けちまおう!」
「え? そんなことしていいの?」
いいのいいの、と言いながら、蒼次郎は大きく首肯した。
そして、自信たっぷりの微笑みを湛えて更に言う。
「関係代名詞なんて聞くから余計に分かんなくなるんだよ。関係代名詞なんてのはふたつの英文を、ちょっとした規則に基づいてひとつにまとめるためのもんなんだからさ」
「ぶえぇぇっ? そんなもの?」
蒼次郎はまたも頷いた。
「じゃあ、さっそく・・・・・・」
と言うと、蒼次郎はノートに英文をふたつ書き連ねた。
そこには〝I bought camera yesterday.〟という英文がひとつ。
その横に〝The camera takesgood photographs..〟というものが並ぶ。
「このふたつの英文をくっつけちまうときに必要なのが関係代名詞なんだ。ちなみに、関係節だの先行詞だの、制限用法、非制限用法とかってあって、本当はもっと複雑なんだけど、この際それは考えなくていい。今の四宮さんに必要なのは、くっつけるときの関係代名詞を間違わないことと、取り敢えずやってみることね?」
私が頷くと蒼次郎は、
「じゃあ」
と言って言葉を続ける。
「このふたつの英文を繋ぐときに使うのは〝which〟で、繋いだ場合はこうなる」
言いながら〝The camera which I bought yesterday takesgood photographs.〟という英文を、ふたつの英文の下に書いた。
勿論、こうなると意味はさっぱり分からない。
「どういう意味なの?」
「前のふたつの英文の意味は分かるか?」
「一文目が、私は昨日カメラを買った。で、二文目が、このカメラはいい写真が撮れる。・・・・・・かな」
「そうだね。じゃあ、みっつ目をとにかく〝which〟は無視して頭から直訳してみると、どうなる?」
私はおそるおそる訳してみる。
「このカメラは、私が昨日買った・・・・・・いい写真が撮れる? 日本語として成立してないじゃん。意味不明だし」
蒼次郎は意味深な笑みを浮かべて、そこさ、と言った。
「このままじゃあ、意味が分からない日本語だよね? だったら無理矢理、この英訳文を意味の通る一文の自然な日本語にしてみると、どうなるかな?」
「私が昨日買ったカメラはいい写真が撮れる・・・・・・?」
蒼次郎は突然、拍手をし始めた。
「正解。まさか一発で正解するとは思ってなかったけど、それが〝The camera which I bought yesterday takesgood photographs.〟の、正しい和訳なんだよ」
半ば強引にくっつけて、違和感のない日本語にしてみただけなのに、それが正解だなんて、ぶっちゃけ驚いた。
「関係代名詞を用いた英文の訳は、関係代名詞を訳すことなく、とにかく頭から直訳して、違和感のない日本語にすると、意外とあっさり答えにたどり着けるんだよ」
「そうなんだ・・・・・・」
「それから関係代名詞には、他にも〝who〟と〝whose〟がある。ちなみに〝which〟と〝who〟の代わりに〝that〟を使うこともできる。何か質問は?」
「どうしてそんなに種類があるの?」
蒼次郎はまたしても笑顔になる。
「そこがミソなんだ。簡単に言えば、条件付きだから。そういう規則だからってこと」
「条件付き? 規則?」
「そう。ちなみに、さっき言ってた『先行詞』っていうのは、関係代名詞より前にくる名詞のこと。だからこの英文の場合は〝camera〟になるんだ。・・・・・・この部分はいい?」
私は頷く。
それを確認して蒼次郎が解説を続ける。
「質問に対する答えなんだが、先行詞が物や動物の場合は〝which〟が使われて、人の場合は、〝who〟が使われるんだ。そんでもって、これは主格の場合なんだけど、主格だと、先行詞が『~は』とか『~が』って場合の指して、『~を』って場合が『所有格』になるんだ。・・・・・・だから、〝The camera which I bought yesterday takesgood photographs.〟だとしたら、先行詞は〝The camera〟で、そこだけ訳すと『このカメラは』だから主格で、更にカメラはモノだから、〝which〟を使う」
蒼次郎は関係代名詞を用いた英文の単語各所をペンでグリグリと囲んだり、要点となる注釈を書き込みながら説明していた。
もしこれが蒼次郎の説明でなく、普通の英語教師の授業であったのなら半分もいかないうちに寝落ちしていたという自信がある。
どんな内容でも不思議と蒼次郎の話は耳に入ってくるし、理解しようという気が湧いてくるのだけれど、正直苦しい。
さすがに英語だけあって強敵だ。
そんな私の状況を察したらしく、蒼次郎が言う。
「とにかく今のを踏まえて三問解いてみて」
言うや否や、彼は虫食い状態になった英文を三文、三種の選択肢を用意して書き連ねた。
更に和訳までするように指示がしてある。
① She is a person ( ) understands me.
a.Who b.Which c.whose
② We need to hire someone ( ) can speak English well.
a.Who b.Which c.whose
③ I know a girl ( ) father is a famose writer.
a.Who b.Which c.whose
「ええっと・・・・・・。一問目が、彼女は人間だ。私を理解してくれる。・・・・・・主語が人だから、〝who〟で、意味は・・・・・・。『彼女は私のことを理解してくれる人間だ』ってことかな。二問目は私たちは人を雇う必要がある。英語をうまく話せる。・・・・・・だから、この場合は〝whose〟で、『私たちは英語をうまく話せる人材を雇う必要がある』でしょ? 最後は、私は少女を知っている。父親が有名な作家である。だから、これも〝whose〟。で、意味が『私は父親が有名な作家である少女を知っている』・・・・・・かな」
「全問正解! できるじゃん。・・・・・・じゃ、その調子で次もいってみようか」
「次?」
「むしろ、前のふたつに比べて次の関係代名詞〝what〟の用法の方が出題頻度は高い」
そう言いながら例となる一文を書き出した。
ノートには、〝What surprised me most was a cathedral.〟と書かれている。
この文章を目にした私は戸惑ってしまった。




