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ひはほほ、ほーひゃんほほほへはははひょふふはひっひひはんはほーはぁ~

 俯いて小さくなってしまった彼女の様子を見ていた三人が、可愛い~、なんて言いながら笑っている。


 そんな三人にからかわれながら風花は頬を赤らめて必死に反論している。


 そこで若干笑いを引きずりながらも弥生が言う。


「でも、あの人って結構鈍感だと思わない?」


 それに心彩が同調する。


「結構って言うか、かなり鈍いよね? だって、自分がモテてることに気付いてないって言うか、なんで琴音とか風花があんなに話しかけたりしてんのか理解してないっしょ? ぶっちゃけ自分に好意持ってるってことも、欠片ほども気付いていない感じじゃない?」


 それに心彩が続く。


「おまけになんでか知んないけど、自分のことブサイクだって思い込んでるし? あれでブサイクだったとしたら世の中の大半が目もあてらんないレベルになっちゃうよね~?」


 彼女の言葉に三人は激しく頷いている。


 どうやら蒼次郎はやっぱりイケメンの部類にはいるらしい。


 自分の直感の正しさに少し誇らしくなりながら、急浮上した疑問をぶつける。


「もしかして、みんなって永篠くんの顔見たことあるの?」


 すると四人は、『あんた、今更なに言ってんの?』とでも言いたげな表情をする。


「あ、そっか・・・・・・。早絵ちゃんはカラオケ行ったときも、オープンスクールのときもいなかったんだったっけ?」


 と風花が納得したように言う。


 それに頷くと、四人は思い思いに未だ知りえない彼の顔立ちについて様々な芸能人の顔やそのパーツなんかを用いて遠まわしに説明を始めた。


 正直、なんだかよくわからないけれど、その情報を基に脳内でモンタージュを作った結果、途轍もないアイドル顔負けのイケメン象が出来上がってしまった。


「ところで早絵はどんな人がタイプなの? ってか、ぶっちゃけた話し好きな人とかいないわけ?」


 とんでもない爆弾を皐月が放ってくれたおかげで、たった今飲んでいたミルクティーを鼻から口から盛大に噴射してしまった。


「な・・・・・・そんなの・・・・・・いるわけ、ないじゃん・・・・・・」


「そうだよねぇ・・・・・・早絵ちゃん、アイドルだもんね?」


 と風花。


 それに構わず皐月がブッ込んでくる。


「でも、アイドルだからって片想いとかまでダメじゃないんでしょ? こないだどっかの大所帯のアイドルグループのメンバーが言ってたけど?」


「・・・・・・まあ、たしかにそうだけど・・・・・・」


 どんな人がタイプなのか、と訊かれて真っ先に浮かんだのは、いつしか見かけた安浦先輩と一緒にいた彼氏さん(?)の顔だった。


「まあ、性格的には、はっきり正しいことは正しい、間違ってることは間違ってるって指摘できて、それで優しくて自分の意見とかしっかり持ってる人? あんまいないけどねぇ」


 容姿に関しては、長い睫に切れ長の二重瞼の目の中性的な女顔で身長にはこだわらない、とだけ答えておいた。


 ぶっちゃけこないだ見かけた人そのままだけれど、彼女たちが彼であることに気付くはずはない。


 彼に会っていなければ。


「それって、まんま蒼ちゃんに当てはまるじゃん・・・・・・」


 と、風花が言い出したものだから、かなり驚いた。


「えっ・・・・・・!? 永篠くんの顔ってそんな感じなの!?」


「性格の話でしょ・・・・・・。だって永篠くんは学校で絶対に素顔晒さないんだから・・・・・・」


 と皐月が苦笑混じりに言った。


 それもそのはずだ。


 先ほどの話から作成した勝手に脳内モンタージュではどちらかと言えば濃い目の顔立ちだったし、そもそもあの二人は髪の長さも違うし、蒼次郎は黒髪で、あのときの彼は金髪だったから、同一人物であるというわけがないし、どちらに対しても特別な感情があるわけではない。


 きっと、いい人、という共通点があるだけのこと。


 それにしても、仮に性格的な面だけでも合致していたら風花にとっては一大事なのかもしれない。


 人を好きになれば、ライバルの出現はできるだけ避けたいものだろうから。


 真木と約束を交わした日の前夜、十一時。



 自分の部屋で明日の予定を脳内で何度も反復していたとき、テーブルの上に置いてあったスマホが震え、メールの着信を告げる。


 メールを開封すると、〝再来週の待ち合わせのことなんだけど、二時間早くできない? 寄りたいところがあって〟という内容のものだった。


送り主はもちろん真木だ。


 そのメールの返信を打とうとしたそのとき、スマホを奪われてしまった。


 視線を上げるとそこには傍若無人な我が妹、萌花が立っていて勝手にメールの内容を大声で朗読し始めた。


「え~、なになに? ・・・・・・再来週の待ち合わせのことなんだけど、二時間くらい早くできない? 寄りたいところがあって・・・・・・? なにこれ? メールの相手、女じゃん! あんた、再来週デートすんの!? 調子のんなし! マジふざけんなし! 私も連れてけし! バカ!」


「バカはどっちだクソッタレ! 人のメール勝手に読んでんじゃねえよ! だれがお前なんか連れてくもんかっての! このボケが! 大体なあ、デートじゃねえっつーの! 勘違いすんな! コスプレ廃人のクソガキはおとなしく家でコスプレの研究でもしてろ!」


 萌花は眉間にシワを寄せて手入れの行き届いた眉をハの字にしながら一気に捲し立てる。


「だれがコスプレ廃人のクソガキなのさ! 重度のキモオタなクソ兄貴にだけはそんなこと言われたくないっての! 一個しか歳変わんないのに、偉そうにガキ扱いすんなよ!」


「残念でした~。中学生と高校生では大きな違いがあるんです~。ガキはさっさと歯でも磨いて夢の世界でも旅してろって! っつーか早くスマホ返せよな? そして寝ろや!」


 言い終わるより早く、俺は彼女の手からスマホを奪い返す。


すると萌花は阿修羅にも負けないくらいの形相でこちらを睨みながら、少しだけ震えた声で吐き捨てるように言った。


「もういい! 課題のわかんないとこ教えてもらおうと思っただけなのに! もう絶対あんたなんかに訊いたりするもんか! 他人の気も知らないで! 勝手にしろ! バカ!」


 よく見るとその手には公民の教科書とプリントが数枚、それに筆記用具を持っていた。


 ――なんなんだよさっきから! 勝手に部屋まではいってきて、散々キレやがって!


「ちょっと待てって! 勝手すぎんだよ。てめえの用事まだ済んでねえんだろうが・・・・・・」


 萌花の肩を半ば強引に引っ掴んで、部屋の隅にある椅子に腰掛けさせる。


 それから真木のメールに〝了解!〟とだけ返信してスマホの電源を落として充電器に繋いでから、机のわきにあるベッドに腰を下ろして萌花の課題プリントを一通り眺めていく。


「全部で十枚とか、やけに多いような気がするけど、これがホントに週末の課題なのか?」


 萌花はまだ憮然とした表情を崩さずに、こくりと一つ首肯してからぼそぼそと呟いた。


「遠坂のやつ、受験生に対しては毎日の課題が死ぬほど多いんだもん・・・・・・。ただでさえ受験勉強と部活で大変なのに、枯れ枝みたいな外見しながらやることエグいんだよ・・・・・・」


 たぶん、と言うか絶対にほかの教科からも課題は出ているはずで、それに加えて受験対策もしなければならないのにプリント十枚とは些かやりすぎだという思いがしなくもない。


 俺自身も萌花と同じ中学の出身で、公民は遠坂佳祐という定年間近の色黒で細身の教師に受け持ってもらっていたから――おまけに担任だったために――それ以上の量の課題をこなしてきたはずなのだけど、当時出されていた課題の量を多いと感じたことはなかった。


 その要因として、その頃の俺には出かけるだけの時間の余裕もなく勉強以外に打ち込むことがなかったということと、朧気に遠坂の課題が多い理由に察しがついていたこと、更に――これが一番の理由かもしれないけれど――公民が得意で好きな教科だったからだ。



 暫くは黙々と勉強を続けていた萌花が、不意に顔を上げて不安そうな表情で訊ねてくる。

「スマホの電源、切っちゃってよかったの? またメールくるかもしんないのに・・・・・・」


「気にすんな。電源いれてたらそっち無視できなくて勉強見んのに集中できねえだろ?」


 またいっときの間顔を伏せて問題をこなしていた彼女は先ほどのように顔を上げて言う。


「これ、別に今日中にやっちゃわなきゃいけないもんでもないし、兄貴は明日デートなんでしょ? 遅れたりしたらマズいから、もう寝ちゃってもいいよ? あとは一人でやるし」


「別にまだ眠いわけじゃねえって。それにあとからやっても今終わらせても同じなら、先に終わらせてからそのあとやりたいことやった方がいいだろうが」


「まあ、たしかにそうだけど、私のせいで寝坊したとかなっちゃったりしたら、相手の人にも申し訳ないしさあ・・・・・・」


「いちいちくだらねえこと気にせず問題解けよ! 俺はあと風呂はいって寝るだけなんだから、いつまでかかったって関係ねえんだよ。つまらねえこと気にするより終わらせろ!」


 なんてことを言いながらも、既にちょっと眠気がきていたけれど、請け負った以上は途中で投げ出すなんてなんか癪だ。


 それに、今はこう言っているけれど、あとになって萌花になにを言われるかわかったもんじゃない。


 我が妹に俺流の記憶に残りやすい覚え方を一つ一つ伝えながら、開始から一時間半で枚数も問題数も尋常ではないほどに多い課題が終わりを迎えた。


「あのさ、兄貴・・・・・・ありがとね? 課題、見てくれて。デート、頑張んなよ?」


 それだけ言い残して、萌花は自分の部屋にそそくさと戻っていった。


 なにをどう頑張ればいいのか謎だし、別にデートというわけでもないけれど、あいつの課題が無事に終わってよかったと思う。


 風呂にはいっているとき、眠気がピークに達し、寝落ちしそうになってしまった。


 それから風呂にはいって布団に潜ることができたときには既に深夜の二時を越えていた。


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